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[手に入れたモノの使い方]

「さて、給料はどうしようか?」

「その前に一条の能力が知りたい。なかば、給料なんかどうでもよくなってきた」

「意外にっていうか、好戦的なんすね。ま、ここなら誰にも聞かれる心配なさそうっすから言いますよ」

 彼はカードをなぞりボードを表示させると、

「『アナザー・アイ』っていう能力らしいっす。なんでも、他者の視覚と同調できる能力みたいで。どう思うっすか?」

 穹は思わず黙り込んだ。どうやら、もの凄い強力な能力だから隠したかったのではなく、聞かれることで使えないことがすぐにわかるような能力だからだったらしい。

「使いどころに悩むね。視覚同調、か」

 オーナーも唇に指を当てて考え込む。が、それもすぐに終わった。

「まあ、穹がいれば大丈夫だろ?」

 そう、無責任に言い放った。流石に穹も反論しようとしたが、したところで意味がないことに気が付いて、代わりに、

「ルールを教えてくれ」

 そう、催促した。オーナーもそれもそうだ、と笑い、ルールを見やすいようにボードに表示してみせる。

「本来、就任戦は五対五で行うのがほとんどなのだけど、流石に私がチームを解散したから譲ってくれたらしくてね。今回はタッグ戦ということになった」

「だから急きょ二人かき集めたって訳っすか。しかも、一人は非戦闘要員を」

「考えがない訳ではないさ。いきなり攻撃要員を二人呼んでも連携が難しいだろうと思ってね。だから、一人は情報分析をできる者をと思って君を呼んだんだ、一条」

 納得した。確かに、初対面で合わせろと言われても、はいそうですか、というわけにはいかない。一条も納得の頷きを見せたが、少しばかり苦い顔で、

「だとしても、この能力は微妙すぎっすけどね」

「まあ、そこは少し誤算だったとしか言い様がない。だが、考えようによっては視覚同調で敵の位置も探れるということなのだろうけど」

 狙撃手相手なら必要かもしれない。が、今回ばかりはどうだろうか。平地、かつ障害物の類は一切なし。つまり、真正面からガチでぶつかり合う以外にほとんど選択肢がない。

「制限時間経過時の総合得点が上回れば勝利、ね」

「とは言え、ただ単に相手を殲滅すればいいというわけでもない。確かに、撃破の得点は高いけれど、防御や回避でも得点は入る。戦闘中の経過もきちんと点数になるから、場合によっては総合得点で負けることもありうる」

 面倒だ。しかも、一条が撃破されればそれだけこちらのチームの不利となる。

「まあいい。一条、今回はオレの視覚に同調しておけ」

「御鏡さんにっすか? そりゃまたなんで?」

「戦いの速度に慣れるためだ。オレの速度でまともに物が見れるなら、この先ずっと楽になる。後、戦いの間はずっとオレの後ろに隠れて何か念じてる振りでもしておけ」

 そうすれば、勝てなくとも負けることはないだろう。自身の能力の運用方法についてはもう考えてある。練習する時間さえあれば、すぐにでもモノにできるだろう。

「ま、了解っす。いきなり矢面に立てと言われるよりは遥かにマシっすから」

「オレもそう思うよ。で、オーナー、作戦も決まったようだし早速能力の練習をしたいんだが?」

「その前にお金のことは決めておこう。基本月に百万。戦闘での獲得ポイントに応じて別途支払いでどうかな?」

「基本月二十万でいい。自力で稼ぐ方が好きだ」

「なら、ポイントに対する倍率で調整しておくよ」

「任せる」

 練習部屋はそちらだ、と指された方へ一条と連れ立って向かう。

 スキャナーのような壁の出っ張りにカードをかざすと、滑らかに扉が開く。見えた部屋は相当に広いものだ。

「体育館、以上っすね。屋内競技場ぐらいはあるっすかね?」

「まともな競技場に行ったことがないから正確な比較は無理だが、それくらいはありそうだな」

 先ほどの待合室のような部屋に最初入る時も感じたが、空間の概念がかなりおかしい。ギミックについて気になると言えば気になるが、それを言い出したらこの場所の全てにおいて突っ込まないといけなくなるだろう。

「じゃ、おれはさっそく同調してみるっすよ」

「ああ」

 一条はスキルの説明に添付されている使い方を熟読し、それからサングラスの奥の目をすっと細めた。

「あ、オーケーっす。うわぁ、こんな風に見えるんすね。いや、でもこれ自分の足元とか見えないから動けないっすね。めんどくさいっす……」

「そういやそうか」

 慣れれば、他の人の視界から自分の姿を見て動けるようになりそうだが、いきなりそれを求めるのも酷というものだ。

 穹も説明を読み、薄く笑う。接触箇所から一メートルが有効範囲。対象を認識し、念じることで発動するようだ。

「なあ、オーナー。この部屋には何か仕掛けはないのか?」

『あるよ。なんなら、レールガンでも用意しようか?』

「いや、流石にそこまではいらない。ランダムで発射する銃火器があれば一番いい」

『わかった。最高間隔一分まででいいかな?』

「ああ」

 言うが早いか、穹の視線の先十メートルの位置に黒光りする自動拳銃がにじみ出てきて、そのまま空中に留まる。

 と、思った瞬間だった。甲高い火薬の破裂音と跳ね上がる銃口、そしてブローバックでスライドする機構。

「ちょっ――」

 一条の驚きの声が終わるよりも早く、弾丸は穹へ迫り――


 風を切るような音が一つ。


 飛び散る血もなければ、回避のための大きな動きすらない。ただ、穹は前に手を伸ばし、何かを握りこむような姿勢。

「なに……したんすか?」

「何って」

 穹は握りこんだ物を一条の方へと放る。それは弾頭がわずかに潰れた拳銃の弾。一条は驚きのあまり同調を解除してしまったらしく、自らの目で鉛玉を追い、しかし拾われることがなかったそれは床で跳ねてわずかな金属音を立てる。

「銃弾を止めただけだ」

「んなバカな……」

「紛れもない現実だよ」

 だが、彼もいつまでも驚いてばかりいるのは癪だったのか、グシャグシャと頭を掻き毟り、

「でも、どうすりゃ銃弾なんか止められるんすか? どう考えたっておかしいっすよ」

「おかしくないさ。単に、今得た力と生まれ持って磨き上げた力を併用しただけのこと。種は明かさないけどな」

『私としては聞いときたいところだけどね』

 オーナーが口を挟むが、穹は首を横に振り、

「オレが即興で思いつくようなもんだぜ? だから、とりあえずはお前たちへの問題としておく。試合が終わったら解答編だ」

『……了解したよ。私とて、君たちには色々と隠し事がある。それを思えば、君のこの隠し事は可愛いものだろう』

 隠し事、ね。ヘルメットにしてもそうだが、どうも素性が読めないのは確かだ。蒼のことを知っているのは確かだと思うが。穹が過去へ思考が逸れそうになるのを遮ったのは二発目の銃弾。引き金が絞られるわずかな音を聞き逃さず、穹は瞬時に動作。発射された銃弾をまたもや掴み取る。

「曲芸の域っすね。見世物にすれば金とれるんじゃないすか?」

「かもな。ま、この能力が外に持ち出し可能ならの話だが」

『得点を稼ぐといい。累計点数に応じて各種のサービスを受けられるようになる。その中に能力の持ち出しもあった筈だよ』

「なるほど。得点を稼げば便利になるってわけっすか。じゃあ、頑張らないといけないっすね」

 悩み始める一条。それを横目に穹は明日の戦いに期待を膨らませる。

 三発目の銃声が高らかに鳴り響く。

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