I love you ~ルノージェント・ユリフィオル視点~
シリーズ第2弾です。
読むのならば、前作「I love you」を読んでからの方がいいかと思います。
同僚である、ヤルスが不審者を見つけたらしい。
その噂は瞬く間に広まった。
「おいっ!ノージェっ!!聞いたか!?」
同じく同僚であるロウゼが部屋に駆け込んできた。
「知ってるよ。ヤルスが不審者を見つけて捕らえたんだろ。」
「なんだ、知ってんのかよ。」
落胆しているロウゼを無視して俺は仕事を続ける。
ヤルス・グラーケンが不審者を捕らえた。
なぜそれだけでみんな驚き、噂するのか。
答えは簡単だ。
ヤルス・グラーケンは今まで一度も役に立ったことがないから。
捕り物をすれば、リーダーぶって作戦をぶち壊し。
一人でやれと渡された簡単な仕事はめんどくさいとこなさない。
怠惰と役立たずという言葉が似合う男を俺は他に知らない。
だが、顔と地位だけはよく、騎士団から罷免されることはない。
ため息をつきたくなる同僚だが、今のところ僕に迷惑はかかってないのでどうでもいい。
興味なんてひとかけらもなかった。
捕らえたというヤルスも、捕らえられたというやつもどうでもよかった。
そんな僕があの子と出会ったのは偶然だ。
隊長に、ヤルスを呼んで来いと言われたので呼びに行った。
「ヤルス。」
扉を開けて、入れば、そこには虚ろな瞳の黒髪黒目の将来美人になるだろう少女。
そして、その少女を怒鳴りつけているヤルス。
捕らえられた者の情報が少なかったのはこれが原因かと納得した。
こんなに美しい少女ならこいつは隠すだろう。
自分のものにするために。
にしても、こいつはバカかと思う。
「いいから……「ヤルス。」」
怒鳴ろうとしたヤルスの言葉をさえぎるようにして名前を呼ぶ。
「ノージェ。」
整った顔が今は怒りのせいか真っ赤で猿みたいだと思った。
まあ本人に言ったらめんどくさいことになるから言わないが。
「隊長がお呼びだ。ここは変わるからとっとと行け。」
「……わかった。」
数秒考え、ヤルスは去って行った。
「……さて、君は確か羽衣華李桜といったね?年は……12か。」
少女をじっと見つめる。
黒髪黒目。
聞きなれない名前。
まちがいない。
この子は、侵入者ではなく、迷い人―――――すなわち異世界人だ。
「…可哀そうに。こんな小さい子供に。」
もしも、神様がいるのなら、神様もひどいことをする。
12歳ならばまだ親の元にいたかっただろうに。
無理やり引き離されて、こちらへ来たら拷問されるってどんな運命だ。
思わずつぶやいた言葉に少女ははっとこちらを見た。
その目が思いがけず澄んでいて、どきっとした。
「今まで大変だったね。こんなにやってるってきづかなくてごめんね。」
ふわりとほほ笑む。
この顔は、さいわい怖がられる顔ではない。
よしよしと頭をなでると、少女は一筋涙をこぼした。
その姿があまりに儚くて、でも一筋しか流さない涙が彼女の強さを表しているようで。
初めて、守りたいと思った。
「おいで。」
そうと決まれば少女を連れ出すに限る。
ひょいとかかえると、驚いた顔をした少女が見えて、思わず笑う。
「僕はね、ルノージェント・ユリフィオル。」
よろしくね?
声にならない声で問いかける。
少女は、それと同時に安心したように眠りについた。
自分より9歳も年下の少女にこんなに溺れるとは予想外だ。
しかも数分の間で、だ。
だが、こんな予想外も悪くない。
さぁ、この子を手に入れるために動かなくては。
思い立ったが吉日。
さっそく僕は父に手紙を送り、隊長に事情を話し、間違いなく異世界人であると判断された少女は即座に戸籍を作られ、この国に留めるように手配された。
貴重な異世界人を報告せず尋問したヤルスは捕らえられた。
留めるために、どういう手段がとられたかというと、簡単に言えば僕の婚約者になった。
目覚めた彼女は、僕以外になつかなかったから。
というのが第一の理由だ。
もちろん、読み通りだ。
彼女は、これで僕の物。
父も母も気に入ったようで、しきりに彼女の様子を訪ねてくる。
ルー、ルー。
そういってついてくる李桜は本当にかわいい。
まだ、こころにしこりは残っているだろうけどけなげに頑張る姿は本当にかわいい。
あの噂を聞いた時の僕からは考えられないほど李桜が好きだ。
あと1年で李桜も15歳。成人だ。
成人すれば結婚できるようになる。
結婚すれば完全に李桜は僕のものになる。
その日が待ち遠しかった。
だが、そんなふうに描いていた幸せな未来は突如、壊された。
❀*❀*❀*❀*❀*
「李桜が、誘拐された―――――?」
その知らせが来たのは、いつものように騎士として働いていた時だった。
その日、僕はいつものように仕事。
父は商売の様子見。
母は友達のところへ行っており、誰もいなかった。
城の牢屋番と屋敷に手引きした人間がいたらしく、李桜は簡単に連れ去られた。
手引きした人間はすぐ判明し、捕らえたが、ヤルスはなかなか見つからなかった。
ようやく吐いた情報をもとに、ただひたすら探し続けた。
そうして見つけた李桜は――――――壊れていた。
ガンっ
扉をけ破った先で見たのは、李桜を蹴っているヤルス。
笑いながら蹴られている李桜。
頭が真っ白になった。
言葉なんて出なかった。
つかつかと歩み寄り、ヤルスを殴り飛ばした。
それでも足りずにただひたすら蹴った。
ヤルスが李桜にしたように。
駆け付けた仲間が僕を止めなければ僕はヤルスを蹴り殺していただろう。
ようやく我に返り、李桜に駆け寄る。
「李桜。」
呼んでも彼女は答えなかった。
「あはははははははははははははははははははは!!」
ただ、笑い続けるだけ。
そして、こちらを向いたと思ったら、糸の切れた人形のように倒れた。
❀*❀*❀*❀*❀*
「李桜李桜李桜李桜―――――――。」
何回も彼女の名前を呼ぶ。
クスクスと笑う彼女の瞳に光はなかった。
(どうして、間に合えなかったんだっ!!)
あの時、仕事に行かなければ。
あの時、間に合えば。
後悔ばかりが募る。
数か月たった。
李桜は、眠るか、笑うかのどちらかで、食事はとるときもあればとらないときもあった。
15歳になった李桜は、まだ、戻らない。
でも、僕は李桜と籍を入れた。
李桜と結婚した。
李桜からの承認はないが、一番確実に李桜を守れる方法だった。
どこに行くにも連れて行った。
片時もそばを離れなかった。
もう、あんな思いは二度としたくない。
これ以上、彼女を壊したくない。失いたくなかったから。
「李桜李桜李桜李桜。」
今日も彼女の名前を僕は呼び続ける。
いつか、彼女が僕を見てくれることを祈って。
彼女が、こちらに戻ってきてくれるように願いを込めて―――――