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1-27:種族の違い

「私の事に気が付いていたのですね」


キュアリーは跪くユスティーナを見ながら問いかけた。


「はい、口伝ではありますが初代巫女様は偉大な力を持つエルフであったと、そしてコルトの地は聖地であると。また御尊名も伝わっております」


「いつから気が付いてたの?」


「初めに御尊名をお聞きした時にもしやと思いました。そして、この世界から去るとのお話から、それだけのお力をお持ちになる方と考え間違いないと判断いたしました」


ユスティーナは跪いたままキュアリーへと訴えかける。その様子に他の者達も更に混乱をする。


「馬鹿な!エルフがユーステリア新教の初代巫女だというのか!」


「今では真実は歪められてしまいました。しかし、魔族から総ての種族を守り、数々の奇跡を起こし平和へと導いた巫女はエルフでした。そのことはユーステリアにとって都合が悪く、新教においても無意味に争う事もないと次第に語られなくなっていきました。ただ、私もそうですが、まさか未だにご本人が健在とは思っていませんでしたが・・・」


ユスティーナの言葉は逆に男達の不信感へと発展したようだった。


「こいつらエルフが言っているだけだ、嘘に決まっている!」


男達は次々に不信感を露わにします。しかし、キュアリー達はその事に一切反論をせず、部屋から退出しようとした。


「貴方達はお黙りなさい!この村の人々の命が掛かっているのですよ!」


ユスティーナの怒鳴り声に、男達は思わず黙り込みます。そして、話を聞いていたセリーヌがキュアリー達に話しかけた。


「キュアリー様、アリア様、どうか子供達だけでもお救い下さい。私達大人はどうなろうが構いません、しかし、子供達はどうかお助け下さい、このままでは命を落とす子も出てしまいます」


「人族を受け入れる事のリスクは今伝えました。私達エルフは、自然からマナを取り込み糧を得る事が出来ます。その為、人族のように毎日必ず食事をとらなくても生きていけます。それ故に自然を壊す事無く生きていく事が出来ます。ですが、貴方方を受け入れる事により自然を壊す可能性が増えます。あなた方は私達の数倍の速度で増えていくのですから」


アリアはキュアリーに続き外へと向かいながらセリーヌへと告げます。セリーヌは、後姿を絶望の眼差しで眺めた。


そして、キュアリーが扉を潜り、外へ出た時視界の隅から何かが走り出しキュアリーの前で止まりました。


「こ、こんにちは・・・エルフのお姉さんがお母さんを助けてくれるの?」


そこには5歳くらいの痩せ細った少女が潤んだ眼差しでキュアリーを見上げていました。


「?えっと・・・あなたはだあれ?」


予想外の状況に、明らかにキュアリーは動揺した。そういう意味では明確に種族を分けて考えるアリア達と、明確な境界が好悪によって考えるキュアリーの違いがこの場で出てしまった。


「キュアリー様?その娘がどうかされましたか?」


キュアリーが足を止めた事に対しアリアは子供が前方を塞いだからだと認識し、子供を退けようと前に出ようとしました。しかし、キュアリーがその場に腰を落し、子供に話しかけはじめた事に困惑を隠せなかった。


「あたし、ミュッカです。エルフのお姉さんがお母さんを助けてくれるの?」


「んっと、どういう事かな?」


状況が今一つ掴めないながらも、キュアリーは周囲の状況と、その少女の姿から今置かれていると思われる状況を認識しようとした。


少女の言葉から考えるとこの子のお母さんが病気っぽい?あと、この子自体の健康状態も良さそうじゃないね、ただ、この子だけが跳びぬけて不健康という感じではないかな?


キュアリーは周辺にいる数人の子供の様子を確認しながら、それなりに分析を行う。そんなキュアリーに対し子供は必死に説明を行っていた。


「だから、おばちゃんが妖精さんならお母さんを治してくれるっていったの!でもね、あたし妖精さんは見えないの。でもエルフさんは妖精さんが見えるのよね?お話にあったの!おばさんに聞いたらエルフさんがいたら頼んでくれるっていったの」


「そっか~おばさんがいったのね、お母さんはご病気なのね、ところでミュッカのおばさんはどこ?」


「んっと、あそこ!」


ミュッカがまっすぐにセリーヌを指さしました。そして、指さされたセリーヌが動揺した。


「え?え?違いますよ!わたしまだおばさんじゃないです!若いですから!まだ未婚ですから!」


セリーヌが騒げば騒ぐだけ視線がセリーヌに集まっていく。


「まぁセリーヌさん落ち着いてるしね」

「っていうかセリーヌってそろそろ・・・」

「まぁ大台は過ぎてるよな?」

「子供連れてて違和感ないし」


周りの声が聞こえてくると、次第にセリーヌが涙目になっていった。


「あの、セリーヌ?、あの子が指さしているのは私です。セリーヌじゃありませんから」


先程までユスティーナと共にいた40過ぎと思われる女性が慌てた様子でセリーヌに声を掛ける。彼女は運悪く?少女の視線から見てセリーヌの丁度後ろに位置していたのだった。


「あ、マチルダさん!そ、そうですよね!マチルダさんの事ですよね!」


途端に明るい声を上げ、まるで周りを説得するかのように大きな声でやたらとマチルダの名前を連呼した。

そして、その様子に首を傾げながらミュッカはキュアリーに向かって告げた。


「うん、あのおばさんじゃなくてマチルダおばさん!」


その声で一瞬ではあるが、周辺に静寂が漂った。そして、力尽きたようにセリーヌが崩れ落ちたのだった。


「うん、まさにテンプレだね、悪魔だね、偉いよミュッカ」


「無邪気の気は実は鬼であるっですね」


アリアの言葉を他所に、キュアリーはセリーヌに無意識で止めを刺したミュッカの頭を優しく撫でるのだった。そして、キュアリーが頭を撫でるたびに少しずつ少女の頬が赤みを刺していく事にキュアリーは気が付いた。


うん、別にあたしに照れている訳でも、恋に落ちたわけでもないかな?ちょっと元気になってきてる?これはお決まりのマナ不足かな?


少女の様子にキュアリーは今の村の現状に対しより確信を得るのだった。


「お姉さんの手あったかい」


「そっか、あったかいか、うん、よかったね~。アリア、ちょっとイレギュラーな事態だね」


ミュッカの言葉に微笑みを返しながらキュアリーはこの後どうするかを悩み始めた。

アリア達はキュアリーの状況を認識し、苦笑を浮かべながら視線を交わしたのだった。


「キュアリー様、このまま放っておくのも難ですし、まずその娘の母親の所へと参りましょう」


「そうですね、まず様子を見て見ない事には判断も付きませんし。ミュッカさん、お家へと連れてってくれるかな?」


「ミュッカ、お母さんの所まで連れて行ってくれるかな?」


「うん!こっち!」


キュアリーと手を握りながらミュッカはぐいぐいと家へと進んでいったのだった。

キュアリー達が子供に先導され移動を始めると、セリーヌ達はもちろん周囲にいる者達も同様に移動を開始した。もちろん、その中には明らかにキュアリー達に対し敵意を見せる視線も多数含まれている。

コラル達護衛はその視線に対し一つ一つ発信先を確認し、注意すべき者達の顔を覚えようとする。


「コラル、危険な者はあのような者達ではありません、重々注意なさい」


普通に会話するように告げるアリアに対し、コラルは小さく頷き返した。

そして、そんな一行が訪れたのは村の端にいくつも連なるように立つ長屋という言葉が思いつく一棟の簡易な建物だった。


「ミュッカのお母さんはいつ頃からご病気になったのかな?」


「えっとね、うんっとミュッカが4歳の頃?」


「ミュッカは今何歳?」


「6歳!」


「そっか~そういえばお父さんは?」


「えっと、遠くへお出かけしてるの?」


「う~ん、そっか、とりあえずお母さんだね」


キュアリーのミュッカが手を繋いでその長屋の一角へと進んでいく。しかし、近づけば近づくほど異臭が強くなっていくのだった。


「この匂いはなんですか?」


アリアが尋ねると、この長屋ではあまり重労働が出来なくなった者達が獣の獣脂を取ったり、皮を鞣したりといった作業を行っているとの事だった。


「あれも結構重労働じゃない?」


「いえ、それでも田畑を耕したりといった作業よりは楽ですから。もっともこの匂いを除けばですが」


「ちょっとこれはキツイわぁ、リフレッシュ!」


キュアリーはこれ以上長屋に近づく事に抵抗を受け、とりあえず思いつくスキルを発動してみる。すると、周囲の匂いが激減した。


「ふわぁ、臭いのなくなった!」


ミュッカがそう騒ぐ傍らでキュアリーは完全に消える事のなかった匂いに顔を顰める。


「匂いが弱くはなったけど、消えはしないね」


「染み込んでいますから、どちらかと言うと最近は獣の解体自体が殆どありません、ですから匂い自体は古くから漂う物です」


「まぁここまで薄まれば我慢できなくはない・・・かな?」


そう言いながらもミュッカに手を引かれながら一軒の長屋へと入っていく。


「お母さん!お医者さん連れてきた~」


そう言うミュッカに対し、いつの間にかお医者さんになっている事に内心首を傾げたのだった。


「ミュッカ?」


長屋の中には痩せ細った女性が布団に横になっていたが、ミュッカの声を聴き半身を起こした。


「お母さん、あのねおばさんが言ってたエルフのお姉さんが来たの、だからお母さん元気になるよ!」


その女性はそう告げるミュッカを優しい眼差しで見たあと、後ろから入ってきたキュアリー達へと視線を向ける。


「ミュッカが無理を言って申し訳ありません、わざわざ来ていただいて、ミュッカがどう申したかわかりませんが私はちょっと疲れが出ただけですから御気になさらずに」


キュアリー達へとそう話す女性は、明らかに自分の不調の原因に気が付いているようだった。そして、薬や魔法で治るようなものではないと諦めている事が表情からも推察できたのだった。


「咳や熱はないのですねよね?」


「はい、ただ疲れが出ているだけですので」


「そうですか、ちょっと熱を見させていただきますね」


そう言うとキュアリーはその女性の額へと手を当てて様子を見る。

そして、数分がすぎると僅かながらではあったが女性の顔色に好転の兆しが感じられたのだった。


「やっぱりマナの欠乏ですね、からだがその状態に対し機能不全を起こしかけています」


キュアリーは女性ではなくアリアに向かって状態を説明する。


「そうしますと、治癒は・・・」


「うん、ここにいても改善は無理だね、一時的に回復しても意味はないよ」


キュアリーとアリアの言葉に、その様子を見ていた人族の間で動揺が走った。そして、その動揺が不安、怯え、焦り、怒りなどといった負の感情を増大させるのに時間は掛からなかった。


「お、お前達エルフがマナを独占しているんだ!」

「そうだ!お前たちが!」


「黙らんかバカ者ども!!」


周りのざわめきが次第にエスカレートし、怒声へと変わろうとするまさに瞬間ユスティーナの怒鳴り声が響き渡り静寂が訪れる。ミュッカは雰囲気に怯え母親へと縋りついて涙を浮かべて周りをキョロキョロと見回している。そして、その母親もしっかりとミュッカを抱きしめながらも明らかに怯えているのが解る。

そして、それに反してキュアリー達の表情はまたもや感情を無くし冷徹な視線を男達へと注いでいた。


「お前たちはまずここから立ち退け、百害しかないわ!」


そう怒鳴りながら男達を排除していく。ぐずぐずと不満を言いながらもユスティーナ達の怒りを感じ、勢いを消された男達はとりあえず長屋の外へと、キュアリー達の視界の外へと移動していったのだった。


「エルフの方々、更なる不快を感じさせてしまい申し訳ありません。ただ、この子や、その母親のように皆様に害意を持たず、また善良なる者も多数おります。何卒、何卒全ての者達でなくて構いませんのでお救い願いませんでしょうか?」


そう深々と頭を下げるユスティーナに対し、アリアは有る部分において冷酷とも言える行いをしながらも容易に情に流されそうなキュアリーを危惧していた。そして、この会話の主導権を取ろうと前に出るのだった。


「先程も述べたように我々は人族を我らの仲間として招く事は出来ません。貴方方と共に生きる事は今までの歴史的反省を踏まえ無いと断言せざる得ません」


アリアの言葉にユスティーナは苦悩を隠す事無く浮かべたのだった。しかし、その時アリアの言葉を聞いていたキュアリーが何かを思いついたようだった。


「あ。そっか、そうだよね」


「キュアリー様?」


キュアリーの言葉に疑問を浮かべるアリアを気にした様子もなくキュアリーはミュッカへと声を掛ける。


「ミュッカ、あなたエルフは嫌い?」


「う?えっと、好き?お姉さん綺麗だもの」


キュアリーの問いかけに素直に答えるミュッカを見てキュアリーは大きく頷いたのだった。


「よし、ミュッカ?エルフにならない?」


「ふぇ?」


「「「「はぁ?!」」」」


キュアリーのよく解らない問いかけに周りにいた者達が一斉に疑問の叫び声を上げたのだった。

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