1-42:混沌と混乱
アリア達は漸くキュアリー達に追いついた。しかし、周囲の状況を見てもいったい何が起こっているのかを理解する事は非常に困難であった。
アリア達がキュアリーの側に来た時には、すでに魔物達の頭からハッピーフラワーは抜け落ちている。その為、ドラゴンを含む魔物達のちょっと残念な姿を間近で見る事がなかったのは幸いなことであったろう。
ただ、どの魔物達もそれぞれが精霊花の周囲を囲むように集団を形成している。
そこには一切争う気配が無い。それは、ここまでキュアリーに着いてきた動物や魔物達と同様であった。
「キュアリー様、これは何が?それと、ここまで森の側にいながら、エルフ達の姿が見当たらないのですが」
アリアは一通り周囲を確認した後、キュアリーへと問いかける。
「多分マナが不足した為撤収した?」
「え?」
アリアは、この森の境界においてエルフが防衛を放棄した事に驚いた。
しかし、キュアリーはキュアリーで、自分の後ろをピョコピョコ付いて回るアリアを他所に、それぞれの魔物達の状況を確認して回っていた。
「多少は効果がある?でもそこまで期待できるほどでは無いかな?」
そんな事を呟きながらも鉢植えに魔石を追加していく。
精霊花自体も花を付ける事無く自らの葉一枚一枚を大きく広げ、よりマナを還元できるようにしていた。
「これは、魔石の魔力を放出している?」
精霊花が齎す効果に対し、アリアを含め他の面々も驚きの声を上げる。そもそも、魔石の魔力を自然に返すなど今まで誰も考えた事も無かったのである。
「応急処置でしかないけどね。魔石の数も限られるし、そもそも魔物達の魔石にマナが無くなってきたからの騒動だし」
「え?もしかしてマナが無くなると魔物から出る魔石の魔力もなくなるのですか?」
「勿論だよ。魔物の魔石はまず大きさが変わるのは知ってるよね。で、次に影響するのがマナの濃度。魔力が強い魔物ほど魔石に貯めるマナの濃度が濃くなる、これは種族的な特徴に影響されるのかな?」
アリアの質問に対しキュアリーはさして意識を向けることなく答えを返し、自分は魔物達の状態を確認していく。そして、この後どうするかで頭を悩ませていた。
「で、これどうする?なんか戦うっていう雰囲気じゃ無くなっちゃってない?焚火を囲む集団みたいになっちゃってるよ?ただこのままにしても何一つ問題解決はしないんだよね」
目の前の魔物達は、それこそ思いっきり寛いでいた。
動けば余分なマナを消費する為、回復の為にじっとしているのだがその姿は有り得ないくらいに滑稽であった。先程の魔物達を見ていないアリア達は、それこそ無害の魔物としか認識できていない。
「先程までの爆発音なんかはなんだったのですか?」
周囲を見渡せば、そこかしこに焼け焦げた跡、ゴブリンなどの死骸、エルフが使用している矢などの戦闘を思わせる痕跡は多数転がっている。しかし、今の情景とのあまりの乖離に何が起きていたのか、その後起きたのかを理解できる者はいなかった。
「たぶんマナを求めて魔物達が森に集まって来たか、入ろうとしたのかな?で、それをエルフ達が阻もうとして戦闘が始まり、魔法やなんやで周辺のマナを消費して皆してマナ欠乏症になったっかな?」
「はぁ、魔法でマナがですか。それをキュアリー様は精霊花で癒そうと?」
「え?別に癒そうとは思ってないよ?う~~んと・・・・実験?」
キュアリーの言葉が聞こえた言葉を理解できる一部の魔物達が、キュアリーの方を驚きの表情を浮かべる。
その表情には、え?これって優しさからじゃないの?といった感情が見える。そして、それはアリア達も同様であった。
「そもそも今ここで解決できる問題じゃないって。マナが世界規模で欠乏していってるんだから、あくまでも対処療法でしかないよ?精霊花だって地中にあるマナを放出しているだけ、そもそも精霊花だけで解決できるなら植えまくれば良いんだからとっくに解決してるはずでしょ?」
その言葉に、アリア達は理解を示す。しかし、それではこれから如何すれば良いと言うのか、そこで頼れる存在はキュアリーしかいないのが現状であった。
「植物がマナを作り出すと前にお聞きしています。であればまずより多くマナを作る植物をそだてるべきではないのでしょうか?」
「それも一つの方法ではあるよね。でも問題なのは世界で消費されるマナに比べて生産が追い付かなくなってしまった現在の事。ここまで世界中のマナが減る前であればもう少し動きようもあったのかも知れないけど、ここまで来るとね。植物が育つ前に多くの生き物が亡びるかな、それも多くのマナを消費する魔物ほど早く」
その言葉にキョトンとしていたドラゴンなどの大型の魔物が顔をキョロキョロと動かしだした。
それを見て、キュアリーが溜息を吐きながらドラゴンへと尋ねる。
「もしかしたらお仲間を見つけて安心したいの、でもそれって何ら解決にはなっていないと思うんだけど?」
ガ~~~ン!という表情を浮かべるドラゴンたち。これが最強の一角と呼ばれる生き物なのであろうか。多大に残念臭がただよう展開であった。
「まぁそれでもこのくらいの数であれば森で生きてくことは出来ると思うけど、これ以上増えたら駄目ね。それに、そもそもエルフが魔物達を受け入れる?あと、恐らくだけどもっと増えていくと思うけど」
「そうですね、でも、それならどうすれば良いのか・・・・」
アリアが表情を曇らせる中、キュアリーの言葉を裏付けるように自分達が来た方向で砂塵が巻き上がっているのが確認出来た。
「アリア、悩んでいる所悪いけど、後続の第一陣が来たわ」
キュアリーの言葉に、アリアが視線の先を見る。その砂塵の広がりを見れば、もしかすると自分達以上の集団の可能性もある。それ以上にユーステリアからの追手の可能性だってあった。
「ま、まずは森に」
「この状況で私達だけ森に入れると思う?まぁ私達に関係なく動く者は動くみたいだけどね」
そんな視線の先では、ゴブリンやウルフといった必要マナが少ない者達が争う様に森へと駆け込んでいくのが見えた。その動きを止めるはずのエルフ達はすでに居ないため、先頭にいた者達は無事に森へと辿り着いている。
「とりあえず、今此方に来ている者達を確認しましょうか。あ、貴方達が動くと一気にマナが減るからしばらくは其処に居なさい」
キュアリーは挙動不審のドラゴン達にそう指示を出し、今此方へと向かって来る者達と会う為に前へと進む。ただその表情から何を考えているのかはまったく読めなかった。だが実際の所、本人は結構焦っていた。
「これって詰んでない?マナ不足がここまで深刻だと何にも対策が思いつかないんだけど」
そんな事を口にしながら、前方から来る集団そっちのけで自分のアイテムボックスを眺めていたりする。
「これは駄目、あ~~これも焼け石に水かな。MPポーション用のパープルグラスかぁ、塔の周辺でまだ採集できたと思うけど、これも数が問題よね」
マナの消費をなんとか減らさないと駄目な事は解る。ただ、それを世界規模で行うなど現実的では無かった。ましてや、マナに依存しているエルフや獣人、もちろんドラゴンなどの魔物達にとっては死活問題である。
「よく解らないのが人族なんだよね、ある意味ゴブリンより適応能力があるってなんだかねぇ、まるでG?」
そんな馬鹿な事を呟きながらも、その思考は少しでも可能性のある解決策を模索し続けていた。
そして、砂塵の主が漸く視界へと入ってきたのを見た時、キュアリーは自分が読み違えていた事に気が付いた。
「あ~~~、あの連中かと思って油断してたわね。そっか、そうでないと魔物がこんなに集まっている訳がないよね。この魔物達って後から来たドラゴンとか以外はコイン産か」
今此方へと向かって来る集団は、たからかにユーステリアの旗を掲げていた。
そして、それは即ち敵の襲来を表しており、またこのマナが少なくなった状況下でも問題なく向かって来るという事はマナの欠乏に対し何らかの対応が出来る者達である事を証明しているのだった。
「すみません、偵察時に見落としていたのだと思います。でも、何処からこれ程の適合舎を集めたのでしょう?私達とと油断していないわけは有るのだと思います」
サラサが慌てたように傍らに来てキュアリーへと頭を下げた。
「今なら森に行けるでしょう。貴方達は森へと向かって、ここはこちらで何とかするわ」
「流石にそれは無理だろう、見た限りでは3000はいるぞ、しかも騎兵だ」
「ミドリ、貴方達はアリア様と共に森に向かいなさい。出来れば仲間達に連絡を、急ぎなさい」
サラサが傍らに来ていたミドリ達に指示を出す。そして、その指示を受けミドリ達は急いで馬車へと向かう。
砂塵の正体は騎馬の蹴上げる砂埃だったのだろう。しかし、その騎乗する馬達もマナの影響を受けている様子は見られない。
「北方産の馬ですかな、という事は教皇の親衛隊、または近衛といった所ですかな。ただあの者達がどうやって魔物をこの地に送り込んだかは解りませんが」
コラルの言葉に特に反応を示す事無く、騎馬隊を見ていたキュアリーがボソリと呟いた。
「でも、流石にドラゴンまでいるとは思わなかった様ね」
当初の勢いのままに突撃でもするつもりに見えた騎馬隊が、明らかに動揺を見せてその行軍を停止しはじめている。その視線の先はキュアリー達では無く、その後方に蹲る龍達であった。
「まさか焚火の如くマナに当たってるとは思わないもんね」
ただ、その先頭にいる者達は幾度か何か遣り取りを行った後、1000騎ほどの騎兵が突撃する様子を見せた。それを見たキュアリーは、アイテムボックスから数本の壜を取り出した。
「さぁ困ったわね、貴方達も引くなら今よ?周囲からマナが減れば減るほどこちらは戦えなくなる。だから魔法は使えない。それに対して相手はその影響はまったく受けないか」
「そうだな、ただ俺は獣人だ。もともと攻撃魔法は使えんからそれほどマナは消費しない」
「わたしだってバフで何とかなります!」
「ふぅ、解ったわ。好きにしていい。ただ私だってこれだけの数を相手にするのは厳しいから、助けられないわよ?」
「もちろんだ、援護をしに来て足を引っ張るつもりはない」
コラルの言葉にサラサも頷く。それを見てキュアリーも頷いた。
魔法発動用のマナはあっても、周囲のマナが足りなければ魔法は発動しない。それはエリアヒールですでに実証されている。であれば魔法に頼らない、マナに頼らない戦い方をしなければならない。
ただ、誰もが忘れがちになるし、本人も魔法のゴリ押しで何とかなってきていた為忘れがちになるのだが、本来キュアリーは回復職である。魔法を使用しない近接戦闘は専門外であった。
ましてや相手は騎兵3000である。相手に持久戦をされればドラゴンが味方として参戦したとしても勝ち目はない。
「まずは出足を挫かないと・・・問題はこれをどうやって此方に被害が無い様に投げつけるかだよね」
その最中にも騎兵はこちらへと突撃してくる音が周囲に響き渡る。
「間に合わないか、よし、二人とも思いっきり遠くまでこれを投げて、あ、ここまで来たら騎兵を引きつけてね」
「わかりました。・・・・ふん!」
「えい!」
ある意味矛盾する指示を受けながらも、二人はその壜を騎兵に向けて投げつけるのだった。
そして、騎馬は隊列を組んでいる為にその壜を避ける事が出来ず、そのまま此方へと突入してくる。
そして壜は騎兵に当たった瞬間砕け散り、その中身を周辺へと撒き散らした。
「「「「ぐおぉぉぉ~~~~」」」」
「なんだこれ、ゴホゴホゴホ」
「涙が、涙がとまんない」
「キャイン!キャイン!」
中央の騎馬が転倒し、その後方の馬も巻き込まれて被害を出す。しかも、前方から強烈な刺激臭が広がりコラルやサラサ達も目から涙を流し、咳き込み、まともに前すら見る事が出来ない。
「あちゃぁ、騎兵1000には焼け石に水だったかな、もう少し周囲に広がると思ったんだけど。ましてやちょっと予想外にこっちがダメージうけてるわこれ。まぁそれでも勢いは殺せたかな」
「事前に情報が欲しかった・・・」
隣から何かそんな言葉が聞こえたが、キュアリーは聞こえないふりをする。
そんな中、滅多にキュアリーの傍を離れる事のないルーンウルフ達が一斉に森の方へと撤退を始める。これでルーンウルフですら戦力外となってしまった。
「駄目じゃん、チカン撃退用ポット・・・ゲームでは赤ネーム以外には効果でなかったのになぁ」
ゲームで使われていた対PK用装備としては一般的な物であった。ただそもそもこの時代戦闘職達は全員PKと言っても可笑しくは無い、一応この世界でも非戦闘職には効果がない不思議仕様なのだが。
「さて、バフくらいのマナ消費は勘弁して貰いましょうか」
そう言うと、取り出したMPポーションを周囲へ振りまきながら次々と自分達へとパフを掛けていく。
「よし、この方法で効果の小さい魔法はいけるね」
周囲の消費マナをMPポーションで代用する。思いつきの産物ではあるが、とにかくこれで少しは勝算が出てきたように思うキュアリーであった。
すっごく久しぶりの投稿です。
一応、樹でリハビリ出来たかな?という事でこちらも金曜投稿とか・・・してければいいなぁ




