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1-69:ユーリ達の思惑

「あ~~、なんだ、この獣人達が言っていた移住希望者なのか?」


周囲のざわめきを気にしながらも、バズはキュアリーの傍までやって来た。ドワーフにとってはエルフよりも獣人のほうが親しみを感じるし抵抗も少ない。

そもそも、ドワーフ達はこの段階ですでにキュアリー達がドワーフ達の国へ移住を希望している事は伝えられていた。そして獣人達は見るからに移民に見えた。


「そうね、もっとも移民希望の一部といった所かしら?」


そもそも、キュアリーも今ここにいる者達で全ての獣人とは思っていない。それ故に一部と称してはいるが、まだどれ程の集団が此処を目指しているかなど判るはずもない。


「ざっと見ただけでも1000は居そうだな」


実際のところそこまで数は多くはないが、背の低いドワーフ達は視界が低い為に全体数字を多めに把握してしまっていた。ただ、ユーリ達も敢えて数を訂正しないという事は、やはりこの後に追加の移民達がやって来るのであろう。


「あとエルフも二万近くは居るのかな?そうすると全部で4~5万人は居ることになるけど、ただそれだけの数を食べさせる為の土地がそもそも余っているのかが不安なんだけどね」


そもそも長命のエルフは数が増えにくい。それ故にもともと獣人などを盾にして犠牲を減らそうと努力していた。獣人も同様に攻撃魔法や治癒魔法をエルフに依存する事で自分達の生き残る術を模索している。

その為にエルフと獣人達は昔から連綿と関係を維持し親密な関係を築いていた。もっとも、エルフと獣人ではエルフの方が上位であると言った思いがエルフの中に作られて行ったのは実に不幸なことである。そんなエルフとは逆に、ドワーフ達はそもそも自分達の世界においてドワーフ以外の種族とは交流した事がない。

もしかすると多種族も隠れ住んでいても可笑しくは無いのだが、長く目撃されたという話は聞かなかった。


「5万か、ふむ、まぁ我々の国においても場所がないわけではないが、その数を受け入れようと思ったとしても色々足りん」


「それはそうでしょうね」


バズの言葉にキュアリーは素直に同意をする。

しかし、そこにユーリが口を挟んでくる。


「土地さえ頂ければ我々は何とか生きていくことが出来ます。もっともそれはマナが潤沢にある事が前提ですが」


「根本的にマナがなければ生きていけない?」


「ええ、エルフも同じだとは思いますが獣人もマナが無ければ衰弱死してしまいます」


ユーリの同意にこの場にいる者達は大きく頷く。それは彼らの中で共通した大前提であったのだろう。

そして、この事はある意味ドワーフ達の立場を押し上げるとともに、危険な位置に置くことでもある。その事を認識出来るくらいにはバズ達は察しが良かった。


「あくまでも我々はこちらの世界の状況を確認する為の視察団でしかない。なんら決定権を与えられていない事を先に宣言しておく」


バズの表情に緊張が走った。

この場に居る者達はその事に容易に気が付いたが、それを態度に表すような事は誰一人しない。


「我々が話についていけて無いのですが、ドワーフの方々は別の世界で暮らされている。そして、エルフの人々はその世界へと移住を考えている。そういう事で間違いは無いでしょうか?」


ユーリの質問にバズとキュアリーは顔を見合わせる。

そもそも、バズ達は最初からここに集まっている集団は移住する為の集団だと思い込んでいた。

老若男女を問わず集団が構成されている事が、よりその勘違いを促進させていた。


「そうね、つい先日まではこの塔によってマナは地中から汲み上げられていたわ。でもそれももう止まったの。この世界で生きられるタイムリミットはもうそれ程多くないわね」


キュアリーの言葉に獣人達は唾をのんだ。

世界中でマナが恐ろしい勢いで減少している事は理解していた。しかし、このエルフの森へと向かうにしたがってその濃度は次第に濃くなっていった。更にユーリ達はこのコルトの森にある塔の事を知識として知っていたのだ。

それ故にこの場所を目指したし、最悪の場合この森のエルフと戦ってでもこの地に居場所を作るつもりであったし、その為の準備もしていた。


「ドワーフの事は文献に出てはいたけど・・・・・・」


ユーリはそう呟きながらもエルフの村の門の前に残してきた者達へ早急にこの情報を伝えなければと思った。しかし、今あからさまに誰かを送ることはしづらい。

ただ今この時にエルフと争ったとしても何ら得るものが無い事に焦りを感じていたし、あちらに残してきた面子を考えると放置は出来ない。


「ドワーフの・・・・・・いえ、受け入れ可能な人数はどれくらいを想定されているのですか?」


ユーリの質問にドワーフ達は再度顔を顰める。


「一度にこれだけの数が来られても困るぞ。まずそちら側も使節団などを組織して欲しい」


ドワーフの一人がそう述べる。至極もっともな要望である為、ユーリ達は顔を見合わせた後に頷いた。


「別の集団を率いている者達は未だエルフの村にいます。その者達にも連絡を取りたいのですが」


「そうね、エルフ達とも話を詰めないと。バズ、悪いけどこのままエルフの村へ向かうけど構わない?」


ユーリの言葉にキュアリーが答える。そしてキュアリーがドワーフ達へと確認をとる。

その様子はドワーフ達とキュアリーの間に一定の関係が構築されている事を表していた。それも、どちらかと言えばキュアリーの方が上位に位置するような関係が。


その様子を見て、ユーリ達は改めて表情を引き締めた。そして、この場で駐留する許可を改めてキュアリーに求め、キュアリーからは塔への立ち入らない限りにおいて駐留を許可する旨を受けた。


「命の保証が出来ないから塔へは立ち入らないでね」


キュアリーの冷めた眼差しにその言葉を疑う要素はなかった。その為、ユーリ達は他の面々にしっかりと釘を刺す。特に子供を連れた者達には命の危険についてしっかりと説明をする。

その間にキュアリーは一人塔の中へと入り、幾つかのアイテムを補充するとともに最悪の状況を想定し魔石を設置していった。

ドワーフときゅまぁはその短い間に食事と休憩を行うのだが、周囲から降り注ぐ熱い視線に非常に肩身の狭い思いをする。


「う~~、せめてキュアリーちゃんの塔の中で食事すればよかったね」


「とても豪華という訳ではないのだが」


「うむ、ただの干し肉とパンだしな」


そんな携帯食であっても注がれる視線は非常に熱い。ましてや、子供から向けられる視線は・・・・・・。


「すみません、途中で食料は補充できたので不足している訳ではないのですが、先の見通しが出来ない為に最低限の量しか配給できていないので」


きゅまぁ達にそう言い訳をするユーリであるが、そんな彼女達はこの待ち時間でも食事をする様子はない。

その為、きゅあぁ達の居心地の悪さは相変わらずであった。

そんな微妙な雰囲気の中、塔からようやくキュアリーが外へと出て来た。


「ん?どうしたの?」


外へ出て来たキュアリーは、その微妙な気配を感じ首を傾げる。

そんなキュアリーの表情をじっと見つめていたきゅまぁは、てくてくとキュアリーへと近づきキュアリーの首筋に顔を寄せる。


「「「「おおおお」」」」


良く判らないどよめきが周囲で起きる中、きゅまぁはくんくんとキュアリーの匂いを嗅ぎ笑顔で頷いた。


「うん、私はキュアリーちゃんを信じてたよ!」


「へ?何のこと?」


きゅまぁの挙動に腰が引けていたキュアリーであったが、その言葉に思わずすっとんきょな声を出してしまうのだった。


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