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1-2:コルトの森のエルフ

広場の先の門を潜った時、目の前に広がる街並みに少女は驚きの声を上げた。


「うわ~~、これってエルフの森の街より大きいかも?」


後ろから少女に付いて来ていた女性達も同様に目の前に広がる情景に呆然としている。

エルフの街特有の大木を軸とした立体都市が突然目の前に広がっていた。人族の平面にのみ広がる街並みとは一線を画した佇まいに、女性も、子供たちもただ驚きの表情で辺りを見回していた。その為、通りを行き交うエルフ達の視線が、非常に鋭い事に気が付いていなかった。


「むむむ、なんかすっごく視線が痛いね、どうなってるんだろ?」


少女と、ルーンウルフのみがその視線に気が付き、周囲を警戒するように見回していた。

そして、数人の衛兵らしき姿をした者達が街の奥へと駆けていくのが見えた。それ以外にも逆に門の外へと恐る恐る出ていくエルフともすれ違った。少女を見て逃げるように走り去っていくエルフもいるように見えた。

街中は解らないが、門の周辺は明らかに平穏とはかけ離れた雰囲気を醸し出している。


「ルルとあたしだけでは護衛は厳しそうだね、これだけ悪意や恐怖が溢れていると後手に回りそうだし・・・」


「ヴォン!」


少女はルーンウルフの同意を受け、先ほどから自分の周りに集まっている森の精霊たちに女性たちを守護してもらえるようにお願いをした。精霊達はその願いを了承したかのように少女の前でくるくると飛び回っているが人族である女性達にはその様子を知ることが出来なかった。

そして、その反対に少女と、人族の集団の周りに突然精霊の気配が強くなった事を感じ取ったエルフ達は、驚きの表情を浮かべ少女達を凝視した。なぜなら、精霊たちがあきらかに敵対してきた人族に対しても友好的な気配を放っていたからだった。


「よし、とりあえずはこれでいいかな?まずはどっか落ち着く所を・・・」


そう言って周りを見回した少女は、女性たちのもつ馬車へと視線を静止させました。


「これあると何処かのお店って訳にもいかないね、まずは馬車を置ける宿屋かな?」


「ヴォン!」


又もやルルの同意を得て、少女は宿らしい建物を探す為に辺りを見回した。基本的に宿は門の傍に作られるのが一般的である。この為、門の周辺にはそれらしい建物が何件かすぐに目に入った。

その中で比較的綺麗で、それでいて高そうではないといったある意味矛盾に満ちた店を選別する作業に入りながら少女はあっちへフラフラ、こっちへフラフラと歩き回った。そして、それに合わせて女性たち一団もこっちへフラフラ、あっちへフラフラっと付いて回る。はっきり言って第三者からみれば邪魔であった。


「おい、そこの連中!邪魔だからさっさとどっかに落ち着いてくれ!」


周りの人が迷惑そうにその集団を避けながら往来している。その為、何箇所かで人の混雑が発生していた。

未だに宿を絞りきれずフラフラとしていた時、街の門から伸びる大通りに面した一角にいた獣人がそう怒鳴りつけた。


「あ、ごめんね、おじさんどっか適度に綺麗で、安心出来て、安い宿しらない?」


「なんだその一見普通そうで無茶な要求は!」


そう呆れながらもその獣人は少し奥まった所に見える宿を指差した。


「あそこにあるいつもの宿へ行ってみな、だいたい要望通りだろうさ」


「へ?いつもの宿ってあたしここ初めてだよ?」


そう答える少女に、その獣人は苦笑しながらも答えた。


「ああ、違う、宿の名前がいつもの宿なんだ」


「おお!なんというハイセンスな名前!」


少女が感嘆の声をあげると、その獣人は若干呆れた表情を顔に浮かべさっさと行くように指示をした。そして、いざその宿へと一団が向かい始めたとき、街の中心から兵士達の一団がこちらへと走ってくるのが見えた。


「あちゃ、しまったね、のんびりしすぎた?」


「クォン?」


そう言っている間にも兵士達がこちらへと向かってくる。しかも、そのうちの一人が明らかに少女を指差していた。

少女は人族の女性たちに離れているように指示を出すと、兵士達の方へと静かに歩き出した。

兵士達の一部は、走って門の外へと向かった。その一団の中には明らかに兵士と思われない者もいたことから恐らくは治癒者などであろう。そして、その一団を除いた者達は慎重に少女を取り囲むようにして立ち止まった。

しかし、その少女の姿を見たエルフ達の間には明らかに動揺が走ったのだった。


「先ほどこの街の門を破り街中へと侵入した者がいる。失礼だが入門許可書を提示頂けますか?」


動揺が未だ収まらない中で、その部隊の隊長と思われるエルフが前に出てきて少女へと尋ねた。


「入門許可書ですか?う~~ん、これでいいのかな?」


そう言うと少女が何かを取り出した。エルフ兵達は初めから入門許可書を所持していない事を知っていての質問であり、少女のその動きに緊張が走った。


「はい、どうぞ?」


少女が一枚のプレートを取り出し差し出した。エルフの隊長は色々な思いが交錯する中でそれでも慎重に、いつでも戦える様に身構えながらもそのプレートを受け取った。

そして、そのプレートが今では希少となったミスリルで出来ている事に驚きの表情を浮かべた。そして、更にはそのプレートに刻まれている文と、紋章を見て驚きの声を上げた。


「な、これは!」


そのプレートには大きく”この者 エルフの巫女なり  アルル ”と書かれていた。

そして、そのプレートには長老アルルのトレードマークであるデフォルメされたエルフの姿が刻まれている。


動揺を隠せない隊長に、兵士達は不安の表情を浮かべ始めた。なぜなら、隊長から明らかに戦意や覇気が失われていた。


「それで良かったですか?」


少女の問いかけに、動揺を隠せないまま隊長が少女へ名前を尋ねた。そして、その問いかけに少女が答えようと口を開きかけた時、更に奥よりこんどは黒色の装備に身を固めたエルフの集団が現れた。


「そいつか!ホルトを殺した賊は!何をしている殺せ!」


「ホルン殿!お待ちください!」


「サイアス!何をしているか!息子の敵だ、その人族諸共皆殺しにしろ!」


黒色の装備は元老員所属の兵士達であった。そして、その指揮権は元老員に帰属していた。また、正規軍の兵士達自体も基本的に元老員個人ではなく元老院自体が指揮権を所有するとはいえ、他の委員がいるならまだしも委員個人に逆らう事は通常不可能であった。しかし、この少女が持ち出したカードを見たサイアスは、事の真偽が定かでない現状、少女をむざむざと殺させる訳にはいかないと判断した。


「第二分隊、元老院兵を止めろ!少女を守れ!」


その指示に驚きの表情を浮かべながらも正規兵達は一斉に元老院兵に向かって剣を構えたのだった。


「ほう、サイアスよ、この儂に逆らうという事は元老院を敵に回す、ついてはエルフすべてを敵に回すという事だが良いのか?」


「何を愚かなことを、わたしは間違った判断をしようとしている貴方を止めようとしているだけだ」


ホルンはサイアスの言葉を聞きながら、獰猛な笑みを隠すことなく浮かべた。ホルンは一代で元老院へと名前を連ねることが出来た。そして、その為には相当な事を暗に行ってきていた。明らかに非合法な事、賄賂や暗殺すらも指示を出してきていた。そして、その中にはかつては元老院へ名を連ねていたサイアスの父もいたのだった。


「かつては元老院へ名を連ねた事もある家が反逆者とはな、貴様の父も浮かばれまい」


「愚かなのは貴様だ、息子もそれを受け継いだために死んだようだな」


「逆族が!かまわん、この連中諸共切り殺せ!」


父の名を出され、思わず激怒して言葉を返した瞬間サイアスは”しまった!”っと思った。本来なら、別の元老員がくるか、または誰かを呼びに行かせて穏便に事を収めるべきであった。そう後悔してもすでに遅い事はホルンの怒声を聞き悟った。


「迎撃せよ!」


両者が一斉に剣を叩き合わせ甲高い音が辺りへ響き渡る。サイアスはまず頭を潰そうとホルスへと向かおうとするが、目の前に一際体の大きな獣人が立ちふさがった。


「ふふふ閃光のサイアスか、貴様を公の場で殺せるとは思いもしなかった」


「殺人熊ザンジか!」


サイアスが正に二つ名に違わぬ俊足の突きを連続して叩き込む。しかし、その突きはザンジのもつバトルアックスによって簡単に弾き返された。ザンジは、突きを払った動作のままバトルアックスの柄の部分をサイアスへ横殴りに叩きつける。その攻撃をサイアスは咄嗟に横へ転がり避けようとしたが、その動きを読んでいたかのように腹部にサンジの蹴りを叩き込まれ後方へと吹き飛ばされた。


「ゴホッ」


そのたった一撃の攻撃で、自分の内臓に大きなダメージを負った事が解った。そして、力量じたいもとても自分の叶う相手ではない事を実感した。


「閃光なぞ大層な二つ名がついている割には大したことがないな」


ニヤニヤと笑いながら、手に持ったバトルアックスを大きく振り回した。


「ファイヤーアロー、ファイヤーアロー、ファイヤーアロー」


サイアスはサンジと距離があるうちにと連続で火矢の魔法を叩きつけた。しかしその攻撃の悉くがバトルアックスで阻まれてしまった。


「弱い、弱すぎるなぁ、まぁいいか弱い奴は死ね!」


そう言うとバトルアックスを大きく振りかぶり大きく踏み込んできた。動かない体を何とか転がしその攻撃を避けようとサイアスが体を大きく倒した。その瞬間頭上付近から奇怪な音が聞こえた。


「ブゥべら」  ドガッ!


そして、前方で何かが大きくぶつかる音が聞こえた。

横へなんとか転がり、上半身を起こして追撃に備えようとした時、目の前にはサンジの姿はなく先ほどの少女がメイスを構えて立っていた。

そして、周りで先ほどまで剣を交えていた両陣営の兵士達は唖然とした表情で少女を凝視している。


「弱いもの虐めは嫌いです!すこしそこで反省しなさい」


その少女が見つめる視線の先には、壁に頭からめり込んだサンジの腰から下が見えていた。そして、その足はビクッビクッっと普通ではありえない痙攣を起こしている。


「な、なんだ貴様は!」


先ほど少女が突然現れたかのようにサンジの前に現れ、そのままカウンターを決めた瞬間を見ていたホルンは、腰が引けた状態で少女に杖を向け叫んだ。


「う~んと・・・・」


ホルンの問いかけに、周りにいたすべての者が固唾を飲んで見守る。そして、その雰囲気すらまったく意に反さぬように少女が告げる。


「コルトの森のエルフ?」


しかしこの場にいた者達は、コルトという地名に心当たりがなかった。


「この、どこの田舎から来たのか知らん小娘が!くたばるがいい!」


そして、精霊魔法を唱え始めた。そして、その魔法に気が付いた元老員側の兵士達がその呪文の時間を稼ぐようにホルンの前に壁を作った。そして、その逆に正規兵達はそのホルンの唱える魔法に気が付き驚きの声を上げる。


「ば、ばかな!こんな街中で上位精霊魔法を放つか!」


正規兵達は必死に結界魔法をこの辺り一帯に張り巡らそうとする。しかし、初動の遅れと、まかり間違っても元老委員であるホルスの力量が結界魔法の完成より早く魔法を組み上げた。


「業火なる炎の鉄槌!」


正規兵達の焦りが、その最後の呪文を聞き絶望に染まった。そして、ホルスが杖を大きく振り少女へ突きつけた格好で固まっていた。

あたり一面に静寂が広がり、やがてホルスも、兵士達も戸惑いの声を漏らした。


「な、何事だ!なぜ発動せん!」


ホルスのその言葉がすべての状況を物語っていた。万全の状態で放たれるはずだった精霊魔法がまったく発動しなかったのだ。そして、焦りを感じさせながらも再度ホルスは呪文を唱えた。


「業火なる炎の鉄槌!」


しかし、やはり結果は同じであった。そして、2度目の呪文を聴き、見ていた兵士達は大きな違和感を感じていた。


「せ、精霊が反応していない・・・」


その兵士の言葉に、ホルスは慌てたように自分の周りに漂っている筈の精霊たちを感じようとした。そして、エルフとして優秀であるからこそ魔法が発動しなかった原因に気が付いた。


「な、な、なぜだ、精霊が儂を敵視している」


ありえない事であった。上位精霊ならまだしも、下位の精霊には明確な意思は存在しない。その事は普段より精霊と共存しているエルフだからこそ知っている事である。しかし、今やその下位の精霊ですらホルスに対し明確な敵意を向けていた。そして、その事実はホルスには精霊魔法が使えないことを意味していたのだった。

そして、その情景を同様に感じたサイアスがボソリと呟いた。しかし、その呟きは静寂の中に明確に響き渡った。


「エルフの巫女」


少女は、その呟きを漏らしたサイアスを振り返りニコリとほほ笑んだ。そして呪文を唱える。


「ハイヒール!」


サイアスはその呪文によってみるみる内に折れた肋骨や、傷ついた内臓が癒されていくのを感じた。そして、怪我が癒されたのを感じ、少女に向かって膝を折り深々と頭を下げた。


「私はエルフ正規軍第3遊撃分隊隊長サイアスと申します。よろしければお名前をお聞かせ戴けないでしょうか?」


少女は面白そうな表情でサイアスを眺め、そして静かに口を開いた。


「うん、あたしの名前は・・・・・・」


「名前は?」


「なんだっけ?」


「「「へっ?」」」


周りから一斉に戸惑いの声が聞こえた。

無敵です!無双です!

でもどこかやっぱり変です!

うん、目指していた路線ですね!

っという事で想定通り進んでいますよ、もちろんです。


でも、相変わらず時間の進みが遅いです・・・もちろん想定内ですよ!

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