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1-1:伝説の再来

結界に守られ緑豊かな場所である結界の森。その結界の森周囲を囲うように更なる巨大な森が広がっている。

そして、その森で唯一の都市であるエルランドでは今日も多くの馬車が道を駆け抜けていく。

今や、世界で有数の自然を確保している森は、食料、資源共に近隣諸国においては無くてはならない供給元となっていた。

その為、絶えず商人が行き交い、それに合わせてその商人の護衛、冒険者なども訪れては去っていく。

しかし、人の出入りが増えるにつれ様々な問題が発生する。自然破壊を筆頭に、密猟、立入禁止領域への無断侵入、野盗、泥棒、殺人、事の大小を含めると数えきれないくらいの問題が出てくる。

その為、森の管理者であるエルフ達は日々忙しさに追われていた。


「うわ~~今日も訪問者がいっぱいだね。これじゃぁ日が落ちるまでに街に入れない人も出てくるんじゃない?」


エルフの監視者の一人であるサラサは門の前に並ぶ行列を見てため息を吐いた。


「しかたなかろう、門での検査は厳重に行わなければならんからな。どんな物騒な物を持ち込んで来るか判断がつかん奴らが多すぎる」


先日も、街へと多くの麻薬を持ち込もうとした商人が捕まった所だった。何の為にそのような物を持ち込もうとしたのか、現在厳しい取り調べが行われているがまだはっきりとした事は伝わっていない。

サラサとコンビを組んでいる獣人のコラルは会話をしながらも油断なく門を通過する行列を凝視していた。

精霊を見、その声を聴く事の出来るエルフと、鋭い嗅覚と聴覚をもつ獣人のコンビはこのエルランドの監視者においては標準的コンビである。両者の監視をすり抜けてこのエルランドへ不正な持ち込み、持ち出しを行う事は不可能に近いと言われている。又、精霊が溢れているこの森において、エルフ自身も不正を行えばすぐに精霊伝いに伝わってしまう。この為、高い規律が守られ、今エルランドは世界において一番安全な街と言われていた。


「しっかし、毎日こんなにゾロゾロ途切れもなくよく来るよね、人族なんてひっきりなしじゃん。ついこの前まで戦争してたっていうのによく来れるもんだよね」


サラサは目の前を通過していく人族の集団を睨み付けた。人族と時間の感覚が違うエルフにとって5年はまだつい昨日あった事のように感じられる。この為、必然的にエルフ達は人族、魔族、ドワーフに対して厳しい判断をする事が多い。しかし、それは致し方のない事であろう。獣人族もその事は解っているため、エルフがやり過ぎる事がない限り干渉する事はない。


そんなサラサの視線を避けるようにその人族の集団は門の前へと通り過ぎようとしていた。

くたびれた衣服を身にまとい、今にも壊れそうな馬車に荷物をいっぱいに積んでいる。そして、その馬車を年老いたロバがゆっくりと引きながら、その周りに母親とおぼしき40代くらいの女性が2人、10代の子供が3人、10代以下の子供が更に3人とまさに難民としか思われない集団である。最近減って来はしたのだが豊かな資源があるこのエルランドへの移民希望者は後を絶たない。

しかし、無尽蔵に移民を受け入れる事は森の喪失を招きかねない。この為、移民審査は非常に厳しいものとなった。また、移民許可が下りるのはエルフと獣人族、次にドワーフ族、最後に人族と魔族の順番となっている。これも、自然と共存のしやすいエルフと獣人に対し、共存が難しい種族は余程の技術などを所持していない限り受け入れられる事がない。

それでも、移民希望者達は毎日のようにこの街へ訪れている。

サラサが視線を向けると案の定、門の前では先ほどの一団が横へと移動させられていた。


「ありゃ駄目だな。追い返されるだろうが森の外まで辿りつけるかどうか」


このエルフの森は決して安全な森ではない。いまだに魔物が出現し、その魔物をエルフ達が狩りつづけている。聖域のそばだからか、精霊が多数いる場所だからか、比較的弱い魔物しか出現しないとはいえ魔物は魔物である。武器も碌に使用できない人間で勝てるものではない。魔物も、近年はこの弱い獲物に狙いをつけて狩りに来るものすら現れているほどだ。


視線の先では、先ほどの一団の代表と思しき女性が、必死になにかを訴えている。しかし、門の係官はその訴えに対しまったくと言っていいほど関心を示した様子はなかった。その時、その女性が、徐に懐へと手を入れ何かを取り出そうとした。この動きに係官と、その両側にいる衛兵が敏感に反応をした。


「まて!貴様動くな!」


「あ、あの・・・」


突然の怒声に女性は戸惑いと怯えを隠せないまま、その騎士へ向き直った。


「貴様!何をしようとしている!」


衛兵が剣を抜き、その女性に突きつけると、周りから悲鳴が聞こえた。女性についてきていた子供達が泣き出しその場が騒然とした雰囲気に包まれ始めた。


「ちっ!面倒な」


サラサが見ていても、明らかに衛兵たちが過剰反応しているのが解った。そして、周りの雰囲気によって更に衛兵の気が立っていくのを感じた。その為、場を収めるために衛兵たちの方へと向かおうとした時、コラルがその腕を捕ってサラサを引き留めた。


「ん?どうし」

「間に合わん」


サラサがコラルに向かって声をかけた時、更なる悲鳴が広場から響いた。そして慌てて振り返った時、目の前には突き飛ばされたのか地面に倒れこんでいる女性と、今にも切りかかろうとしている衛兵の姿が見えた。


「馬鹿が!」


明らかに非力な女性に対し、剣を振り下ろすなどあってはならない失態である。それなのにその衛兵の傍らにいる係官もその行動を止めようとしていないのは明らかだった。

間に合わないっとサラサが感じた時、何かがその衛兵の頭に直撃し、驚いたことにその衛兵はそのまま広場の隅へと吹っ飛んで行った。


「えっ?」


「なんだ?」


サラサとコラルが驚く中、門へと並ぶ列の中から一人の小柄な人影が飛び出してきた。そして、女性のそばに落ちているメイスを拾い上げている。

係官が口をパクパクさせているがどうやら言葉になっていない。吹っ飛ばされた衛兵も起き上がる素振りを見せなかった。そして、この様子を見ていたサラサやコラル、そして門を警備していた他の衛兵達も慌てて現場へと走り出した。


「おい!貴様なにをしている!」


「ん?」


一番早く駆けつけたサラサがいつでもサーベルを抜けるように構え、慎重に近寄りながらその不審人物へと詰問をした。サラサは先ほどの衛兵への攻撃が想像がつかないような小柄な相手に、他に実は仲間がいるのか、それとも力重視のドワーフなのかと様々な思いを抱いていた。そして、相手が振り向いたときその驚きは最高潮に達した。


「ハ、ハイエルフ・・・・」


伝説では金色の髪を持つエルフに対し、白銀の髪をもつハイエルフ、その髪は年を経る毎に光沢を増すと言われている。そして、その振り向いたエルフの髪はまさに輝くような白銀の輝きを放っていた。

そして、その後サラサはなぜ係官が言葉にならなかったのかに気が付いた。その係官とハイエルフの間に体長2メートルはあろうかというルーンウルフがジッと係官を睨み付けていたのだった。


「サラサ!」


サラサの後から駆けつけたコラルはサラサの視線の先を辿り、そして言葉を失った。そして、ほかの衛兵達も、先ほどまで悲鳴や泣き声をあげていたこの場にいるすべての人達がその光景を目にして言葉を失い立ち尽くしていた。そして、そんなエルフ達を無視して、そのハイエルフは倒れこんだ女性へと屈みこみ助け起こしたのだった。


「大丈夫ですか?」


倒れこんだ女性は、ただそのハイエルフを眺めるだけで言葉を発する事はなかった。その様子にちょっと困ったように首を傾げたハイエルフは、女性の傍らに落ちている物を拾い上げた。


「これはさっき取り出そうとしたものかな?ギルドカード?うんっと・・・あら?クマッタギルド、ベイチェンさんのとこのね」


ハイエルフのその呟きが聞こえた女性は、驚いたようにハイエルフへとすがりつきました。


「クマッタギルドをご存じなんですか!」


「え?うん、普通に知ってるけど?」


その言葉にその女性は突然涙を流し始めました。その様子に驚いたハイエルフが、カードを手にどうしようか戸惑っていると、ルーンウルフが静かな唸り声を上げ始めました。


「ルル?どうしたの?」


そのハイエルフが視線を上げると、目の前には門から現れた衛兵が数名、そして先ほど吹っ飛ばされた衛兵が同僚と思しき人に肩を借りて立っていた。


「あら、意外に丈夫」


その時、ハイエルフがポツリと漏らした呟きを聞きつけた衛兵の顔が真っ赤に染まった。


「このアマ!」


頭に血がのぼった衛兵が、手にした剣を振り上げようとした時、サラサが自分のサーベルをその衛兵へと突出し衛兵のもつ剣を叩き落とした。


「馬鹿者!貴様なにをしようとしているのか解っているのか!」


「貴様こそ解っているのか!俺は元老院ホルンの息子ホルトだ!俺に剣を向けたこと容赦はせんぞ!」


その衛兵、ホルトの言葉にサラサと、コラルの顔に緊張が走った。

サラサ達と衛兵では所属が違う、その為にホルトの事を知らなかった。元老員とは、現在のエルフの森どころか、この世界のエルフの方針を定める元老会議に参加する13名の委員の事を指す。そして、その権力は容易くサラサ達を消す事すら可能である。


くそ!なんでこんな衛兵に元老員の息子なんかいるんだよ


サラサはそう思いながらもなんとかこの危機を回避しようとした。


「お待ちください。いくら元老員のご子息と言えど、勝手にエルフを切り殺したとあっては唯ではすみません。ましてや見たところ彼女はハイエルフです」


「馬鹿が!今の世にハイエルフなどいるものか!」


顔を真っ赤にして怒鳴るホルトを見ながら、サラサは必死にそのハイエルフと思われる少女に立ち去るよう目配せをする。しかし、サラサの思いを知ってか知らずかその少女は今や元凶となった人間の女の傍らから動く素振りすらない。

このままでは不味いとサラサが悩みだしたとき、門の中から数人の男たちが駆けつけてきた。


「何事だ!門の前で何を争っている!」


その兵士たちの白一色の装備を見た時、サラサは安堵の溜息をを吐いた。白一色の装備とはエルフの正規軍の制服である。そして、彼らはサラサやホルトの所属する衛兵や警備隊とは独立し、まさにエルフ守護の象徴でもあった。


「争っていた訳ではなく、少々誤解が発生しまして。今収拾しますので」


コラルがすかさず兵士に告げ、少女と人族の女性を広場の隅へと移動させようとした。

すると、ホルトが抜身の剣でその動きを牽制する。


「勝手な事をしてもらっては困るな。こいつらは門を強引に破って街に入ろうとしたんだ、だから俺がそれを未然に防いで成敗した。バガン殿そういうことだ。」


ホルトはそう言って兵士へと視線を向ける。


「ほう、それはお手柄ですな。さすがはホルト殿、お父上もお喜びになりますな」


バガンは、無表情のままそう答えた。そして、まるで汚物を見るように人族を見て、その後エルフの少女を見た。

バガンはその少女を見た瞬間、その白銀の髪の美しさに目を奪われた。そして、ここで殺されるのは惜しいと思いはしたが、元老員の息子であるホルトに逆らうのは得策ではないと判断した。

このやり取りを見ていたサラサとコラルは現状認識を改めた。そして、状況が更に悪化したことに絶望を感じた。


まずい、このままではまずい


今の状況が自分達の命に関わる事を感じていたサラサとコラルは、目の前の現況を切り捨ててでも助かる方法がないか必死に頭を回転させていた。しかし、現状を脱する良い発想がまったく浮かばなかった。なんとか助けが現れないかと門の中へと視線をとばすが、そこではこの門を守護している衛兵たちが壁を作っているだけであった。


「ふん!」


ホルトが剣を振り下ろす姿が視界に移り慌てて視線をそちらに戻したとき、サラサ達は又も予想もしていない状況を目にしたのだった。


ギン!


誰もが、少女と女性が切り殺されると思い悲鳴を漏らす中、辺り一面に甲高い音が響き渡った。それは目の前でホルトによって振り下ろされた剣が金色に輝くリングに弾き返される音だった。


「くそ!なんだ!」


ホルトは力いっぱい振り下ろした反動か剣を持つ手が衝撃で痺れ、跳ね返された衝撃のまま剣を取り落していた。

そして、大衆の前で更なる失態を侵した事に激怒し、その激情のまま魔法を少女へと放った。


「ファイヤーアロー」


「レジスト」


その声は小さく、それでいてはっきりと響き渡った。そして、今まさに放たれようとしていた火矢がその瞬間跡形もなく霧散した。相手の魔法を成立前に妨害させる事は比較的可能である。それでいて、すでに発動された魔法を魔法で相殺する、防ぐ事は出来るだろうが、発動自体を打ち消すことは不可能、そう言われていた。

しかし、その常識が目の前で破られた。この瞬間、サラサと、衛兵や兵士の中の一部の者は気が付いた。この場合は気が付いてしまったと言うべきだろうか、今まさに決して喧嘩を売ってはいけない相手に対し、喧嘩を売ろうとしている事に。

先ほどまで冷淡に状況を眺めていたバガンは、一転自分の想像以上の事が起きているのではとの疑いを持った。

そして、慌ててホルトを制止しようとした。しかし、その静止は間に合うことなくバガンの目の前を銀色の閃光が走ったかと思うとホルトの首は宙に舞った。


「ルル、ありがとう」


少女はホルトの首を一瞬にして狩り飛ばし、自分の傍らにと戻ってきたルーンウルフの頭をやさしく撫でた。しかし、周りの者達にはそのルーンウルフがどうやってホルトの首を切り落としたのかすら見極めることが出来なかった。ましてや、いつ動いたのかなど誰も気が付かなかった。


一瞬の静寂の後、周りを歓声と怒号が飛び交い唖然としていた衛兵、兵士、そしてサラサとコラルですら剣を引き抜き少女とルーンウルフを取り囲んだ。今、この時、全員の頭にあったのはまさに未知に対する根源の恐怖でしかなかった。


「びっくりした、いつの間にこんな大きな街ができてたのかな。でも、暮らしてる人は好きになれそうもないね」


「ヴォン!」


その呟きで、サラサの頭の中では警鐘がガンガン鳴り響いていた。不味い、不味い、只管そんな思いが心を占める。そして、それ以上に逃げろ、今すぐ逃げろっと本能が警告を出していた。


「き、貴様!我らエルフを敵に回すつもりか!」


バガンが自然と震える腕で必死に剣を構えながらその少女に詰問した。そして、その声をきっかけに広場は少しでもここから離れようとする人々と、応援に駆け付けようとする衛兵で混乱の極致に達した。

その中で、いったい誰が切っ掛けを作ったのか、作ってしまったのか、少女に向かって一本の矢が放たれた。

その矢は先ほどと同様に少女の周りを覆う黄金のリングに弾かれた。しかし、まさにそれを合図としてルーンウルフが兵士へと飛び込んでいった。

剣戟の音は一切聞こえる事はなかった。少女へと剣を振り上げた兵士や衛兵達は次々に空から降り注ぐ雷に打たれ倒れていく、ルーンウルフへと向かった者たちは、ルーンウルフから放たれる風の刃に切り倒されていく。そして、それは明らかに精霊魔法であった。

エルフ達は今ならなぜ、先ほどホルトの首が宙に舞ったのか誰もが理解した。そして、このありえない現象に愕然とした。

なぜなら、このエルフの森に住む風の精霊たちが、エルフへと牙を剥いたという事であった。精霊を友とするエルフからは信じられない事であった。


本能からくる萎縮と、目の前に広げられるありえない情景にサラサとコラルが呆然としている間に、すべての戦闘と呼ぶことすら出来ない戦いは終結していた。

目の前には呻き声を上げるエルフ達が、そこかしこに倒れていた。気が付くとサラサを腰を抜かして座り込んでしまっていた。


「むぅ、弱い!アルルさん達は何をやってるんだろ?根性も最悪、練度も最悪、ダメダメじゃん」


少女は、傍らに戻ってきたルーンウルフを優しく撫で、まるで何もなかったかのように平然とエルフの街へと入って行こうとした。その姿をサラサはただ見続けている。はっきり言って戦うなど考える事すら出来なかった。大樹と若木、もし大樹がその枝を広げたならただ枯れ行くしかない。そんな相手に戦いを挑むなど想像ですら不可能であった。

少女が門の所まで辿りついたとき、ふと思い出したかのように先ほどの人族の集団へと声を掛けた。


「ついてきて、クマッタ騎士団の関係者なら他人じゃないから、とりあえず落ち着いたところで何があったか教えて」


そう声を掛ける少女に一瞬戸惑いを浮かべた女性の集団だったが、そのあと連れ立って少女へと付いて門を潜って行った。

サラサとコラルはその状況をただ見ていることしかできなかった。

前に前書きが邪魔とのお声もあったので今後は後書きのみ書いていくつもりです。

誤字脱字などありましたらお手数ですがご指摘いただけると幸いです。


今回またも若干本文の書き方を変えてみました。

みなさんはどう感じられますでしょうか?

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