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1-55:ユーステリア

キュアリー達がそれぞれ武器を構え、相手の出方を見定めようとしている。

その様子を眺めながらも明らかに余裕の構えを見せる相手に、二人はどう攻めて良いか思いあぐねていた。

そんな二人を他所にルルは一足飛びに駆け出し、その速度に対応出来なかったのか微動だにしない相手の足を狙って噛みつこうとした。


「ギャイン!」


「「ルル!」」


未だに相手は微動だにしていない。しかし、飛び掛ったルルは相手の手前で何かにぶつかり、飛び掛った勢いのまま跳ね返されたのだった。


「ヒール!」


キュアリーが慌ててルルへとヒールを飛ばす中、追撃を警戒してきゅまぁが駆け出し、相手の頭上目がけてメイスを叩きつけようとした。しかし、これもまた同様に叩きつけた勢いのまま後方へと弾き返される。


「サンダーレイン!」


きゅまぁが弾き飛ばされ、その御蔭で生じた相手を中心とした範囲目掛けてキュアリーは攻撃魔法を飛ばす。

一連の動きにて明らかに相手がシールド系の防御魔法を展開している事が解っている。そしてシールド魔法は一定の攻撃を受けた場合崩壊する。そして、相手が未だに一歩たりとも動こうとしていない為、固定型の強化型シールドであろうと推察していた。


バリバリバリバリ!


次々と当たるサンダーレインによって、そのシールドの半円状の範囲がくっきりと浮き上がってくる。

その形状を見てキュアリーはその強度に驚きの表情を浮かべた。


「ありえない!あれってタートルシールドだよ!」


半円状に周囲を囲うタートルシールドは全方向からの攻撃を防御する為ある意味非常に使い勝手が良い。

もちろん、その反面強度が非常に弱いという欠点を持っている。そうで無ければ前方特化型パワーシールド他の特化型は存在意義を失ってしまう、ある意味ゲームバランスはこの世界でも存在しているのだ。


「うわぁ~~すごいね、あれって強度はINT、DEX特化だよね、うちらじゃ厳しいかも?」


キュアリーもきゅまぁもある意味汎用性ヒーラーである。それ故に純粋な魔法職や戦士職と対峙した場合多くの場面で不利は否めない。しかし、そこは今までの経験と、お互いの連携で何とかなると思っていた。

一概には言えないがやはり数は力なのだ。二人+1匹であれば多少の不利もカバー出来る、相手の捕獲も可能だと思っていた。しかし、今その前提及び余裕は跡形も無く崩れ去っている。


「さっきから管理権限で追い出そうとしてるんだけど出来ない!」


このエリアの所有者は未だにキュアリーになっている。この為、所有者が指定した条件に当てはまらない者はこの世界においても自動的にエリアから追い出す事が出来た。少なくとも今までは可能であった。


「ヴウォン!」


シールドに阻まれる事を前提にルルは間断なくこの謎の相手を中心に駆け回り、側面から、または背後から飛び掛るが相手に一撃たりとも触れる事が出来ない。


「ちょっと不味いかな」


甘かった、ここ数百年に渡って鍛錬も、レベルアップを疎かにしていた自覚はあった。

心のどこかで油断が無かったかと言われれば返す言葉も無い。そして得てしてそういう事は最悪な状況で自覚を強いてくる物なのだろう。


「樽爆弾おくよ~きょっと気をつけて~」


次の一手に悩むキュアリーを他所に、きゅまぁは淡々と相手に攻撃を続けている。

そして、以前のゲームでは聞いた事も無いアイテムを取り出し、相手の目の前に堂々と設置する。


「よ~~し、サンダ~~」


ドガ~~~ン!


「キャウン!」


ちょっとどこか間の抜けた声と同時に、今までの攻撃と明らかに毛色の違う衝撃が周囲へと響き渡る。

とっさに飛びのいていたルルは思わず耳を押さえて伏せている。そもそもどういった攻撃が行われるか把握できなかった為、その衝撃よりも強烈な轟音に耳をやられたのかもしれない。


「ちょっと、きゅまぁ!」


キュアリー自身も咄嗟の事で耳を押さえるのが遅れ耳鳴りが続いていた。そんな中、思わずきゅまぁへの不満が口から飛び出るが、濛々と立ち込める砂煙に隠れ肝心のきゅまぁの姿が見えない。


「ヒール!」


先程までと一転して周囲を静寂が包み込む。そんな中、キュアリーはルルは頭をぶるると震わせるのが見えた。しかし、どうやら周囲の音がはっきりと聞こえていない様子な為、キュアリーは急いでヒールをルルへと飛ばすのだった。


「ヴォン!」


ヒールにて回復したのか、ルルは砂煙の中へと飛び込んでいく。そしてしばらくすると引っ繰り返って気絶しているきゅまぁの襟を加えて砂煙から引きずり出して来た。

キュアリーは慌ててきゅまぁの横へと駆け出しヒールを掛けるが、特に大きな外傷を負っている様子は無いため、爆発の音か衝撃で気絶したのだろうと推察する。


「驚きましたね、まさか爆薬による爆破とは」


キュアリーの意識がきゅまぁへと向かっていたその瞬間、周囲に立ち込める砂煙が一瞬で吹き飛ばされる。

そして、その先には傷一つ負う事無く、それどころか爆心地にいたにも関わらず砂埃すら浴びた様子の無い敵のすがたがそこにあった。


「あれでダメージ0ってちょっと反則じゃない?」


キュアリーは手にしたメイスを慌てて構えながらも相手との圧倒的な力の差を感じていた。


「申し訳ない、少々同期に時間が掛かっていました。漸くこれで会話が出来ますね」


「同期?それってこの世界にってことで良いのかしら?」


相手の言葉の意味を考えるが、この場合の同期というなら動機や動悸などではなく同期を意味するのだろうというくらいは思い当たる。


「そうですね、ああ、まだ御挨拶もしておりませんでした。私はユーステリアと申します。キュアリーさん、きゅまぁさんとは初対面ですね」


優雅に会釈をするユーステリア、そしてこの世界においてその名を表す存在は一人というか一柱しか存在しない。なぜなら、その名をそのまま子供に名付ける事は不敬とされタブー視されているのだから。


「とんでもない相手が現れたわ。嘘や冗談じゃないわよね」


「はい、私に他人の名前を騙る趣味は有りませんので」


しかし、その姿は仮面とあいまってキュアリーが顔を思いっきり顰めるくらいに胡散臭かった。

もっともその真偽を見極める方法は無い。ただ自分達の攻撃がまったく通じないという事、それは生半可な強者では無い事で証明しているとも言えなくは無い。


「でも貴方の声はとても女性とは思えないし、姿もそうよね?ユーステリアって女神じゃないのかしら?」


キュアリーは少しでも情報を得ようと話かけた。


「さて、私は一度たりとも女神だと名乗った事は有りませんし、そもそも私はこの世界の神ではありません。それに神と言うよりその眷属、又は端末と言った方が正確でしょうか?」


そう言うとユーステリアは自身が身に付けている仮面をゆっくりと外し、その素顔を晒す。


「うわ!まっくろ!」


きゅまぁが思わず声を出す。仮面の下には顔が見えず、黒い靄のような物が見えるだけ。


「眷属でも端末でもどっちでも良いわ。それで?なんでわざわざ出て来たの?」


相手が神であろうが、そうで無かろうが態々自分の前に現れる理由に思い当たらない。

ユーステリア神教と対立はしているが、そもそもの所そんな事を気にする相手とも思えないのだ。


「そうですね、目的の一つはこの塔を回収に来ました。この塔の役目は先程終了いたしましたので。これ以上この塔が動き続けるとこの世界が崩壊してしまいます。我々もそこまでの事を望んでた訳ではありません。この塔の役割は薄々ですがお気づきでしょう?」


首を傾げて此方を窺っているユーステリア。顔の無い相手との会話がここまでやり辛いとはキュアリーもきゅまぁも思ってもいなかった。相手の意図がまるっきり推し量る事が出来ないのだ。


「いま塔の機能が止ればこの世界を覆うマナの絶対量が不足する。そうすればこの世界の生き物の多くが死に絶えるわ。それこそ世界が崩壊すると言っても良いんじゃない?」


「うん、そうだね、マナがなくなるとちょっと困るかな?」


キュアリーに賛同の声をあげるきゅまぁだが、その表情や声色から今一つ緊迫感は感じられない。

そんな二人の様子に関係なく、ユーステリアは淡々と話を進めていく。


「この世界のマナは解りやすく言えば貴方方がかつて居た世界における化石燃料みたいなものです。長い時間の流れの中でゆっくりと貯めこまれた有限な存在、塔はそのマナを産出する為のプラントみたいなものです。そのプラントを設置したのは我々ですし、我々は急ぎこの世界のマナが必要でした。その為、多少強引ですが取り急ぎマナを汲み出したのです。その為、この世界のマナは大きく減じましたが、必要量が足りた今、これ以上は必要ありません」


「凄いわね、この世界を崩壊させかけてその言葉?」


「我々にとっては必要な処置でしたから。ただそうですね、言い訳させていただけるならば神とはそういう存在です。それが嫌で有るならば抗うしかないですね。この世界の多くの神や精霊のように。もっともその殆どの神は滅ぼされました。知っていましたか?この世界は元々は多神教だったのです」


「うん、知らない」


「私も知らないよ!」


その物言いはあくまでも上位の者の物言いである。恐らくこのような会話も本来は必要が無いのであろう、ただ、そんな神の気まぐれであろうが何であろうが少しでも情報が必要だった。この先生き延びる為にも。

ユーステリアはその後も滔々と二人に語りかけてくる。その話の中で何かのヒントを得ようと二人は必死に言葉の隅々にまで意識を使う。


「我が神がこの世界のマナを効率よく吸収する為にネットゲームという物を利用したのですが、あれもあくまで娯楽の一環でしかありませんでした。貴方方の世界におけるサブカルチャー?に準じて貴重なマナまで使用して貴方達を異世界転移させた事には今一つ理解が出来ませんが」


「ちょっと、とんでもない爆弾を放り込んでくれるじゃない。つまりは私達ってこの世界に呼ばれたんじゃなく送り込まれたって事?」


「何かと煩わしいこの世界の神や精霊をフィールドボスやレイドボスとすれば貴方方は嬉々として倒してくれる。実にありがたかったです」


表情はまったく読めない。それ故に皮肉なのか、本音なのかが読めない。

ただキュアリーの中には沸々とした怒りが溜まって行く。ここまで、ここまで馬鹿にされて怒りを覚えない者など居るはずがない。


「この世界はこの後どうなるのかしら?予想でも良いので教えてくれると有難いのだけど」


「さぁ?どうなるのでしょうか?ただどこでも同じですが一度崩壊したバランスはどれだけ頑張っても戻らないのではないでしょうか?まぁとにかく、長々とお話させていただきましたが無事に塔の機能は停止及び削除させていただきました。あとはご自由にお過ごしください」


ユーステリアに言われて初めて気が付いた。塔からジワジワと広がっていたマナの動きが今やまったく感じられない。そして、この目の前にいる存在は決して無駄な時間を使っていた訳では無かったのだ。


甘かった、ここまで手玉にとられるなんて


キュアリーは己の認識の甘さにギリッと奥歯を軋らせる。

何とかこの相手から情報を引き出さなければ、そもそも無駄に安寧と暮らしてきた時間の中で、文字道理世界が崩壊しようとしていたなんて考えてもいなかった。自分への怒りも、その他の怒りも、総ては目の前の存在に集約されていく。


「悪いけど、貴方を思いっきり打ん殴らせて欲しいんだけど」


「ふむ、それは構いませんが、貴方の手が壊れるだけだと進言させていただきますが」


「理屈じゃないんだよ!」


ユーステリアとの間の距離を一気に詰め、手にしたメイスをコンパクトに、思いっきり側頭部へと叩きつけた。普通の者であれば確実に殺す事が出来るだけの力は込められていた。

避けようとする動作すら無く、そのままメイスは側頭部へと直撃した。しかし、どれだけの力が込められていたのかメイスはその首元から折れ、弾け飛んだ。そして、キュアリーはそのまま手首を押さえる様にしてその場にしゃがみこむ。


ドガ!バキッ!


「ぅぅぅぅぅ」


「ですから無駄だと、貴方方では私にそれこそ傷一つ付けることはかないません」


ギッギーーン!


「ふぎゃ~~!」


槍を手に身体全体で突き刺すように飛び込んだきゅまぁがそのまま後方に弾け飛んだ。

槍自体には明らかに何らかの魔法が付与されていたが、それすらも全く効果を発揮しない。


「さて、これ以上長居する意味は有りませんので、どうぞお健やかにお過ごしください」


ユーステリアは蹲る二人の目の前で胸に手を当てて優雅にお辞儀をすると、その姿のままゆっくりと姿が消えて行ったのだった。

遅くなりまして申し訳ありませんでした。

思いっきり難産でした><

で、結局ユーステリアはこういう存在になっちゃいました!

一度はこっち側の神様にして話を書いていたんですが、違和感すっごくて書き直しました。

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