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1-26:エルフと人族

キュアリー達一行が村の中央にある建物の中に入ると、ヴォーター達は漸く緊張を解いた。そして、その様子を見たキュアリー達は、この村の状況が決して一枚岩ではない事に気が付いた。


「セリーヌよ、無事によう戻った」


「姫巫女様、遅くなりました事お詫びいたします」


ユスティーナが笑みを深くし、セリーヌにねぎらいの言葉を掛ける。


「本当に、よう無事で・・・・。この近辺もここ最近ユーステリアの者がうろうろするようになってな。お前たちが無事戻ってこれるか心配じゃった」


そう告げるユスティーナの顔は偽りなく安堵の表情を浮かべていた。

そして、この館にいる者達からはキュアリー達に対する敵意などは感じず、どちらかというと安堵以上に疲れといった雰囲気が感じられた。

そんな中、一同が広間へと案内され簡単な自己紹介が行われた。


「それでは、この村の代表はヴォーターさんで宜しいのですね?」


アリアの質問に対し、ヴォーター達が頷く。しかし、彼らの表情にはどことなく影が差していた。


「私が指導者で間違いはない。しかし、日に日に悪くなる状況に対し具体的な対策の打てなかった私に対し、村の者達、特に若い世代を中心に不満が溜まってきている。その為、残念ながら私の意見を聞かない者達が出始めている」


キュアリーはヴォーターの説明に、先程の村へ入った状況を思い出した。


「それであっても、私は貴方に問いかけねばなりませんね。貴方たちは私達エルフに何を求めているのですか?」


アリアの言葉に、ユスティーナとヴォーターが顔を見合わせる。そして、声を揃えて答えるのだった。


「「救いを」」


「救い・・・ですか」


アリアはその言葉に隠された意図を読み取ろうとする。それに対し、キュアリーは率直に答えを返したのだった。


「救いですか、無理でしょうね」


「それは、先程の投石のせいでしょうか?それならば」


ヴォーターが話を続けようとするのを遮るようにキュアリーは言葉を被せました。


「いえ、今の話において投石はどうでも良い事です。ただ、すべてにおいて遅すぎます。また、何とかしようにも貴方たち人族と、エルフでは文化や生活基準が違います。エルフの生活基準をあなた方に押し付けたとしても早々に破綻し、争いを生むでしょうね」


「エルフの生き方をすればまだ何とかなると?」


ユスティーナが思わず身を乗り出します。しかし、キュアリーは頭を横に振ります。


「出来もしない事を言ってもいみはありません。貴方達人は自然を友にして生きることはできないでしょう」


「そ、それでは、この地の問題解決の糸口をどうか教えて頂ければ!」


今まで沈黙をしていた一人が思わずといった形で声を上げました。


「恐らくあなた方も気が付いていると思いますが、この地からマナが無くなろうとしています。そして、それはこの地だけに限らず、この世界全体に言える事だと思います。私達も森からの旅をする中においてここまで急速に世界が変わろうとしている事に驚きを感じていました」


アリアが、この旅の中で気が付いたであろう状況、そして現状をを語り始めます。しかし、その話の途中においてドアを叩き開けて数人の若い男達が入ってきました。


「いい加減にしろ!こいつらがマナを独り占めにしているんだ!なんであんた達はそれに気が付かない!」


「司教様だってエルフがすべての元凶だって言ってただろうが!」


「エルフが占拠している聖地を奪い返せばいいんだ!」


入室そうそう騒ぎ出す男達に対し、アリア達も男達を警戒して座っていた席を立ちあがる。


「愚か者どもは黙っておれ!いい加減ユーステリアの者達に騙されていたのが解らんのか!」


喧々囂々の言い合い、罵り合いが始まる中、キュアリー達は冷静に話の内容を聞き取って行った。そして、この世界で起きている変化がすべてエルフや獣人達のせいにされている事を改めて感じた。


「このような状況下で、なぜ私達が縁もゆかりもないあなた方を助けなければならないのでしょう?」


冷めた眼差しをユスティーナへと向けアリアが問いかける。そして、ユスティーナは表情を歪めるのだった。


「我々は追い詰められているのです。それこそ生存の危機に瀕してます。幼い者、年老いた者、体の弱い者の順番で次々に死んで行っています。その中において虚言や願望が広まっているにすぎません。この者達はそれに惑わされているにすぎません。そして、救いを求めているのです」


「そうだ、この者達は現実と願望の区別がついておらん。すべてを他のせいにしてもなんら解決には繋がらないだろうにな」


「このままでは我らは滅ぶ、それが解っておらんな」


「お前ら何を言ってるんだ!みてみろよ、こいつらだけ未だにマナの恩寵を受けてるにきまってるんだ!」


「そうだ!見て見ろよ、こいつらのどこにマナ欠乏症の気配があるって言うんだ!」


「マナ、マナ五月蠅いようですが、貴方達はマナがどういう物か理解してるのですか?ユスティーナはマナとはどういう物か説明をしているのですか?」


アリアは騒ぎ立てる者達を見ようともせず、ユスティーナへと視線を投げた。

そして、その視線を受けユスティーナは滔々と語り始める。


「自然の恵み、穏やかなる大地の元、マナは世界を循環し、満たし、我らへと恵みを与え下さる。精霊はマナに戯れ、植物や花々を育み、生きとし生ける物に癒しを与える」


「いまさら聖書の文面を諳んじても意味を理解せねばそれこそ意味はありませんな」


マッスル1号がユスティーナに言葉を返す。そして、騒ぎ立てる者達へと語りかけた。


「マナとは自然に生まれる物ではない。そこを勘違いしている者が多すぎる。マナとはそれこそ木々が、花々が、植物達が太陽の光を浴び、水を吸い、その身に蓄え、月の光の元で生み出し放出する。植物によっては放出する量に大小はあれどこれは基本である。そして、このマナを糧とする精霊が風を生み、大地を豊にし、水を清め、不浄を燃やす。この循環によって世界にマナが満ちていくのだ。そこに魔法などの要素はない。それに対し、人はマナを浪費し、マナを生む木々を、森を焼き払い、世界の秩序を破壊していった。首都のそばにあったエルフの森を焼き払った事が秩序崩壊の最後の引き金となっただろう事は容易に推測がなる事だ」


「そうですね、貴方達が自然を愛し、育み、自然と共に生きていたならこのような結果にはならなかったでしょう。自分達で世界を崩壊へと導いたくせに何とかしろ、助けろ、ましてや私達の住処を奪おうと考える。人はどこまで卑しくなれるのでしょう?」


アリアの止めの言葉に対し、男達は顔を真っ赤にして睨み付ける。そして、剣へと手を伸ばした。しかし、ヴォーターが男達を止めるように動いいた。


「やめい!今の説明に嘘偽りはない!それこそ貴様らが幼き頃より教えられた事であろう!」


「そうじゃな、森を焼くな、自然を壊すな、わたしが教会で何度も何度も繰り返し語った事だな。それも今では虚しく響くだけでしかないがな」


静かに、本当に静かに語りかけるユスティーナに、男達は皆視線を向けることが出来なかった。


「我らは滅びるしかないのでしょうか?それをお教えいただけませんかな」


ユスティーナがキュアリーへと問いかける。


「それはあたしも解らない、ただ言えるのは世界がその姿を変えようとしている。先程戦った者達は私達のスキルではなくアーツという力を使った。そして、これはマナに左右されない。これはそれこそ戦闘特化した技術に見えた、人は恐らくこの先も争い続けるのでしょうね」


「恐ろしい種族ですね、滅びの中で更に争いを望む、まるで呪いがかかっているかのよう」


「そうね」


キュアリーの言葉に思わずといった形で呟いたアリアに、キュアリーは頷き返した。そして、先程の激情を忘れたかのようにこの部屋にいる者達すべてが寒気を感じたのだった。


「呪いか、そうなのかもしれない、神はもしかしたら人を滅ぼそうとしているのかも」


「セリーヌ、不敬だぞ!」


「でも、ヴォーダー様そうではありませんか?マナを失って、生きる術が必要な私達に生み育てる力ではなく、更なる殺し合いの為の力を与える。これがユーステリア様の意思なのであれば・・・」


「人族は自滅し、滅びればよい。ただ、そこに我らを巻き込むな!」


「なんだと!」


今まで黙って成り行きを聞いていたコラルが吐き捨てるように叫んだ。そして、その言葉に再度男達は怒りを露わにする。


「こんな言葉が残っている。ある薬草の群生地があった。そこを見つけたエルフは根を残し、間引くように薬草を刈りながら必要な数を採集していった。次に獣人達が来た。獣人達は同様に根を残し、必要な数を刈って行った。最後に人族が来た。彼らは新鮮な方が高く売れると根っこごと洗い浚い引き抜いて行った。気が付くとそこは薬草の群生地ではなく荒れ地になっていた」


「我々を誹謗するか!」


「誹謗ではない、これは現実にあった話だ。実際は一度ではないがな、群生地を保護する為と称し、最初に半分の薬草を残した。次に来た者も同様に半分を、次の者も半分を、それを繰り返した時、そこにはもう薬草の群生地など無くなっていた。これは、至る所で発生した出来事でしかない。そして、我々獣人も、エルフも、それ以降薬草の群生地を人族から守るようになった。そして、人族はそんな我々が薬草を独占していると言い軍隊を送り込んだ。最後に残ったのは焼野原だけだった」


「き、貴様たちが理由の説明もなく独占したのだろう!」


「幾度となく我々は説明した、役人にも、教会にも、冒険者たちにも、しかし、その我々に対し人族は剣でもって答えたよ」


「話題が逸れて行ってるね、今までの経緯を今話てもしょうがないよね?この人達が知りたいのはどうすれば良いのか、違うかな、それ以前に自分達が助かるにはどうすればいいのか、だよね?」


キュアリーがコラル達の話を遮るように話し始める。そして、その言葉にセリーヌもユスティーナもうなずいた。


「ですがキュアリー様、この状況では結論は一つではないでしょうか?」


「ん?」


「ですから、今できる回答は助からない、ではないでしょうか」


「そんな!」


アリアの言葉にセリーヌが思わずと言った様子で声を洩らしました。しかし、誰もがその言葉に対し抗議の声を叫ばないのは薄々その回答に誰もが辿り着いていたのだろう。


「正確には世界の改変に耐えれなければ死ぬ、耐えれれば生き抜けるが正解かな?」


「世界の改変に耐えれる者はどれくらいいるのでしょうか?」


「さぁ?それこそ神様に聞いてみれば?ただ、貴方達の望み通り人族以外はまず助からないでしょうね、マナへの依存度は人族が一番少なく、エルフが一番多いから、もっとも精霊はそれ以上だけどね」


ユスティーナの問いかけにもキュアリーはあっさりと自分の想像を答えた。しかし、その言葉に対し助からないと言われたアリア達に動揺は感じられなかった。そして、その様子に疑問を感じたユスティーナは尋ねる。


「貴方方は動揺されておりません、なぜでしょうか?」


「おそらく我々はこの世界から去る事になるでしょう。かつての魔族やドワーフ達のように」


アリアのその言葉にエルフに対し攻撃的であった男達も含め、明らかに驚きの気配がしました。


「貴様たちはこの世界を見捨てると言うのか!」


男達の矛盾する言葉に、アリアは呆れた表情を浮かべる。


「それが貴方たちの希望だったのではないのですか?人族だけの世界、それを成し遂げようとしているのですから」


「そ、それではエルフだけでなく獣人達も全ていなくなると?」


「そうなるかな?この旅の中でアリア達と話をしたけど、それが一番良い解決方法だと思うから」


「わ、私達も連れて行っていただけるのでしょうか?」


「え?なんで?連れてかないよ?」


キュアリーの言葉に、セリーヌが慌てて尋ねた。しかし、キュアリーは明らかに理解できない、考えてもいない様子で答えたのだった。


「この村に来るまではその可能性も考えていました。キュアリー様は否定的でしたが、この村においてもう曾てのイグリアのように人族だけでなくそれ以外の者達が協力して生活しているようならば、それであれば私は一緒に旅立つという可能性も考えていました。しかし、やはり人族は人族であった。これが結論です」


「こ、このように短期間で「長期にいなければ解らないような、そんな関係では今後の争いの種になります」」


セリーヌの言葉にアリアは言葉を被せ遮りました。


「それでは、私達はこれで失礼させていただきます」


「ど、どうかお待ちください!」


アリア達が話は終わったとばかりに席を立とうとすると、ユスティーナは慌てて引き止めに掛かった。

しかし、アリアはそんなユスティーナに対し、困った顔をしました。


「待ってどうするのですか?私達はこの村で宿泊する気はありませんし、暗くなる前に可能な限り移動したいのですが」


「どうかこの村の者達をお救いください、初代様」


「「「初代様?!」


ユスティーナはアリシアではなくキュアリーへと視線を向け跪きました。そして、その言葉を聞き周りの者達は驚きの声を上げました。

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