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1-36:砦突破へ

移民開始4日目、それまで以上に周囲を警戒しながらの行程となった。

又、当初は元気だった村人達にも疲れが出始め、移動速度も次第に低下してきている。それにある意味比例して、一行に集まる動物達は増えていく。この為、遠目からみても非常に目立つ事となっている。


「これってお忍びではないよな、これでこっそりと移動してますなんてとても言えないな」


「砦付近を無事に通過できるかが心配ですね」


「いや、どう考えても何事もなくとはいかないでしょう」


「その割にはキュアリー様はあまり気にしてないように見えますけど・・・」


アリアやサラサ、コラル達が周辺への警戒を強める中、キュアリーはまったく気にしたような様子を見せずただ淡々と馬車の中で何かを行っている。ただ、時折キュアリーが馬車の外へと視線を向ける。そして、キュアリーと合わせたかのようにルルも、そして集まっている動物達の一部も同じ方向へと視線を向ける事が有った。この為、その時々でコラルが視線の先へと斥候を出すが特に何かを発見したという事は無かった。


「キュアリー様や動物達の挙動が気になるんだよな、何かを気になさっているのだろうが尋ねても答えては戴けないしな」


「そうなの?」


「ああ、何度かお尋ねしたんだが、何でもないってお答しか返ってきてないんだ」


「なんだと思いますか?」


「考えたくはないが、何かに追跡されているような気はする。ただ、悔しいが相手の方が技術が上なのかその痕跡すら見つからないが」


「考えすぎってことはない?」


「そうね、コラルの索敵能力を上回る者がいるとは考えたくないですね」


サラサとアリアがそう尋ねるが、コラルの表情は優れなかった。

その様な不安に駆られながらも一行はその後もアクシデントに見舞われる事無く、順調に工程を消化していった。その間もコラルは幾度となく自身が斥候として周囲への偵察を行う。しかし、ユーステリア軍の影は見えず、又それ以外の不審な形跡すら見つける事は出来なかった。


移民開始から8日目、その日はここ数日の晴れが嘘のように朝から雨が降り始めた。

幸い雨が降ったからと言って寒さで凍える気候ではない。この為、一行は雨が止むまで留まるのではなく、そのまま前進を続ける事を決断した。しかし、その後足元の状況が更に悪化し、更には視界が大幅に制限されるようになり予定の行程の半分を進んだ辺りで行軍を中断し野営する事になった。


「警戒を今まで以上にお願いします。雨で視界が限られ、匂いも感じられなくなります」


「そうですね、あと2日もすれば砦の守備範囲になる。警邏や、砦に向かう者達に遭遇する可能性も今まで以上だと思われる。十二分に警戒をしてくれ」


アリアとコラルの言葉に他の面々もより厳しい表情で答える。

そんな中、普段は馬車の中で何か作業を行っているキュアリーが馬車の外へと出てきたのだった。


「あの、キュアリー様?何かありましたでしょうか?」


キュアリーの警護兼監視役でもあるミドリが声を掛ける。そして、その声でキュアリーが馬車の外へと出てきた事に気が付いた面々が、自然とキュアリーへと視線を向けた。


「うん、漸く作りたかった物が完成したから」


キュアリーの言葉を聞き、アリアやコラルの頭に明日にも行われる可能性のあるユーステリア軍との戦闘が頭に過った。そして、おそらくキュアリーも同様にその戦闘における何某らの武器又は道具を作っていたのだと理解した。


「さすがキュアリー様です、それでどのような武器を御作りになられたのですか?」


「武器、又は道具ですか?お使いになられる前に我々にも教えて戴かないと混乱が発生します」


「そうですね、砦の破壊用ですか?それとも部隊に対する攻撃用ですか?」


それぞれが興味津々で問いかける中、キュアリーはきょとんとした表情で面々を見る。そして、首を傾げるのだった。


「んっと、何を言ってるのか解らないけど見る?」


キュアリーは馬車へと視線を移し、みんなを馬車へまで案内する。そして、馬車の中を覗き込むとそこには埋め尽くすように置かれている直径15センチくらいの毛玉のような物があった。


「えっと、これは何なのでしょう?」


そう言いながらアリアが手近の一個を手に取る。すると、毛玉だと思われたものは仄かに光を点滅させる。


「爆弾ではないですね、柔らかいですけど、中心に何か入ってますね」


「もこもこしてて手触りは良いのですが、武器・・・では無さそうですよね?」


サラサの武器っぽくない発言で再度皆の視線がキュアリーへと集まった。


「うんっと、精霊があんまり顔の前にへばり付いたりして邪魔だったから憑代を作った」


「はぁ、憑代っですか?」


「そう、この中に水晶が入っててその中に精霊が住めるように魔法陣を構築して、マナを少し込めたの」


「精霊が住めるようにですか」


ニコニコと笑顔を浮かべるキュアリーに対し、アリア達は手元の憑代とキュアリーを交互に見る。


「そうすると、これは戦闘に使えるのでしょうか?」


「ん?戦闘?」


「いえ、明日にはユーステリア軍と接敵する可能性が高いですから」


「ん~~~使ってもいいけど、どう使うの?」


「いえ、それを私達に聞かれても」


お互いが顔を見合わせて頭を傾げるといった変な状況が生まれる。そして、この段階で漸くアリア達はキュアリーが作ったものが戦闘にまったく使えない物なのだと言う事に思い当たった。ある意味、戦闘に使える物を作ったとの思い込みが生んだ悲劇?喜劇?であったのだろう。


「はぁ、わかりました。とにかく明日はユーステリアとの戦闘が見込まれますのでキュアリー様もご注意願います。ミドリ、貴方も打ち合わせに参加して頂戴」


「はい」


アリアがそう締めくくる。そして、再度キュアリーと他のメンバーで対策を練る為に集まるのだった。

そして皆が馬車から離れる中、ミドリはふとキュアリーへと振り返る。すると、キュアリーが不思議そうな表情でミドリ達を見ている事に気が付いた。そして、その表情に何かが胸を過り足を止めキュアリーへと問いかけようとした。しかし再度アリアに呼ばれて問いかける事無く過ぎ、その後のドタバタとした状況の中忘れ去ってしまった。


翌日になり昨日まで降り続いていた雨が止んだ。雨によって早くに野営をしたおかげか、一行の疲れは多分に和らいでいた。又、周囲を取り巻く動物達も雨の恵みによって息を吹き返したようにも見えた。


「それでは出発しましょう。急いで何かが大きく変わるかは解りませんがぐずぐずしていてもそれこそ意味が無いでしょう」


アリアの合図で一行は出発した。そして、その動きを妨げることなく周辺に集まる動物達もゾロゾロと動き始めた。


「昨日も言いましたけど、増えましたね」


思わずと言ってしまったという感じのサラサに対し、アリアも大きく頷いた。

いまや万を超すのではないかといった数の動物達が移民たちの周辺を取り囲んでいた。そして、馬車の上へ視線を向ければ、その位置がすでに定位置となった大鷲が2匹止まっている。


「襲ってこないと解っていても怖いですね」


アリアが大鷲を見上げながらそう言うと、その視線に気が付いた大鷲がアリアへと視線を向ける。しかし、その視線に敵意は感じられない。それどころか少し馬鹿にしたような視線にも思えてアリアは憮然とした。


「アリア様、あの後、キュアリー様は馬車の中で又何か始められましたが、もしかして昨日の話を聞いて武器か何かを作られ始めたのでしょうか?」


「サラサ、無駄な期待を持つのはやめなさい」


そう言うとアリアは少し拗ねたような表情を浮かべる。


「あの、そんな拗ねられたって私も困るのですが」


「わたしはもうキュアリー様に常識的な期待を持つのは諦めました」


「え?あの、常識的なとは?」


「この後戦闘になったとして、私達に被害が出るとしてもキュアリー様に被害は出ないでしょう」


「え?でも万単位の戦力がいる可能性があるんですよ?」


「いえ、わたしも冷静になって考えてみたのですが、多くても1000名くらい、少なければ200とか300くらいの兵しかいないでしょう。現在、マナ減少の状況下において元気な兵力はそう多くないでしょう。それに、そのような兵士を現在もっとも必要としているのはユーステリアの本国だと思います」


「なぜとお聞きしても良いですか?」


「ええ、民衆の暴動を抑えるためです。マナの減少を抑える事の出来ない教会、マナ減少による身内の死亡、飢饉、その他数えきれないほど不安要素はあるでしょう」


「でも、その為にエルフ領への侵攻を行うのでは?」


「エルフが原因だと思っている者がどれ程いるでしょうか。500年以上前からマナの減少は騒がれていました。確かにここ数年での減少量は凄まじい物があります。しかし、バランスの崩壊とはそういう物です。その事は上に立つものならば理解できるでしょう」


「それでは、マナ減少は止められないということでしょうか?」


「私達では無理でしょうね、それこそ神でもなければ」


そう言うとアリアはキュアリーの乗る馬車へと視線を投げた。

そして、最後にこんな一言を告げそれ以降は口を開かなかった。


「神とは常識で測れる方々では無いのでしょう」


◆◆◆


砦より徒歩1日となった所で、キュアリー達一行は野営に入った。明日、一気に砦を抜ける方向で話は纏まっている。往路において発生したマナの急速な減少は幸いにしてすでに中和され、ただいるだけでマナが減少していくといった症状が起きない事が確認されひとまず安堵の吐息をついた。


「増員されていないとしても、警戒は強化されていると思います。それに、前回のように奇襲のような形はまず不可能でしょう」


アリアの言葉を裏付けるように、先行していた者達からは遠目にも篝火が集れ武装した兵士たちが警邏する様子が報告される。


「正確な兵士数は残念ながら確認できませんでした」


「夜陰に紛れての突破を行いますか?」


「これだけ周りを動物達に囲まれていれば夜陰での突破であれば紛れる事も可能なのではないでしょうか?」


「しかし、動物達の動きは予測が付かないぞ?」


様々な意見が飛び交う。そして、そんな中更に情報が入ってきた。


「アリア様、我々っというか動物の集団がユーステリアに察知されたようです」


「どういう事ですか?」


「明らかに戦闘準備が行われています。そして、聞こえてくる声が肉、肉っとしか聞こえてきません」


「・・・・・・・」


この場にいる一同の脳裏で、なんとなくユーステリア軍の今起きている状況が察せられる。


「夜戦というか夜の狩に出てきそうですか?」


「それは何とも、ただ連中の興奮具合から考えますと恐らく」


「全員急いで戦闘準備、大型動物を盾にし夜陰に紛れて突破します!」


アリアは急いで戦闘及び移動の指示を出したのだった。

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