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最悪の証明

作者: そらきち

部誌に書いたやつです

今日はある人の話をしようと思う。

別にこれからする話に対して感想がほしいわけでも、何かを伝えようとしているわけでもない。呟きみたいなものだ。聞きたくない人は聞き流して貰っていい。

 自己満足、と言われてしまえば確かにその通りだ。今からする話はただただ自分が語りたいことを一方的に伝えるだけのものなのだから。

 でも、それでも話したい、僕とあの人とその周りを取り巻いている人たちの話を。

 前置きはこのくらいにしてそろそろはじめよう。まず最初は僕とあの人が出会った――少し前から始めようか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あれは高校二年生の秋だった。僕はどんよりと曇る空をぼーっと睨みつけながら、とある場所を目指していた。

 とある場所――いやそんなたいそうな場所ではないのだけれど――とは、長い長い長い坂を上った先の、児童公園の敷地内にある、楓の木、だ。その紅く色づいた葉を見るためだけに、昼食の時間を削り、学校をわざわざ抜け出してきて、この長く長く長く長い坂を上っているのだ。

 その日、十月二十七日は、特別な日、だったから。

 と、申し訳ない。僕の自己紹介がまだだったね。いや失敬失敬。自分の話したいことだけを優先して話すだけ話して相手のことなんか一ミクロンも考えずにべらべらとしゃべる屑野郎、とか思われたくないからね。

 僕の名前は村上脱兎。現在高校三年生。四月十一日生まれで血液型はAB型Rhマイナス。特技は暗算。趣味はジグソーパズル。まぁ僕のことを知りたいという頭の湧いた、いや酔狂な、いや悪酔いした挙句発狂したような方がいらっしゃるというなら、ぜひとも覚えて帰ってほしい。

 話を戻そう。

 特別な日『だった』と先ほど言ったのには、もちろん理由がある。それは、ある事件の渦中において、この楓の持つ特殊性なんて跡形もなく微塵も残らず砕けへし折れてしまった挙句、さらにその特別なことなんて覆してさらに余りあるほどの最上級の『特別なこと』が起きてしまったからだ。

 息を切らして、長い長い坂を上った僕の目の前には、ある意味では酷く惨い光景が撒き散らされていた。

 普通に生きていたらまず遭遇しない、そんなくらいの異常。

 その体を構成するありとあらゆる部分が、体を支えるべき背骨が、美しくしなる指先が、弓なりになった腕が、優美な曲線を描く足が、儚く細い繊維の一本一本が、赤く染まる掌が。

 ばきぼきに、ずたずたに、ばらばらに。

 悪意をもってして、蹂躙されていた。

 いや、楓の木の話だからね。

 でも、それでも声が出なかった。

 いくら植物だって、非道すぎる。

 特別なものとしていたものが、目の前でばらばらばらばらの無価値な屑になっていた。

 誰がこんなことを?

 何の意味があって?

 それよりなにより。

 どうやってやったんだ?

 そこまで僕の思考がまわった、まわってしまった瞬間、背筋にゾワリとした厭なものが走った。その次の瞬間に、僕の体は走り出していた。脱兎の如く。

 何も考えていなかった。

 この事件が、そもそものきっかけ。

 僕とあの人――水飼結弦(みなかいゆづる)との、『最初の縁』だった。

 学校に帰った僕は頭に酸素もいかず、さらに思い出したような空腹感が猛烈に襲ってきたため、急いで弁当を食べた。

 そのあとはちゃんと授業を受けたけれど、(ちゃんと座っていたけれど)頭の中では先程の楓だったものの光景が頭の中を駆け巡っていた。不愉快。

 ただそんな疑問も、放課後になるときれいさっぱり解決するのだった。

 これは別に僕が洞察力に優れているだとか推理力が飛びぬけている、みたいな探偵小説に出てくるうっとうしいタイプの名探偵の自慢などではない。

 犯人が僕のもとを訪ねてきたのだ。

 びっくりだよ。

 びっくりしたよ!

 何せいきなり僕の教室にずかずかと入り込んできたと思ったら僕の方をにやにやと見ながら「俺が犯人だよ」と言ってきたのだから。

 性質が悪いにもほどがある。

 あの時。忘れもしない、不思議な感情が僕の心の中を締め付けた。

 怒る、悲しむ、困惑する、それより先に、すべての行動の前に、僕は、彼に、犯人に、つまるところの水飼結弦に、魅かれた。

 なぜか、彼の犯人宣言も、信じれた。

 あの人は、明らかな狂人であるとともに、カリスマなんだ。


「俺ぁよお、なんつーか、そう、『縁』を大切にしている。何よりもだ。緑じゃねぇぞ?いや確かに緑は大切にしなくちゃならないけどな。あぁ? 紅はいいんだよ。あんなもんぶった切ってダンゴムシの餌にでもなってりゃいい。つーかそんなことなんてどうでもいいんだよ。俺とおまえの間には『縁』がある。例えば俺が、いや俺達がお遊びでやった楓バラバラ殺木事件がお前にとっての大切なものであったり、たまたま殺木事件現場で見かけた――あぁ、俺もあそこにいたんだよ――顔と俺がたまたま通りがかった教室で偶然目に入った顔が同じ顔だったり、誕生日も血液型も同じとは、まさに、『縁』があったっつーわけだ」

 僕はこのような趣旨の話を『生徒会室』で聞いていた。

 水飼結弦。前述の通り誕生日、血液型ともに僕と同じの、高校三年生。

 そして、彼が所属しているのは、『生徒会』。だがここに一つの疑問が生じる。

 僕の学校に、生徒会なんて組織はない。

 あるのは学校議事会だけだ。

 つまり、完全非公式の『似非生徒会』。

 本人曰く「かっこいいからそう呼んでい

るだけ」らしい。紛らわしい。

僕が今までで見たメンバーは水飼さんを含めないで二人。家が林業をやっているらしい斉藤さん(♂)と常に死んだ魚の目をしている杉浦さん(♀)だけだ。しかし実際のメンバーは八人らしく、楓をばらばらにしたときは八人総出で斉藤さんの持ってきたチェーンソーを使用してばらばらにしたらしい。

 その行動理念は、「最悪を求める」らしい。中二病集団。

 だが時には、中二病なんて生ぬるい時だってあるわけで。『本当の狂人』達相手には間違ってもそんなことは言えない。

 そのくらい、彼らの最悪は徹底している。

 困ったお年寄りがいたら、優しくするようなそぶりで事態を目いっぱい悪化させる。

 迷子の子供がいたら、新幹線に乗せてどこかにやってしまう。

 川に溺れた人がいたなら、石を投げつける。

 仲のいい二人を見つけたら、どちらかを寝取る。

 万引きを見たら、そのことをネタに強請り、さらに万引きさせる。

 人殺しを見たら、死体のほうを嬉々として蹴り飛ばす。

 強盗を見かけたら、人質をわざと殺させるように挑発する。

 そんな類の。

 狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂っている行動をする、集団。

 そんなことを大して自慢するわけでもなく、ただ世間話のように淡々と話す水飼さん。

 まさに、最悪にふさわしい彼。

 そんな彼が、彼と知り合ってから一か月たったとき、僕に語りかけた。

「なぁ、お前さぁ、俺なんかよりよっぽど最悪なんじゃないか?何不思議そうな顔してんだよ。まさかお前自覚ないのか?いやだってよ、普通は大切なもん壊されたときって怒ったり悲しんだりするじゃんか。でもお前さぁ、楓の惨状を見るや否や、ダッシュで帰って行ったりしただろ。普通は大切なもんなんだから手に取って確かめてみたり枝を持ち帰ったりパニクったりするだろうが。なのにお前は何も感じてないような無表情で走って行った。なに、ポーカーフェイス?そんなレベルの奴なんか二次元にしかいないわ、ボケ。それに、俺が犯人だとばらした時も、お前ほとんど無表情で「はぁ、そうですか」とか言ったよな。さらにさらに、今の俺たちの悪事を披露しても眉一つ動かさない、何も感じないときたもんだ。は?狂ってる?そんなのはただの事実であって、お前自身の感情ではないだろ。ここからは俺の空想だが、もしかしなくても、お前この話を聞いて、「別に悪いことじゃないだろうに」とか思ってるだろ。自分に関係ないから、悪くない、みたいな思考回路だろ。というより、お前俺を含めて、いやこの話自体、『どうでもいい』と思ってるだろ?そんなことはない、とかって普通の奴は言うはずなんだけどな。最低でも言おうとはするだろ。今この現在に対してさえ、お前は『どうでもいい』。この世のありとあらゆるものに対して、場合によっちゃあ世界に対してすら逃避行動をとっている。全ての人間は無価値で、すべての発言は無意味で、あらゆる行動は無意識で、どんな思考さえ無駄で、どんな挑戦も無意味で、そして、もしかするとどんなものとも無縁、なのかもしれない。だとするとお前は、どんなものよりも最悪だ。残念ながらこれ以上ないくらい、形容できないくらいに最悪だ。これ以外ないくらいに最悪だ。とめどなく最悪だ」

 そういって、一呼吸したのち、深く深く。

 言葉を解き放つ。

「お前、最悪だよ」

 そういって、彼は足元の台を蹴り飛ばすと。

この世からさようならした。

 この事件から、僕は自分のことを最悪であると認知した。

 まぁ。

 だからどうということはないんだけれどね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここまで付き合ってくれてどうもありがとう。これで僕とあの人とみんなの話はいったんの幕となる。最初にも言ったけど、僕にはこの話を通じて伝えたいことなど何もない。それでももし何かを感じて、君にとって何かの足しとなるならそれは僕としても嬉しいところだ。

 一応断っておくと、僕はあの人との出会いはいいものだと今でも思っている。これは嘘偽りない僕の本心だ。

 さて、最後にこれからの君の出会いがいいものになることを祈りつつ、僕の語りの締めとさせていただこうかな。


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