1-66:騒動の終わり
キャンディーの効果の消えるまでの約1時間、キュアリーは女王様ドラゴンを抱えながらドラゴン達の間を潜り、時には背中を駆け上がり、尻尾を飛び越え逃げ切る事に成功した。そして、学習しないドラゴン達はまたもや元の姿に戻った女王様ドラゴンの逆襲を受けて騒動はあっさりと終結したのだった。
もっとも幸いだったのは2度にわたる騒動で女王様ドラゴンは思う所があったのか、複雑な眼差しをキュアリーへと向けながらも空へ向かって思いっきりブレスを吐いた後、翼を大きく羽ばたかせて遠目に見える山脈へ向け飛び立っていく。他のドラゴン達もそれを追いかけて次々と飛び立って行った。
「終わったよ。漸く、漸く終わったよぉ」
思いっきり泣きの入った声で呟くと、キュアリーは力尽きたかのように大地に崩れ落ちていた。
身に着けていたローブは埃塗れでヨレヨレと成り、武器として手にしていたメイスは放り投げられて地面に転がっている。そこには、かつての強者の姿は無く、まるで敗者の様にただ力尽きた姿があった。
そんなキュアリーの周囲を見渡せば木々は薙ぎ倒され、大地の所々に高熱で炙られたかのような焦げ跡があり、一部倒された木々も墨の様に黒ずんで煙を立ち昇らせていた。しかし、先程までと大きく違う事はあれ程に暴れまわっていたドラゴンの姿はもう一頭もいない。その事がこの騒動の終了を物語っていた。
あえて周囲を見回して見ても、そこにいるのは倒れ込んでいるキュアリー、未だ旗をパタパタと振り続けるきゅまぁ、それとドワーフの姿があるだけであった。
「キュアリーちゃん、お疲れ様~~」
緊張の欠片すら感じられない声が必死に息を整えているキュアリーの上に降りかかる。
しかも、その声の主は何を思っているのか小さな肉球マークの旗をパタパタと振り続けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
きゅまぁの声に未だに息が整わないのかキュアリーは声を返す事が出来ないまま、ゆっくりと頭を上げてきゅまぁへと視線を向け、そしてその視線に殺意を滲ませた。
「きゅ、きゅまぁ、それって、何の、意味があるの、か、な?」
「ほえぇ?えっと、お、怒ってるのかな?」
キュアリーの眼差しに思わず後ずさり、きゅまぁは冷や汗を流す。その表情は思いっきり引き攣っていた。
「こっちが、必死で逃げてる、のに、のんびり旗を振ってる人が、いたら普通は、怒らない?」
少しずつ息が整ってきているようではあるが、キュアリーは必死で何かを堪えるかのように言葉を刻みながらきゅまぁに笑顔を向ける。
「う~~んと、応援してたんだよ?」
「お、応援じゃなくって支援よこしなさいよ!!!!」
のほほんとしたきゅまぁの表情に遂にキュアリーの怒りが炸裂した。
「そりゃ、同じ殴り職だけどさ、どう見ても自分に支援掛けてる余裕なかったよね!ほら、私長い間引き籠ってたから途中で足がグキってなったりさ、太腿が攣りかけて危なかったよね!すっごい際どかったんだよ!持久力落ちてるんだから!ぜったい隠しステで運動不足とかついてるよ!」
目に涙を溜めながら訴える姿に、きゅまぁは先程までの騒動を思い返す。
「う~~~んと、そっか、キュアリーちゃんごめんね、てっきりドラゴンさん達に懐かれてるんだと思ったの。だってさ、ルル達が全然慌ててなかったもん。それに支援する程じゃなかったような?」
そう告げるきゅまぁの視線の先には、門を出たあたりで先程まで影も形も見る事の無かったルーンウルフ達がのんびり身繕いをしている姿が見えた。もちろんその集団の中央にはルルがいてきゅまぁに名前を呼ばれたためキョトンとした様子でこっちを見返している。
「は、ははは、あははははっは」
きゅまぁとルルの姿を目にしたキュアリーは、突然大きな声で笑い声を上げ始める。
その笑い声に狂気の気配を若干感じ始めたきゅまぁは、ちょっと困った表情でキュアリーを見返す。
「スリープ!」
「ハハハ・・・・・・ぐぅ」
きゅまぁの魔法でキュアリーはそのまま突っ伏して倒れ込んだ。
そして寝息を立てはじめるキュアリーを見ながら、キュアリーは後ろで未だに旗をパタパタ振っているドワーフ達へと視線を向けた。
「えっと、悪いんですけどキュアリーさんを宿に連れて行ってあげたいので担いで行って貰っても良いですか?」
「「「「「・・・・・・」」」」」
きゅまぁが声を掛けてもドワーフ達からは何の反応も返って来ない。ただパタパタと旗を振り続けている。
その為、近づいてドワーフ達の顔を覗き込んだきゅまぁは、どのドワーフも白目を剥いている事に気が付いたのだった。
「・・・・・・だめだこりゃ」
ドワーフ達は次々と現れる巨大なドラゴンと、要所要所で女王様ドラゴンがキュアリーへと飛ばす威圧スキルによってとっくに意識を飛ばしていた。
これはドラゴン達が街へと向かう事への恐怖、焦り、絶望様々な思いが集まり混乱したある一瞬、まるでタイミングを計ったように放たれたドラゴンの上位種族故の圧倒的な威圧スキル。あまり魔法耐性が高くない脳筋ドワーフ達に対しクリティカルな効果を発揮した。もしこの時ドワーフ達の心が混乱していない状態であればまた結果も違ったであろう。
ドワーフを弁護する訳では無いが、彼らは勇猛な種族である。それ故に一度心が折れようとも、すぐに新たな勇気を心に灯しドラゴンへと向かって行ったであろう。すべてのタイミングが悪かったのである。
そんな心神を喪失した運の無い可愛そうな状態のドワーフ達を見て、応援用の小さな旗を取り出して自分と一緒に振らせるような所業に出るものが居るなど普通誰も想像しない。
また自分達に降りかかった不幸の原因、その何割かが極悪な強運の持ち主であり、天性のトラブルメーカーで、周りを巻き込む事に掛けては世界有数の存在で、意味なく旗を振らせている張本人のせいだとは想像すら出来ないだろう。ただただ運が悪いドワーフ達であったの一言で済ませるしかないのである。
そんな憐れなドワーフ達を見て、諸悪の根源は溜息を吐いてこの場に野営の準備を始めるのであった。
「キュアリーちゃん怒ってるよね、う~~ん、目が覚めたらみ~んな忘れててくれないかなぁ」
そう呟きながらチラッと地面に転がったままのキュアリーのメイスへと視線を向けるきゅまぁであった。
その時、今までのんびり身繕いをしていたルルがピクッっと頭をもたげ、きゅまぁへと視線を向ける。
その視線を感じきゅまぁはテヘッと舌を出してルルへと笑顔を向けるが、きゅまぁが何をこの時思ったのか、それを知る者は誰もいなかった。
何度も修正したので文がおかしい所があるかもです><
あと文字数が少ないですねぇ・・・・・・




