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第10話 もっと情報収集が必要です。

 結局、英雄亭のコンセプトはダレンさんと話し合いの結果、『強いダレン兄貴が作る美味い冒険者料理』で行く事が決まった。


 そしてイメージはやはり冒険者の疲れを癒す憩いの居酒屋ビストロとなる。

 今日は流石に店を閉めるわけには行かないので、俺とセーファスはダレンさんに同行して追加の取材。

 ドロシアは俺達に同行してダレンさんの容姿等のイラストのラフスケッチの書き溜め。

 エドはやはりダレンさんをイメージしたコピーのアイディア作りの為、店の2階に居残る事となった。


 ダレンさんの朝は早い。


 以前、言っていた通り朝4時の鐘とともに起き、5時着で中央広場で開かれる市場に出掛けるのだ。

 俺達は眠い目を擦りながら彼に同行した。

 市場の人とは長い付き合いのようで親しげに話している。


 普段の恐持こわもて親爺のイメージとはえらい違いである。

 

 普段は怖くても、いざとなれば頼りになる兄貴!

 兄貴、兄貴というと某人気球団の引退した元選手のようだ。

 余談だけど、彼は兄貴と言われたが、実際は末っ子だったそうだ。


 これだよ、これ! この人の売り出し方は!


 それとドロシアの絵の件はあの後に彼女とはしっかり話し合った。

 彼女も人物画に関しては写実的な絵ではなくこの世界で受けの良い前衛的な絵を描く事を快く同意してくれた。


 え? 彼女にその絵が描けるのかって?


 実は俺も心配していたんだけど、あっさり描いちゃったんだ、これが!

 イメージとしてはポップなアメコミ風イラストで、これも素晴らしい出来であった。

 ダレンさんを含めて俺以外の奴等から何故最初からこれを描かないのかと責められていたのが、可哀想だった。


 俺はその後、しっかりフォローしておいたけど。


 この時点で俺達からまだ、メニュー云々は言えないので、ダレンさんが仕入れをしている間、こちらも市場を見て、どのような素材があるか確認する。

 俺は料理に関して作る方はからっきしだが、中世ファンタジーが好きだったせいか、レシピだけは結構、詳しかったのだ。


 俺は市場に出ている野菜や肉の素材名と値段を控えて置く。

 地球の歴史軸では当時の西洋に無かった筈の野菜も結構ある。


 何故?


 それが異世界だから……だろう。

 俺は無理矢理自分を納得させてメモを取り続ける。

 メモを生かして最終的にはレシピとコストの兼ね合いをちゃんと刷合わせしないといけない。

 仕入れを終ったダレンさんは店に戻ると言うのでドロシアと一緒に帰らせ、俺は給仕人の候補を探すべく、セーファスと街を巡る。


 これは俺に考えがあった。


 セーファスも同意したが、給仕人は基本女性にする。

 そうすれば『ダレン兄貴』とのメリハリがきいて店が際立つのだ。

 しかし店に相応しい接客も確り出来る彼女達をどう確保して雇うか?


 これは結構、難題であった。


 かと言って、既に勤めている店から安易に引き抜いたりしたら、こちらの世界でもやはりトラブルの元になるだろうし、第一、ヘッドハンティングであれば、その分給金も余計にはずまなくてはならない。


 そんな余裕は今の俺達には無いのである。


「タイセー君、疲れたよ。ちょっと休まないかい?」


「あの~、セーファさん。さっき休んだばかりなんですけど」


「魔法使いはひ弱なんだよ、僕は今朝から街を歩き回ってくたくたなのさ」


「仕方が無いですね~、中央広場のベンチでひと休みしましょうか?」


 俺達は小休憩をすべく、中央広場に向かったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あれ、ベンチが一杯ですよ」


「ええっ!? ああ、本当だ。がっくりだね」


 俺達が目指したのは中央広場のベンチ。

 そこに人だかりが出来ていたのだ。


「とりあえず、行ってみましょうか? もしかしたら空くかもしれませんし」


「そうだね、とりあえず座りたいからね」


 俺達はベンチに近付いて行った。

 古ぼけた3人掛けの木製のベンチである、色はくすんだブラウン。

 3つあるベンチのうち、幸い1つに空きがあったので、俺達はその1つに座ろうとした。


「ちょっと、ちょっと! そこのベンチはあたし達が座っていたのよ」


 俺達にふりかかる女性の声。

 見ると化粧も着ている服も派手な20代後半と思われるスタイル抜群な女性である。

 顔立ちもエキゾチックだが、俺達が席に座って不機嫌なせいか、少々険がある。


「誰も居なかったし、このベンチは街の市民、皆の物だろう」


 セーファスが穏やかな口調でやんわりと抗議した。


「私達は女性なのよ! あんた達、男でしょう! 譲るって気は無いの? レディファーストよ」


 しかし、その女性はそんな常識などおかまいなしに違う理屈を盾に捲くし立てる。

 そのうち他のベンチに座っていた女性達も俺達の周りに集まって来た。

 彼女達は皆、仲間らしい。


「どうしたの? カルメン」


「あいつらにベンチ取られちゃったのよ!」


「酷い奴等ね!」


「最低なの」


 おいおい、俺達最低なのか?

 流石に難癖をつけられたセーファスは憤慨していた。


「君達、いい加減にしろよ。言い掛かりも甚だしいよ」


「何よぉ!」


「ふざけんなよ!」


 何か、雲行きが怪しい。


「セーファさん、あまり意地を張るとややこしそうなので、もう行きませんか?」


「そ、そうだな、行こうか、タイセー君」


 俺達はベンチから立ち上がると、そそくさとその場から離れて行った。

 その背後から容赦無い罵声が浴びせられる。

 聞くに堪えない言葉だらけなのでここでの表現は控えておきます、はあ……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そりゃ災難だったなぁ」


 俺達の話を聞いて同情するエド。


「そうなんだ。全く、とんでもない女達だったよ。もう2度と会いたくないよ」


 そう言われてうんざりした顔のセーファス。

 俺も傍らのドロシアのもふもふ耳を触りながら思わず呟いた。


「あの娘達に比べれば、ドロシーが素晴らしい天使に見えるよ」


「何か余計な表現が入っているけど、タイセーだから許してあげる」


 耳を触られて気持ち良さそうにしていたドロシアは花が咲いたように微笑んだ。

 ありがとう! あんな女達に比べれば、ドロシア、まじ天使だよ。


「お~い、昼飯だよ!」


 ダレンさんが昼飯にとパンとスープ、そして料理を一品作ってくれたらしい。


「ランチって奴を作ってみたんだ。昨日休みで使わなかった食材で作ってみたんだ」


 へええ、美味そうだね。

 セーファスはまた何か文句を言ってダレンさんに怒られているけど……

 ダレンさんにランチを作るとかって意識改革が起こったのは良い事だ。


「午後は早速、冒険者ギルドに行きますので、ダレンさん一緒に行って下さい」


 俺が頼むとダレンさんは、あからさまに嫌な顔をした。

 やはり冒険者ギルドと過去に何か揉め事でもあったのだろうか?

 衛兵からも一目置かれるような、あんなに有名な元冒険者なのに。


 まあ、良い。

 あまり考えすぎても駄目だ。


 冒険者ギルドは主な客と見られる冒険者達を取り纏める大元であり、ダレンさんのキャラクターを考えても媒体に使わぬ手は無い。


 念の為、媒体について改めて説明しておこう。

 媒体とはなかだちをするという意味がある。

 広告物を消費者、つまりここでは客と想定した冒険者達だが、彼等にこの店の情報を伝える為に必要な手段を総称している言葉だ。


 俺の前世で言えば、4大マスと言われるテレビ、ラジオ、新聞、雑誌を始めとしたありとあらゆる物が使われている。

 しかし媒体とは固定概念のある物でもない。

 該当する目的や商品に適合するのであれば、世の中のあらゆる物が媒体となりえるのだ。


 そういえば、エドからこの街に瓦版があるって聞いていたな。

 その発行人に頼んでこの店の広告なりPRもして貰うか……


 俺はダレンさんの作ってくれたランチを味わいながら、そんな事を考えていたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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