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1-25:イグリアの村に

キュアリーの乱心騒動が一応の解決を迎えた後、次なる問題が発生した。

騒動の対処に大幅に時間を浪費してしまった後、次に誰が杖を使うのかで紛糾した。そして、兵士はとりあえずすべて動物になっていた事を理由にこれ以上の杖使用は中止となった。

そして、まだ痙攣する動物たちを順番に馬車の中にあった箱の中へと放り込み始めた時、更なる問題、ある意味当たり前である自然界の問題が発生する事となった。

その名は弱肉強食?!

元は人という事もあり特に気にせず狐と兎を同じ箱に入れたところ、なんと狐が兎を噛み殺してしまうところだった。この為、急遽肉食の獣と、草食の獣を分けて箱に入れる。すると今度は狐と犬が争い始める。そして、そこに手間取っている間に麻痺していた動物達が回復し次々と逃げ出していく。ついでに麻痺して倒れていた男達も同様に逃げ出して行く。

結局、捕虜をとっても邪魔、食べることも出来ない動物も邪魔との事で、すべてを解放する事になった。

ある意味、完全な責任放棄である。


「責任なんて特に私たちが考える必要はないですよね。1回はこちらも殺さず慈悲を掛けた形になっているし、次に又来たときは確実に殺せば良いだけ?」


キュアリーの言葉に皆が頷いた。ただ、セリーヌ達以外ににも顔を歪ませるもの達はいた。


「逃がすのは良いが、今後兎などを狩って食べる時にいちいち本当の兎か?っと疑いそうになる」


コラルの言葉に皆が苦い表情をした。なぜなら、その意見は全員が同意するところであったからである。


「まぁ逃げてしまった動物は仕方がないかな。それより逃げた人がどうするかが問題?」


「はい、この先には村がありますから。そこは見られたくないです」


「しかし、もう逃げてしまったからな、見られたら倒す、向かってきたら撃退するくらいしか方法はあるまい」


それぞれに意見を述べる中、マッスル1号が不思議そうな表情で言う。


「いや、絶対に発見されるじゃろうて、何せ偉いさんの息子が行方不明になるのじゃからな。お主等まじで気が付いていなかったのか?」


呆れて見返すマッスル1号に対し、セリーヌは愕然と、アリア達はああそういえばっといった表情を浮かべる。


「きゅ、キュアリー様、この動物たちを元に戻してください!」


「え?うん、無理!」


「が~~~~ん!!!」


セリーヌが呆然とする中、何を思ったのか兵士たちの甲冑を漁るミドリ達がいた。

そして、甲冑の中から何かを持って来て動物たちに適当・・に着け始める。


「何をしてるのです?」


アリアが尋ねると、


「いえ、判別に兵士たちの所持してるタグを着けておけばわかるかなって」


「「「いや、無理でしょ!」」」


その後幾つもの意見が出るが、決定打となる物は無く、対処療法的な物にはなるが村の近くへ来た捜索隊に対しては結界にて惑わす、又は認識を阻害する等の結論を出し、ようやく一行は移動を開始したのだった。

移動する中、キュアリーは籠の中の動物?達の状態を確認していく。すると、その動物達の中にSP表示のある物が存在しない事に気が付いた。


「あれ?さっきの兵士たちってアーツ使えたよね?SP表示が無くなってるんだけど、これも種族改変のせいかぁ」


キュアリーの言葉に、みんながキュアリーへと注目をする。


「この子達ってあたしから離れたらやっぱりMP減るのかな?」


「さぁ?ただ、試すのは後からでお願いしてもよろしいでしょうか?とりあえず今日中に村へと辿り着いておきたいのです」


「うん、いいよ」


セリーヌの言葉にキュアリーは軽く答える。しかし、その様子はどちらかと言えば何かを考え込んでいる様子だった。その後、馬車の中のメンバーは静かに何かを考えているキュアリーの邪魔をしないよう極力会話をしない様に、また会話をするときは出来るだけ小さな声で行うようにしたのだった。


馬車が移動を開始して3時間ほど過ぎた時、馬車の周辺に少しずつ人の手が入った畑が見え始める。そして、畑に植えられている作物を見るとその大半がトウモロコシであった。しかし、本来は青々とし、収穫に向け実りを豊かにしていくはずの物が、見るからに収穫すら危うそうな痩せ細った状態で続いている。


「うわ!すごいね、これまともに食べれるの?」


キュアリーがその光景を見て驚きの声をあげる。

アリア達も窓から顔を出し過ぎ去っていく光景に驚きを隠せない様子だった。


「はい、この辺りは温暖なため、年に2回、作物によっては3回の収穫が見込めます。その為、何とかみな食べていく事が出来ていますがここまで酷くなっているとは・・・」


セリーヌもこの短期間の間に様変わりしてきている事に驚きを隠せていない。


「あ、あの丘を越えれば村が見えてきます!」


セリーヌは馬車の進路上に小高い丘陵となった場所を指さした。


「見張りはいないのですか?」


アリアは改めて周辺を見回している。しかし、特に見張りと思われる者の姿も、気配も見当たらない。


「いえ、通常はいるのですが・・・」


セリーヌも訝しそうに前方を見る。しかし、エルフ達の、ましてやキュアリーの気配探知にも見張りどころか生き物すら引っかかる事がなかった。

そして、馬車が漸く丘の上に辿り着いた。そして、眼下に広がる村を一望する事が出来た。

しかし、目の前に広がる村は静まり返っている。村のどこを見渡しても人っ子一人見つけることが出来ない。人どころか動物すらも、生きているものの気配すら察する事が出来なかった。


「こ、これは・・・」


セリーヌはその光景を目にして思わず大地に崩れ落ちる。


「これって無人ですよね?どこかへ移動したのでしょうか?」


「生活していた気配すらないな、昨日今日移動したって感じでもないぞ」


サラサもコラルも同様に意見を述べる。


「とりあえず向かってみるか」


コラルがそう言いながら馬車を移動させようとした時、普段なら何らかの発言をするキュアリーが一切発言しなかった事に気が付き視線を向ける。そして、ルンとキュアリーの異様な様子に気が付いたのだった。


「キュアリー様、何か不審な点が?」


コラルの問いかけに対し、キュアリーは薄らと笑みを浮かべてコラルを見る。そして、呪文を唱えようとしたが、考えが変わったのか唱えるのを止めてセリーヌへと声を掛けた。


「ねぇ、セリーヌ。この結界壊してもいい?おそらく機械自体壊れちゃうと思うけど」


キュアリーの言葉にセリーヌは驚きの表情を浮かべる。


「結界ですか?」


「うん、ってセリーヌはこの結界をしらないのね、そうすると壊した方がいいかな?」


キュアリーはそう呟くと呪文を唱え始める。


「申し訳ないが壊すのは待っていただけませんかな?」


突然前方から声が聞こえ、突然に目の前の風景が歪み消滅した。

そして、百メートルほど前には数十人の武器を手にした男たちと、一人の老婆が立っていたのだった。


「「「巫女姫様!」」」


セリーヌ達人族が喜びの声を上げる。それとは逆にアリア達は一斉に武器を構えた。

そして、目の前の男達も同様に老婆を守るように武器を構え前へと進み出ようとする。しかし、老婆が視線でそれを抑え、一歩前に進み出てゆっくりと跪いたのだった。


「エルフの方々には、わざわざの御足労誠に感謝の言葉もございません」


老婆のその様子に、男達も慌てたように武器を納めて跪く。


「あなた方がイグリアの民ですか?」


キュアリーの言葉に老婆は静かに頷く。そして、キュアリーを見つめ返しながら答える。


「はい、わたくしはユーステリア新教の巫女を務めさせていただいておりますユスティーナ・ブラッドラブリー・イグリアと申します。この歳ですから元巫女と申すべきかもしれませんが、何分まだ後継ぎがおりませんので」


そう述べる老婆を見つめながら、キュアリーは巫女という役割以上にユスティーナのミドルネームが大変気になったのだった。


「あの、えっと、ブラッドラブリー?」


そう尋ねるキュアリーに対し、ユスティーナは怪訝な顔をした。


「はい、巫女になりました折にブラッドラブリーの名を継がせていただきましたが、何か?」


「いえ、ブラッドラブリーって・・・まぁいいけど・・・」


キュアリーが言葉を濁す、そして、その事に対し他の者達も不思議そうな顔をする。


「キュアリー様?イグリアでは代々巫女を務めてきた者達はブラッドラブリーの名を継ぐことは常識ですが?確か初代の巫女姫様のファミリーネームだったとか?」


どうやらアリアも巫女姫の名を知っていたようで、そうキュアリーへと説明する。しかし、その説明を聞きキュアリーはこめかみを揉むようにして顔を伏せたのだった。


いや、ブラッドラブリーってギルド名だし、人の名前じゃないし、ましてや初代巫女って誰?


キュアリーの頭の中ではそんな思いが駆け巡っていた。しかし、ギルド名ですら無いのを声に出していたとしても指摘できる者はすでにいなかった。


「私はエルフ元老院に名を連ねますアリアと申します。過去の経緯は抜きにして、今回はまず状況確認を含め調査の為にお伺い致しました」


アリアの言葉に一瞬男達にざわめきが起こる。しかし、ユスティーナは一切表情に感情を表すことなく深々と頭を下げたのだった。

その後、男達を先頭にしてキュアリー達一行は村へと入っていく。周囲を油断なく警戒しながら進む中、キュアリーは村の中において幾人もの者達からエネミー反応が出ている事に気が付いていた。

しかし、それ以上に祈るような、縋る様な視線を向ける者達も多数いることに気が付く。

そして、更には村の中においてのマナ分布が周辺より濃い事、又、大気中に少ないながらも精霊達が存在する事に気が付いたのだった。

もっともキュアリーが村に入った途端、キュアリーに覆いかぶさるが如く精霊に集られてしまったのだった。


「ま、前が見えません・・・」


一同がスムーズに村へと向かう中、キュアリーがフラフラヨタヨタとただ一人遅れながら歩いていく。

そして、周りで見ていた者達はその様子に怪訝な顔を浮かべ、中にはあからさまに疑いの眼差しを強める者達もいた。


「すみません、顔の前は遠慮してください」


キュアリーは顔にしがみつく精霊にそう声を掛け、何とか視界を確保すると前を行く一行と離れないようにと小走りに走り出す。すると、その瞬間にルルが飛び出し何かを叩き落とす。そして、静かに唸り声を上げ始めた。


「グルルルルル」


キュアリーは今ルルが叩き落とした物へと視線を向ける、するとそこには拳大もある石が転がっていた。

そして、ルルの視線の先を見ると幾分怯んだかのように腰が引けながらも此方を睨み返す20代くらいの男がいたのだった。


「はぁ、またこのパターンですか、何とかならないのですかね」


周りに聞こえるような声でそう言うと、キュアリーは大きな溜息をこれ見よがしに吐く。

そして、その行動に更に周りから殺気が高まるのが感じられた。しかし、先頭を歩く男たちがすぐに気が付き、慌てた様子でこちらへと走ってきた。

そして、キュアリーが何かを言う前に、何かを行う前に、恐らく村の何らかの地位にいるだろう男が怒鳴り声をあげる。


「コッカー!何をしとるか!」


その怒鳴り声にも睨み付けるコッカーと呼ばれた男だが、特に何かを言い返すことなく踵を返して村人達の中へと紛れていく。そして、その様子を引き止めずに見送った男は、溜息をつきキュアリーへと頭を下げた。


「申し訳ない、若い者が勝手をしてしまいました。お怪我はありませんか?」


「ええ、幸い投げられた石もルルが防いでくれましたし」


そう告げながらルルの頭を撫でると、ルルは嬉しそうに尻尾を振った。


「わたしはこの村で纏め役をしておりますウォーター・スパニエルと申します。細かな説明などは後程させていただきます故、まずは館に」


ウォーターはそう言うと、あからさまに周りを警戒しながらキュアリー達を館へと案内したのだった。


ご指摘いただいた部分訂正いたしました。

ご指摘ありがとうございます。

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