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1-56:騒動はまだ終わってないよ!

ユーステリアが姿を消した場所を睨み続けていたキュアリーは、蹲った態勢から思わず右手を振り上げて地面を殴りつけた。激情のままに地面を殴った拳は、指の骨折、裂傷など決して軽くは無い怪我が発生したが、そんな痛みを遥かに上回る痛みが今キュアリーの心の中で、思いの中で血を流していた。


「キュアリーちゃん、駄目だよ、自分を傷つけても良い事なんか無いよ。ヒール!」


傍らでその様子を見ていたきゅまぁは、血を流すきゅまぁの拳を両手で優しく包み込んで治癒魔法を発動した。そして、キュアリーの拳から顔へと視線を移す。

そこにはすべての表情を喪った、まるで無機物のようなキュアリーの顔が有った。


「悩み過ぎちゃ駄目だよ。それよりも今やらなきゃいけない事をしなきゃ、相手の思惑に囚われるなんてキュアリーちゃんらしくないよ?」


ただただ慈愛の眼差しで自分を見つめるきゅまぁの眼差しを受け、キュアリーは思わず泣き言を洩らした。


「悔しい、すっごく悔しい、ぜんぜん相手にならなかった」


「だねぇ、いやぁまいったね。与ダメ0とか真面目に有り得ないよね、昔ならGM案件だよこれ」


のんびりと笑うきゅまぁの様子を見て、キュアリーは漸く感情を切り替えて先程の戦いを振り返る事が出来た。


「あれってさ、推定淑女とかクマッタとかだったら勝てたかな?」


自分達は支援職である。その為、攻撃手段は限られているし与ダメが低いのも解る。ただ、それでもここまで相手にならないのは根本的な部分が違うとしか考えられない。


「う~~ん、勝つとか勝てないとかいう前にあれってイベントとかOBJとかでそもそもダメージ入らない存在な気がする」


この場合、きゅまぁの方が冷静に相手を見極めていたのは意外な事である。ただ普段からどこかのんびりしているが故にこそ冷静に見る事が出来たのかもしれない。


「次は負けない、絶対にあのスカした顔を殴り飛ばしてやる!」


「うん、何か方法は有るはずだよ、一緒に考えよ」


「うん、絶対何か方法はある。それこそ世界の法則だって覆してやる!」


二人はこのまま二度と関わらないなんて事は有り得ないと思っていた。それであるならば、その存在を知った今であるなら何か対策を考える。それは当たり前の事だ。


「くぅ~~ん」


二人が復讐に燃える中、きゅまぁに治癒されその後戦闘に加わる事の出来なかったルルが、そんな二人の思考を遮るようにキュアリーの足元に蹲って気弱な鳴き声をあげた。


「ルルどうしたの?」


ルルの様子がおかしい事に気が付き、慌ててしゃがみ込んで様子を伺うが怪我などは残っていない。ただ、ルルの調子が今一つおかしい事は感じられる。


「あ、もしかしたら」


キュアリーは慌ててこの塔周辺に漂うマナの濃度を感じ取る為に感覚を研ぎ澄ます。

すると、この塔周辺のマナが急速に薄れ始めている事に気が付いた。


「封鎖結界発動!」


塔の所有者限定の結界における最上級の結界を発動させる。

これによってこの塔周辺は結界によって空間ごと封鎖され、マナを含めたすべての物の出入りが不可能になる・・・・・・はずであった。


「あ、結界が作動してない?」


きゅまぁもマナの流れを感じ、その流れが結界発動を指示したにも関わらず変わらない事を感じる。


「塔としての機能が全滅してるかも」


塔の所有者として、一定のエリアを管理する事が出来た今までとは違い、今は本当にただの塔というか住処としての機能しか残されていないのかもしれない。その事を確認する為にキュアリーは塔へと入り明かりを点灯させた。


「明かりも、コンロも、生活に使われる機能は問題なく動く。でも、このエリアを管理する機能が項目からごっそり消えているわ」


塔のコア部分にある映像パネルを確認すると、この塔の持つ機能一覧とその説明を見る事が出来る。これは塔に限らずマイホームに標準的に装備されている機能だ。


「普通の家と変わらなくなったわね」


「うん、そうなのかな?」


普通の家と言うにはちょっとな~ときゅまぁは思いながらも、今それを言っても何らそれは意味を成さない事はわかっているので口には出さないだけの分別はあった。


「こうなるとまずは何をしないと駄目なんだろ?きゅまぁはどう思う?」


「う~んと、まずはマナが無くなっていくのを止める?」


「あのユーステリアの言葉を信じるならマナの大幅な減少は止まった。であるならこれは無くなっているというより薄まっているっていうべきなんじゃないかしら?」


薄まって行く濃度を維持するにはどこかに囲うしかない。その上でマナを増やす算段をしなければ容易にこの世界は崩壊するのだろう。もっとも、すでに崩壊していると言っても良いのだと思うのだが。


「まずはこのマナを何処かに流し込んで濃度を保つしかないよね」


「ええ、でも流し込むって言っても周囲を遮断してないと流れちゃうわよ?結界で空気まで遮断するのはそれこそ至難の業だと思うわ。この塔の機能が以前の様に生きていたとしてもどれだけの生き物を守れるか」


「クゥ~~ン」


二人が話を進めるうちにも、周囲の森からルーンウルフ達が塔の周辺に集まってきている気配がする。そして、ルルもその気配を敏感に感じ取っていた。


「マナが薄くなっていくと不安だよね」


聖獣や魔獣と呼ばれる生き物のほうがマナの減少により敏感である。それ故に少しでも濃度の濃いこの場所へと集まって来るのは自然の事であった。


「キュアリーちゃん、これって不味くない?塔の周りの結界って今何にもないんだよね?」


「え?あ、そっか、でも何の準備も出来てないから広域の結界なんか張れないし」


二人は顔を見合わせて、慌てて塔の外へと駆け出した。

すると、塔の周りに次々と集まってくるルーンウルフ達、そしてそれに混じって明らかに見た事の無い個体もチラホラと見る事が出来た。そして、極めつけは遠くから聞こえてくる破壊音とドラゴンと思わしき鳴き声、今から何かしたとしても間に合うとは思えなかった。


「さ、最悪だ」


「う~~ん、ちょっと困っちゃったね」


まだ何ら方向性を決める事も出来ない内に、事態はどんどんと進んで行く。

それに対して二人はまだ何一つ有効な対策を打てていない。


「まずはマナを何とかしないとだけど、何とかって言っても」


途方に暮れるキュアリー、そもそも突発の事態に慣れていない500年生きようが引き籠り故に経験が不足しているのだ。


「そうだ!ほら、キュアリーちゃん、あのドワーフ達の住む場所!あそこならそもそも隔離されてるよ!入り口もここから近いし、あそこなら入り口を開ければ良いだけだよ!」


常に様々な場所をなぜか放浪し、毎度の様に不測の事態に陥る事に慣れているきゅまぁは窮地に入れば入るほど頭の回転が速くなる。この為、自分の持つ知識の中において今打てる最善の一手を選び出していた。


「え?でも、あっちの大陸だって繋がって・・・・・・あ、ないのか。でもあっちでもマナは減少してるんじゃ?」


「そんなの繋いでみないと解んないよ?そもそもマナが減ってればとっくに向こうから何か言ってきてもおかしくないんじゃないかな?」


きゅまぁの至極真っ当な意見に、キュアリーは思わずきゅまぁの顔を見返してしまった。


「すごい、きゅまぁちゃんがまともだ・・・・・・」


「うわ、ひどっ!」


二人はしばらく顔を見合わせてから笑いはじめた。


「ふふふふふ」


「あははは」


「昔はいっつもこんな感じだったね」


「うん、他の皆もいて、ほんと昔になっちゃったね」


顔を見合わせしばらく笑い続けた後、続々と集まってくる生き物達へと視線を戻し、二人そろって溜息を吐く。


「しかたないか、それじゃぁきゅまぁちゃんの発案で行こう。それより良い案がぜんぜん浮かんでこないから」


「うん、そしたらまずは・・・・・・あの場所を思い出そ~~~う!」


「へっ?覚えてないの?」


「うん、そもそもあそこへは私迷子になって行ったんだよ?最初っから覚えてないよ?」


きゅまぁの発言に驚愕の表情を浮かべながらも、そういえばそうだったっけ?と何となく過去を思い出す。


「仕方が無いか、私だってうる覚えだから、まずはあの場所の扉を開けないと始まらない」


「うん、とにかくいこ」


相変わらず軽い言動で話を進めていくきゅまぁの存在に感謝しながら、キュアリー達はかつて塞いだ門へと向かうのだった。


そして、元々それ程離れていた訳では無い門へと辿り着いた二人は、門の鍵となる部分へと魔力を注ぎこの門のガーディアンを起動する。


「でもさ、ある意味すっごい無駄なギミックだよねこれ。ほら、魔力判別とか出来そうなのに態々門型のガーディアンってさ」


「そこはドワーフだからだよ」


二人が話しながらも魔力を注ぎ終わると門全体が一瞬光り輝き、扉中央上部にあるライオンらしき顔の目が開く。そして二人へと話しかけてきた。


「これはこれは、御懐かしい。未だそのお姿という事は御二方共にいまだ行き遅れておられる御様子、なんとも業が深いですなぁ。まぁ御二方ですからまぁいかんとも、ほっほっほ」


ライオンの荘厳なイメージ通りの低く威厳のある声である。もっとも、その語る内容はともかくとしてではあるが。


「うふふ、これ壊しても良いよね」


「うん、粉々にしても良いと思う」


二人がそれぞれ攻撃呪文を唱え始めた。


「いやはや、相変わらずジョークの通じない方達だ。それでは嫁の貰い手は現れませんぞ?」


「「サンダー!」」


ドガダガ~~~ン!


周囲を凄まじい光と音が響き渡った。そして、光が収まると目の前にはまったく無傷どころか、輝きを増した門がゆっくりと扉を開きはじめていた。


「まったく、短気な娘達だ。MP吸収機能を私に持たせた事も忘れるとは、いやはやいやはや」


「うわ!すっごいムカつく!」


「ありえません!何ですかこの憎たらしさ!」


二人がぎゃぁぎゃぁ言っている間にも門はゆっくりと開いていく。

そして開きはじめる門の隙間から此方側へとマナがゆっくりと流れ出て来るのが感じられた。


「マナの濃度が濃い!」


「だね、マナがまだ向こうは十分だぁ、あ、流れ出ない様にしないと!」


「わかった!」


キュアリーは慌てて結界石を扉の両側に設置し、マナに特化した結界を設置する。


「作っておいてよかった、本当はマナの流入を遮断して相手を弱らせるための結界なんだけどね」


「でもあっちに状況を説明しに行かないとだよね」


「誰か生き残ってるかなぁ、全員世代交代してると面倒そうだな」


キュアリーはブツブツと呟きながら、ルルと共に門を潜ろうとした。

すると、門の向こう側がザワザワとしているのが感じられる。


「ふむ、500年ぶりに門が開いたのだ、騒ぎになるのは致し方あるまい。こちらとは違いあちらではキチンと衛兵を置き門を管理して居ったからな。こちらとはちがっての」


小馬鹿にした声色で門の獅子が告げる。しかし、二人はブツブツと呟きながら門を潜って行く。


「「キコエナイキコエナイ」」


「つまらんの」


獅子はその言葉を最後に口を噤むのだった。

そして、キュアリーときゅまぁは門を潜り、かつてのドワーフ達の世界へと足を踏む出した。

ただ、この時二人は一度開いた両世界の道を、なぜわざわざ門まで作って閉ざしたのかをすっかり忘れていた。そして、自分達の外見がエルフであり、そもそもエルフとドワーフは美醜の感覚が大きく違い、考え方も違い、領主族同士の仲もすっごく悪い事を忘れていたのだった。


扉を通り抜けた二人の目の前には、槍を構えたドワーフ兵の姿があった。

そして、二人が足を止めて挨拶をしようとした時、二人の背後で無数の足音が響いてきた。


ドドドドド・・・・・・


「「えっ?」」


振り返った二人の目の前には、ルーンウルフのみならず、フォレストウルフ、フォレストタイガーなど魔獣系等の生き物達、その後方にはエルダーがノシノシと向かって来るのが見えた。

そして、微かにドラゴンの鳴き声も聞こえる。


「キュアリーちゃん、この門ってドラゴンさん通れるかな?」


「・・・・・・む、無理かな?」


「馬鹿者!何とかせい!わしが崩れたら門は閉じるぞ!」


先程までの余裕を一切なくしたかの様な門の獅子が叫ぶ。ただ、その言葉にキュアリーは顔を引き攣らせる。


「ごめん、きゅまぁちゃん、私あっちでドラゴンとか止めるから交渉をお願い!」


魔獣達の流れに逆らってキュアリーは慌てて元の世界へと走り出す。


「どけ~~~~~!邪魔、退いて~~~!」


「えぇぇ~~~ちょ、ちょっと~~~~」


後方できゅまぁの叫び声が聞こえてくるが、構っている時間的な余裕は無い。

ドラゴンが門を通ろうとする前に何とかあちらへと行かないと根本的な計画が崩壊する、かもしれない。


「グゥオオオ~~~ン」


「不味い、って何でマナの流出止めてるのにこっちへ来るのよ!」


焦燥を胸に、魔獣達を掻き分け掻き分けキュアリーは突き進んで行くのだった。

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