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1-64:ドワーフの悲劇?

「うわ~~~お」


ドギャシャ!


ドワーフ達が吹っ飛ぶさまを目にし、思わず両手で口元を抑えながらその様子を見ていたきゅまぁは思わずそんな声を洩らす。その姿は何時ものエルフの姿である事から、キャンディーの効果は切れたのだろう。


「大丈夫かなぁ、ドワーフは頑強だけど流石にドラゴンの攻撃だし」


周囲の木々に叩きつけられ、それこそ木々を叩き折りながら森へと消えたドワーフの前衛達。

特にパーティーを組んでいる訳でも無い為生きて居るのか、死んでいるのかすら解らない。それ故に心配にもなるのだが。そして当たり前の事だが前衛が倒されたドワーフ達も混乱をきたしていた。先頭に立ち攻撃を仕掛けた者達は、ドワーフ達の中でも名の知れた者達ばかりであった。その者達がいともたやすく戦線離脱させられたのだ、いくら自分達の人数が多いと言ってもドラゴンに通用するとはとても思えなかった。


「た、退却だ!準備をせずに戦えんぞ!」


「怪我人を救助し、撤退だ!」


「ソートン、街へ行って状況を報告しろ!」


「か~~~、こんなちゃちな武器で戦えるか!」


叫びながらも次の行動を声に出し、意思疎通を図る事で行動を統一する。ある意味見事だとは思うのだが、敵を前にしてする事なのだろうかと思わなくもない。

唯でさえ怒り心頭で苛立っている女王様ドラゴンは、怒鳴り合うドワーフ達に鋭い視線を投げかけた後に思いっきり息を吸い始める。ドラゴンお決まりのブレス攻撃の予備動作である。


「まずい!ブレスだ!」


「射線を逸らせ!吹っ飛んだ連中の方へ向けさせるな!」


「でかぶつ蜥蜴野郎!こっちだ!」


ドワーフ達はドラゴンの予備動作に思い思いにドラゴンを挑発し、攻撃を引き受けようとしている。

有効な射程距離も解らない。しかしブレスを避けるためにドラゴンの下へと飛び込んでいくには距離があり過ぎた。鈍足なドワーフ達では危険以外の何物でもない。本来は全員が散会し、的を絞らせない事が有効なのだが、今回に限ってはそれも出来ない。その為、ドワーフ達の胸中では家族への別れの言葉すらつぶやかれていた。


「ちくしょう、エルフどもめ」


「死んでも呪ってやる」


死ぬ確率を少しでも下げる為、ドラゴンの挙動を注視しながらも思わず口から出てくるのはこの状況を作りだしたと思われるエルフへの呪いの言葉だった。

そしてついにドラゴンがブレスを吐きだそうとしたその瞬間、ドラゴンから少し離れた場所で光が輝いた。

それはドワーフ達にとっては正に幸運の輝きであった。

突然の輝きにドワーフと同様にドラゴンも気を取られ、ブレスの射線がその輝きの方向へと僅かにズレたのだ。その為、ドワーフ達のただの一人もブレスに当たる事は無かった。


「「「「た、助かった」」」」


思わずへたり込みそうになったドワーフ達。

しかし、その希望の芽を摘む現実が目の前に突き付けられる。


「ギャオ~~~~~ン!」


それは先程まで自分達が倒そうとしていたドラゴンの叫び声では無い。なぜならそのドラゴンは未だ目の前でブレスを吐いていたからだ。ギギギという音が聞こえそうなほどにぎこちない動きで首を動かすドワーフ達の視線の先には、新たなドラゴンの姿が飛び込んできたのだった。


「ば、馬鹿な、2頭目のドラゴンだと」


「どっから来たんだ。ドラゴンの姿など今まで・・・・・・さ、さっきの光か!」


一頭ですらとても自分達では敵いそうにない存在が2頭になる。これほどの絶望があるだろうか。

ドラゴンは飛ぶ、そう飛ぶのだ。それ故に行動範囲は驚くほどに広い。それはドラゴンの支配領域、即ちテリトリーが広い事を意味しているし、もしこの門の周辺がドラゴンのテリトリーとなれば、自分達が暮らす街もその中に入る事になる。


「お、終わったな」


ドワーフ達にもはや立ち上がる気力すら湧き上がってこなかった。それ程の絶望に沈むドワーフ達の前で、ようやくブレスを吐き終えたドラゴンがゆっくりと頭を動かす。


「グルルゥア~~~ン!」


ブレスが見当違いの方へと放たれたからか、その叫び声には先程まで以上の怒りと苛立ちが感じられた。

ドスドスと身体の向きをを換え、鋭い視線のままに最初のドラゴンはドスドスと走り出し体当たりを掛けた、2頭目のドラゴンへと。


「ギュアォ~~ン」


「ギャルル~~~ン!」


若干2頭目のドラゴンの方が及び腰に見えるが、どちらもお互いの巨体を利用して身体をぶつけ合い、体を捻って尻尾を叩きこむ。周囲は2頭の争いの為、大地は揺れ、砂埃は舞う危険地帯と化していた。

そんな中、レッサーパンダ達は周囲の木々や草むらに身を潜め、恐る恐るドラゴンの戦いを眺めているが、それ以上遠くへと逃げる様子は無い。


「い、今のうちに逃げるぞ!」


「ソートン達の状態は?必要なら担いでいくぞ!」


ドラゴン同士の戦いに当初呆然としていたドワーフ達も、すぐに気を取り直して撤退を開始しようとした。

そして当たり前だが振り返った時、目の前には首を傾げて足元を眺めているきゅまぁと、きゅまぁのズボンの裾に噛みついて必死にきゅまぁを引っ張ろうとしている一匹のレッサーパンダが居た。


「「「「「エルフ!」」」」」


ドワーフ達の声がハモる。それと同時に思い思いの武器を構えて走り出す。


「生きて帰れると思うなよ!」


「貴様らだけは許せん!」


「くたばれや!」


「ほえ?」


怒鳴りながら、正に鬼の形相で向かって来るドワーフ達。

そのドワーフ達へと視線を向け、キョトンとした表情で立ち尽くすきゅまぁ。

無防備に立ちつくすきゅまぁへとハンドアックスが投げつけられる。しかし命中コースであったハンドアックスは不自然に右へと逸れて飛んで行った。

この段階になってようやくきゅまぁは自身の置かれている状況を何となく理解した。


「な、なんですか!誤解ですよ!冤罪ですよ、サンダーレインですよ!」


ドワーフへと抗議をしながらも、流石に長き時の中で生き抜いてきた本能に基づいて攻撃を行うきゅまぁ。

よく勘違いされるのだが、きゅまぁ自身はいつどんな時でも死にそうな怪我をなぜか負った事が無い。そしてなぜかあまり知られていない事だが、きゅまぁが行ったごくごく普通の回避行動が、得てして周囲に、それもキュアリーが頭を抱えるほどの被害を出したことも一度や二度では済んでいない。

この時もまた勢いで唱えられたサンダーレインはなぜかドワーフ達のみならず、その周囲に隠れていたレッサーパンダ達にも降り注いだのだった。


ピカ、ピカ、ピカ、ピカ


「「「「「あびびびびび・・・・・・」」」」」


各所で激しいフラッシュが瞬いた。それはサンダーレインの着弾による爆発と、爆音と共に周囲に響き渡る。そして、かつてのドワーフ程にレベルも魔法耐性が高くないドワーフ達は皆仲良く麻痺をして地面へと転がる。しかし悲しい事に意識を失う程のダメージは無かった。

それ故にドワーフ達はその目で見てしまったのだ、光が収まった後に数十頭にも及ぶドラゴン達の姿を。

変身キャンディーの有効時間前にサンダーレインの攻撃を受けてしまったドラゴン達。

ゲーム時においてはそれで効果が切れるという事は無かった変身効果がなぜかこの世界ではドラゴン達の変身を解除するトリガーと成ってしまった。これはキャンディーを使用したのがドラゴンだった為なのか、それともゲームでは無い為の何らかの要因があるのか、もっともその原因を探る意味も時間も無い為、きゅまぁにしてもそんな事はどうでも良いことではあったのだが。


「「「「「ギャオオ~~~ン」」」」」


本来の姿に戻った喜びを歓喜の叫びで表すドラゴン達。

しかし数十頭に及ぶドラゴンによる一斉の叫びは、ドワーフ達には破滅への轟音に聞こえた。


「アババババ」


痺れが回復しない為言葉を上手く発する事の出来ないドワーフの一人が、絶望に染まった瞳で何かを呟いた。しかしその声すらも周囲の喧騒に立ち消えていく。


ドドド~~~ン!


女王様ドラゴンがついに下剋上を真っ先に狙ったドラゴンを押し倒し、その身体にドシンと腰を落す。


「キュルルルル」


身体を抑え込まれたドラゴンは、恐らく降伏したのだろう、か細い声で泣き声を洩らす。


「ギャオオオオオオオオ」


天高く勝鬨の声を上げる女王様ドラゴンに、周囲にいたドラゴン達も体を伏せるのは、どうやら服従を示しているようだ。

その光景をほけ~~~~と眺めていたきゅまぁは、自分のズボンの裾を引っ張るレッサーパンダによってようやく今の状況を思い出した。


「う~~~ん、もしかしてキュアリーさんかな?」


足元のレッサーパンダを抱える様にして持ち上げ、その顔を覗き込む。

他のレッサーパンダに攻撃が当たって、足元の子に当たらなかったのは恐らくそういう事なんだろうと思い至った故の行動であった。


「キシャーーー」


必死に手を振って何かを伝えようとしているレッサーパンダの可愛らしい挙動にきゅまぁは思わずほっこりとしてしまう。しかし、漸く何が言いたいのかを理解した。


「う~~んと、とにかくドワーフを治癒するでいいのかな?」


「ガウガウ」


うんうんと頷くレッサーパンダを見ながら、きゅまぁはそれでも不思議そうにレッサーパンダへと視線を注ぎ疑問に思ている事を口にする。


「ところでキュアリーさん、なんで元の姿に戻らないの?」


「!!!!!」


きゅまぁに抱えられたレッサーパンダは周囲を見廻し、ちょっと首を傾げた後に漸く驚愕の表情を浮かべた。そして、きゅまぁの腕をタシタシと叩いて自分を地面へ下ろすように指示をする。

若干きゅまぁにモフられながらも無事地面に下ろしてもらったキュアリーは、空中で何かを操作するような不思議なパントマイムを見せた後、光を発してようやく無事元の姿に戻ったのだった。


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