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1-59:伝統とは誤解や遊び心で生まれる・・・・・・かもしれない

世の中の常識としてエルフとドワーフは仲が悪いと思われている。

これは伝統と言っても良い。なぜ、いつから、それをエルフやドワーフに問いかけたとしても、昔からとしか返答は返って来ない。特に何か大きな出来事、事件に起因する訳では無い。両種族間において戦争が起こったなどの記録は残っていない。それでいて何故両種族が仲が悪いのか、それは単純に種族としての好みが起因しているのだ。

当たり前であるが、エルフとドワーフでは体型が大きく違う。それは種族としての美醜にまで大きく関わって来ていた。ドワーフは筋肉質でガッチリとした体形に憧れを持つ。また髭が生えていないと子供と見做される。しかし、ドワーフ理想の姿はエルフからすれば醜いというか暑苦しいというか、ともかく生理的にちょっとと言っても過言では無いくらい。またエルフが美しいと思う姿形はスラッとしたスレンダータイプ、髭などもっての外、金髪サラサラの髪の優男が理想となり、この理想もドワーフから見ればおいおい、どこの木の枝だ?力入れたら折れちまうぞ?なんだこのヒョロヒョロと嫌悪の対象となる。

すなわち、両種族はまったく別の種族というより生き物である。そもそもこの両種族間では子供が出来ない。

これでは仲良くなれと言われても難しいのだ。


それ故に一度は交流を回復したエルフとドワーフも、再び交流を断絶する事になった。

そもそも先の交流も異邦人である転移者達が主となっての交流、友和であり、それぞれの根源部分が変わった訳ではなかったのだ。それ故に転移者達が居なくなった時、様々な悲劇が発生した。

ただ幸いであったことは、当時の指導者たちが理性的であり、決定的な何かが起きる前にドワーフ達は再度入り口を閉ざし交流を断ち切る事としたのであった。

そして勿論であるが、この事に人族も、ユーステリア神教も関与していた。指導者達はその事を理解しながらも世界を分け隔てたのだ。


それから世代を経る毎に伝えられる歴史、誇張される物語、教育の恐ろしさがまざまざと痛感させられる事象がいまここに出来上がっていたのだ。

今の世代においてお互いの姿など見た者は皆無、それでいて憎しみは数倍、数十倍に膨れ上がっていた。

はたしてこの責任は誰にあるのであろうか。指導者か、祖先なのか、ただ今ここに責任者が居ない事は確かであった。


街の至る所でドワーフ達が武器を手に走り回っている。

その様子を住民たちは家の窓から恐る恐る覗き見ていた。そんな住民のどの表情も不安で一杯である。


「こんな事は今まで聞いた事もないよ。魔獣があんなに群れと成ってやって来るなんて」


「まさか物語であったスタンビートとか」


「馬鹿言うな、あんなのは物語の中でしかありえん」


口々に話し合うドワーフ達、その誰もが不安そうに街の門へと視線を向ける。


首都から遠く離れた自分達の住処、田舎の中の田舎と住民たちが笑い合う程に、この街は昨日までは是と言った事件も無く、事故も無く、のんびりとしていた。そんな街に突然響き渡った鐘の音、その今まで聞いた事も無い音がこの街のその様子を一変させてしまう。鐘の音のすぐ後に現れた魔獣達の群れ、住民達のみならず、この街の衛兵達、兵士達が油断していたと言えばその通りであろう。

それ故に衛兵達はすぐに街門を閉じる判断が出来ず、その事が多くの負傷者を出す結果となった。


「バズ達は無事かな、大丈夫だよな」


「勿論だ、何馬鹿な事を」


「そうよね、無事よね」


門の傍にある飯屋に集まっていた者達が、魔獣撃退の為に出て行った男達を心配する。

今も街門の上で怒鳴り声が響き渡り、外に向けて矢が放たれている。街の外からも魔獣の叫び声が響いている。この事からも魔獣の襲撃がまだ終わっていない事が解る。経験の無い出来事の連続に住民たちの不安は否応が無しに増長される。

そんな住民達の視線の前を、一人の年若いドワーフが足を引き摺るように歩いてくるの視界に入った。


「お、おい、ガキがなんで」


「どうした!騒動に巻き込まれたのか!」


纏っているボロボロのローブには、所々に焦げたような跡や、血の跡、獣の足跡などが点在している。

そして、何よりも全体的に未成熟な体つきからそのドワーフが子供である事が解る。

目の前でフラフラっとよろめき、しゃがみ込んでしまった子供に慌てて大人達は駆けつけた。


「う~~~、お腹が空いたよ~~~」


根底から気が抜けたような子供の声に、大人達の緊迫した雰囲気は霧散する。


「おいおい、なんだ、腹減ったのか」


「お嬢ちゃんどっから来たんだい?親御さんは?」


子供に周囲から次々と声を掛けられる。


ぐぅぅぅ~~~~


その声に返事をするかのように鳴る子供のお腹。周囲は爆笑に包まれた。


「まずは飯だ、ほれ、そこが飯屋だからな、そこまでの我慢だ、ほれ立ちな」


ドワーフ達に支えられで子供は飯屋へと連れて行かれた。


「しっかし細いな」


「ちゃんと飯食ってるか?どこもかしこも細いじゃねぇか、そんなんだと美人に成れんぞ」


「そうだよ、ほれ、あのお姉さんを見て御覧、ボン、ドン、デンだ、あれぞ美人よ」


子供の周囲に飛び交う声、美人と呼ばれたこの飯屋の看板娘が顔を赤くしてテレテレと照れる。

その姿にまた周囲から声が飛ぶ。先程までと一転して、飯屋に明るい声が飛び交った。


「ほれ、まずは是でも食ってろ」


恐らく酒のツマミだったのだろうジャガイモを茹でた物、サラミのような物などが子供の前に置かれる。


「うわぁ、ありがとうございますぅ~」


子供はお礼を言うと、目の前に置かれたジャガイモを次々と口へと運び始めた。

モゴモゴと口いっぱいにジャガイモを頬張る子供を見たドワーフ達は、それぞれに笑みを浮かべる。

そして、それぞれ思い思いに追加で料理の注文を始めた。


「こっちにエールをくれ!」


「あ、こっちにも頼むぞ!」


「コケッコの腿肉をくれ!」


「うまうま、うまうま」


「ほい、お待ち、特大エビフライセットだよ、熱いうちに食べとくれ」


飯屋のおかみさんが見た事も無いような大きさのエビフライの乗ったお皿をテーブルへと運んできた。

所詮ジャガイモとサラミは副菜である。メインには成りようがない。そして、この特大エビフライの存在感に勝てるはずがない。

今の今まで一生懸命ジャガイモを頬張って来た子供は、目の前に置かれた特大エビフライに視線が釘付けであった。


「ほれ、遠慮せずに食え。この村名物のエビフライだ。ここは土が良いから養殖が盛んでな、その御蔭で値段も安く食えるんだ」


恐らくこの特大エビフライを頼んでくれたのであろうドワーフが、子供に笑いかけながら説明する。


「うん、ありがとう!すっごい見た事が無いくらいおっきい」


「よこのタルルンソースを付けて食べるんだよ~」


奥からおかみさんの声が響いてくる。


「タルルン?えっと、タルタルかな?」


お皿に盛られているタルタルソースっぽい物を見ながら呟いて、子供は期待しまくりで特大エビフライに噛り付いた。


「ふわぁ~~すごい、プリップリだよ!」


瑞々しさに溢れるぷりぷりの食感。タルタルソースによる絶妙な酸味と甘み、満面の笑顔を浮かべる子供にまたもや飯屋内で笑い声が起きるのだった。

皆が一通り食事を終え、子供もお腹いっぱい食事をして今はチビチビとエールを舐めるように飲んでいる。

ドワーフ達にとって火酒は兎も角エールは水と一緒であり子供でも日常的に飲んでいる。

ただ、今飲んでいる子供は涙目な為、すべてのドワーフが美味しいと思っているかは別なのだろう。


「ところで、話は戻るがお嬢ちゃんは一人なのか?親はどうした?」


飯屋にいたドワーフ達も、一時の異常な高揚感は薄れ、漸く子供の状況が気になりだしていた。


「親とはもう大分前に生き別れになっちゃいました。この街に来たのはお友達のお家に遊びに来て、そしたら魔獣がいっぱい来て慌てて逃げて来たの」


子供がキョトンとした表情で話す内容に、大人達は次第に顔を強張らせていく。


「それでぇ、キュアリーちゃんはお料理が上手なのでぇ、美味しいご飯がこ~~~んなに食べれると思ったのにぃ」


子供の話す内容は、次第に話がループしだし語尾もどんどん怪しくなってくる。

子供が手にしていたジョッキはすでに空っぽになっている。


「これって酔っぱらってないか?」


「いや、いくら子供だとはいえジョッキ一杯で酔うなんてありえないぞ?」


大人達が途方に暮れる中、子供は突然机に突っ伏して寝息を立てはじめたのだった。


「きっと長い旅で疲れてたのよ。上の部屋で寝かせてくるわ」


飯屋のおばさんがそう言って子供の体を抱え上げる。そして首を傾げた。


「見かけ以上に軽いわね。可愛そうに、いままでちゃんと食事が出来てなかったのかね」


二階へと上がっていく二人を見ながら、一階に残った者達は全員が顔を顰めていた。


「まずいな、もう一人この魔獣の襲撃に巻き込まれている」


「外の兵士達が見つけて保護してくれると良いが、しかし、キュアリーなんて特徴的な名前なら忘れ無いはずなのだが、そんな名前の子供を知ってるか?」


「いや、無いな。魔獣に襲われて逃げて来たとしても、子供の足だしな」


「とにかく門の所の衛兵に知らせておくわ」


そう告げて飯屋を後にしようとしたドワーフの一人が、先程まで賑わかしていた音が、声が今は聞こえていない事に気が付いた。

そして街門へと視線を向けると衛兵達がゆっくりと街門を開こうとしている所だった。


「どうやら襲撃も終わったようね。どうしようかねぇ、仕込みの量をどれくらい増やそうか」


疲れた兵士達が酒や食事を求めて酒場や飯屋へと突撃していくであろう事は間違いない。

ただし、仕込みを間違えれば大損するかもしれないのだ。おかみさんはウンウンと唸りながら厨房の奥へと引っ込んでいく。それを見た看板娘も苦笑を浮かべ、飯屋の外を眺めていた。


「その友達とやらも何処かで保護されているかもしれん。みんなもちっと街中を見まわて来ていて欲しい」


そう告げると思い思いに座席から重い腰を上げて行った。そして男達は連れ立って街の外へと姿を消していったのだった。

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