1-17:マナ
キュアリーの戦闘が終了してすぐにアリアが兵士達を連れ天幕へと飛び込んできた。異常に気が付いたのは天幕から光が漏れた瞬間というのだから危機感の欠如を疑う所ではある。ただ、指向性の強いキュアリーのみに向けられた殺気だった為、それを感知しろという事は酷であるのかもしれない。ましてや、キュアリーからは殺気のサの字も発せられていないのだから。そして、更にアリア達が異常に気が付かなかった理由としてはルーンウルフ達であった。彼らがのんびりと広場に寝転がってる為、すぐに危機とは感じなかったという。天幕から漏れた光に気が付き駆けつけた事も、精霊花に何かあったのかっといった確認の意味合いが強かった。
そして、襲撃があった事をしったアリアは、倒れているハーフエルフの男を兵士達に拘束、移送を指示しながらもキュアリーに対して文句を言った。
「キュアリー様、今後は危険があったら素早く知らせてください!」
「え?うん?危険があったら教えてあげるね」
「はい、お願いします」
「ええ、危険があったらね」
微妙にすれ違う会話に気が付く者もなく、本人達も気が付かずに会話は進められていった。
アリアは若干キュアリーの言葉に違和感を感じたのだが、その後にキュアリーから質問を受けたために確認する事ができなかった。
「ねぇアリア、ところでハーフエルフって歓迎されていないの?」
「え?いえ、エルフの森では特にハーフエルフだからと言って迫害はありません。ただ、他の街ではどうかまでは解りませんが。特にエルフの森以外でハーフエルフが生まれる原因がその、なんというか・・・」
突然言葉を濁し始めるアリアを見て、キュアリーもだいたいの理由を察した。確かにエルフがこの森以外に好んで住むとは思えない、ましてや戦乱が続いたのであるから言葉を濁す理由はおのずと思いつく。
「あまりこの場所に長居するのも問題かな?丁度この袋に精霊花を入れておけばとりあえず旅を続けられるし、ノンビリここで滞在していられる状況ではなさそうだしね」
キュアリーの言葉にアリアは顔を顰める。
「あの、キュアリー様、このまま森に戻るという事は・・・」
「う~ん、お塩も手に入ったし、それも悪くはないかも・・・でも、精霊絡みだからそんな訳にもいかないのよね」
キュアリーが思わず引き籠りスキルを発動させ悩み始める。そして、アリアはもしやチャンスっとばかりにキュアリーを説得しようとした。アリア自身も精霊の事は気にはなるのだが、旅だった途端に争い事が立て続いて発生した為本来の気持ちが更に下降線を辿っていた。この為、一度仕切り直しもしくは取りやめになればとの思いがあった。しかしアリアが一度帰還してはと言いだそうとしたタイミングを計ったようにセリーヌが天幕へと入ってきた。
「キュアリー様、また何かあったのでしょうか?」
一時は落ち着いてきた兵士達の様子が、またピリピリとした物に変わった為心配になったのだろう、セリーヌは天幕の中へと入り周りを見回した。そして、精霊花がすべて取り払われすっきりとした内部を見て驚いている。
「驚かせちゃった?なんか精霊花を狙ってというか、取り戻そうとして侵入者が来ただけなんだけど」
「だけですか・・・」
キュアリーの言葉に認識の違いを感じアリアは溜息を吐いた。
その後、アリアの説得虚しく翌朝にはこの場所を起つ事となった。すぐにでも出発しようとしたキュアリーであったが、流石にアリアもセリーヌもすでに宿営の準備に入っており、また出発の準備に切り替えたとしても、その準備をしている間に夜になってしまう事が容易に想像できた為だった。
◆◆◆
翌朝、早々にキュアリー達は宿営地を後にした。
キュアリーと違い、アリア達が意外に感じたのは宿営地までついて来ていたルルの親達ルーンウルフ一行が出立と共に一斉にコルトの森へと帰っていった事だった。
なんとなくルルに付き添いこのまま同行するのではといった意識があった為、その事をキュアリーに尋ねると不思議そうな顔をされた。
「ルルパパはルーンウルフの長だし、一族をあえて苦境に追い込むことはしないでしょ?なんで付いて来ると思ったの?」
アリアはキュアリーの質問の回答の意味が解らなかった。その為、あれほど強いルーンウルフ達にとって今回の旅はそんなに苦境とはならないのでは、それとも、この旅はそんなに危険なのだろうかと不安になった。しかし、馬車に数時間ほど揺られた頃、キュアリーの言葉の意味が次第に理解できてきた。
「あの、キュアリー様何となくですが体が怠く感じませんか?こう、なんっていうか重いというか、息苦しいというか」
アリアが今自分の感じている感覚をキュアリーへと何とか伝えようとする。又、馬車にいるルルも当初からキュアリーの足元で蹲ってはいるのだが心なしか元気がないように思われた。
「そうね、周りのマナが減って来てるからね。この世界では無意識に生活の中でマナを使用しているから、だからマナが減ってくるとどうしても今までのような動きがし辛くなるから。特にコルトの森に住む者にはキツイかな」
「そうなんですか?」
キュアリーの説明に今一つ理解が追い付かない中、アリアは大気中のマナを感じてみる。するとそこにはコルトの森よりいくらか少ないマナが感知出来た。そして、このマナの量でこの怠さであればもっと減った場合を想像して顔を青くさせた。
ちなみにこのマナに関しては、登山における高山病のような物を想像して貰えれば理解しやすいだろう。
マナの減り具合をある意味恐る恐る調べていたアリアは不思議な事にキュアリーからマナが流れてきている事に気が付いた。
「あの、キュアリー様からマナが出ているように感じるのですが」
キュアリーはアリアの言葉に微笑んで、胸元からネックレスを取り出した。
「これのせいかな?魔力は個人の限界値に達すると回復は止まるから。もったいないので魔力をマナに変換するネックレスを作ったの」
何でもない事のように告げるキュアリーをマジマジと見て、次にそのネックレスを凝視する。
アリアはそのネックレスはこの世界において恐ろしいほどの価値を持つのではないだろうか、漠然とそんな予感がした。
「あの、それをいっぱい作ればマナの回復は一気に進のではないでしょうか?」
「う~ん、どうかな?それほど簡単な話ではない・・・かな?元々魔力の回復量の問題もあるしね、そもそも材料が問題だし」
キュアリーの言葉に、アリアはネックレスを見た。そのネックレスはキュアリーの首元から金のチェーンで繋がれている。そして、そのチェーンの先には蒼い宝石が輝いていた。
「キュアリー様、それはサファイアではありませんよね?」
「違いますね」
キュアリーは微笑みながらも否定するが、その宝石が何か語ろうとはしない。
「あの、それが何か教えてはいただけないのですか?」
「うん、教えてあげられないかな?ただ、これはもう2度と手に入らないと思うし、だから同じものを作る事は難しいと思うわ」
そう言うとキュアリーは胸元へとそのネックレスを仕舞った。
その様子を眺めていたアリアは、馬車が突然停車したため座席から床で寝そべるルルの転げ落ちる結果となった。
「キャウン!」「ふぎゃ!」
ルルとアリアが共に悲鳴をあげる傍ら、馬車の外で何やら争うような声が聞こえた。
「何事かしら、特に敵マークはないけど」
キュアリーがそう呟きながら床のアリア達を避けながら馬車の外へ出ようと馬車の扉を開けると、その扉から何かが顔を突き出してきた。
「きゃぁ!」
馬車の床にひっくり返ったままのアリアの頭上に突き出されたそれは、逆光の中でより禍々しく映ったのだろう、アリアが悲鳴を上げる。
「邪魔!」
しかし、キュアリーはその鼻先を押さえ、外へと押し返した。
「ブルルル」
鼻息荒くも素直に押し返された生き物は、何のことは無い馬であった。そして、馬車の周辺には10頭近い馬が取り巻いている。
「あらまぁ、馬車の馬に釣られて来たの?ってそんな感じじゃなさそうね」
キュアリーが馬車の外へと出た途端、周りを取り巻いていた馬達が一斉にキュアリーへと群がったのだった。そして、その馬の群れからまだ歩くのも頼りない仔馬が一頭キュアリーの下へと押し出されてきた。
「ああ、マナ欠乏症ね、この感じだと森まではちょっと持たないって判断したのね」
仔馬の頭を優しく撫でながら、キュアリーがそう呟いた。仔馬は気持ちよさそうにキュアリーに頭を撫でられている。大人の馬ならまだしも、仔馬にはこのマナが少なくなった状態で生育に支障が出てきていたのだろう。そして、よりマナの多いこの地へと移動してきたように思えた。
「ここまでマナが減っちゃってるとこの場所でも自然治癒は時間かかって間に合わないか・・・」
ブツブツと呟きながらも馬達に囲まれながら仔馬を撫でるキュアリーに対し、他の面々が恐る恐る様子を覗きに来る。
「あ、アリアさん、この場で今日は宿営しますね」
馬車から顔を出しているアリアに気が付きキュアリーはそう告げ、少し先の林へと仔馬を連れて歩き始めた。他の馬達もその後に続いて歩き始める。
「サラサ、急いでこの場所に宿営準備を!」
アリアは慌てて指示を出し、キュアリーの後を追って駆けだした。サラサも、コラルもその様子を呆然としながら見つめている。
「なぁサラサ、この先すっごい嫌な予感がするんだが」
「・・・・あたしも同じ」
2人の視線の先、林の所で座り仔馬を撫ぜているキュアリーの下には先程から鳥や栗鼠などと言った動物達が次第に集まり始めていた。
「えっと、聖者の大行進とかだっけ?」
「俺はなんとかの笛使い?って話を思い出した」
そんな二人を余所に、アリアは必死に動物たちを避けてキュアリーへと近づこうとしている。ただ、その先々に次々と動物達が割り込んでいくため、ただアワアワとその場でぐるぐる回っているようにしか見えなかった。
「ま、野営の準備をするか」
「だね」
視線を逸らし、馬車の周辺で二人と同様に呆然としている面々にそれぞれ支持を出し始めた。
もう少し話を進めてからと思っているうちに時間だけが過ぎて行ってました・・・
これは不味いです!っとの事でとりあえず書いてある所まで投稿><
続きは出来るだけ早く・・・書きたいなぁ・・・




