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1-54:腹ペコ娘

ぎゅるるるるる~~~ぎゅるる、ぎゅるる


きゅまぁのお腹の音を聞いて溜息を吐いたキュアリーは、とりあえずテーブルの上にアイテムボックスから蒸かした焼き芋を取り出して置く。地面に倒れてぐすぐすしていたきゅまぁであったが、あっと言う間にキュアリーが取り出した焼き芋に魅了され、流していた涙も止り、ついには涎を垂らしながら焼き芋に視線が釘付けとなっている。


「はぁ、手を綺麗にしてから食べるのよ」


「うわぁい!キュアリーちゃんありがとう~~~!」


先程とは違う俊敏な動きで椅子へと座ったきゅまぁは、両手を取り出した濡れタオルで拭き拭きして目の前にある焼き芋に齧り付く。


もぐもぐもぐ、あぐあぐ、はむはむ


その様子を同じように椅子に座りながら、このままだと絶対に喉に詰まらせるなと思ったキュアリーは、先程まできゅまぁが優雅に飲んでいたカップへと視線を向ける。

しかし、カップはあれどポットが見当たらない、怪訝に思ったキュアリーはカップの中の液体へと注意を払う。


「もしかして、お水?」


キュアリーの呟きにコクコクと頷くきゅまぁ、そしてその様子に呆れるキュアリー、ある意味いつもの光景ではあった。


「そしたらお水で良いわよね」


またもコクコクと頷くきゅまぁはその間ももぐもぐと焼き芋を頬張っている。


「クゥン」


きゅまぁの全身をマジマジと見ながら、とくに怪我らしい物がない事に安堵し、そもそも自分と同じ治癒士であるきゅまぁに怪我がある訳ないかと苦笑いを浮かべていると、足元でルルが物欲しそうな鳴き声を上げながらこちらも焼き芋に視線を注いでいるのが解った。


「まったく、ほら、ゆっくり食べるのよ」


アイテムボックスから更に一本の焼き芋を取り出し、真ん中から二つに割って半分をルルに渡す。ハフハフしながら嬉しそうに尻尾をブンブン振ってルルは焼き芋に噛り付いた。残り半分をどうしようかとちょっと悩み、焼き芋から漂う香りに負けで自分も焼き芋に齧りついた。早々に自分の焼き芋を食べきりきゅまぁへと視線を戻すと、机におかれた3本の焼き芋は早くも残り1本になっている。

ただ漸くきゅまぁは空腹が癒されたのか食べる速度が落ちてゆっくりに成っていた。そこでキュアリーはきゅまぁがなぜ此処にいたのか尋ねる事にした。


「それで、久しく顔を見なかったけど何処に言ってたの? 前に会ったのは何年前だっけ?」


もともと一つの所に落ち着いて住む事が苦手なきゅまぁな為、数年、下手すると数十年に1度の感覚でキュアリーの下へと訪れはするが、数日もするとまたふらっと何処かへと旅立つのが当たり前になっていた。


もぐもぐ・・・・・・ごっくん。


「えっとね、何かマナが急激に減ってきたから、一緒にいた人達とキュアリーちゃんの所に避難しようとしたの」


「・・・・・・っえ? 今、何って?」


きゅまぁの思いがけない言葉に、キュアリーは思わず聞き返す。


「えっとね、マナが減って、動物達も減って、あと植物も枯れてっちゃって、だからまだ余裕がある内に避難する事にしたの。それでみんなで移動してたら私だけ迷子になって、でもキュアリーちゃんの森に無事に辿り着いたんでお家に来たら留守で、でもご飯が無くて悲しくなってね、それでお水を飲んでたの」


相変わらずの説明力に思わず米神を抑えるキュアリーであったが、とにかく無事にきゅまぁが辿り着けた事にホッとするのだった。


「無事に辿り着けて良かったわね、でも前に家に辿り着ける魔道具を何か作って無かったっけ?まぁいいわ、それより家に入っていれば良かったのよ? 登録してあるから中に入れるでしょう? そしたら食材なんかも倉庫にあったわよ?」


いつ訪問するか予測の付かないきゅまぁの為に、この塔に入る為の認証登録を随分昔に行っていた。

今まではキュアリーが常に居たのできゅまぁがその認証を使う事は無かったのだが、ある意味今回の不在時用に登録したのである。その為、きゅまぁが家に入る事は可能だし、本人もその事は理解していたはず。


「えっとね、いくらお友達でも誰もいない家に勝手に入るのはちょっと?」


「はぁ、変な所で律儀なんだから」


苦笑を浮かべながらきゅまぁが3個目の焼き芋を食べ終わるのを見定め、ともかく塔の中へときゅまぁを招き入れるのだった。


塔の中へと足を踏み入れると、そこは当たり前ではあるが出かけた時のままで、リビングなどは足の踏み場に困るよう状態であった。あちゃっと顔を若干赤らめながらもズンズンと中へ入っていくキュアリー、そしてその後をトテトテと追いかけてくるルルときゅまぁ。


「ごめんね、ちょっと散らかったままだった。適当に物をどかして座ってね」


ソファーの上に置かれていた衣類を素早く手に取って、キュアリーはアイテムボックスへと順次放り込んでいく。アイテムボックスがあるからといっても部屋は散らかる物なのである。

そんな部屋の様子をまったく気にした様子も無く、手慣れた感じで物を端っこに避けて自分の場所を確保するきゅまぁ、ルルは下に何かあってもあまり気にせず前足でサッサカと空間を作って座り込んだ。


「はぁ、やっと帰って来たわね。やっぱり家が一番だわ」


思わずそう零すキュアリー、そこできゅまぁが首を傾げる。


「珍しいね、どっか出かけていたの?」


そもそも引き籠りが長かったキュアリーであり、基本的に何処かへと出かけていたといった事は無かった。

その為、きゅまぁはキュアリーが食材でも狩に行ったのかと思い込んでいたし、狩の獲物、即ちご飯が帰って来るのをじっとまっていたのだった。


「まぁね、ちょっと調味料が切れて買いに行ったら何か色々巻き込まれて・・・・・・」


簡単にではあるが、キュアリーはここ最近の出来事をきゅまぁへと話して聞かせる。

そして、きゅまぁは相槌を打ちながら時々首を傾げる。


「うん? 何かあった?」


「えっと、狸さんを今後食べれないなぁって」


「ん? あ、そっか、そうだよね、ちょっと軽率だったかも、確かにもと人間を食べるかもって思うと」


あの場の勢いでそのまま逃がしてしまったのは失敗だったかもと大きく反省するキュアリーであったが、よく考えたら自分は狸をそもそも食べないなっと思って安心するのだった。

そうして話を進めるうちに、今度はきゅまぁの話となる。そしてそこで、今度は決して聞き逃す事の出来ない話が出たのだった。


「見た事のない生き物?」


「うん、正確にはどっかで見た事のあるような、でも別の生き物?」


何か謎かけのような事を言い出すきゅまぁ、しかしその先の話を聞くとおおよそ言いたい事が伝わってくる。


「もしかして、マナが急激に減ってるのと関係がある?」


「たぶん、でもそれだけじゃなくって、何かこの世界が変わっていってるって言えばいいのかなぁ」


「世界が変わって? あ、そういえば人族が何か変な攻撃をしてきてたね」


きゅまぁの言葉に今回の遠征の事が思い出される。


「あとは、マナ減少に対応できるか出来ないかで大きく別れるかも。でも、獣人やエルフとかはマナ無いと生きていけないから」


「それでとにかく此処を目指したの?」


きゅまぁの言葉に同意しながらも、それであれば今後は多くの種族が存亡を賭けてこの森を目指す事になる。そんな未来を思い浮かべ顔を引き攣らせる。


「そうなんだけど、あのね、ほら、覚えてる? ドワーフ達がいた大陸の事」


「ああ、そっか、でもどうかな? あっちもどうなっているか解らないし、そもそも繋がるかな?」


「なんだよね」


きゅまぁもこの森だけですべてを許容できるとは思っていないのだろう。それ故にほかの大陸へと希望を繋ごうとしている。しかし、それはそれで希望的観測部分が大きい。


「でもさ、なんでこんなに急にマナが減り始めたんだろう?」


「うん、まるでどっかに穴が空いたみたいだよね」


二人で顔を見合わせるが、そもそも外界の状況をほとんど知らないキュアリーが解る訳は無い。そして外を旅してきたきゅまぁが解らないのであれば答えが出るはずが無かった。


「えっとね、それでね」


暫く二人でうんうん唸って考えていたが、きゅまぁが突然もじもじして上目使いでキュアリーを見る。


「なに?悪いけど私そっちの趣味は無いからね!」


ビシっときゅまぁに指を突き付けるキュアリーに、あわあわしながらきゅまぁは顔を赤らめながら必死に否定する。


「そ、そんなんじゃないよ!ただね、ゆ、夕飯は何かなぁって、え、えへ」


可愛く頬を染めてはにかむきゅまぁであったが、注がれるキュアリーの視線は非常に冷たかった。

ただ、とにかくこの万年腹ペコ娘をどうにかしないととそんな思いが頭を過る。そして、溜息を吐きながら席を立ち台所へと向おうとした時、この塔の外へと誰かがやってくる気配を感じる。


「珍しいわね、きゅまぁ以外にここに来れる人って誰か居たっけ?」


かつての仲間であればここに来る事は可能であろうが、今だ存命である者は数えるほどもいるかどうかであった。もっともきゅまぁも同様であるが、ハイクラスへと進化? さえすれば存命していても奇妙でないのが来訪者である。ただこの塔はマイハウスであるが故にハイクラスの者誰もが訪れる事が出来る訳では無い。


「ん?あ、誰か来たっぽい?」


「グルルルル・・・・・・」


きゅまぁとルルも同様に反応を示す。きゅまぁは兎も角として、キュアリーはルルの反応に顔を顰める。


「ルル、もしかして知らない人かな?」


「ガウ」


キュアリーの問いかけに頷くルル、そしてそれ故にキュアリーは警戒を強める。


「ここに来れる実力者かぁ、あまり嬉しくないなぁ」


そう呟きながらも自身の装備をガチ戦闘用の物へと置き換えていく。

そして、きゅまぁもキュアリーの様子に今までののほほんとした様子を改め、装備を変更して戦闘の準備を始めるのだった。


「きゅまぁが居る時である意味助かったのかな? 自分ひとりだと所詮は道具頼りになっちゃうし、戦闘職の実力者相手だと厳しいから」


「でも、ヒーラーが2名ですけど?」


「ふふふ、まぁヒーラーって言っても私達は殴りだしね、二人いれば何とかなる・・・・・・といいね」


そんな事を言い合いながら、二人は塔の扉を開き、外へと姿を現した。

そんな二人の目の前には、明らかに怪しいですよ主張している真っ黒なローブを纏い、顔すらも隠した者が丁度森から姿を現した所だった。


「う~~ん、こんな恰好をしそうな人、心当たりがありすぎて困る・・・・・・」


「あ、ですよね、わたしもそう思いました」


「ヴォウン」


目の前に現れた者を目にして各々感想を述べる二人に、ルルはこの人達の交友関係大丈夫か? といった呆れたような鳴き声をあげる。ただ、キュアリー達はそんな事を言いながらも相手の姿から目を逸らす事は無い。


「誰か解らないけど他人の家に来たんだから顔くらい見せてくれないかな?」


キュアリーがそう告げると、相手は特に隠す意図があった訳ではなかったのか自分が被っていたフードを後ろへと払った。


「ま、真っ白な肌、切れ長の目、鼻は無く、半月のような笑いを浮かべる口・・・・・・って仮面じゃん!」


きゅまぁがお約束の様に突っ込みを入れる。しかしその突っ込みは明らかに滑っていた。


「ハイエルフでは無さそうね」


尖った耳でも銀髪でもない。それ故にハイエルフでは無いと断じる。ただそれも姿を変化させるアイテムは結構ある為当てにはならない。それであっても種族が持つ雰囲気は感じ取れる・・・・・・ような気はするキュアリーである。思い込みかもしれないが、それでも相手からはどこか此方を馬鹿にしたような気配が感じられた。


「うん、これは敵認定だよ」


「そ、そうなんですか?」


キュアリーは早々に相手を敵認定し、それにきゅまぁは驚きの声をあげる。


「うん、私の知り合いにはこんな他人を小馬鹿にしたような人はいない!」


「え? そうですか? 結構いるような・・・」


キュアリーの断言に疑問を抱きながらも、キュアリーに合わせて身構えるきゅまぁであった。

19時にまにあわなかった~~><

@イツキは無理でした!

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