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1-58:その頃きゅまぁは?

キュアリーがドラゴンに相対している時、きゅまぁは魔獣の群れに呑まれ、押し流されていた。

当初目の前に現れたドワーフ達に対し、何らかの応対をする為に立ち止まろうとはしたのだ。しかし、次々と後方から来る魔獣達に押され、小突かれ、押し倒されかけた段階で立ち止まる事を諦めた。

今この場で倒れる事はヒーラーであるきゅまぁであろうとも死ぬ可能性が高い。さすがのきゅまぁもその事を理解していた。


「うひゃ、うわぁ、ちょっと!」


魔獣の流れから何とか離脱しようと、少しずつ、少しずつ端へ、端へと移動しようと苦労するきゅまぁ。

それでもどうにか魔獣達の流れから離脱を果たした時、漸く周囲を見渡す余裕が出来た。

そんなきゅあぁの視線の先には、吹き飛ばされたり、引き倒されたりと死屍累々の様相を見せる魔獣とドワーフの姿が見える。


「うわぁ、これってちょっと不味いんじゃないかなぁ」


どちらかと言えば穏便に内容を説明し、ドワーフ達の協力をお願いしようと思っていた。

しかし、これではまるで魔獣を使ってドワーフ達へと戦争でも仕掛けたかに見えるのではないだろうか?

そんな事を思いながらも、とにかく倒れているドワーフ達を放置する事も出来ず、ましてや死者でも出ようものならより一層関係が拗れる可能性へと思い当たりきゅまぁは慌ててドワーフへとヒールを飛ばしていく。


「ヒール~~!ヒール~~!うわぁヒールした傍から轢かれてる、限が無いよぉ」


唯一幸いな事と言えば、もともと頑強なドワーフで有る為に魔獣に轢かれても一回一回のダメージがそれほど無い事であろうか。またはレベルが高いからなのか。ただそれも数が過ぎればそれ相応のダメージには成る。

きゅまぁが途方に暮れながら、何とかしようと模索していると、遠くから大勢の人の声が聞こえ始めた。


「馬鹿正直に真正面から当たるな!左から攻撃して数を減らしながら進路を変えろ」


一際大きな声が響き渡る中、その声の下へと視線を向けるとどうやら軍隊か、自警団かは解らないながらもある程度の集団が此方へと向かってきているのが見える。そして、その集団は巧みに魔獣達の行軍を逸らしていた。

きゅまぁが倒れているドワーフ達へとヒールを飛ばしながらその集団を見ていると、その指揮官らしいドワーフと視線が交わった。その瞬間に背中に氷を注ぎ込まれたかのような強烈な悪寒を感じ、きゅまぁは咄嗟に飛びずさった。


ドゴ~~~ン!


先程まできゅまぁが建っていた場所を何かが凄まじい速度で通り過ぎ、その先で爆発するような音を響かせる。そこにはとても片手では持てないようなゴツイ片刃の斧が突き刺さっていた。


「・・・・・・あ、あんなのが当たったら死んじゃうんじゃないかなぁ・・・・・・」


きゅまぁは感情が抜けたような表情で斧から視線を指揮官へと戻すと、指揮官は魔獣を蹴散らしながらきゅまぁへと向かって来る。


「ぬおおおおおおおぉぉぉぉ~~~~~、邪魔だ邪魔だ!」


先程投げつけてきた斧とは別の両手持ちの巨大な斧を振り回し、まるでラッセル車のように魔獣を跳ね飛ばしながら向かって来るドワーフの指揮官。その後ろには数十人のこれまた頑強な体格をしたドワーフ達が続く。


「うわぁ、あはは、これはちょっと担当じゃないかなぁ」


先程までとは打って変わってきゅまぁはドワーフ達に背を向けてコルトの森へと逃げ戻ろうと走り出した。


「まて~~~、待たんか!」


「「「「「ぬおぉぉ~~~~」」」」」


ドワーフ達は逃げるきゅまぁを目にし、行軍速度を加速させた。

きゅまぁにとって間の悪い事に、魔獣達もドワーフ達の叫び声を聞き、またそのドワーフ達が放つ気配、勢いなどから逃げ出すかのように周囲へと散り始める。この為、門から出て来る魔獣を掻き分けるきゅまぁの速度は遅く、すでに周囲へと散り始める魔獣達であるが故に追いかけるドワーフ達の追跡速度は速かった。


「うわ~~~ん、キュアリーちゃ~~~ん、たすけて~~~~」


涙目になり必死に魔獣を選り分けて走るきゅまぁ、そんなきゅまぁを又もや襲う強烈な悪寒。

咄嗟に左へと身を投げ出してコロコロと転がりながら距離を稼ぐが、轟音がまたもや周囲に響き渡った。


「ちょこまかと動き回る羽虫め!大人しく降伏せよ!」


「立ち止まったら頭と体がお別れしそうなんです~~~」


背後から聞こえるブンブンという音がしだいに近づいてくるのが非常に怖い。

しかし何ら現状を打開する術が無い。もともと種族間の仲が悪い、またドワーフは頑固で思い込みが激しい所があり他人の話を聞かない事が多い。そして、きゅまぁもあまり他人に説明するのが得意な性格ではない、そしてその事を本人もなんとなく自覚していた。


ただ、この絶体絶命、きゅまぁの三枚おろしかブツ切りかと言った状況下で思いもかけない味方がきゅまぁを助けるが如くドワーフ達へと立ち向かっていった。

それは本当に偶然の中の偶然、まさに奇跡と言って良い出来事であった。

魔獣達が暴走する中において、足の速い魔獣、体の大きな魔獣は踏み潰され死ぬ危険が無い為に先をあらそう様に駆け抜けていった。しかし、そんな中において小型の魔獣は後方からチョコチョコと追従するように追いかけていた。その第一弾が今まさに門を通り現れたのだった。


「ミャアミャア」「ニャアニャア」「ウミャ、ウミャ」


次々と現れるフォレストキャットの集団。


「ふわぁ~~~~」


今の状況を一切合財忘れて目の前の情景に心を奪われるきゅまぁ。

子供のフォレストキャットが大人のフォレストキャットに囲まれながらチョコチョコと走っているのが見えた。中には大人に咥えられている子供もいる。それはまるで童話の世界に入り込んだかのような幸福感を与えてくれる。


きゅまぁは思わず立ち上がる事も忘れて四つん這いの状態で目の前の情景に見入っていた。

そして気が付けば、自分の周囲をごつくて髭モジャのドワーフに囲まれてしまっていたのだった。


「良い度胸をしておるの、この最中に他所ごとに気を取られるとは」


そ~~っと視線を上げると、髭モジャすぎて表情が確認出来ないが、明らかに怒ってるかな?といった雰囲気を感じさせるドワーフの指揮官がいた。声からも決して柔らかな気配は微塵も感じられない。


「え~っと、・・・・・・えへ」


ドゴ~~~ン!


少しでも場が和んでくれないかなっと最大限可愛らしくチョコンと首を傾げて照れ笑いを浮かべたきゅまぁの目の前に、指揮官は思いっきり力を込めて両手斧を振り下ろした。


「うわぅ・・・・・・」


爆散した土が全身に降りかかった為、きゅまぁは土まみれとなった。


「ふん、貴様らエルフが何をしようとしたのか、どうやってあの扉を開けたのか、じっくりと聞かせて貰おうかの。連れて行け」


座り込んだきゅまぁの両腕を持ち上げ、引きずるように連行するドワーフ達。

指揮官は開かれている扉へと視線を向け、次に魔獣達に破壊された柵を見て顔を顰めた。


「村へ行って人数を集めんといかんな。まずは兵士を増やすしかないが、早急に扉周辺に柵を設けねばな」


今なお門から溢れ出てくる魔獣、ただどの魔獣も小型の魔獣であるためとりあえず脅威となる事は無いだろう。そう思いながら連れてきた兵士に指示を飛ばし警戒態勢を取らせる。

また、壊れた柵の残骸や、倒れた木々などを使用し、簡易のバリケードのような物を作る様に指示を出す。


「まずは領主殿に事情を説明せんといかんが、エルフが一人で起こせる事とも思えん。何人かあちらに送り込まないとならんな」


そう呟きながら門に背を向け、街へと足を向ける。

そして、周囲の状況を調べながら部下を連れて門から離れ街が見え始めると、門の前には無数の魔獣の死骸と100名近い兵士達が集まっているのが見えた。その先頭には完全武装をした領主の姿も見える。


「さすがに行動が早い。しかし、先にこちらへと向かったエルフはどうしたのだ?」


魔獣を撃退する為に領主が先頭に立ち戦っただろうことは予想の範疇である。ただ、好奇心も他人の数倍は強い領主の事だ、嬉々としてエルフの尋問を行うだろうと考えていた。その領主がまだ門の前で待ち構えている事に指揮官は違和感を感じたのだった。


「おお、帰ったか、それでこの騒動の原因はわかったのか?なぜこれ程の魔獣が現れたのだ?」


街の入り口まで帰って来た指揮官を目にした領主が目をギラつかせて自分を見た。その瞬間に状況を悟った指揮官は顔面を真っ赤に染めて周囲を見渡すが、先に送り出した者達の姿を捕えることが出来ない。


「閣下、我らより先に数名の者に捕えたエルフを護送させましたが、戻ってきておりませんかな?」


言葉遣いは丁寧でありながら、その言葉の一つ一つに厳しさ、苛立ち、様々な感情が滲み出てくるのを感じる。指揮官のその言葉に領主の表情も先程までと一転、厳しくなった。


「魔獣の大群が現れたと聞いてから此処にいるが、エルフどころかその方の部下も戻って来ておらん。当初は混乱したが途中からは余裕を持って撃退出来ていたから見落とす事などない。・・・・・・ということはだが、逃げられたか?」


からかうかの様な口調ではあるが、領主のその相貌は怒りに溢れていた。ながく話の中でしか聞いた事の無いエルフ、あの狡猾で傲慢な種族が、また新たにこの地へと攻めて来たと言うのか。そんな者達によって自分の大切な仲間が、領民が、そして部下が、命の危険に晒され、中には命を失った者が出たかもしれない。

それは久しく感じた事の無い感情の高まりであった。


「申し訳ありません。甘く見ておりました。あれ程に容易く捕える事が出来た、その事を疑うべきでありました。たった一人しかいない事に疑念を持ちながらマゴマゴと相手の策にはまりました」


悔しさに歯を噛みしめ、唸る様に言葉を続ける指揮官。

その姿を見ながら領主は指示を出す。


「エルフを見つけ出し私の目の前に引き出せ。全員は殺すなよ、最低でも数名は命のある状態で捕えよ。事の全貌を見極めねばならんからな」


「は、この命に代えましても」


深く膝を落し命令を受け、部下を連れて門へと取って返す指揮官の後ろ姿を見ながら、領主は傍らにいる別の指揮官にも指示を飛ばす。


「街への出入りを厳にせよ。決してエルフを侵入させるな。また、このどさくさに紛れすでに街中にエルフが侵入しているかも知れん。街中も探索せよ、油断するなよ」


領主の指示にドワーフ達は一斉に動き始めたのだった。

若干短いです。

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