1-8:換金?
キュアリー達が次の換金屋へと向かって歩いていると商店街へと差し掛かった。若いのか、年を取っているのか解り辛いけれど、多くのエルフ達がワイワイと楽しそうに歩き回っている。エルフの店は平面に並んでいる訳ではなく大きな木などでは螺旋状にお店が出来ていて、お店を見ている分にも十分に楽しい。
そんな中を歩きながら、突然キュアリーが一件の店を見て立ち止まった。
「あの、キュアリーさんどうされました?まだ換金屋さんはしばらく先ですけど」
チハルは不思議そうにキュアリーを見て、次にキュアリーの視線の先を辿った。すると、そこには店先に何かの銅像、石版、欠けた壺っといった何に使うのか良くわからないものが乱雑に置かれている店があった。
「あ、あれは古代屋ですね」
その言葉にキュアリーは首を傾げる。言葉の感じからして骨董屋かなにかだろうかと想像してみた。
「古代屋?どんなお店なの?」
キュアリーが尋ねると、チハルが説明をしてくれた。内容的にはやはり骨董屋に近い、ただし、すでに失われた技術で作られた物、用途が解らないもの、中には古代の魔法を記した巻物なども扱っている。そして、その多くはダンジョンなどの宝箱や、魔物のロスト品、更にはかつて街だった所からの発掘品で成り立っている。
「ふむふむ、ねぇそれならこの金貨も買ってくれないのかな?」
キュアリーのその言葉に、チハルは驚きの表情を浮かべた。そして、とりあえずその店に入ってみる事にした。
「こんにちは~」
キュアリーが物怖じなく店の中へと足を踏み入れた。すると、店内は足の踏み場に苦労しそうなほど物が置かれている。キュアリーは物珍しそうに店の中を見て回った。すると、あちらこちらに面白いものを見つける。
「あ、これって遙さんのフィギュアだよね、昔のお土産物かな?あ!これってイベント配布の水中メガネだ!」
そんな風に色々見ていくと、カウンターのガラスケースの中にいくつかのメダルが並べられているのが見えた。
そして、キュアリーがそのガラスケースを覗くと、中にはキュアリーの持つ金貨も並べられている。
キュアリーについて周りをキョロキョロと見回していたチハルもその事に気が付いた。
「あ、あれ?これってキュアリーさんの持ってるのと同じなんじゃ?」
そして、その金貨の説明と金額が書かれているのを見て二人は目を丸くした。
”500年程前にイグリアを中心に使用されていた古代金貨、金の含有量、細工の精密さにすぐれネックレスや指輪などの装飾品に優れている。現在の共通金貨製作の為殆どが潰された。また、近年所有者に幸運をもたらすとも言われている。価格2.5金貨”
「えっと、金貨2.5って事は金貨2枚と大銀貨5枚だよね?」
「あ、はい、そうです!」
「売るとして半額としても金貨1枚と大銀貨2枚くらいは貰えそうよね?」
「です!」
2人は、先ほどの換金屋があまりに酷い価格を提示していたのかが解り、怒る以上に呆れてしまった。
「換金した後、発覚したらって考えないのでしょうか?」
チハルが疑問を述べるが、キュアリーもまったくもって同意したいと思った。
2人がガラスケースの前でコソコソと話をしていると、店の奥から店員らしい老婆がやってきた。
「おやおや、珍しいお客さんかね?」
見ると、頭の上に一組の耳が飛び出している、この為獣人とは解ってもそれ以上の種族まではハッキリとは解りずらい。
「何か気に入ったものはあったかね?」
老婆はカウンターの傍へとくると、今度はもの珍しそうにキュアリーへと視線を向けた。
「これはこれは別嬪さんだ、こんな店に何か用かい?」
キュアリーは懐から古代金貨を10枚取り出してテーブルへと置いた。
「これ引き取って貰えるならいくらくらいになりますか?」
老婆はテーブルに置かれた古代金貨と、キュアリーの顔を見ながら少し思案顔になる。
「お嬢ちゃんの身分を証明するものはあるかい?流石に身元がはっきりしない者からこんな物を買い取る訳にはいかないからねぇ」
その言葉に、キュアリーはまたもアルルの証明プレートを取り出し見せた。そして、老婆はそのプレートとキュアリーを眺め大きく溜息を吐いた。
「あ~~、なんだね、まぁ御嬢さんの態度からみるに偽物じゃないんだろうね。しかし、身分を証明するのに豪い物を取り出したもんだね」
そう言いながら老婆は自分の懐から財布を取り出すと、テーブルの上に並べた。その数は金貨20枚だった。
「まぁ実際の相場ならもっと安いかもしれんがね、まあ状態もいいし、珍しい物を見せてくれた、そのおまけだよ。どうするね?」
そう言う老婆に対し、意外そうな視線をキュアリーとチハルは向ける。確かに売れるかどうかの金貨、ましてや売値2.5金貨の物を2金貨で引き取るというのは破格なのだろう。換金だとレートが関係するが、これはあくまで古美術品扱いなのだろうから。
「はい、その価格でお願いします」
「き、金貨20枚、すごいです!」
即断するキュアリーの横で、目の前に積まれた金貨の数に驚き慌てるチハルの姿が見えた。
「ほ、ほ、ほ、それでは交換させてもらうかね。ああ、ちょっと待っとくれ、取引証明のサインを貰わんとね」
老婆はそう話すと、奥へ戻り何やらゴソゴソとし始める。
「すごいです!金貨20枚なんて見たことないです!それに、ちゃんと証明書を出すなんて」
「だね、あたしも驚いた。やっぱりこういった商品を扱うところは違うんだね」
そんな事を話していると、老婆はなにやら四角い紙を持ってくる。
「探すのに苦労したわい、ここの真ん中にでっかくフルネームで書いてくれね、あ、ここにメアリーさんへっと入れるのを忘れないでくださいよ」
四角い紙とマジックをキュアリーへと差し出した老婆は満面の笑顔でそうキュアリーへと告げる。
そして、その反対にキュアリーは途方に暮れた顔で老婆へと話しかけた。
「あ、あの、これって色紙ですよね?」
「はて?」
「もしかしてばれてます?」
「さて?」
「いえ、さてって、ちなみにメアリーさんって言うのは?」
「おお、わたしの名前じゃよ、似合っているじゃろ?」
とても裏があるとは思えない笑顔でそう答え、マジックを差し出された。そして、キュアリーは思わずそのマジックを受け取っていまう。
「あ~~、わかりました。ここに名前を書くんですね」
「うむうむ」
開き直ったキュアリーは、大きくフルネームで名前を書いた。
「ここにメアリーさんへじゃよ」
「はいはい」
続いて言われるままにメアリーさんへと署名する。すると、本当に嬉しそうに老婆がその色紙を受け取るので、まぁいいかと言った気持ちになる。
キュアリーとメアリーが一応お礼を言って店を出ようとした。すると、老婆が何やら大きな包みを持って出てきた。
「ああ、お礼とは言わんのじゃが、そっちのお嬢ちゃんにこいつはプレゼントじゃ、ちょっと汚れとるが良ければ貰ってやってくれ」
そう言って老婆が大きな包みを解くと、その中には大きなクマのぬいぐるみが入っていた。
「これはイグリアの探索に行った物が見つけてきたんじゃ、一応綺麗にはしてあるが、こんな店にくる者は買ってかないからのう」
チハルはその大きなクマのぬいぐるみを見て喜びの声を上げた。
そして、両手に抱きしめるようにして持ち上げた。その様子を見ていたキュアリーは、こっそりとサーチを使ってぬいぐるみを確認する。
「魔力切れね」
そう小さく呟いたのだが老婆もチハルも聞き取る事は出来なかった。
老婆にお礼を言い、なぜかしっかり握手までしてキュアリーとチハルは店を後にした。
当初の予定通りお金を手にする事が出来たキュアリーは、チハルと一緒に香辛料を買いに先ほどの店へと向かう。
歩きながら、チハルはキュアリーに最近の街の様子を語った。そして、その内容を聞く限りではこの街は治安も守られ、食べ物にも困っていないとの事だった。
キュアリーは気になっていた元老院や行政について尋ねるが、チハルは特に行政について不安も不満も感じた事はないようだった。
どうやらエルフ達は平和に暮らせているみたいね。あんな元老院だと心配だったけど、さっきのは偶々なのかな?
キュアリーがそんな事を考えて歩いていると、突然進行方向に数人の人相の悪い男達が立ち塞がった。
チハルが突然のことに怯える中キュアリーはその男達を見て尋ねる。
「あの、なんでそんなに息を切らしているんですか?」
立ち塞がった男達全員が汗を拭き、必死に息を整えようとしていた。その男達の先頭にいる獣人が息も切れ切れに怒鳴った。
「き、きさま、ら、なんで、か、換金、屋に、こねえんだ!」
その言葉にキュアリーは首を傾げる。
「えっと、気が変わったから?」
その返答の為ではないだろうが、タイミング良く男達の数人が地面へと座り込んだ。
メアリーさんがお気に入りになりそうです!
今後もしかしたらちょくちょく出てくる・・・といいなぁ
それにしても結構ミーハーなメアリーさん、ただ、キュアリーは身分証なんとかしないとですね・・・