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1-60:ドラゴンの叫び

きゅまぁはきゅまぁである意味奮闘していた頃、キュアリーは危機に瀕していた。

首を咥えられ、ちょっと貴方こっちへ来なさいをされた後、キュアリーは周りの雌に頭で小突き回されていた。


コロ~~ン、コロコロコロ~~ン


周囲を雌たちに囲まれ、まるでボールの様に転がされとっくに目を回している。

ドラゴンの雌達において、子ドラゴンの雌が初めて発情期に入り雄を誘惑するなどある意味普通の事であった。元々序列外にて群れで守られてきた子供達は、いままでどちらかと言うと甘やかされて育ってきた。

それ故に初めての発情期に入ると雄も、雌も共に群れのルールを身に付けないまま行動する事が多々ある。

この時に大人達がしっかりと群れのルールを子供に叩き込むのだ。即ちお仕置きである。


「ウギャウ~~ン」(酔っちゃうよ~~~)


「キャウキャウクワ~~ン」(ごめんなさい~~、もうゆるして~~)


そもそもドラゴンの大人達は自然と自分より強者を察する事が出来る。その為、幸か不幸か身体能力は素の数値しか持たないキュアリードラゴンは圧倒的な弱者、即ち子供だと思われた。

そして、こちらは幸運な事にドラゴンは元々群れで子供を育てる社会システムである為か、子供には寛容な生き物であった。それ故に群れで生まれた子供では無いキュアリードラゴンも至極あっさりと受け入れられたのだった。


「グルルルル」


群れの女主人であろう大型の雌ドラゴンは、コロコロ転がるキュアリードラゴンを眺め漸く満足したのか、それともキュアリーの泣き声を理解したのか今までとは違う声色で鳴いた。すると、今までの様子とは一転して、ドラゴンの雌達は地面に引っ繰り返ったキュアリーをベロンベロンと舐めはじめる。


うぎゃぁ~~、べとべとだよ~~


内心で叫び声を上げながらもキュアリーはされるがままにドラゴン達に舐められ続ける。恐らくこの行為自体は子供への信愛表現。それ故に拒否する事はちょっと怖いのだ。

その様子を目を細めて眺めていた女主人?女王様?ともかく一番大きな体のドラゴンは、魔獣達が抜けて行ったドワーフ達のいる世界への通り道へと視線を向ける。そして、首を傾げるのは何を思っての行動なのだろうか。

ちなみに、ルーンウルフ達はドラゴン達からキュアリーへの殺意を感じなかったが故にドラゴンの輪の外で呑気に寝ていたり、毛並みの手入れをしていたりする。当初の緊迫感など欠片も残っていなかった。

そして、その中心で前足で猫のように顔を洗っているルルを見つけたキュアリーは非常に恨みがましい視線を送ったのは仕方のない事であっただろう。


ドスドスドスドス


雌達のお仕置きが無事に済んで、落ち着いた事を感じ取った雄達がそれでも恐る恐る雌達の周囲へと戻ってきた。その様はとても最強種族とは思えないほどに情けない雰囲気を醸し出している。

ただ、この騒動のおかげでドラゴン達の暴走は収まっていた。そして、それを受けて周囲を走り抜けていく魔獣達の流れも落ち着いた物になっている。


「ガルルルル」


自身の周囲の状況を眺めていた女王ドラゴンはゆっくりと界の境界となっている扉型のゴーレムへと向かい始めた。そもそもこれだけの巨体を維持する為には大量のマナが必要であり、元々流入するマナに誘われての暴走である。それ故にこの行動はあたりまえであった。


「むぅ、不味いのであるな、我はあそこまで巨大な物を通せないのであるが」


ドラゴンの接近を感じたゴーレムがまったく欠片も焦った様子も無く独り言をつぶやいている。

ただ、どうみても頭を通すくらいが精一杯の広さしか扉には無い。ドラゴンがそこを通過するにはゴーレムを破壊するしかないが、このゴーレムは設置型のいわゆる門型のゴーレム。移動など出来るはずも無かった。


ドスン、ドスン、ドスン


ゴーレムの前で一旦静止したドラゴン、そして扉を開いた状態で固まるゴーレム、両者は自然と見つめ合う。もっとも、両者で意思疎通が出来る訳でもなく、理解が得られるはずもない。


「その方達がこの扉を通る事は出来んぞ」


忘れ去られていたが、ゴーレムはこの境界を守る為に設置されたのであった。それゆえ頑丈さには一際の自信があった。しかし、このドラゴンの攻撃を延々と耐えるという事は出来ないだろう。そしてまともな攻撃手段を持たないが故にドラゴンを追い払う事も難しい。それ故にそのドラゴン達の中心でヘバッているキュアリーへと期待するしかなかった。

しかし、その肝心要のキュアリーは、ドラゴン達の真ん中で引っ繰り返って青息吐息。

必死に自身に回復魔法を掛けていて、とてもではないが何らかの対応が出来る様には見えない。


「これは・・・・・・まずいか?」


この時、ゴーレムは大きな過ちを犯していた。

野生動物との戦いにおいて、視線を合わせた後に攻撃をする為以外で逸らす事は負けを認めるに等しい。

当たり前ではあるがドラゴン間においてもこの法則は成り立つ。


「ギャオ~~~ン」


ドゲシ、ガツガツガツ、ドゲシ


女王様のヤクザキックがゴーレムに炸裂した。体格で遥かに勝るドラゴン、この為攻撃は噛みつきでも、体当たりでもなくヤクザキックであった。


「ぬぅ、これは」


門を守る為に当時のメンバーがその力を注ぎまくって作られたガーディアンゴーレム。その耐久は物理、魔法共に並はずれている。それ故にこのドラゴンのヤクザキックであってもびくともしない。

耐久値においてもそれこそ一桁台の減少程度ではあるが、炸裂する場所がゴーレムの顔であった。これは気持ち的に厳しい物がある。このゴーレムも特に特殊な性癖がある訳では無いし、ましてや相手は女王様とは言えドラゴンである。これが人族の素晴らしく、モラル的にはちょっとな女王様であったら又ちがったかも解らないが、そこを検証する術も時間も無い。


「グゥアルルルル」


一向に壊れないゴーレムに対し、女王様は次第に苛立ちが溜まって来た。そして、少し後退して思いっきり息を吸い込み始める。


「流石にこれは拙いと思われるのだが」


ぶつぶつと呟くゴーレムは、それでも声に焦りを感じさせながら今まで開いていた扉をゆっくりと閉じようとしはじめた。本来この扉を通った指示者の指示が無い限り行われない閉門である。そのルールを曲げてまで扉を閉じようと動かし始めたのではあるが、その動きはあまりにゆっくりとしていた。


「ギャオ~~~~ン」


バババババと周囲に激しい光が瞬き、その瞬間ドラゴンの口から眩いばかりの光の線がゴーレムの中心へと打ち出された。


「うぼぼぼぼぼ」


ゴーレムの予測位置よりやや上、まさにゴーレムの顔の場所へとブレスが命中した。

そして、ゴーレムはまるで顔に水を当てられアップアップするかのような声を出している。ただ、ゴーレムが息継ぎをするはずがないのだが。


「ギャオン」


女王様はブレスを止め、ゴーレムを見る。しかしそこにはまったくダメージを受けた様子の無い情景が広がっている。それを見た女王様はまたもやガシガシとヤクザキックをゴーレムへとぶつけるが、もちろんそれで壊れるはずがない。


「クルルルル」


一転して悲しそうな声を上げる女王様ドラゴン。そもそも、ブレスは非常に大量のマナを消費する。

唯でさえマナの欠乏に苦しんでいるのに、更なる消費をしてしまった為、正に飢餓に近い状況へと追い込まれていた。


ずぼっ!


ダメージの無さに完全に油断し、その女王様を動きを止めて見ていたゴーレムは、この後の女王様の行動ににっちもさっちもいかない状況へと追い込まれてしまった。なぜなら、マナに餓え、極限状態に陥っていた女王が、その頭を門の中へと突っ込んでしまったのだ。

マナを求めるが故の咄嗟の行動、そしてこの行動は恐るべき効果をもたらしてしまう。


開かれた門の入り口の大きさと、勢いをつけて差し込まれたドラゴンの首が強引にジャストマッチしてしまったのだ。それ故に当たり前であるがゴーレムは門を閉じる事は出来なくなった。

ただこの段階ではまだ不幸な悲劇は発生していなかった。首を突っ込んだドラゴンは、マナが豊富なドワーフ達の領域で、それこそハフハフ、フガフガとマナを貪る事が出来た。


「キュルルルル~~ン」


その声はまさにご満悦、まさに幸せの絶頂にいるかの様に甲高い。もっとも、この声は門が塞がれている為にほかのドラゴン達には聞こえていない。そして、悲劇の種はこの時すでに蒔かれていた。

マナはドラゴン達を形作る重要な要素である。マナが不足して行けば、当たり前にドラゴン達は痩せ細って行く。そして、勿論この現象は逆にも作用する。


「クルルン?」


今もマナを必死に吸い込んでいる女王様は、この時何か違和感を感じた。それも、首の辺りを締め付けられるような息苦しさを感じた。それは、マナを吸収しているが故に本来の体を回復させ始めた細胞の声だったのかもしれない。


「ギャオ~~~~」


ドワーフ達の世界に、ドラゴンの悲痛な叫び声が響き渡ったのだった。


何か主役が・・・・・・


ご指摘ありがとうございます。

きゅまぁは危機にをキュアリーは危機にへ訂正いたしました。

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