1-28:たった一つの可笑しな提案?
キュアリーの発言に皆がしばし混乱する中、ようやくポツポツと質問が飛び始めた。
「あの、キュアリー様、そもそも人族をエルフにする事は可能なのでしょうか?」
「うん、出来ない事はないかな?」
アリアの質問に対し返答をしたキュアリー、そして、そのキュアリーの返答に対し不安を覚えた者が多数いたのだった。
「出来ない事は無い・・・あの、その、なんと言いますか失敗する事があるっとかそんなことはないですよね?」
「そ、そうですよね、なんとなく不安になっちゃいました」
アリアやサラサが問いかけではなく、雑談っぽく話すのを聞きキュアリーはあっさりとその不安をある意味吹き飛ばした。
「失敗する事もあるよ?エルフにしようと思ったら別の生き物になったりとか」
「え?!それって駄目じゃないですか!」
「ですよ!意味ないじゃないですか!」
「誰にでも失敗はある!」
「いえ、その、キュアリー様、失敗するとどうなるのでしょう?」
尋ねながらもアリアはこの村へ来る旅の途中の出来事を思い出していた。
「エルフ以外になるのが一般的かな?ゴブリンだったり、オークだったり、今までで一番楽しい失敗したのはサキュバスになったよ?本人はともかく周りは大喜び?だったけど」
「いや、それって・・・」
「楽しいって誰が?」
「サキュバス・・・いいなぁ、実物見てみたいなぁ」
様々な思いがだだもれになる中、セリーヌが何かを思いついたような表情をした後、顔色を変えた。
「あの、ちなみにエルフになるとどのような変化があるのでしょう?」
「ん?何か気になるの?」
「え、ええ、その・・・」
言葉を濁しながらも、それでも視線をキュアリー、アリア、サラサのある部分へと向ける。そして、その視線の意味をしばらく考えたあと、キュアリーは告げるのだった。
「ああ、胸は多少の大小はあるけどエルフ標準くらいになるかな?」
「エルフ標準・・・っといいますと?」
「良くてB?悪いとA?」
「「「!!!」」」
その言葉にこの場で話を聞いていた人族に今まで以上の動揺が走る。そして、それは女性以外にも表れていた。
「AとかBってねぇ」
「子供じゃあるまいしねぇ」
「別に小さくったってねぇ」
「うん、理知的って感じ?」
「おい、なぁ、やっぱりさぁこうぐっとくるもんがよ」
「うむ、なんというか母性?っていうのがなぁ」
ある意味恵まれた方々がブツブツと言っている。そして、その集団を睨み付けるいささか貧しい方々、更には絶望的な顔をしている一部?の男性の方々などがそれぞれ集団を作りブツブツと言葉を交わしていた。
「ああ、その、キュアリー殿、エルフ以外の選択肢などは頂けませんかな?ほれ、望む種族などで、それこそ獣人や、その・・・先程言われたサキュバスなど・・・」
「ん~~エルフが一番成功率が高いんだけどねぇ、前に兎人族へ変えようとしてバニーガールにしちゃったし」
「???兎人族にして兎人女性にですか?何ら問題ないような気がしますが?」
「あ、わからないかな?兎人じゃなくって黒網タイツを履いた様な脚、扇情的なカットの体毛?って感じの兎の耳をつけたまぁ男性がもう大喜びの新種族が出来ちゃったみたいな?」
「「「おおおお~~~」」」
男達の感嘆の声に比例?反比例?とにかく女性の視線がすごい事になっていく。
「しかし、やはりチッパイはいけません、ロマンがありません」
「うむ、もし種族が選べるのならそれなりの種族になっていただかねば」
「いや、慎ましいのも良いのではないか?」
「うむ、その清純さというか・・・」
「あぁ幻想見てる馬鹿がいるよ、胸小さけりゃ清純かっての」
「だね!男って本当に馬鹿ばっか!」
男と女の間で険悪な雰囲気が更に強くなっていく。
「男連中の戯言はともかく、やっぱりこれを失うのはねぇ」
「いっつも邪魔だ、邪魔だって言ってたじゃん、この際すっきりすればぁ?」
ついには女性達の中でも険悪な雰囲気が漂い始めてきた。
「そんな事より、そもそも失敗するリスクが怖いよね」
「うん、それこそゴブリンやオークになったらって思うと・・・」
「あ、女性はたぶんゴブリンとかにはならないと思うよ、あたしがスキル発動した時のイメージが多分に影響するみたいだから」
キュアリーのその言葉に皆はまた黙り込んだ。そして、人族ではなくアリアが今の言葉の真意を問いかけるのだった。
「あの、キュアリー様、今の御言葉の意味は?」
「基本かわいい子は可愛く、妖艶な人は妖艶にっかな?」
「あの、それでは例えばですが、加齢臭漂うおっさんなどは?」
「えっと・・・オークやゴブリン?」
「ええっと、ちょっと時代を長く過ごしてきたなぁっていう女性はどうでしょう?」
「まぁ女性だから普通にエルフを望めばエルフかな?」
「「「おおおお!」」」
「「「ひでぇ!」」」
女性からは歓喜の、男性からは抗議の叫び声が上がった。
「わ、若返りはありますか?」
「う~ん、エルフならあるかも?あんまり年老いたエルフってイメージしづらいし」
「「「すごい!」」」
女性たちのテンションはあがりまくった。ただ、男達のテンションは未だ低空飛行ではあった。
「あたしは別に神様でもないしね、でも一応注意しておくけど今までの経験上では変更した種族の特性に精神も引きずられるっていうのかな?考え方や嗜好なんかも変わるからね」
「あの、具体的な例ではどういう?」
「エルフは自然と共に生きることに喜びを感じる。もちろん獣人も基本的に自然の中を好むからコルトの森で生きてくならエルフや獣人がお勧めかな?」
「ふむふむ、と、ところで、その、なんですかな、私は見た事がないのですがダークエルフという種族は?」
「「「おおお~~それがあったか!」」」
またもや男達の期待に満ちた声が響き渡る。
「ごめん、期待を裏切るようで申し訳ないけど、ボンキュッボンな黒エルフって幻想でしかないから。きっと転移者でそういう人がいたから勘違いされたのかもしれないけど光と闇どちらの加護があるかで色素や生き方が変わっただけで基本体型は一緒だよ?」
「そ、そんな馬鹿な!」
「そうですね、我々エルフにどのようなイメージを持たれているかわかりませんが、私達も普通に食べ過ぎれば太ります、人より緩やかではありますが老います、また背が高い、低いなどもありますし、容姿も様々です」
「ええ、そうですよね、太りますよね」
「代謝の関係で一度太ると痩せにくいですしね」
アリアとサラサがなにやらしみじみと頷きあいます。
「うん、なにせ真ん丸エルフもいるし、おばちゃんエルフもいるしね」
「く・・・神はいなかったのか・・・」
ハッキリ言って何が何やら訳のわからない状況へと突入していた。そして、本来はこの場の主役であったはずのミュッカとその母親は戸惑いや困惑を満面に表していた。そして、母親はさりげなくミュッカの両耳を塞いでいたのだった。
「なんか訳が分からなくなってきたけど、とりあえずこれ飲んでみて」
キュアリーが改めて母親に取り出したMPポーションを手渡した。
「MPとマナでは根本的に違いがあるから、一時的な気休めにしかならないけど少しは楽になると思うから」
「ありがとうございます」
ミュッカの母親はポーションを受け取りそれを飲み干した。すると明らかに顔色が回復したのだった。
「お母さんどう?元気になった?」
「ええ、楽になったわ、ミュッカありがとうね」
「恐らくでしかないですが、数日は効果があると思います。ただ、完治するような物ではないので先程の話ではないですがこの地にいるのであれば体力がなくなるか、その前に適応できるかの勝負になると思います」
「それまでには決断をしないとなのですね?」
「それでは遅いかな、コルトの森への移動も考えないとだから。ユスティーナさん、明日中に移動組と残留組を分けてください。明日夜に種族変換を行います。そして、明後日にはコルトの森へ移動します。アリア、その予定でいいですよね?」
「そうですね、この場所に滞在するリスクもありますし、人族でなければ私達も受け入れは可能だと思います。それに、この事が成功すれば今森へと雪崩込もうとしている流民対策への解決策になるかもしれません」
「そうすると、我々の滞在先を確保しないとですね」
コラルが視線を向けるとユスティーナが安堵した様子で頷いたのだった。
「どうぞ、わたくしの家で申し訳ありませんが、旅の方にご滞在頂く準備は出来ております。安全に関しても村で一番安全だと自負しております。サマンサ、パイル、その方等は村の者達を急いで集会場に集めよ、議決によっては少々荒れる可能性もある、その点を重々注意せよ」
「「は!」」
ユスティーナの指示で、急ぎ足で外へと走り出していった。その者達が外へ出て長屋の周辺に集まっていた者達へ集会所へ集まるように指示する声が数度に渡り響きわたっている。
「移動は少し時間を置いてでよろしいですか?今移動すると少々混乱が起きるかもしれませんので」
ユスティーナの言葉に一同が頷き、改めて長屋の床に腰を下ろしたのだった。
そして、サラサが警護も兼ねてかキュアリーの横に進み出て座った。
「それにしても、キュアリー様の提案には驚きました。まさか種族を換えてしまうだなんて」
「うん、まぁ始めてみれば問題山積みってケースがあるかもしれないけどね」
「え?そうなのですか?」
「何人種族変換しないといけないか解んないけど、基本的に昔と今では状況違うからね」
その言葉にマナの減少が脳裏を過った。
「もしかして、マナですか?」
「うん、種族変更にはマナがどれくらい関係するかなんて検証した事ないしね」
「でも、あまり心配されていないようですが?」
「うん、悩んでもしょうがない事は悩まないって決めたからね~大分昔に」
そう言ってキュアリーは苦笑を浮かべる。そして、その後会話なく二人が黙っていると、その横にミュッカかトテトテ歩いてきた。
「お姉ちゃんありがとう!」
「どういたしまして、お母さん良くなるといいね~」
「うん!」
その無邪気な笑顔にその場の雰囲気はなんとなくだが、ほんわかとしたのだった。
この部分が書きたくて、久しぶりの連日投稿に!




