1-34:転んだらただ起きないはずがひっくり返る?
1-35ではなく1-34であった為訂正いたしました。
本文の変更はありません。
キュアリーが捕えた騎士達の元へと赴くと、村の男達が椅子に座って雑談している場面に遭遇した。
床に寝かされた騎士達を他所に雑談している男達を訝しんで眺めると、その事に気が付いた男達がキュアリーへと話しかけた。
「あ、キュアリー様申し訳ありませんがちょっとこいつらに掛けた睡眠を解いて貰えませんか?」
「さっきから殴ろうがなにしようが目を覚まさないんですよ」
騎士達をつま先で軽く突っつきながら告げられる内容に、キュアリーもあぁなるほどっと納得の表情を浮かべた。
「ん~~、別に起こさなくてよくない?特に気になる情報はないし」
「え?でもこのままではユーステリアの動向が掴めませんよ?」
「早々にこの村から離れる事になったし、エルフの森へ向かう過程で遭遇するのは仕方がないし、知りたい情報ってなくない?」
「む、そう言われるとそんな気がしてきますが」
男達が首を傾げている横で、キュアリーは倒れている騎士達の様子を窺う。
身に着けていた甲冑や武器は外されて後ろ手に縛られている、その為気が付いたとしてもすぐに飛び掛るなどの動きは不可能そうだった。
「どうする?この人達も何かに種族を換えとく?意識が無い今なら問題なくいけると思うけど」
キュアリーの言葉に、村人達からどよめきの声があがった。
「換えるとしたらやはり、ざまぁ!って言える種族が良いですね」
「こいつらが狼狽える姿は見てみたいですね、ただ人族でなければ何でも一緒の気がしますが」
「定番でゴブリンかコボルトとかか?あまり強い種族にはしたくないですしね」
「ですね、あまり強い種族にして反抗されても厄介ですしね」
一同の意見を集計するとある意味無難な所で納まりそうな気配である。このまま意見が通ればではあるが。
「う~~ん、何か飽きたのよね~ゴブリンは臭いし、コボルトがもっと可愛ければいいのだけど」
「え、いや、そんな理由を言われても」
「せっかくなんだから何か可愛いのっとかよくない?」
「いや、まぁなるのは俺達じゃないし別にかまわないんだが」
そう告げる男達にキュアリーが更なる爆弾を落としたのだった。
「貴方達にも種族を換えて貰うからね?そのままでエルフの森で受け入れるつもりはないからね」
「「「え?!」」」
戸惑いが広がる中、キュアリーだけが何かブツブツと独り言を言っている。
「ここはそうねぇ、ちょっと意表をついた所で行きたいよね。なにがいいかなぁ」
「おい、俺達も何か面白くないで変な種族にされたりしないよな?」
「っていうかこの村出ないとダメなのか?」
より混沌が広がる中、唐突にキュアリーが横たわる騎士達の傍へと進んだ。
「種族改変!」
キュアリーの声と共に、騎士達を光が包み込む。男達があまりの眩しさに視線を背け、そして光が収まった先には明らかに人族とは違う姿が横たわっていた。
「あ~~なんというか・・・南無?」
「南無・・・」
「南無・・・」
男達が思わず念仏を唱える。その視線の先には全身緑の子供がいた。
「グラスランナーだよ、これで緑も増えるし、エルフの森にも同族はいるから問題ないだろうし」
「キュアリー様、緑って言っても色だけですが・・・それと何故にこのような姿なのですか?」
「ん~~~趣味?」
(((こいつショタか!)))
グラスランナーとなった男達は、明らかにある方面で垂涎の的になりそうな容姿をしていた。また、元々グラスランナーは妖精族になり、子供のエルフとも言えるような姿形であった。
「まぁ冗談はそこまでにして、貴方達も集会場に集まるように。この後住民総出で移民準備を行います」
「「「え?冗談で換えられたの!」」」
キュアリーの指示にまだ戸惑い、又は恐怖を感じながらも見張り担当を除いた面々は集会場へと移動を開始した。
移動後の拘置場では、実は魔王はキュアリーなのではと言った論議が行われていたが、それを本人はまったく気が付いていなかった。
そしてキュアリーがやっと集会場に足を踏み入れると、目の前には先程のロリサキュバスちゃんが数人の男女達に囲まれ未だにエグエグと泣いている姿が見られた。
「ん?何か雰囲気は変わってる?どことなくほのぼのしてるし」
入り口の傍にいた女性へと説明を求めると、種族変換を行った人達が目を覚ました後にフリカ御婆さんが泣いているのに気が付き構い始めたそうだ。
「まぁ元を知っててもあれだけ可愛ければつい構っちゃうからねぇ」
「ですね、ただ本人はあからさまに差別してますね」
フリカ御婆さんの動きを見ていると、女性に抱えられるとすぐさまその腕から脱出しどちらかと言うと筋肉質の男性へと縋りついている。そして、涙で潤んだ眼差しでしっかりと抱きつき、男性には頭を撫でられている。
「おお、間近では気が付かないかもしれませんが、あれ狙ってやってますね。時々口元が緩んでます!」
「だな、ある意味さすが小さくてもサキュバスって所か」
あっちへフラフラ、こっちへフラフラと移動しながらも恐らく好みなのであろう男性へと縋りつくその様は花々を渡り歩く蝶と呼ぶにはいささか幼すぎる容姿ではあった。しかし、それ故に周りの女性からの反感を抱くことなく自分最大の武器を利用しているとも言えた。
「おお、なんというかすごいね、肉食系だね」
キュアリーはその様子を見ながらもニヤニヤと笑いが込みあがってくる。
そして、周りで見ている女性達も、ある意味あからさますぎて反感の持ちようがない様子でただ生暖かくその様子を眺めている。
「フリカ婆さんも久しぶりのモテキだしねぇ」
「もともと容姿が悪い訳ではなかったからね。ただちっと背が小さいのと線が細かっただけだけどね」
「え?線が細いとダメなんですか?」
おばさん達の会話に、どちらかと言うと細身の女性の方がモテると思っていたキュアリーが疑問に思って尋ねた。
「ん?そうだね、腰がドンっとしてる方が安産で多産だからね。線が細いと病弱に見られちまうから今一モテないね」
「ほら、それにガリガリよりむっちりしてる方が良いだろ?よる一緒に寝る時とかさ」
おばさんの一人がコラルを見ながらそんな事を教えてくれる。そして、コラルは自身に集まってしまった視線に慌てて否定した。
「い、いえ!自分はやはり心のきれいな方であればそれで」
「はっ!お嬢ちゃん達気を付けなよ、こう言う奴ほど容姿の良い女にコロッと騙されちまうのさ」
「だね、ほらミヤーナの旦那だったラスターもそうだったじゃないか、街から来たっていう女にあっさり騙されてさ」
「あったね~あの時はミヤーナがバスターソード持ち出して大変だったよね」
段々と逸れていく会話に呆れた表情でキュアリー達は視線をフリカ御婆さんへと戻した。ただ、その際にサラサが嫌に冷たい視線をコラルへと送り、コラルが慌てて何かをサラサへと耳打ちしていたが。
「人の夢は本当に儚いのよね~」
「え?キュアリー様?」
キュアリーの呟きにキョトンとした表情で問いかけるサラサに対し、キュアリーは特に返事を返す事無く静かに部屋の隅へと移動する。
そしてキュアリーの視線の先ではフリカ御婆さんが今も泣きながらもしきりに自分の周りの男達へと視線を飛ばしている。そして、時々口元を震わせ、目元も泣いている様子ではなくなっていた。
「何かだんだん露骨になってますね、周りの男性の胸元に視線が行ってるし、やたらベタベタ触ってません?」
サラサがフリカ御婆さんを見ながら呆れた様子で呟いた。
「うん、でもわたし何か好きだなぁああいう人。自分に素直で、でも結局報われないのよね~」
やはりキュアリーが意味深な事を呟く。その事にサラサが再度問いかけようとするその時に奥の部屋の扉が開いた。
「なぁ目が覚めたみたいだから連れてきたけど、混乱してるみたいで状況が理解できてないみたいだからどうするよ?」
サラサが視線を声の先へと向けると、そこには後ろ手に拘束された女性騎士だったサキュバス達が立っていた。
「「「おおおお~~~~」」」
つい今まで必死でフリカ御婆さんを宥め構っていた男達が一斉に立ち上がって出てきた女性達へと熱い視線を送る。そこには恐らく10人中10人が想像するであろうサキュバスらしいボンキュボンのサキュバス達がいた。しかも、自分の置かれている状況が解らず、こちらもフラルお婆さんと同様に涙目で不安そうに周りを見回す姿が実に男達の庇護欲を掻き立てる。
「あぁ、これは負けましたね。キュアリー様はこの事に気が付いていたんですね」
「うん、まぁ奥で人の動きがあったのに気が付いていたからね。そろそろ出てくるかなって」
「なんですか、あの破廉恥な姿は!」
アリアがサキュバス達を睨み付けながらキュアリー達へと合流する。そして、アリアの怒りに共感した女性達も同様に自然と集まってくる。
「いや、種族をサキュバスにしたのはキュアリー様ですから、あの者達を怒るのは筋違いでは・・・」
コラルがアリアの言動にそう弁護するが、すぐに女性陣の視線に射竦められ黙り込んだ。
「さてさて、フリカさん挽回は出来るかな?」
一部の雰囲気が悪くなり、一部では桃色になる中キュアリーはただその成り行きを傍観していた。
その視線の先ではフリカ御婆さんが、えっ?えっ?っと言った様子で周りを見回している。
「お?どうしたフリカ婆さん。おお、泣き止んだな」
男達はそう言って頭を撫でる。フリカ御婆さんは頭を撫でられ安心したように眼を細めるが、頭を撫でる動作に先程までの優しさを感じられない。
そして、その事に気が付いたフリカ御婆さんはまた、えっ?っという表情で男達を見上げる。
そして、男達の服を引っ張るが視線がフリカ御婆さんへ戻る事は無かった。頭を撫でながらも男達の視線はボンキュボンへと視線が注がれたままである。
「ふ、ふ、ふぇぇ~~~~ん」
「お、おぉぉ?」
突然、再度マジ泣きを始めたフリカお婆さんに男達が動揺し、足元へと視線を向ける。
そして、その視線を請けながらもフラル御婆さんの泣き声は止まらなかった。
「ぼ、ぼ、ボン、ボンキュッボンがいいのじゃ~~~」
「あちゃぁ」
周りの女性達が困った顔でフリカ御婆さんを見る。そして、男達への非難の視線を強める。
「あんた達がそんなだからフリカ御婆ちゃんが傷ついちゃったじゃない!」
「ほら、大丈夫だよ~フリカ御婆ちゃんもピチピチになったからこれからだよ~」
「お、おう、ほらなんだ、べつにすべての男がボンキュッボンが好きなわけじゃないぞ!」
周りの者達は今度はフリカ御婆さんにテンヤワンヤになる。
「うん、お持ち帰りしたいよね~真面目に」
その様子を眺めていたキュアリーが思わずそんな言葉を零す。そして、傍にいた為にそれを聞き止めたサラサ達は真面目にドン引きしていた。
「ねぇ、この騒動の根本ってキュアリー様のせいよね?」
「真面目にこの人が諸悪の根源な気がしてきたぞ」
「えっと、ほら、ハイエルフって元々聖人君子と真逆な立ち位置ですし」
最後のアリアの言葉に一同は愕然とした表情で見つめ返した。
「そ、そうなんです?」
「ええ、前に言いませんでしたっけ?ハイエルフは自分の興味のある事には物凄く力を入れますが、興味のない事には一切関心を引かないそうです。まぁハイエルフに限らず、昔の英雄と呼ばれた人達の殆どが変人だったという書物もありますし」
「うわ!この人言い切ったよ!」
集会場が訳も解らず騒然とする中で、ただ取り残されたサキュバス(ボンキュッボン仕様)が涙目で周りを見回す。フリカ御婆さんに気を使う男達、ボンキュッボンに敵意を漲らせる女達、その他何が何やら解らないカオスが広がる中、外へと続く扉が開かれ馬車の手配などを行っていた者達が集会場へと入ってきた。
「ん?あたしらがいない間に何が起きてるんだい?あんたら余裕だけど移動の準備はいいのかい?」
その一言で漸く喧騒が収まり、一部の者を残して慌てて自分の家へと走って行った。
そして、それを見送るキュアリーに対し、サラサはふと湧き出てきた疑問をぶつける。
「あの、所で他の者達も種族変換しないとですよね?」
「え?うん、でもよく考えたら種族変換するとレベルが1に戻っちゃうからコルトの森に着いてからでよくない?」
「え!ここまでやってそれですか!」
サラサの叫び声が集会場内に響き渡ったのだった。
フリカ御婆さんの可愛さを出したくて頑張ったのですが・・・失敗!
涙目キョロキョロ、服をつんつん、後は読み手の人の想像力に頼ります!
(他力本願)




