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1-67:正確な情報は大事ですよ?

会議室には重苦しい空気が立ち込めていた。

各席に座るドワーフ達は誰もが厳めしい表情を崩す事無く、腕を組み沈黙を貫いている。


「事の発端を作ったエルフどもは今どうしているのだ?」


一際大柄で頭髪には白い物の方が多く、恐らくかなりの年齢に達しているであろうドワーフが重い口を開く。

その発言を受け、一斉にドワーフ達はギョロリと視線だけをテーブルの端に座る男、バズへと向けた。


「応接へと通している。状況が読み切れぬ故、賓客待遇で対応しておる」


その発言に、幾人かのドワーフが殺気立つ。

中には思わずテーブルの上を叩き、立ち上がった者もいた。


「「「「賓客だと!」」」」


「騒ぐでないわ!」


立ち上がった者達を顔をしかめて睨み付けた老齢のドワーフは、ゆっくりと視線を発言をしたバズへと向けた。


「バズ、お前の事はそれなりに買っておる。力もある、胆力もある、そんなお前がエルフなぞに迎合するとは思えんが、説明はしてくれるのだろうな?」


「翁よ、我とてドワーフだ。エルフどもの悪辣さは代々語り継がれておるし、知識としては理解しておる。だが、此度の出来事はエルフだドワーフだといった状況では無いと判断した」


ギロリと翁と呼んだドワーフを見返すバズ。しかし、その掌は固く握りしめられ、沈黙時には奥歯を噛みしめているのはそれ程の圧力が掛かっているのだろう。顔からも汗が止めどとなく流れている。


「ほう、エルフの口車に乗せられたか」


他のドワーフからその様な嘲りの言葉が発せられると、バズは良い返す事無くそのドワーフを睨み返す。


「小物は黙っとれ、邪魔だ」


「何だと!」


「ふん、ガタガタ騒ぐな」


あえて聞こえるように呟かれたバズの言葉に、屈強な体躯をしているがバズと歳もそれ程変わらぬドワーフが机を殴りつけ立ち上がる。それをさも馬鹿にしたかの様に鼻を鳴らし、見下したような眼差しを向けたバズに、そのドワーフは椅子を蹴飛ばし詰め寄ろうとした。


「ドグ、黙って座っとれ」


「!!!」


バズに詰め寄ろうとしていたドワーフは、翁に注意され顔色を変えた。そしてバズを凄い眼差しで睨み付けた後、自分の席へと戻る。


「話が一向に進まんな。まずは目撃されたドラゴンだが、あれはドラクル山脈へと向かったのだな?」


「はい、それは多数の情報より確認されております。ドラクル山脈付近の村へは伝令を出し、ドラゴンの動向を報告させるよう手配いたしました」


「ふむ、それ以上は対策は無いか。あとは報告待ちだな。で、そのドラゴンはエルフに倒されたとの報告もあるが、これの真偽はどうなっておる」


「何を持って倒したと言うかだが、ドラゴンと争い追い払ったように見えたのは確かだ」


「馬鹿な!あのような「お前は黙っておれ!」軟弱・・・・・・」


又もやバズの報告に異議を唱えようとしたドグは翁の一喝で黙り込んだ。

その様子をドグの取り巻きである者達はオロオロとした表情で会議場の面々の顔を窺い見ている。しかし、大多数の者達は依然として腕を組み顔を顰め微動だにしない。


「さて、ここで問題となるのはエルフがもたらした情報をどう判断するかだが」


そもそも、会議の始まる前にメンバーには今回の概要は伝えられていた。そこには意識を回復したキュアリーの説明も加味されており、幸いにして現状発生している問題がほぼ間違いなく伝えられていた。

もっとも、何ゆえにどうやってドラゴンがこの地へと現れたのか、本来閉じられていたはずの門がなぜ今この時に開かれたのかといった事は多少・・脚色、捏造されて伝えられてはいたが。


「エルフの言う事をそのまま信じる事は出来んぞ」


「マナが世界的に欠乏するなど、はたして起こりうる事なのかどうか」


「魔物がこの地に増える事を歓迎するような馬鹿はおらんが、新たな素材か・・・・・・悩みどころよな」


今まで黙っていたドワーフ達がポツリポツリと意見を出し始める。


「そもドラゴンか、こちらの世界では長く目撃された事は無い。絶滅したのではないかと言われておったな」


「此度目撃された数も20頭前後よ、となれば保護し増やさねばあっという間だな」


「伝説のドラゴンの素材か」


エルフがどうこうという前に、この場にいる大半のドワーフ達はドラゴンから採取されると思われる素材へと意識が向かっているようであった。


「お主等、素材の事は後にせい。それよりもエルフ達が言うエルフや獣人などの人以外の受け入れについてはどう思っておるのだ」


「さて、よくわからんな」


「そうさな、そもそもどれくらいの数を想定しているかで変わって来るぞ?」


「獣人はともかくとしてエルフか、あまり歓迎したくないのう」


どのドワーフからも肯定的な意見は聞かれない。

翁も別にエルフを擁護する気は欠片も無い。それ故に会議室においてエルフや獣人の受け入れに対し歓迎しかねる雰囲気が形作られていく。


「人族など何とでも成りそうなものを、何とも軟弱よな」


「おや、されどマナが無くなれば我らとて危ういぞ?」


「さて、気合が足らんと言いたいところだが、そんな精神論でどうこうなる物でもなかろうよ、のう?」


「そ、それは・・・・・・」


高齢のドワーフ達程マナの欠乏に対し危機感をしっかりと直視しているようであった。その為、感情的に反対意見を叫びそうになったドグとその取り巻き達に対し明確に言葉で牽制する。


「昔は訓練も厳しかったでな、マナ欠乏における鍛錬も幾度と成り行っておったが、今は危険だと言ってそんな訓練はせんようになった」


「対処を間違えれば死にかねんからな」


「ただそれでは自分の限界が解らぬのになぁ」


会議は今や高齢のドワーフ達の独壇場と化し始めていた。

若手の者達が何か意見を言おうとしても、すぐに上から目線の意見が飛びかい磨り潰される。

ドグ達のみならず、バズやそれ以外の者達も何も意見が言えない状況に陥り、そのまま会議は進んで行く。


「ドラゴン以外の魔物は何が入り込んだのか調べんとの、珍しい素材が採れると良いのだが」


「そうじゃ、そのエルフは何か珍しい装備など持っとらんのか?長く閉ざされておったのじゃからこちらとは違う独自の発展をしておってもおかしくは無かろう」


「ふむ、そうだな。であれば召し出して調べねば」


「エルフの装備か、軟弱なイメージがあるの」


もはや誰もマナの欠乏や移民の流入問題など頭の片隅にも残っていなかった。次第にまだ見ぬ素材への皮算用を行い始め、逆にドラゴンなどの希少動物を如何にこの世界に引き込むかなどへと話題が移り始める。

それは翁にしても、若手のドワーフ達も同様であった。


「よし、であれば移民の中にいる獣人を味方に付ければ良いな。獣人は単純で扱いやすいと聞く」


「そうですな、エルフなどの腹黒連中より遥かに付き合いやすいでしょう」


「なぁに、所詮人族などに後れをとる連中だ。何かあっても対処は可能だろう」


憶測と思い込み、願望などが入り混じったとても一方的な内容が今まさに可決されようとしていた。

この中で唯一エルフ達の恐ろしさを身に染みて感じているバズは、幾度となく意見を口にし、注意を喚起していたのだが元々が頑固で自分の考えを曲げる事の無いドワーフ達が、若輩のバズの意見でその思い込みを換える事などありえなかったのだ。


そして、バズが顔色を青くし会議の行方を見守るしかなくなり、無情にも決議が行われたのだった。


「よし、2名のエルフを召喚し所持品を改める事とする。また、魔獣の確保の為に精鋭の部隊を組織し送り込むと共に、移民者達の選定を行う。これで良いな?」


「無能、無益な者まで受け入れる事は出来ませんからな」


「獣人を優先し受け入れましょう。なに住民がやりたがらない汚れ仕事でもやらせれば良い」


導き出された結論を聞きながら、バズはこの先の展開に一人恐怖していたのだった。

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