[間隙の思考]
初手。小手先の技術など使わず、ただ単純に手にした銃の弾倉が空になるまで男に向かって撃つ。
撃つ、撃つ、撃つ。
ただ、撃つとはいっても全弾を集中させるわけではない。適度に散らばらせ、行動を制限する。このくらいは小手先の技術とは呼ばない程度の、常識。
だが、相手も馬鹿じゃない。銃を撃つ間は少なからず体が硬直する。その間隙をついて、突進してくる。身を低く、床を踏みしめて鉛の雨を突き進む。
空になった銃はただの重りだ。鈍器にも出来るが、
「ほいっと」
相手に向かってダメ押しの牽制。それが本当にダメ押しであることを知らされるまでに一秒もかからなかった。
というよりも、
「フンッ!」
向かってくる二挺の拳銃に対して突進を止め、しかし、低い姿勢のまま拳を後ろへ。そして、瞬時に振り抜く。風を切るような鋭さと、拳が拳銃にぶつかる硬質な金属音。
起きる現象は単純。拳のベクトルに沿って、拳銃が飛ぶ。ただ、その威力は瞬時に行き先を見切って避けたオレの背後、遥か後方の壁が大きく凹んだことから推測できる。
「馬鹿力め」
「お前こそ、すばしっこいな」
吐く言葉は休息のためではなく、同時に床を蹴ったオレ達の、刃を交えるまでの間に放つ戯言。
こちらはナイフ一本。片や、二人がかりであり、まだ銃もナイフもある。
さて、どうしたものかと思案しつつも、体はまず目の前の男を排除するために動いている。
力比べは愚の骨頂。ナイフを掴まれれば、こちらは完全な無手。
『能力』を使えば切り抜けられる自身はあるが、この試合では極力使いたくはない。今後のことを考えれば、切るカードは少なければ少ないほどいい。
思考とは切り離された場所で、体が動いて攻防を行う。生きていた場所では、思考してから動くのでは遅すぎた。だから、体は思考よりも先に動く。
だが、乖離しているわけではない。方針さえ決まれば、いわゆるオートパイロットは切る。そこから先は、オレの本領である、技術の域。小手先の技を駆使して、相手が強大であっても屠る。
「さて――」
意識を研ぎ澄ませる。勝手に動いていた体の手綱を握りなおす。
「いっちょ、化けの皮を剥いでやろうかね!」
方針決定。相手の能力を見破る。それも、オレの『能力』を切らないで、だ。
少女の方はすでにわかっている。所有物の透明化能力。武器に関するレギュレーションさえなければ、十分に強力だが、今回は流石に分が悪い。
だが、今は銃を持っているというだけで脅威だ。オレが男と接近戦を行っているから援護射撃を行ってこないが、一度離れればそうはいくまい。あくまでも、接近戦をする必要性がある。
さて、と……少女の方はともかくとして、まずは男だ。能力的に怪しいのは、腕。特に、拳周辺。なら、そこを攻めるのが一番か。
ナイフを振り上げ、オレは柄を叩き付けた。