1-40:何事も予定通りにはいかないです
キュアリーはルルパパの背に乗り、コルトの森へと急いでいた。
そして、遠目に森が見え始めた時、森の手前で幾つもの光が明滅し魔法が飛び交っているのが見えた。
「派手にやってるね、まだ遠いのに戦闘が行われているのが見える」
「ヴォン!」
エルフ達が優勢なのか、そうで無いのかは解らない。しかし、今も激しく攻防が行われているのが解る。
又、コルトの森の方から多数の精霊達の気配がする。
「急ごうか、森が燃えてしまえば結界も何もないからね」
そう告げると、キュアリー達は速度を速め森へと向かうのだった。
そして、より状況が解る場所へと辿り着いたとき、不意に周囲が暗くなった。そして、自分達にかかるその影は、移動をしており森へと向かっていった。
「え?」
キュアリーが視線を空へ向けると、空に巨大な龍の姿があった。
そして、その龍は複数頭おり、そしてあっと言う間にキュアリー達を追い抜き森へ向かって飛び去って行く。
そして、その進行方向であるコルトの森上空を通過する勢いであった。
「うわぁ、龍まで来たんだ。ちょっと不味い?」
ルルパパの上でそう呟いたとき、視線の先の空にいる龍たちが森の入り口上空へと差し掛かる。
「みんな、緊急停止!って、うわっ!」
キュアリーの叫び声で、ルーンウルフ達が一斉に急停止した。その為、叫んだ本人がルルパパの上からコロコロと前方へ転がり落ちた。
まさにその瞬間、前方から地響きが響き渡った。
「あちゃ~~」
転がり落ちたのにまったくダメージを負った様子の無いキュアリーは、その寝っころがった状態で前方を見ていた。そして、コルトの森上空、空を飛ぶ龍の前方で半透明の壁の様な物が数度瞬くのと、龍が墜落していく姿を確認していた。
「GYUOOOOOO~~~」
地面に落ちた龍が叫び声を上げる。さすが龍というべきか、ダメージを受けた様子は無い。ただ龍達よりも深刻なのは、龍が墜落した場所に展開していた魔物達であった。
「グオ!」「ガルルル!」ドシャ!ドガ!ズドン!
「あちゃ、やっぱり阻まれたか。空からのショートカット禁止結界はまだ生きてんのね」
空から落下してきた龍達は森の手前に墜落した。
コルトの森の不思議仕様である空からのショートカット禁止結界の仕業であった。
これは、森の木々がある場所を起点になぜか発生する。コルトの森に住むキュアリーをもってしても解除する事の出来ない結界であった。
この結界の為、龍は森の外縁に次々と墜落した。エルフ達は森の中で防衛していた為に被害は無く、魔物達のみが押し潰される結果となっる。
その為、オークやオーガなどの魔物達は、自分達が攻撃されたと認識し、龍達を敵と定め次々に攻撃を開始した。しかし、地面に落ちた龍たちは地面に落ちた状態から特に率先して反撃へと移る様子は無い。ただ鬱陶しそうに尻尾を左右に振り回すだけだ。もっとも、尻尾が動くたびに多くの魔物達が巻き込まれ吹っ飛ばされたり、轢き殺されたりしているが。
「これはちょっと魔物さん達にはキツそうだなぁ。明らかに動きが悪くって・・・エルフ達撤退始めてるじゃん」
眼前の戦いにおいて、先程まで果敢に魔法や弓で攻撃を行っていたエルフ達がどうやら森の奥へと撤退を始めた様であった。そして、キュアリーはその原因にすぐに思い当たる。
「マナが薄くなってる?龍が周辺のマナを貪ってませんかこれ?」
地面に落ちた龍たちは周りの戦闘には一切構わず、首を伸ばして口を開け何かを吸い込んでいる。
「もしかしなくともマナを求めて飛んできた?」
周辺のマナの流れを追えば、明らかに龍たちへと流れ込んでいく。その為に周辺のマナ濃度が激減し、中には行動不能に陥っている魔物も見て取れた。
「マナって口から吸いこめるんだぁ」
そんな馬鹿な感想を述べるキュアリーを他所に、戦闘はより混迷を深めていく。
龍が来た以降において、明らかにエルフ達の魔法攻撃力が減少している。これは明らかに魔法に使えるマナの量が減少している為と思われる。その為、弓や槍などの物理的な攻撃が中心となり、不利であるエルフはまだマナが豊富である森の中へと撤退を選んだようだ。
エルダーなどの森サイド?エルフサイド?の精霊族は、慌てたようにワシャワシャと動いてはいるが、流石にエルダーや獣人達まで撤退する事は出来ないのか、引き続き魔物との戦闘を継続している。
ただ、その動きに先程までの鋭さも、精彩さもない。
逆に、あまり影響を受けていないのがゴブリンであった。元々の生命力に加え、元来必要とするマナが少ないのか、森へとじわじわと近づいている。
逆にマナが大量に必要な魔物であるサイクロプスなどは、今いる場所で座り込み、活動を完全に停止していた。
「微妙だねぇ、ただ森が枯れ始めてるのは困るかな」
マナの急激な減少の為、森を構成する一部の樹木の色が変わり始めていた。植物の生態系を回復させるのはキュアリーと言えど疲れる作業である。又、森に張られている結界も、当たり前にマナを使用している。この為、マナの減少は即エルフ達の存亡の危機に繋がるのであった。
「むぅ、龍達に話が通じるかな?」
「ヴォン!」
「うん、古龍であればとは思うんだけど、古龍っぽいのが見当たらないんだよね」
目の前に現れた龍は、風龍に分類される。その風龍における古龍は、蒼みがかった独特の色合いをしている。で、現在目の前にいる龍達はライトブルーの色合いをしており、残念ながら蒼とは程遠い。
「火龍が来ていないだけでも良いかな?ともかく、活動停止している大型の魔物を削りましょう」
そう言うと、キュアリーとルーンウルフ達は目の前の混戦に乱入した。
魔物達の中においてゴブリンは比較的マナの減少に影響を受けていなかった。更には、力の弱いゴブリン達は龍を避け、森への突入を目指して組織だって動き始めていた。エルフが森の奥へと移動し始めた為、森への取っ掛かりが出来始めつつあったゴブリン達は、この突然後方で始まった戦闘に大きく動揺した。
もっとも速度に勝るルーンウルフは、前方の障害となるゴブリンなど眼中になく、蹴散らしながら蹲るサイクロプスなど大型魔獣へと襲い掛かる。
キュアリーはルルパパの上で左右にメイスを振り回し小型の魔獣を撲殺、更には唯一と言ってよい攻撃魔法サンダー系統を使い一体ずつ確実に倒していく。ルーンウルフが入り乱れる中においてサンダーレインは使用できない為、殲滅速度は決して速くは無い。
しかし、背後からの攻撃だった事もあり確実に魔物の数を減らしていく。
ズン、ズン、ズン
前方にいた魔物を蹴散らし、オークの群れにキュアリー達が突入しようとした時、戦場に重低音が響き渡った。
「何ごと?」
キュアリーがその音の方向へと視線を向けると、ただ座り込みマナを吸い込んでいたはずの龍達が一斉にキュアリー達の方向へと顔を向け、動き始めていた。
「えぇぇ?!ちょっと!何が起こってるの!」
幸いにもマナが不足している為なのかその動きは速くない。しかし、龍達は口を大きく開け、涎まで垂らしてドシドシとこちらへと向かって来る。
そして、その眼差しは真っ直ぐにキュアリーへと注がれており、まさに身を焦がしそうな程に熱い。
「撤収~~撤収って言ったら撤収~~!」
思わずそう叫んでいた。
前進し魔物達を狩り続けつルーンウルフ達へと指示を出す。ルルパパはキュアリーの指示に従い後方へと戻ろうとするが、魔物の群れに深く入り込んでいた。更には龍に追われるようにオークなどの中型魔獣がこちらに向かって来る。その為、思う様に撤退など出来ず、退路を作ろうとする間にもドスドスと龍の足音は次近づいて来る。
「ちょっと洒落になってないよ?なんでこっちに来るの!」
そんな声も周りの喧騒で掻き消される。
「ヴォォ~~~~ン!」
ルルパパの叫び声に、ルーンウルフ達は龍と逆方向へと一丸になって突撃し道を造ろうとする。
しかし、魔物をものともせず踏み潰し、薙ぎ払って突進してくる龍の速度には到底及ばなかった。
「サンダーレイン!サンダーレイン!」
ルーンウルフ達が前方へと集中し、龍達のいる後方への攻撃が可能となった。その為、キュアリーは龍へとサンダーレインを連射する。しかし、サンダーレインの攻撃力は確かに命中しているものの、龍の動きを押しとどめる程では無い。
多少のダメージは受けてはいるのだろうが、なんら龍に影響は感じられなかった。
「う~~~、駄目だ!えっと、えっと、何か無かった?」
キュアリーはアイテムボックスに入っている物を表示させ、必死に今の状況に対応出来そうなものを探す。
「えっと、これは?」
目につく物をポイッと後方に投げる。
投げられたコインは、龍の目の前で光を発し、何かが出てきた瞬間、龍に踏み潰された。
後ろから響く足音に、変化が見られない為キュアリーは更に目につくアイテムを後方へとポイポイと投げ続ける。
ドゴ~~ン!ギュイ~~ン!ポテッ!
ドスドスドスドス
様々な音が後方で響き渡るが、龍の足音に変化は見られない。
「うわ~~ん!ぜんぜんダメじゃん!」
そんな最中にもルーンウルフ達は前方で次々と魔物を蹴散らしていく。
魔物達もキュアリー達と同様にパニックとなり龍から遠ざかろうとしていた為、ルーンウルフ達は魔物の背後から攻撃する事となった。その御蔭で、被害自体は無い。ただ、それ故に魔物の群れから脱する事に時間は掛かっていたが、漸くその群れを追い越し前方へと走り抜ける事に成功した。
「やった!出れた!」
思わず喜びの声を上げたキュアリーだったが、焦っていた為途中から後方の足音が消えていた事に気が付いていなかった。
そして漸く魔物の群れを突破した時、後方から響き渡る音が鳴くなっている事に気が付いた。
「あれ?足音が止まってる?」
今も走り続けるルルパパの背中から、キュアリーは恐る恐る後方を振り返った。
「・・・・・・あ~~~、うん、あ、ハッピーフラワー?」
キュアリーの視線の先には、頭の上に大きな向日葵が生え、幸せそうな笑顔?を浮かべた龍やオークなどの魔物達が頭を左右にふらふらと振っているのが見えた。
この状況が、遥か昔期間限定イベントで手に入れたハッピーフラワーというアイテムにそっくりだった。
「うわ、まだ持ってたんだっけ?と、とにかくルルパパ止って!」
学習するキュアリーは、ルルパパの首にしっかり捕まりながらルルパパに停止を指示。
恐る恐る後方の魔物達の様子を確認する。
「でも、こんなに広範囲になんで?」
様々な偶然が重なり、爆風で跳ね上げられたハッピーフラワーのアイテムが魔物達の頭上で展開、その粉を一面に撒き散らしたのだった。もっとも、投げつけたハッピーフラワーの数も勢いに任せて個数設定を1枠そのままのアイテム99個で投げていたのも原因ではあったが。
「ともかく、効果時間内に何か対策をしないと?でも・・・やっぱり間抜けよね」
「・・・クォン・・・」
頭上に向日葵を咲かせてへらへら笑う魔物達。どちらかというと逝っちゃってる?という表情を見て自分がやったこととはいえ思わず身震いをするキュアリーだった。




