1-48:ドラゴン突撃隊!
ドドドドドという何かが大群で移動する音が周囲に響き渡る。
所々では、バキバキという木々が薙ぎ倒される重苦しい音が響き、その音に混じり生き物の叫び声が鳴り響く。村の前で森から来るであろう者達を待ち構えていた者達は、遠くから響いてくるその音に、そしてその音を響かせている生き物を思い浮かべ顔を蒼白にした。
「な、何が起きている!」
「解りません、斥候は出しておりますが連絡が来ていません」
未だかつて響いた事のない音を耳にし、門の前でキュアリー達を待ち構えていたファリス達は動揺を露わにしていた。長く生きてきたエルフ達の記憶にも、この森で魔物が溢れる事など経験が無かった。その為、今この森で何が起きているのかを正確に推測できたものは皆無であった。
先程まで意気揚々と演説をしていたファリスにおいてもその表情に影が差している。
次第に近づいてくる音、ただその音が決して自分達に対し良い物ではない事は理解できていた。
「急ぎ門の中へ戻り門を閉じよ!併せて戦闘準備を急げ!防衛戦の準備だ!」
「は!」
ファリスと他の元老達は急いで門の中へと駆け込み、村の奥にある見張り台へと駆け上がった。
その間にも門はゆっくりと閉じられていく。兵士達は門の中にある櫓の上に駆け上がり弓を構える。ただ、そもそもこの門において大規模な戦闘は想定されていなかった為、村を覆う壁も、門もすべてが木製であった。
その為、もしこの声の主がファリスの予想道理であれば簡単に焼け落ちると思われた。
「結界師に門の前面に集中的に結界を張らせろ!相手は魔物だ、村の全体を覆う必要はない!門を水で濡らせ!炎に対し少しは耐久が上がる。門へと続く道に対し土魔法で穴を掘れ!隠す必要はない、足止めにでもなれば良い!おい、門が開かぬように門の後ろに岩を置け!急げ!」
森から伸びる道へと視線を向けながら、ファリスは今出来るであろう対策を次々に指示する。
ファリスはそもそも傲慢で独善的ではあるが決して無能では無い。決断力、指導力という点において自分の派閥からのみならず他派閥からも一定の支持を受けていた。
そんなファリスの視線の先でこちらへと向かって来る者の姿を捕える。それは事前に放っていた斥候の姿であった。
「斥候が戻って来たぞ!急いで回収し連れてこい!あと門を開けるんじゃないぞ!ロープを下ろせ!」
視線の先で土煙が見え始める。そして森の木々が倒れ、その隙間に何かが動いているのが見えた。
遠目でその何かを見極めようとする中、斥候を連れた兵士が見張り台へと駆け上がってくる。
「ド、ドラゴンです!森の前に現れたドラゴンの群れが此方へと向かってきます!」
「・・・ドラゴンの群れだと?有り得ん、結界が張られているこの森に魔物が入る事は出来ん。結界が壊れるならともかく、未だに結界は壊れておらん」
感覚を研ぎ澄まし森の気配を感じ取ると、太古から続く結界の魔力を感じる。それ故に結界が破られた訳では無い事は解る。それ故にこの森へと魔物が立ち入る事が出来るはずがない。
「ですが、確かに多数のドラゴンの姿を確認しました。それと、遠目でしたがそれ以外の魔獣と思われる姿も確認しております」
斥候の言葉に顔を顰める。今この場で嘘の報告をする意味は無い。であれば認めたくはないが確かにドラゴンが此方へと向かっているのであろう。そしてその原因すら推察する事が出来た。
「ハイエルフめ、この村を滅ぼすつもりか。面白い、ならばせいぜい足掻かせて貰う」
その瞳は憎しみに暗い光を放っていた。
「闇どもに指示しろ、今この村を滅ぼそうとするあの忌々しいハイエルフを殺せ!殺せぬ時はこの村は滅びるぞ!」
ファリスの言葉に驚きの表情を浮かべた兵士であった。しかし、すぐに表情を引き締め、兵舎の方へと走って行った。
その最中も響き渡る破壊音がどんどんと近づいてくる。そしてついには倒れる木々の先にドラゴンの姿が視認出来た。たった一頭のドラゴンであっても、それを倒すには数十人のエルフの兵士が必要とされる。そんなドラゴンが明らかに複数頭視認できるのだ。流石のファリスの顔にも先程までの余裕など欠片も感じられない。
「ドラゴンはブレスを放つぞ、速やかに各種シールドを敷く用意を怠るな!」
櫓の上で魔法を放つ準備をしている者達へと指示を出しながら、森の中に立ち昇る砂煙へと視線を向ける。
「作戦ミスだな、私は知らず知らずに相手を過小評価し、己を過大評価していたか」
元老の半数を味方につけ、代表たるアルルを拘束した。あとは捕えた穏健派の元老達と戻ってくるアリア、そしてあのハイエルフを捕え処刑する。まるでその計画を後押しするが如く森の外にユーステリア軍が現れた。結界は魔物、魔獣には有効であるが、魔術やユーステリアの者達が言う法術によっては侵入は不可能では無い。その為に防衛に対し穏健派寄りの兵士を送り込んだ。その後に一気に敵対者を拘束する事に成功する。あとは待ち構えていれば何とでもなると思い込んでいた。その為の手駒は各所に放っていた。
しかし、計画は今まさに崩壊しようとしている。
「魔獣を使うとはな、廃人め、いや、あれこそ魔族だ」
かつて最大の蔑称と言われていた廃人だが、今やなぜ廃人が蔑称とされていたのか知る者は少ない。また、一部の研究者の間では廃人は限界を超えし者との尊称ではないかとの意見も出ている、その為、ファリスはより解りやすい蔑称、魔族を使用した。かつて残虐であるがゆえに強大な力を持つと言われた魔族に対し、エルフは人族のみならずドワーフとも、獣人達とも協力し戦いこれを滅ぼす事に成功したと言う。そんな伝説が記憶が頭の片隅を過るが、それは所詮御伽噺だとファリスはすぐに頭を振ってその雑念を追い出すのだった。
ドドドドドドという音が次第に強くなり、そして遂には視線の先にある木々が裂けるように倒れるとともに、ついに目の前にドラゴンが姿を現した。
ドラゴンは目の前に広がった空間に一瞬戸惑う様子を見せるが、目の前に建てられた門と外壁に視線を定めると頭を低くして突進を始める。
「馬鹿な、なぜブレスを吹かない!」
広場に現れると同時にブレスを放つと思っていたドラゴン。しかし、ドラゴン達はブレスを放つこと無くその巨体を利用して突進をしてくるようであった。
「所詮は獣か、ブレスを放てばより有利となるものを、攻撃を放て!」
ファリスの言葉に一斉に櫓よりアイスランス、ロックボルトといった攻撃がドラゴンへと降り注ぐ。
次々に直撃する攻撃にドラゴンの周囲では光が瞬き、土煙が上がり、視界が著しく悪くなる。それ故に視線を定めようと攻撃の数が減り始めるとファリスは更に怒鳴り声を上げる。
「馬鹿者ども!攻撃の手を止めるな!弓隊、放て!」
この程度の攻撃で倒せるドラゴンでは無い。その事を理解していたファリスは、目前の視界が悪くなる中であっても攻撃を継続させる。魔法が着弾する轟音、その中で明らかにドラゴンの叫び声が聞こえた。
そしてその声は決して苦しみを感じさせる鳴き声では無く、明らかに怒りの感情を含んでいた。
「マジックシールドを張れ!ブレスが来るぞ!」
ファリスの声とほぼ同時に、前方の靄の中に何か光の塊が生まれ、そしてその塊は一瞬の後に此方へと飛来し轟音と衝撃を上げる。
ドオオォォォン!!!
焼きつくような風がファリスの顔へと吹きつけた。しかしエルフ達が張ったシールドは辛くもドラゴンのブレスを防ぎ切った。その余波である熱を感じながらもファリスはこの戦いに確かな手ごたえを感じていた。
「攻撃の手を緩めるな!弩弓隊準備しろ、焦るなよ、まだだ、姿が見えるまで待つんだ!」
これが戦闘の高揚感か、かつて経験した事のない感覚にファリスは顔を紅潮させる。ドラゴンなど何する者だ、我らエルフこそ偉大なる存在なのだ!
今のファリスにとって激しく脈打つ自分の心臓の鼓動ですら、栄光を象徴しているかのように感じられた。
そして、眼前の靄の中に影が薄らと浮かび上がった時、ファリスは弩弓隊に対し攻撃の支持を・・・飛ばそうとした。しかし、その指示より一拍早く靄の中から複数の炎の塊、ドラゴンのブレスが飛び出して来た。
「な、守れえぇ~~~!!!!」
咄嗟の叫びもその後に続く衝撃に掻き消え、正面でドラゴンの侵入を防ぐはずの門や外壁も、あったであろうマジックシールドも、門の上に居たであろう兵士達も含め、その全てがブレスによって吹き飛び、焼き払われた。
その門の後方に建てられたファリスの居た物見台もその衝撃に吹き飛ばされ、一瞬で粉々に砕け散ったのだった。ただ、その中に合って自動でマジックバリアを張るアミュレットを装備していたファリスのみは吹き飛ばされ怪我はしても命を失う事は免れたのだった。
もうもうと立ち上がる土煙のみならず、今や門や外壁の各所で火の手が上がっていた。
そしてブレスが着弾した村の入り口付近においてもそれは同様であった。其れのみならず門や外壁を構成していたであろう大小の木材がそこら中に散らばり、門のあった場所はぽっかりと空間を作りもはやドラゴンの村への侵入を止める物はなにもなかった。
「・・・・ゴフッ・・・グ・・・だ、誰か・・・・」
爆発の衝撃のせいか、それとも何かに叩きつけられたのか、あの光を見た一瞬、その後の記憶がファリスから飛んでいた。ただ、おそらく肋骨が幾本も折れているのか呼吸をするにも、声を出すにも胸に激痛が走る為に大きな声が出せない。
何とか顔を起し視線を前へと向ける。するとその視線の先には広場に並んだドラゴン達の姿が見える。どのドラゴンも体の各所に怪我をしているようではあるが、あれ程の攻撃を受けながらもどのドラゴンをとっても致命傷と思われるほどの傷は見て取る事が出来ない。
「・・・これが・・・ドラゴンか・・・」
伝説に語られるドラゴン、誰もが語る生物最強種族、無敵の王者、なぜこんな存在に勝てると思ったのか。
たとえ弩弓の矢が当たろうとも致命傷を負わせるなど不可能だったのだ。
エルフはこれで滅びるのか・・・
そんな虚しさ、悲しみ、苦しみ、怒り、様々な思いがファリスの胸中に去来した。
だがファリスの思いとは裏腹にドラゴンは広場から村の中へと進んで来ようとしない。立ち上がる力すら無い為、改めて村の外へと視線を向ける。するとドラゴンの足元に次々とルーンウルフが姿を現した。そして一際大きなルーンウルフと共に、一人のエルフが姿を見せたのだった。
「・・・ハイ・・・エルフ・・・」
すでに体から力が抜け落ちていたファリスであった。体の芯が次第に冷えていくのを感じ、自分が緩慢な死へと囚われたのを感じていた。今は感じなくなったが体中に感じられた激痛、すでに麻痺してしまったのであろうが、あれは明らかに致命傷であった。
もはや立つことも出来ないであろうとファリス自身も思っていた。だが、目の前に現れたキュアリーを見た瞬間、どこからか有り得ないほどのマナを感じ取る。
「ハイヒール!」
自分に対し渾身の治癒魔法を唱えた。ここまでの傷はもはやハイヒールであっても治す事は叶わない。
それが解っていてもなお、目の前のキュアリーに対し一矢報いずにはいられない。そんな思いで体を動かしていた。
そんな時、ドラゴンの影を利用し複数の黒ずくめの姿をしたエルフがキュアリーに近づき、一斉に刃を向け飛び掛った。ファリスが命じたエルフの闇を司る暗殺者達であった。彼等はただ只管にキュアリーへと近づく機会を待ち続け、戦いが終わった一瞬の気の緩みを狙っての攻撃であった。
「「「「・・・・・・」」」」
誰もが無言、一切音をたてる事なく近づき、毒に濡れた短剣を突き出す。普通のエルフでは有り得ないほどの速度の動きに対し、キュアリーは慌てることなく自分の周囲に対しサンダーレインを叩きつけた。
「ウインドアロー!!!!」
キュアリーが倒れた暗殺者達へと意識を向けた、最後の、本当に自身最後のチャンスを捉え、ファリスはあらん限りのマナを込めたウインドアローを叩きこむ。視認が難しい風系統の、自身が最も得意とする攻撃を行う。ファリスの声に咄嗟に上げた顔を視界に収めながらも一矢報いた、そんな思いがファリスの顔に微笑みを浮かべさせる。しかし次の瞬間、渾身のウインドアローはキュアリーの目の前で何かに阻まれ打ち消された。
「ばかな・・・エアーシールド・・・だと・・・」
自身と同じ風系統の魔法。マジックシールドであれば打ち破り、そのままキュアリーへと突き刺さるだけのマナは込めていた。しかしそれが同系統のシールドで防がれたのだ。
「そうそう貴方の好きにさせる訳にはいきませんから、私にだって意地という物があります」
その声が聞こえた方向へと視線を向けると、そこには広場で磔にしていたはずのアリアが笑みを浮かべて立っていたのだった。
うん、ごめんなさい、副題浮かばなかったのです!
酷いサブタイトルだぁ・・・




