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1-38:砦陥落

大きくお待たせしました。執筆再開です。

砦の周辺には死んだ動物や、人間が至る所に転がっていた。

本来、血の匂いに誘われて狼などの肉食獣が集まってくるのであろうが、幸か不幸かキュアリー達一行の動きに従って移動している為、意外に死体はどれも綺麗であった。


「グルルル」


その中に合って、数頭の若い豹が牛の腹に食らいつきながら、しきりにキュアリー達の方向を気にしている。

恐らく飢えに負け、まず飢えを満たす事を優先したのであろう。そして、離れていくキュアリーの気配、それかマナの気配を気にしているのだろう。

漸く、真っ赤に染まった顔を上げ、慌てたように走り出した。しかし、離れる最後まで未練がましく牛の死骸へと視線を向けていたのが、ある意味可愛らしいと言えるのかもしれない。

もっとも、顔中を真っ赤に染めての可愛らしさであるが。

一頭の豹が走り出すと、それまで他の死骸を貪っていた豹や狼達も一斉に移動を開始した。

どの動物達もマナを感じ取れるギリギリの距離まで粘っていたのだろう。そして、未練がましい視線を送るのはどの動物達も同様である。

それどころか狼たちの何頭かは牛や馬、鹿などの一部を口に咥えて走っている。

狼などは数頭で協力して、牛の死骸を引きずっている者もいる。

きっとそれは留まる事なくキュアリーへと同道している子供達への食べ物なのかもしれない。


「漸く行きましたか。そろそろこちらの本隊も来るので、無駄な争いにならないかとヒヤヒヤしました」


それこそ豹の頭をした獣人が走り去る動物達を見ながらそう呟いた。


「まぁ俺達はテイマーじゃないから会話なんてできないからなぁ。最悪同族殺しってか?」


おどけた口調で狼男のヴォルフがからかうが、それを相手にする無駄を知っている豹男は相手にもしない。


「なぁゼストさぁ、ちっとこの肉勿体ないよな集めてきて良い?」


「そうだな、ついでにユーストリアの連中の死体は焼くか埋めるかしてくれるなら良いぞ?」


「馬鹿野郎!俺一人でこの数を処理出来るはずないだろうが!」


「とにかく、砦の入り口をかたずけるぞ。あとで文句を言われてはかなわん」


砦の城壁の上でそんなやり取りをしている二人は、視線の先の景色が次第に何かに塗りつぶされて行くのに気が付いた。


「お、おいでなさったか」


「とりあえず砦で一旦休憩を取る事となるだろう。まぁこれだけの食糧があれば移民者の士気も多少上がるんじゃないかな?」


「そうあって欲しいね、ハッキリ言ってただ歩いてるだけの癖しやがって、文句が多い奴が多すぎるぜ、そう思わねぇか?」


ヴォルフは忌々しそうに近づいてくる集団へと視線を飛ばす。

そこには正に数万はいるのではないかという移民の集団であった。

構成されている種族自体は獣人だけでなく、人族も、エルフなど亜人も見られる混成集団であった。


「で、捕虜になった連中はどうするんだ?さっさと殺っといた方が面倒じゃなかった気がするんだけどよ」


あの戦闘の後、砦に残っていた中でも身分の高そうな者を幾人か捕虜にしていた。

ただ、戦闘時に特に騎兵が逃げ出している事を確認していた。この為、その後のユーステリアの動きを考えての行動ではあったが、意味があるのか無いのかは判断がつかなかった。


「まぁ邪魔になれば改めてその際に処刑すれば良い。ともかく受け入れの準備をするぞ」


ゼストはそう告げると門の入り口の方へと向かう。そして、そこかしこで片付けを行っていた部下達に、改めて新たな指示を飛ばしていった。


一通り門の前が通れるようになると、門の周辺に焚かれた篝火に次々と訪れる者達の姿が浮き上がった。

どの者達も痩せ細り、疲れを感じさせる。しかし、疲れを感じさせる表情を浮かべながらも、砦に辿り着いた為なのか、誰の表情も明るい。


「ゼスト、ヴォルフ、ご苦労様でした」


移民集団の中から、数人の者がゼスト達へと近寄ってきた。

身に固めた装備から見ても、明らかに上位者である事が窺える。


「「団長、お疲れ様です」」


ゼスト達は直立不動でその男達を迎え入れた。


「まさかお前達だけで砦を陥落させるとは思わなかったぞ?」


団長と呼ばれた獅子の獣人は、満面の笑みでゼストと抱擁を交わす。


「運が良かったとしか言いようがないですが、例の集団の御蔭です」


「うむ、とにかく第一目標までは到達した。この後の打ち合わせをしようか」


団長の言葉に、ゼストも、それ以外の者達も頷き、砦の中へと入場していった。


その後、砦にある指揮所と思われる場所で移民集団における主要な者達が一同に会していた。


「ここから先は大きな障害はなかろう。よく此処まで辿り着いたものだ」


獅子の頭を持つ亜人が、皆を代表して声を発する。


「微かではありますが、次第にマナが濃くなってきていたおかげですね」


ヒーラーと思しき女性が意見を述べる。ただ、一見人に見える女性の頭部にも、猫の様な耳がピコピコ動いている。


「流石に此処まで来れば、マナが濃くなって来ている事に気が付きますからね」


「決断してよかったですな」


声を発する者達の表情はどの者達も明るい。


「しかし、神託があったとはいえ、賭けではありましたから」


「反対者の説得で、思わぬ時間を取られました」


「ましてや、いざ出発すれば、通る先々でどんどんと加入者たちが増えていくし」


そこで周り中から笑い声が響き渡る。


「さぁ、ともかく話を進めましょうか」


先程、団長と呼ばれた獅子族の男が再度話を始める。


「数日後にはエルフの森へと辿り着く事となります。その為、ユーリを使者に送りたいと思います」


その言葉と同時に、一人のエルフが立ち上がり会釈をする。


「そうですね、ここはユーリ殿にお願いしましょう。同族である方が話も通りやすいでしょう」


「氏族は違えども、同じエルフですから。それに、報告にありましたように、ハイエルフの女性を確認したようです」


その発言に集まった者達は苦笑を浮かべる。


「まぁその事が吉と出るかは不明ですがね。もともと、ハイと付く上位種族の方は厄介な方が多い」


「そうですね、上位種族と言われていますが、今もって残っている伝承などでも碌な事が無いような」


「それに、エルフの森にいるハイエルフと言えば、どちらかといえば世捨て人?」


「ご本人かは不明ですがね。死亡説も出ていましたし」


どちらかと言えば雑談タイムの様相を醸し出してきた。

そんな中においても、随時伝令が入れ代わり立ち代わり状況報告を行っていく。


「どうやら、広場で炊き出しの準備が出来た様ですね。此処に来て大量の食料が確保できたのは助かりました」


「手持ちは残り少なくなって来ていたからな」


「明日、日の出と共に出発する。皆に伝えてきてくれ」


伝令は指示を受けると、踵を返して部屋から立ち去って行った。


「さて、あとはユーステリアが上手くやっているかだが、そちらはもう情報が入ってこないからな」


「適応者を纏めて北方へと送り込んでいるみたいですね。問題は教会幹部達の処遇ですか、ここまで来るのに何年時間を掛けているのやら」


苦笑を浮かべながらも、その表情は決して明るくない。


「善良な者、か弱き者達が死んでいく世界か、碌な世界じゃないよな」


「そうですね、ただ、悪辣だから生き延びられるといった物ではありませんけどね」


部屋にいる者達はみな頷き返した。

そして、今後の方針へと話は移り変わっていった。




翌朝、これと言った騒動も無く移民達はコルトの森へと移動を開始した。

明らかに慣れた様子で、数人毎の集団を形成し順番に出発していく。この為、大きな遅延や混乱が発生しない様管理されている。


集団の先頭には、間隔をあけて3つの集団が形成されている。

それぞれ相互に連携し、広範囲に渡って周辺を警戒し、即応出来る体制だ。


「エルフの下へ送った使者の戻り予定は解るか?」


「先に通過していった集団にハイエルフが居たとの事ですから、直接に森まで行く事はないです。それなので、それほど時間は掛からずに、戻ってくるかと」


「ハイエルフか、まぁあまり面識を得たい存在ではないな」


「おや?そうですか?知り合いに成れれば色々融通も受けれるんじゃ?」


「そんな簡単に取り入れられるはずが無かろう」


「まぁそうですね」


先頭を進む部隊の者達は、そのような軽口を叩きながらも周辺へ向けられる視線は非常に厳しかった。


「右、60度方向に何かいませんか?さっきから何か気配が入り乱れている様に感じられるのですが」


「ん?右か?・・・確かに、よく解らないな。後続に知らせて様子を調べさせよう。我々は此のまま移動だ」


「了解です」


右側を警戒しながらも、ゆっくりではあるが集団は移動を継続する。その集団の中から、数人の男達が右側へと向かっていった。その様子を注意して見ていた男達は、すぐに戻ってきた者達に怪訝な表情を向けた。


「なんだそれ?」


「いえ、なんだと言われましても」


戻ってきた男達は、その手に兎や狸を持っていたのだった。


「移動する集団から外れたのか?それにしても、よく種族の違う動物が一緒にいるなぁ」


「ええ、そばにゴブリンの死骸がありましたから、おそらくゴブリンに襲われて逃げてたんでしょうか?」


「で?こいつらは夕飯に?」


男がそう告げた途端、まるでこちらの言葉が解るかのように、狸たちはブルブルと震えだした。


「・・・・・なんか変じゃないか?この狸たち」


その様子を目の前で見ていた者達が、それぞれに疑問に思う。そして、団長へと判断を委譲する事とした。


「まさかさぁ、動物に姿を変えられたお姫様とか?」


思わずといった感じで発言した男に対し、副官は無情にも現実を突きつけるのだった。


「残念ながら、この生き物たちはすべて雄です」


そして、お腹の方を男に見えるように突き出した。

その後、男は無言を通したのだった。

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