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1-51:真面目な人ほど苦労する

エルフの村を統括していた元老院の実質的な崩壊を受け、行政機能は完全に停止していた。

アリア達はまず村にある庁舎へと赴き、村の戦力である衛兵達の掌握に乗り出した。しかし、それは当初考えていた以上に難かった。


「それで、どこまでが敵になるのかは把握できた?」


庁舎の元老院会議室ではアリアが今回の状況把握、事態収拾に釈迦力になっていたがそもそもの情報収集にすら手間取る状態であった。


「第一衛兵隊はアルト様直属の為に間違いなく敵に回ると思われますが、そのアルト様の安否情報すら無く今後の動向は不明で」


「第二衛兵隊は恐らく静観すると思われます。もともと村内の治安、魔獣などの駆除が専門である為、自分達には関係無いとの判断らしく」


「第三衛兵隊はこちらの味方になりますが、隊長クラスの者達は牢内に拘束されていた為すぐに動けるかは」


入ってくる情報はどれも芳しい情報では無い。


「第四は?あそこは人数は少ないけど重要な位置を占めてるわよ?」


諜報、防諜、暗殺など裏方を得意とする部隊である。ただその構成員の全貌を知る物は少なく、アリア達も部隊長を知っているのみである。


「それが、どうやら部隊長はすでに死亡しているとの情報があり、今その確認を急いでおります」


「死亡?どういう事?」


アリアは第四の隊長を思い浮かべ首を傾げる。それこそ、決して簡単に死亡するような男では無い。


「どうやらファリスの指示で、此方の情報を仕入れる為に第四を動かしていたようなのですが、早い段階で幾人かの隊員が死亡し、最終的に斥候と共に隊長も前線へと向かったと、ただ戻った者は一人も確認されていないそうで・・・」


口を濁す職員に対し、アリアは先程までの状況を思い出す。


「恐らくサラサ達を襲撃した者達が第四の者なのでしょう。ただ、それ以降においてそれらしい者の報告は、それにあの隊長が出ていたらサラサやコラルでは勝てません」


「それでは、今この時もどこかに潜伏しているのかも」


「そうね、すでに誰かの配下となっているか、でもそう簡単に誰かの下に付くとも思えないのだけど」


明らかにこちらの味方となる戦力が25%有るか無いかという状況にアリアは顔を顰める。

もっとも、反合法的な手段ではあるが味方を増やす方法はある。


「あの難民達の受け入れを急ぎなさい。はい、元老院からの承諾書よ、門の所にいるサラサかコラルへと渡しなさい。あ、あと一応だけど誰か護衛を付けて行きなさい」


机の上に置かれていた書状を職員へと渡す。


「は、はい!しかし、護衛は必要なのでしょうか?」


「予定以上に味方が集まらないわ、警戒しすぎるという事は無い筈よ?当てはあるのよね?」


「わかりました!はい、馴染みの衛兵がおりますので!」


お辞儀し、部屋を退出する職員を見送りながら今後の対応へと意識を向ける。

元々アリアは文官寄りの元老であり、その御蔭もあり庁舎内の掌握にはそれ程の手間は掛からなかった。

その為、すでに難民達を受け入れる場所、食料の手配などは苦も無く指示を出す事が出来たし、すでに職員たちは行動を起こしている。ただ、この職員たちもアリアに味方しているかと言えば微妙ではあるのだろう。単純に上役に指示されたから行っている。それ故に別の元老に指示されれば容易に混乱する事は間違いない。


コンコン


「どうぞ、中に入って」


思考の海に沈み込んでいたアリアは、扉をノックする音で意識を浮上させる。


「失礼します、お邪魔ではないですかな?」


扉から入室してきたのは前元老であるドルトン老であった。

現在このエルフの村における最長老、御年400歳とも500歳とも言われているが、本人曰くすでに数えるのを止めて久しい為不明との事である。


「これは、老がわざわざお見えになるとは」


ステッキを突きながらゆっくりと入室してくるドルトンに対し、アリアは慌てた様子で彼を椅子へと案内する。そして、不思議そうに閉じられた扉へと視線を向ける。


「老お一人で?誰か他の者は?」


「ほほほ、皆忙しそうだったのでな、まぁこれ程の大事が起きておるのではそれも致し方あるまい」


そう告げるドルトンの表情は一見温和に見えながらも、その視線は普段を知っているアリアからしても初めて見るほどの鋭さを湛えている。


「此度の事、すでに聞き及んでお見えだと思いますが、力不足にて未だ収拾が出来ておりません」


今の状況を認識しているアリアは、ドルトンへと深々と頭を下げた。今、この時にドルトンの助力が得られるならば自体は一気に解決へと向かって進む事も可能であるかもしれない、そう期待を寄せるほどにドルトンの名は未だにエルフ達の記憶の中に根付いていた。


「さて、これは困った。アリア殿、率直に言って私は貴殿の味方と言う訳では無い。どちらかと言うと敵となるかの?」


ドルトンの言葉に、アリアは驚きの表情で顔を上げる。すると、其処には好々爺のような表情を浮かべたドルトンがいた。その視線は先程とは違い暖かさを感じさせる色合いを見せる。


「此度の事、私はファリス達の計画も行動も何もかも知っておった。だがあえて動く事はしなかった。なぜならの、これは内紛だからじゃ、であれば勝った方が正義であり、負けた者は悪である。権力者という者はな弱さも油断もすべて罪だ。それ故に身内内での争いであれば私は動くつもりは無かった。それでエルフが亡びる事になろうともの。もっとも、そうはならぬとも思っていたがの」


そう告げながらもドルトンは「ほっほっほ」と小さく笑い声を上げる。

アリアはただその話を聞いていて、口を挟む事をしない。なぜなら、動くつもりが無かった者が動いた理由がまだ語られていないからだ。


「あのハイエルフのキュアリー様が関わった、しかし是もまた私にとってはエルフ同士の身内争いにしか過ぎん。ハイエルフと言えども元を辿ればただのエルフよ、最もあの若さを保つ秘訣はぜひ知りたいが、まぁそれも今更の事。ただの、此度の騒動の根底が次第にズレ始めて来た。気が付いて負ったか?マナの減少速度が加速度的に早くなったのを」


「マナの・・・減少速度・・・ですか?」


ドルトンの指摘に、アリアは何を言われているのか解らず混乱した。そして、そのアリアの様子をしばらく見ていたドルトンは、あからさまに溜息を吐いた。


「気が付いていなかったか。お主等がこの地を離れてから暫くしての事よ。まるで小さな穴から水が零れ落ちていたが、突然その穴が大きくなったかのようにな。何事かと思ったわ。アリア殿、此度の事で難民はともかく、なぜドラゴンがこの地へと飛んできたのか、そこに疑問は持たなかったのかな?」


「ドラゴンですか?それはマナが減少してきていて」


「それもあるが、ドラゴンであればそれ程急がずとも、まぁそれもドラゴンでなくば解らぬの。偶然なのか必然なのか、ただこのまま行けば数年でマナは尽きる。・・・・・・この森を除いて」


「この森を除いて、ですか?」


混乱する頭の中で、アリアはドルトンが言いたい事を必死に考える。ドルトンの目はまたもや鋭さが戻っており、この問いの中に彼の懸念があり、返答を間違えれば確実に敵に回るかもしれない、そんな危うさが問いかけにはあった。


「この森を除いて・・・数年・・・数年・・・・・・そんな!」


「ふむ、良かった良かった、気が付いてくださったか。では、あとは頼むぞ」


アリアの表情を確認したドルトンは、杖を手に椅子から立ち上がろうとする。その様子に気が付いたアリアは慌ててそんなドルトンに制止をかけた。


「お、お待ちください!では、私達はどうすれば!」


今アリアの背中からは汗が滴り落ちて染みを作っていた。そして、手足は小刻みに震え、それをアリアは懸命に抑え込もうとしている。その為もありドルトンを制止する声にも明確に震えがあった。


「ほほほ、その様な事この老体にも解りはせぬよ。ただの、この様な時に無様に内部で争っておる者達を見てな、ちと悲しくなった。ただそれだけよ。私とてどうすれば良いか、その様な答えを持っている訳では無いが、気が付いておるかな?今この時にも続々とこの森に魔獣達が入って来ておる。さて、なぜか結界が用を成しておらん。警告はしたでの、あとは任せるぞ」


言いたい事を言いきったとばかりにドルトンはその後のアリアの制止にも止まる事無く部屋を後にした。


「そ、そんな!何が起きていると言うの!誰か!誰か居ないか!」


アリア自身も慌てて部屋から飛び出し、必死に声を張り上げる。ドルトンはその声を背に聞きながらゆっくりと歩みを進める。そして歩みを止めることなくボソリと呟いた。


「さてさて、世界の崩壊は止まるかの、ほっほっほ」


ドルトンが居る事に気が付いた者達が慌ててお辞儀をする中で、彼は軽く手を挙げて挨拶をしながら静かに庁舎を後にするのだった。


そんなドルトンとは別に、アリアの表情は一変した。アリアは今この時に味方となる者達で動ける者へと次々に指示を飛ばす。


「森の境界線へと斥候を出しなさい。魔獣の侵入が確認されても交戦せず状況逐次知らせなさい。というかなぜ連絡は入っていないのですか?境界線にはすでに斥候を送ったはずです、連絡はないのですか!」


アリアの怒声に周囲は困惑の表情を浮かべる。そんな中、難民の代表達、穏健派の元老達を連れてサラサが庁舎へと入ってきた。そして、それを見たアリアはすぐに他の元老達を会議室へと連れてはいる。


「扉は閉めずとも良い!各所からの連絡は最優先にしなさい、会議中でも構いません!サラサ、コラル、疲れているのは重々承知していますが、申し訳ありません森の境界における状況確認をお願いします。どうも魔獣達が次々と入り込み始めているみたいです」


「え?は、はい!至急確認をとります」


「お願いします」


サラサは返事をすると、すぐにコラルと頷きあって庁舎を飛び出していった。

アリアは若干疲れた表情を浮かべながらも他の面々を会議室へと招き入れる。


「どうぞみなさんお座りください。この様な時なので席次は各自ご自由に」


アリアの声にそれぞれが思い思いに席に座る。そんな中、アリアは重要な人物がこの場に来ていない事に気が付いた。


「申し訳ないのですが、キュアリー様はどこにおいででしょう?」


「あ~~その、なんですかな、広場においでです」


「え?広場にですか?未だに?」


返事をくれた元老に対し、アリアは思わず問い返した。そんなアリアに対し難民代表としてこの場にいるユーリが補足説明をしてくれた。


「つまりキュアリー様が視界から消えると魔獣が暴れ出す危険がある・・・そういう事ですか?」


「いえ、魔獣というかドラゴン達がっと言った方が正確かと、なぜか異様にキュアリー様はドラゴンに好かれておりますので」


「あれは好かれているのか?俺には恐れられている様に見えたが」


「その様な事はどっちでも良い。それでエルフの村は我々を受け入れてくれる。そう捕えてもよろしいですか?」


一斉に発言を始まる面々に対し、余裕のないアリアは己の苛立ちを抑える事が出来ず机を思いっきり叩いた。


「だ、黙りなさい!皆が話せば会議など出来ないでしょうが!」


感情のままに叩いた手に伝わる余りの痛みに、思わず声を詰まらせながらもアリアは大声を上げる。

その普段とはあきらかに違うアリアの様子に会議室にいる者達は思わず目を見張った。そんな状況を気に留めることなく、アリアは扉にいる衛兵へと声を張り上げた。


「衛兵、大至急広場にいるキュアリー様をこの場にお連れしなさい」


「いや、それではドラゴンが「暴れるなら好きなだけ暴れさせなさい!」どうな・・・るか」


アリアの指示に異を唱えようとした元老の一人が、アリアの怒声に思わず発言を止める。


「新たな問題が発覚しました、この事態においてキュアリー様の意見がどうしても必要なのです!ドラゴンなど好きにさせとけば良いのです!さっさとキュアリー様を連れてきなさい!」


今や会議室の中では普段のアリアとのギャップに誰も意見を言う事が出来なくなってしまっていた。


副題を”アリアの受難 ”と悩みました!

でも、アリアの受難はいつもの事だし、この先もたぶん普通の事だしと・・・

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