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[旧知]

 控室、もといチームルームへと数多の視線を感じながら戻ると、一足先に戻っていたオーナーが出迎える。

「初戦としは、上々な出来だったと思うよ」

「……まあ、な」

 穹は手を握ったり開いたりしながら、今日の戦いの感触を振り返る。悪くはない。その一言だ。

 一条はというと、難しい顔をしていて、

「結局――」

 役に立たなかったことを気にしているのかと思ったら、

「宿題がわからずじまいなのが残念っすね」

「難しい顔をしているから何かと思えば」

「いやいや、このチームの頭脳を任された以上、仲間の能力運用についてはよく知っとかないといけないっすから」

 案外生真面目だな、と思ったが口には出さずに、

「お前の能力の方こそ、使い方を考えるべきじゃないのか?」

「ま、実際問題そうなんすよね」

 思っていたことがあったので、オーナーに問う。

「なあ、オーナー。このチームが人手不足なのは変わらない訳だが、新しいメンバーはスカウトしてこないのか?」

 オーナーは情報の表示されたボード片手に首を傾げていたが、穹の言葉に振り向き、

「当てはあるけど、君が納得するかどうか先に訊いておきたいかな」

「…………」

 まさか、と嫌な予感がする。

 それを補完するかのように、一条は軽い口調で、

「あ、もしかしてロランドさんっすか?」

 もっとも聞きたくなかった名前を口にした。しかも、オーナーは得意げな顔で、もちろん、口元しか見えてはいないが、大きく頷き、

「ああ、現状彼以上の人材はいないと思ってる」

 だが、とも付け加え、穹の顔を窺い見てから、

「もちろん、君と彼の仲がどうであるかも多少はわかっているつもりだ。その上で、あえて訊く。ロランドを仲間として迎え入れても構わないだろうか?」

 穹は沈黙した。

 ロランド。ロランド・ステッラ。

 通称、デンジャー。何がどうデンジャーなのか、正直語りたくない。あえて言うなら、少女にとってデンジャーだ。いや、実害はない。ただ、度を過ぎてるからデンジャーと呼ばれるのであるが。

 そして、ロランドと穹の関係を一言で言い表すなら、商売敵だ。穹が護るために戦う理由そのものであるとも言える、雇われのヒットマン。

 商売敵であり、デンジャーと呼ばれる男であるが、穹が最も気にするのは商売敵の部分ではなく、『デンジャー』の部分である。

 穹は相手が女性であろうと、全力を尽くすのが礼儀だと信じている。だが、あいつはそう思わないから性質が悪かった。

 初めて出会った時の現場は、クライアントを背に、元々襲撃してきていた少女を相手にしつつ、少女を守ろうと躍起になるロランドという構図が出来上がっており、もはやどっちを先に倒せば安全なのかわからない状態となった。結果として、クライアントは他の護衛が他所に逃がしたのだが、穹とロランドは互いに脳みそを吹っ飛ばす寸前まで戦闘が進行していて、もはや当初の少女は傍観者と成り果てていた。

 後から考えても、あの一件はおかしな終わり方をした。というのも、最終的に穹たちを仲裁したのが最初の襲撃者である少女であり、しかも、その少女は標的を間違えていたというのだから、もはや本当に何の為に殺し合う寸前まで行ったのかわからない。

 それからだ、穹がロランドと遭遇するのを避けるようになったのは。だが、運命は無情で、それからも十は下らない戦闘を経てなお決着はついていない。

 因縁の、と言えば聞こえはいいが、穹にとっては、天敵、もしくは疫病神のようなものだ。

「…………」

 口元が歪むのが自覚できる。オーナーたちの反応も芳しくないのはわかっている。

 だが、穹としても純粋な戦力としてはロランドは十分に期待できる人間であることもわかっていた。それだけは認めざるを得ない。

「いいだろう。ただし、オレとあいつがまともにタッグを組めるとは思わないでくれ」

「いいのか!?」「いいんすか?」

 オーナーと一条の声が重なる。オーナーにしてみれば、提示してみたものの、通るとは思っていなかったと言わんばかりの驚きようだ。

「それに、言っておくとだな」

 口元が緩んでいる雇い主に向けて言う。

「オレにとっては、お前はもう雇い主だ。忠誠を誓うかどうかは別として、方針や人選に口を出す気はない」

「それはダメだ」

 即座に切り返された。目は見えないが、何やら真剣であることは口元からも窺えた。

「確かに、私はここのチームのオーナーであり、君たちの雇い主だが」

 胸に手を当て、宣誓するように言葉を紡ぐ。

「独裁者にも、絶対者にもなりたくない。私はな、チームのメンバーは仲間だと思っている。この思いをきちんと知っておいて欲しい」

 穹の沈黙は先ほどのものとは違った。一条は下を向いていたが、その表情は照れているようにも思える。

「覚えておく」

「らじゃっす」

 穹は、戦いに勝った時よりも、充実を感じていた。

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