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第1話 何で俺が異世界に!

今までに書いた物とはちょっと方向性が違いますが、皆様、よろしければ読んでくださいませ。

 俺の名は北斗大成30歳、都内の中堅と言われる広告代理店に勤務するしがないサラリーマンだ。

 広告代理店なんて恰好良いのは大手だけで、中堅以下は黒子役である。


 ある夜の事、俺は上司と共にお客さんの接待の宴席にいた。


「北斗君、お客様にお土産用意して!」


「はいっ! 部長!」


 もうそろそろお開きの時間である。

 今夜はお客様には気持ちよくお酒を飲んでいただいたようだ。

 相手の表情で分かる。

 接待は成功だろう。


 俺は3人分の菓子折りを用意して、お店の前にタクシーを止める。

 部長が揉み手をしながら、赤ら顔の客を伴い店の扉を開けて現れた。


「今夜はお疲れ様でした」


「おう、堅実広告社さんには、いつもお世話になっているからね。またよろしく頼むよ」


 客の言葉を聞いた部長の顔に満面の笑みが広がる。 


「いえいえ、こちらこそ! 一生懸命お仕事をさせていただきますから引き続きお引き立てくださいませ」


 今後とも取引会社として使って欲しい!

 これが今夜、部長と俺の1番言いたい事であった。

 

 そんな俺達の願いを客は聞き入れてくれた。


「はっははは、分っているよ」


「ありがとうございます」


 やがてタクシーは客を乗せて走り去った。

 45度のお辞儀をした俺達は車が見えなくなってから、元の姿勢に戻る。

 部長は溜息を吐いた後、俺を振り返った。

 どうやらだいぶ気疲れしたようだ。


「さあてと俺はもう帰るけど、北斗君はどうする?」


「いえ部長、ここらで1杯だけ引っ掛けて帰ります」


「そうか、俺も付き合いたいが、嫁がうるさくてな。新婚当初の雰囲気なんて皆無さ」


 俺は曖昧に笑った。

 

 仕事が終わって、この上部長なんかと飲む? 

 冗談じゃない! 今夜、俺は1人で静かに飲みたいのだ。

 

 俺は部長が帰ると意思表示した事に心の中で安堵し、再度、お辞儀をした。

 駅の方へ向かう部長の後姿が見えなくなると、さっさと踵を返したのである。


 さて、ここ最近の不景気は俺達の居る広告業界にも多大な影響を与えていた。

 不景気になればとりあえずクライアント各社は、いの1番に宣伝広告費を削減する事が多い。

 競合する広告代理店との争いも厳しいものだ。

 今年、獲得した広告予算アカウントが来年も獲得出来るとは限らない。

 営業の俺としては毎年、毎年が勝負なのである。


 当然、ストレスも溜まる。


 そんな時に俺がたまに行くのが、この地区の豪奢ごうしゃな店とは一線を画す小さなBarであった。

 ある雑居ビルの地下にある6人掛けのカウンターのみの小さな店。

 当然、華やかな夜の蝶など居らず、老齢のマスターが1人でやっている。

 俺が地下へ続く古いビルの階段を降りると、目の前に重厚な木製の扉が立ちはだかる。

 会員以外は入場禁止! そう書いてあるが、俺は気にせず扉を開く。

 カウンターの向こうでグラスを磨いていたマスターが手を止め、俺の方を一瞥いちべつするが、再びグラスを磨き出す。


 俺の他に客は居ないようだ。


 マスターの前の止まり木に座った俺は、いつものようにドライ・マティーニをオーダーした。

 オーダーを受けたマスターは微かに口元に笑みを浮かべると黙々とカクテルを作り始める。

 やがてカクテルが出来上がり、俺はつまみとしてつけられたピーナッツをかじるとグラスに口をつけた。


 ジンとベルモットのカクテルであるマティーニだが、俺はジンを多めに入れたドライ・マティーニが好きだ。

 かって作家のヘミングウェーはジン15対ベルモット1と言う割合のハードなドライマティーニを好んだようだが、俺はそこまでの物は飲んだ事は無い。


 今日はいつもより疲れているようだ。

 何故か、身体がふわふわとして足元が覚束おぼつかない。

 決して酔っているわけではないのに……


 俺はもうひと口カクテルを味わう。

 その瞬間、本能的に訳の分らない違和感を感じた。

 ふと顔を上げるとマスターの姿が無い。

 代わりにカウンターに居るのは見た事の無い金髪の少年であった。

 俺はつい注意をしてしまう。


「おいおい、子供はこんな時間にこんな所にいちゃいかんよ。マスターはどこだい?」


「…………」


 少年は何と笑っている。

 可愛らしいが、意地の悪そうな口元だ。

 そんな口角を僅かにあげて悪びれずに笑っている。

 

 暫くすると少年の口が僅かに開かれ、俺に言葉が放たれた。


「愚かだねぇ、君は」


 俺が……愚か?

 何だ?

 こんな子供が何を言うんだ?


「この店で僕が目の前に居て、君の居る状況はいつもとは違う、普通じゃ無いって分かりそうなものだけれどもね、それとも現実から逃避しているのかな?」


 俺が……逃避……している?

 俺はあのBarに居た筈なのに……

 ここは違う世界とでも言うのか?


「未だ気付かないのかい? 君はあの店には行かなかった、いや行けなかったのさ。途中で交通事故に巻き込まれてね。いやぁ、運命は分らない、ははっ! あの時、君の上席と素直に帰って居ればこんな事にはならなかったのにね」 


 俺が……まさか!?


「そう、君はとっくに死んでいるんだよ。残念だねぇ、全く!」


 少年は楽しそうに語る。

 俺はちょっと、むかついた。

 そんな俺の表情が出たらしく少年は苦笑する。 


「まあまあ、僕は単なる案内人だからさ、八つ当たりするのは間違いさ。それで、さ。良い事を教えてあげようと思うんだ」


 良い事?

 良い事って何だ?


「そうそう、良い事さ! 君は生まれ変われる、今の記憶を持ったままね」


 それってもしかして?

 良くある小説のテンプレって事か?


「そうそう、今度はちゃんと頭が回るじゃないか。そう転生ってやつさ」


 俺が転生!?


「じゃあ、行くよ~」


 ま、待て! 待ってくれ! 

 事前説明とか無いの?


「ははっ! 僕、ぶっつけ本番とか基本、好きなんで、じゃあ宜しくね~」


 少年の嘲笑がやけに大きく俺の頭の中で響く。

 その嘲笑の中、俺は意識を手放したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「〇#$☆!★%Ωα♪」」


 俺は暫く気を失っていたようだ。

 しかし、意識が戻ろうとしている。

 遠くで聞き慣れない声、これは日本語ではない?

 外国語らしい声で誰かが歌っている?

 いや、これってよくある詠唱って奴か?

 よく映画や漫画に出てくる魔法の呪文だろうか?


 意識がだんだんとはっきりして来る。

 俺は起き上がろうとした。

 だが身体の自由が利かないのだ。


「〇#$……お父様、どうやら成功のようですよ! 勇者がついに降臨するわ」


 外国語だと思っていた言葉がだんだん分る言葉=日本語になって行く。


 ゆ、勇者!?

 勇者って……誰だよ?


「おお、姫よ! 魔法【異界からの旅人】を使えるのはそなたのみ、しかも成功率は低い、難易度の高い古代魔法じゃ。よくやった、あっぱれじゃ」


 俺の瞼は未だ重い……


「目覚めなさい、勇者よ!」


 どこぞの親子が俺の事を話しているのか?

 しかし、身体の自由は相変わらず利かない。


「抵抗は無駄です、貴方がよこしまな者の場合は身体の縛めは解けませぬ。さあ瞼を開くのです」


 俺はゆっくりと瞼を開いて行く。

 ここはどこか?

 結構……広い空間だ。

 周りからいくつもの視線を感じる。


 目の前に居たのは怪訝な表情で俺を見る金髪碧眼の美しい少女、その後ろに居る髭面の小太り中年は彼女の父親であろうか?


 更にその後ろにはたくさんの人々……

 その視線には不安と期待が入り混じっている。

 間違い無い。

 ここは俺の居た日本ではない。

 

 俺はいきなり投げ込まれた運命の変わり様にほうとひとつ溜息を吐いたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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