1-23:ルル無双
スキルが使用制限を受ける中、今現状すぐに打開策はないとのキュアリーの意見により一行は一先ずセリーヌの村へと向かうこととなった。
サラサやアリアは根強く反対をしたのだが、身体強化系のスキルが使用可能であったのといくつかのステータスUPのアイテムを装備する事で当面を切り抜ける方向で意見が統一されたのだった。
マッスル達の話によるアーツと呼ばれる新たな攻撃手段が、そして使用されるSPがどういった物か、攻撃力は?などにおいても不安は残るのであるが、使用できるものがほぼ10代の子供達のみといった情報から危険はそれほど大きくないのではとの予想も成り立っている。
「この先へと進むと南部最大の街であるキルトを通過する事になりますが?」
「いえ、キルトは大きく迂回します。どんな連絡が届いているかも判りませんし、街へと入る通行証も用意はできませんから」
マッスル1号の問いかけにセリーヌが答える。しかし、その答えに対しマッスル1号は懐疑的な意見を述べた。
「迂回するのは結構ですが、街に近づくほど人の目が増えますぞ?ましてや迂回などすれば怪しく思う者たちも増えましょう」
「はい、エルフの森へと向かう際に通過した森を通るつもりです」
セリーヌはそう告げ、視線を遠くに見え始めた森へと向ける。
馬車が次第に森へと近づいていく。セリーヌは何かを探すように馬車の速度を落とし始めた。すると、キュアリーはその森から視線を感じた。
「視線を感じますね。セリーヌさんのお仲間でもいます?」
「あ、はい、森の抜け道に仲間がまっているはずで」
セリーヌがそう話をしている最中、森の中から一人の男がゆっくりと現れ大きく手を振るのが見えた。
「モリス!」
セリーヌが大きく呼びかける。その男も呼びかけに答えるように更に大きく手を振った。
その後、そのモリスと合流した一行は一つの問題に直面していた。
何のことはない乗ってきた馬車ではこの森を通過できないのではないかとの意見が出たのだった。
セリーヌ達がエルフの森へと乗ってきた天蓋のない馬車と違い、今回一行が乗ってきた馬車では幅は問題ないが今回エルフ側で用意した箱馬車では確実に通れない場所があるのだった。
「まぁそこは木々に道を開けてもらうとかすれば」
アリアがエルフ達の常識を口に出す。しかし、今の森において木々が自分達を動かすことは不可能だと言える。動くどころか意思の疎通さえ難しいのだ。
「とにかく馬車を下りて徒歩で行こう。馬車はあたしが仕舞っとくから。それに、あまり馬車などで通過の痕が残ってもまずいし」
「追手ですか?」
キュアリーの声色によって、彼女が何を懸念しているのか推測したコラルが尋ねる。すると、キュアリーは静かに頷いた。そして、その言葉に全員が今来た道の先を眺める。
「確かに砦一つ落として追手無って訳には行きませんね」
「ですが、隠蔽しようにも今更じゃないでしょうか?」
眺める先にはしっかりと馬車の轍の跡が残されている。
「うん、それでもこの先へ行くんなら馬車より歩きの方が速そうだしね」
一行の前に続く道は、すでに獣道とも呼べない状態になっていた。
結局、馬車での移動を諦め、全員が徒歩での移動を行う事となる。ただし武器以外の所持品などはすべてキュアリーのアイテムボックスへと収納されており、歩きの負担は遙に軽減されてはいたのであるが。
森の中へと進んでいくと、今まで通過してきた場所とは明らかに違う事に気が付く。森に響く鳥の鳴き声、森の中へと進む程に兎か鳥のような小動物が時折木々の合間を走り抜けて行くのが解る。
「生き物がいる。森の木々の声すら聞こえてこないのに」
アリアは不思議そうにその様子を眺める。そして、この森にはまだマナが残っている事に気が付いた。
そして、慌てて一行の最後尾を歩くキュアリーへと駆け戻った。
「キュアリー様、マナがまだ残っています!」
「うん」
少し寂しそうに頷くキュアリーと、そのキュアリーが優しく木々を撫でながら歩いている事に今更ながらに気が付いたのだった。
「えっと、何をされて・・・え!」
アリアはキュアリーが優しく撫でている木が、ただの木ではなくエルダーヴィローと呼ばれる魔物である事に気が付き驚きの声をあげる。そして、改めて周りを眺めれば、森の木の表面に目や口と思しき裂け目が見て取れる。そして、その木々がすべてウィローやエルダーウィローと呼ばれる魔物である事に気が付く。
「この森って」
驚くアリアに対し、キュアリーは静かに頷き答えた。
「元は魔物の森だったんだろうね。それが、マナが減る事によって動く事が出来なくなった。でも、エルダー達が溜め込んでいたマナを放出する事でこの森はまだ以前のような状況を保っている、のかな?でも魔物はマナを溜め込んで魔物になった。そしてそのマナを放出してしまえばもう魔物ではなくなってしまう」
「ウィロー達は自分の意志でマナを放出しているのでしょうか?」
「さぁ?」
「このまま朽ち果てて行くのでしょうか?」
「どうなのかな?」
キュアリーは質問を受けながらもただ相槌を打つだけで自分の思いをこれ以上告げる事はなかった。
ただ、キュアリーは時折手に届く場所にいるウィロー達を優しく触りながら歩いていく。
キュアリーを除く一行は、動かないと解っていても左右に存在する魔物を見つけるたびに驚き、警戒しながらゆっくりと森の中を進んでいく。
森の仲間であるエルフにとって本来ウィロー達は仲間であるはずであった。しかし、警戒するアリア達の様子にはそのような様子はまったく感じられなかった。その姿をキュアリーは時折寂しそうに見つめていたがその事に気がついたものはいなかった。
そうして一行が漸く森を抜けようかという時、森の外から剣戟の音が聞こえ始めた。
「誰かが争っている?」
「一人二人の戦闘って音ではないです!」
キュアリーの呟きにセリーヌが慌てた様に走り出そうとした。しかし、それを押さえサラサとコラルが前方の森の出口へ向かって走り出す。そして、一行が辿りついた森の出口の前方では100人近い者達が叫び声を上げながら剣を合わせている。しかし、双方共に人数が拮抗している為かどちらが優勢といった様子はない。
それでも、すでに戦っている者達の周りでは幾人もの倒れ、動かない者達も出ている様子だった。
「ユーステリア軍!」
争っている片方の一団は統一された装備を身に着け、その鎧にはユーステリアの紋章が刻まれていた。
しかし、その装備はあきらかにまだ新しく、身に着けている者達は遠目でも未熟さが見て取れる。
又、そのユーステリア軍と戦っている者達は、あきらかに寄せ集めと思われるバラバラの装備を身に着けていた。そして、手にしている武器も、一部の者は剣すらなく鍬や棒といった武器ですら無い物が多数あった。
「ユーステリアは若いな、新兵かな?」
「そのようですね、その御蔭で拮抗した戦いが出来ているみたいです。加勢されますか?」
キュアリーやアリアが冷静に状況を見ている中、セリーヌ達は戦っている者達が自分達の知っている者達なのかを必死に見極めようとしていた。しかし、眼前といえど人相までは確認する事が難しい距離の為、中々判断がつかないようだった。
そして、そんな状態であれば必然的にこちらの存在を察知される。
「あちゃ、見つかったね」
ユーステリアの兵士達の一部が、あきらかにこちら側へと視線を向け、何か叫んでいた。
「も、申し訳ありません」
セリーヌがキュアリー達に謝罪の言葉を述べる中、キュアリーは森の外へと進み出ていく。そして、アイテムボックスから黄金に輝く一本の武器を取り出した。
「ふふふ、初登場!金猫メイス!」
キュアリーが取り出したメイスを見て他の面々は実に微妙な顔をした。先端部分にはデフォルメされ、いかにも相手を馬鹿にしたような笑いを浮かべる猫の頭の形状をしている。
ミャア!ミャア!
キュアリーがメイスを軽く振るたびに、そのメイスからは甲高い猫の鳴き声が響く。そして、その様子に
更なる困惑があたりに漂った。しかし、そんなことは一切関係なしにユーステリアの兵士達がこちらへ向かって走り寄ってくる。
「マナの関係もあるので近接戦闘で!」
「「「了解!」」」
アリアは現在の状況を踏まえコラル達へと指示を飛ばしコラル達はそれぞれの武器を構え前へと躍り出た。そして、一同が気合を入れて迎撃をしようとした時、先頭を走るユーステリア兵が文字通り吹っ飛んだ。
「グルルルルル」
「あ!」
キュアリー達が唖然とする中、眼前ではルルの無双が始まっている。まさに鎧袖一色、近づく兵士達が反応する事の出来ない速度で近づき、前足でただ殴りつける。その一撃でどの兵士も数メートルに渡って吹っ飛ばされていった。
ミャア!ミャア!・・・ミャア
キュアリーが先ほどと違い力なくメイスを下ろしブラブラさせる中、甲高い猫の鳴き声が聞こえるが、心なしかその鳴き声も力を失って聞こえる。
そうこうする間にルルはついには戦闘が行われている集団に飛び込み、ユーステリア兵どころか戦っているすべての者達を殴りつけて行った。
「あ、あ、あ」
セリーヌはその様子に慌てて手を前に伸ばし、おそらく静止しようとしているのだろうが言葉が出てこないようだった。
すべての者が呻き声を上げ倒れ伏す中へキュアリー達は踏み込んでいく。その中でルルは嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながらキュアリーの傍らへと帰ってきた。
「ヴォン!」
「うん、よくやったね!」
「ヴォン!」
「ずっと馬車でストレス溜まってたんだよね」
「ウヴォン!」
キュアリーはルルの首をワシワシと撫でながら優しく声を掛ける。そして、ルルの頭を両手で挟み込み、ニッコリと笑いながら言った。
「で、あたしは誰でストレス発散すればいいのかな~~?」
笑顔でありながら目が笑っていなかった。足元に置かれた猫メイスがその様子を笑いながら見ている。
ルルは、頭をしっかりと固定され逃げる事も出来ない。大きく振られていた尻尾がすっと足の間へと潜り込んだのだった。
「クゥゥン」
「ん?」
ニッコリと笑うキュアリーと視線を合わすことなく、ルルは必死に周りへと視線で助けを求める。しかし、周りでは係わりを持ちたくないオーラを出しまくっている者達が、倒れている者達を一応治療しながらもロープで縛る作業に没頭している振りをしていた。
「キュゥゥン・・・・ヴォン!」
その様子に絶望感を漂わせ始めたルルであったが、その耳にこちらへと向かう騎馬の足音を聞き付け喜びの声を上げる。
そして、キュアリーもルルの首を離し視線を音の聞こえ始めた方向へとぐるりと動かした。
「ふふふふふ」
ルルを開放し、足元のメイスを握りしめ立ち上がったキュアリーの視線の先には、ユーステリアの装備に身を固めた騎馬が5騎もこちらへと駆けつけてくるのが見えたのだった。
誤字のご連絡ありがとうございました。訂正いたしました。
書くペースが速くなりそうなど錯覚でした・・・。
2月~3月の忙しさを甘く見てました・・・。
とにかく、書き続ける気持ちは消えていません><
とりあえずまずこのお話をENDまで持っていかないとですね!




