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1-20:想定外の戦闘

「うわ~~うわ~~」

「可愛いですね!見た事もない愛らしさです!」

「・・・・ドキドキ」


キュアリーの姿にセリーヌも、アリアも、そしていつもとテンションの違うサラサも駆け寄った。そして、その手触り、抱き心地を堪能しはじめた。


「うわ!柔らかい」


「モフモフですね」


「・・・・・」


「え?ちょ!何をって、ふぎゃ!」


次第に過激になって行くというか、まさにお目当ての大きなヌイグルミを品定めでもするような感じへと変化し始めたため、ある意味手加減のなくなった3人によってキュアリーは悲鳴を上げ始めた。

声だけを聞くと何とも目に毒な光景が繰り広げられているように感じられるが、実態はただお気に入りのヌイグルミかペットの争奪戦となってきていた。


「何をやってるんですか!」


その様子を呆れた様子で見ていたコラルが溜息交じり声をかけた。


「さっきからぜんぜん話が進んでないですから、もう少し真面目にやってください!自分たちの命が掛かってるんですよ!」


話しながらだんだんと腹が立ってきた様子で語調が強くなっていく。それに対してキュアリーを除く面々は、反省したようにキュアリーから手を放した。キュアリーは表情が読めない為、何を思っているのかの判断はつかない。


「そうですよね、早急に対策を考えないとならない時に少々不謹慎でした」


セリーヌも漸く正気に戻り、改めて現状の問題点がなんら解決されていない事に気が付いた。

しかし、そんなセリーヌに対しキュアリーが問いかけた。


「ところで、この先の状況ってどうなってるの?砦が作られてるっていうけど、何人ぐらいの人がいるの?」


「え?」


「それに、砦以降の状況も聞いておきたいし、どれくらいの人や街が残っているのかとか?」


「え?え?」


首を傾げるコパンダ姿のキュアリー、それを見てなぜかセリーヌは更に混乱した。


「さてさて、そうですな、4日程前には砦には兵士約30名、作業者が約200名といった所でしたな。砦自体は簡易的な柵、物見台などはすでに完成しておりました。この4日で更に強固になっている可能性はありますな。まぁ所詮は木製ですが」


セリーヌに変わりマッスル1号が答える。そして、最後にキュアリーを見ながらニヤリと笑った。

マッスル1号をみながらキュアリーは首を傾げて何か思案を始めた。


「あの、何か問題が?」


アリアもその様子を気にかけ声を掛ける。


「うん、その作業者ってユーステリアの人?」


「さぁ?」

「どうなのでしょう?」


エルフの森グループはもちろん解る訳はなく、セリーヌも同様に首を傾げマッスル達を見た。

しかし、マッスル達は今までと違い複雑な表情をしていた。


「ユーステリア人かどうかですか、中々難しいお問い合わせですな。確かに彼らはユーステリア人です。ただ、その中の多くの者が以前はイグリア人であった。これが正確な答えですな」


「う~ん、今忠誠はイグリアではなくユーステリアにあると?」


「さて、心の中までは解りません。ただ、すでにイグリアという国は滅びております。その上で自分はイグリア人であると言う者は多くはありますまい」


「ふ~ん、それでもユーステリアの為に命を掛けるかな?」


マッスル1号はキュアリーの問いかけに面白そうな表情で考える。しかし、しばらく考えた後表情を改めて答えた。


「作業者の状況が解りませんからなんとも、ただどう考えても勝てないと解れば逃げるかと推測はします。ただ、こればかりは何とも」


その後、さらに幾つかの情報を確認する2人の話を聞いていたアリアだが、その表情がしだいに青ざめていく。


「ま、まさかですがキュアリー様は砦を攻撃されるおつもりですか!?」


「攻撃・・・う~ん、攻撃かな?どうだろう?」


首を傾げながらキュアリーは呟いた。

周りは、思い思いの表情でその様子を見る。


「砦を落とす事はたぶん難しくないのよね、ただ、その後どうするかが問題かな?殲滅するなら後腐れないけど、元イグリアの人がいるとそうもいかないし。それに人質でも捕られて無理やり働いてるとかもあるかもだし?まぁとりあえず状況が解らないとなので見てくるね」


そう言うとキュアリーは砦へ向かって走り始めた。


咄嗟に何かいう事も出来ず、ただその様子を唖然として眺める一同。

そして、呆然実質より一番に回復したアリアが騒ぎ始めた。


「ど、どうしましょう!キュアリー様が行ってしまわれました!お、追いかけないと!」


その言葉にサラサ達が慌てて出発の準備を始めた。その中でマッスル一号がボソリと呟いた。


「二足歩行で孟ダッシュするベアー・・・シュールだな・・・」


◆◆◆


ユーステリア軍エルフの森攻略の最前線と思われる場所、エルフの森攻略用砦ラグナロク、ユーステリアとしてはエルフの森を攻略し人類による制覇を決める聖戦への砦として建造を始めたため大層な名前が付いていた。実際はまだ木造で作られ、砦を守る柵ですら高さが2メートル程の木造、害獣などの侵入は防げてもとても戦闘が行えるような状況ではなかった。

最終的には石材を使用した堅固な砦を建造する予定ではあるが、完成には早くとも2年以上掛かる予定である。

基本的にエルフは森から出て来ることは無い、その為警戒しなければならないのは獣や魔獣、イグリアの残党などの攻撃であり、組織だった攻撃は無いとの判断にて現状のラグナロク砦は周辺の偵察用拠点及び砦建設の為の居住場所確保の為の簡易拠点といった様相であった。


「聞いていたより人が多いなぁ、500人近くいるかな?」


キュアリーは砦よりおよそ500メートルほど手前の茂みの中から双眼鏡にて状況確認をしていた。

そして、砦で働く人の動きを見ながら想像とは違い、この場で働く者達は意欲的に動いているように思われた。


「奴隷や犯罪者を無理やりって感じではないわね・・・これはちょっと想定外?殆どの人が非戦闘員なのも困るなぁ」


キュアリーの当初の予定では砦にいる指揮官クラスを排除し、その後強制的に働かせていた者達を解放、そしてイグリア解放へのテコ入れなどを漠然としたイメージで考えていた。

しかし、今見る限りではその予定は大幅に変更する必要性が感じられた。


「殲滅する訳にはいかないよねぇ・・・むぅ、困った。とりあえずもう少し近づいてみますか」


そう呟くと、もし発見されても良いように4足歩行で出来るだけ藪の中を隠れるようにして近づいていく。


「4足歩行って疲れるかも・・・」


そんな事を呟きながらも砦から200メートルくらいの距離まで近づき、様子を見る。


砦では、堀を作る為の掘削作業が行われている。そして、作業する者達は活気がありやはり強制されての作業とは思えない。そして、近づくにしたがって砦の方より何か美味しそうな食べ物の匂いが漂ってくる。


「なんだろ?美味しそうな匂いがする」


砦をじっと観察すると、門を開けて数人の女性が外へと出てきた。そして、作業をする男達に何か声を掛けている。そして、更に観察していると作業をしていた者達は笑顔を浮かべながらぞろぞろと砦の中へと入って行った。


「むむ、お昼っぽい」


砦から漂ってくる美味しそうな匂いと、そういえばまだお昼食べてないぞっといった思いが重なり、急速にキュアリーはお腹が空いてきた。その為、とりあえず自分も食事にしようとアイテムBOXから以前に作成してあったサンドイッチを取り出した。そして、いざサンドイッチを食べようとした時、キュアリーを予想もしていなかった自体が襲った。


「サ、サンドイッチが持てない!」


そう、コパンダへと姿を変えていたキュアリーの手は、残念ながらサンドイッチのような柔らかい物を持てるようには出来ていなかった。愕然としながらも、慌てて箸やフォークを出すが、どちらも訓練すればまだしも、すぐにはとても持つことが出来ない事が解ったのだった。


「・・・・終わった、何もかも終わった・・・」


絶望に視線を彷徨わせ良い匂いを漂わせる砦を恨みがましく眺めた時、キュアリーの目には砦からゆったりと満足そうに出てきた男の姿が映った。そして、その男も茂みの中からひょっこりと頭を出しているキュアリーへと目を向けた。

しばらく視線を交えながらもお互いに身動きが出来なくなった時、男の後からやはり食事を終えた男達が現れた。そして、先に出ていた男の様子を訝しげに見た後その視線を辿りやはりキュアリーを発見し硬直した。しかし、すぐに男達は腰に付けたスコップや鶴嘴といった作業道具を手にとり、一直線にキュアリーへと叫びながら向かってきた。


「「「肉~~~~!!!」」」


「サ、サンダーレイン」


そのあまりに直線的な感情の発露に、キュアリーは本能が発する恐怖に導かれ魔法を発動していた。

辺り一面に輝く無数の稲光と、轟く落雷の音があたり一面に響き渡る。

そして、数秒後に静まりかえった周辺ではピクピクと痙攣し、それでも「に、に・・く」っと譫言のように繰り返す男達が所狭しと倒れていた。


「何事だ!襲撃か!」


砦から次々と兵士と思しき者達が武器を手に飛び出してくる。そして、兵士達は砦の前で倒れ伏す男達を驚きとともに見、そしてその先にいるキュアリーに気が付いた。


「新たな魔物か?いや、しかしこの状況は・・・」

「油断するな!隊列を組め!」


慌ただしく動き始める砦の様子に、キュアリーは当初の計画の大幅な変更を余儀なくされた。

そして、キュアリーは二足歩行で砦に向かって走り始めた。


「がお~~~」


「「「・・・・・・」」」


前衛にて盾を装着した兵士達がしっかりと壁を作る。そして、その背後から弓兵が矢を射る為大きく弦を引いた。


「がお~~~、がお~~~」

「「「肉~~~」」」


キュアリーが雄叫びを上げ兵士達から50メートルの位置に差し掛かった瞬間、一斉に引き絞られた弦が放たれ矢がキュアリーへ向かって雨のように降り掛かった。


「うみゃ~~~」


自分の威圧に屈する事の無い兵士達、そして降りしきる矢の雨にキュアリーが悲鳴を上げた。

この時、キュアリーはコパンダになっている為、コパンダ状態の標準パッシブスキルである魅了の為威圧スキルが働かない事を失念していた。そして、合わせてコパンダの魅了スキルが兵士達の飢餓という状態異常を底上げし、キュアリーを食料として大幅に魅了してしまった事も想定外であった。

この為、とっさに威圧にてユーステリア軍を追い出そうと思った試みはあっけなく崩壊したのだった。

もちろん、本人はまったく理解はしていなかったのだが。


「みゃ!」トスッ

「フギャ!」トスッ

「ミャミャミャ!」トストストスッ

「うぎゃ~~~」ドスッ・・・・ポトッ


飛んでくる矢を必死に避けながら、時には矢が当たる事もあったが、幸いにDEF値に助けられ突き刺さることはなく当たりはするが落ちていく。

しかし、刺さらないと判っても自分に向け放たれる矢は恐ろしく、キュアリーは必死に回避をした。

そして、数秒が過ぎた時漸くだが兵士達の矢が尽きた。


「ぐるるるる」


ドキッ!


恐怖から涙目になりながらもキュアリーは兵士達を睨みつける。その仕草が更に魅了スキルを高める。そして、兵士達の更なる食欲に火をつける。

そして、おのおのの武器を手にキュアリーへと殺到する兵士達。しかし、その動作には当初の知性などすでに欠片も残っていなかった。


「サンダーアロー(怒)」


ただ一塊になり突撃する兵士達、そしてあたりまえにその塊は輝く光に包まれたのだった。

そして、アリア達が轟く轟音に焦りながらも漸く砦が見渡せる位置まで来た時、そこにはまさに大地から立ち上る煙と、何かが焦げた匂い、そして地面を埋め尽くすように倒れ伏す兵士の姿があった。

長らくお待たせしました。

まさかここまで投稿が遅れるとは思っていませんでした・・・


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