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1-16:精霊花3

禁呪とはかつてキュアリー達転移者が来る前の時代より伝わる使用してはいけない魔法の事を表していた。しかし、転移者達によって新たに様々な道具や魔法が増えて行くに従って、その禁呪の幅はどんどんと広がっていた。それはマナを大量に使用する魔法すべてを禁呪とする方向へと向かっていったのだった。

なぜならこの世界においてマナの存在が大きな意味があるとこの世界に住むすべての人々が改めて体験したからであった。

その最大の理由が人族と魔族主体の戦争である。この戦争は魔族がこの地へ再侵攻を掛けた事、また魔族自体が魔法を主体とする種族であった点において世界は思わぬ被害を被った。一時は回復へと向かっていたマナの量が又も大幅に減る事となったのである。

このマナの欠乏によって各地で発生する魔獣の減少。更にはマナを吸収して育つ精霊の消滅に伴い大地は急速に力を失っていった。又、この世界の植物は大なり小なりマナの影響を受けて生育する。この為マナ欠乏によって起きたバランス崩壊、環境変化についていけない動植物は衰弱死、枯死、生育不良を引き起こした。そして、この事は人間ですら同じ事であった。

その影響を受け戦後発足した国家連合は遅ればせながらも原因に気が付き慌ててマナ回復、魔法の使用制限を行ったが、その影響が改善するまでに多くの月日が必要となった。ただ幸いなことにコルトの森にある塔によって一定量のマナは常に世界に循環されており少しずつではあるがマナは回復へと向かい始めた。

そして、そのコルトの森を領地にもつイグリアは他国よりも早く安定した国力を回復する事に成功し、まず明確な禁呪の制定、大規模、高威力の魔法の禁止などを国家連合にて提案、すべての国々の同意のもと制定された。

しかし、その取り決めも、戦争による教訓も生かされなかったのであろう。

キュアリーは、自分が森の中で生活している間に起きた戦争について思いを馳せる。そして、今までの経験上その戦争においても多くの魔法が使用されたであろう事に。


「同じ過ちを何度も繰り返すのね」


「貴様たちエルフだとて禁呪を使用している。貴様らがそれを問題にしないのは聖域のそばに暮らしているからだ。本来なら聖域はすべての者達に解放されてしかるべき場所だ!」


黒装束はすぐに動揺を隠し、キュアリーの言葉に強い口調で反論をした。


「貴方達はどれだけ愚かになったのかしら?ましてや精霊が居なくなった理由すら思いつかないなんて信じられない。禁呪はなぜ禁呪に指定されたか貴方はしってるのですか?」


「ふん!禁呪はそれによっておきる被害が大きい、それ故に禁止された。だがそんな物を守ってる国などない!自国を守るには威力の強い魔法は必須だ!」


「そう、それで自分達の国を守って世界を滅ぼすのですね」


キュアリーは黒装束の言葉に、まだ辛うじて残していた興味を失った。


「精霊花を置いて立ち去りなさい。そうすれば危害を加える気はないわ」


「そんな事は出来ない、その精霊花は俺達が必死で探した希望だ。お前達に独占させる訳にはいかん」


黒装束はその言葉と共にキュアリーへ向かって何かを投げて寄こした。

キュアリーは咄嗟に受け取って投げられた物を見る。


「ペンダント?こんなものを」


キュアリーが不思議そうにそう呟くと突然そのペンダントが光り始めた。そして、キュアリーとルルの周辺に結界を展開する。


「それは護衛用の強制結界だ、解除のキーワードがなければ早々壊すことは出来ん。その犬っころ共々そこで大人しくしていてもらおうか。まぁ聞こえないだろうがな」


黒装束はそう言うと、キュアリーを気にする事無く袋のような物を取り出しその中へと精霊花を入れ始めた。精霊花を一つでも入れれば一杯になりそうな袋へ、どんどんと精霊花を入れていくが、その袋は一向に膨らむ気配を感じさせなかった。


「アイテム袋なんて珍しい物を持ってるのね」


キュアリーはそう呟くが、結界の中でその声は反響し外に聞こえた様子は無かった。


「音も遮断されてるね、という事は結界の外に干渉する事は難しい?ただ、この中で大きな魔法を使おう物ならこっちも被害に会いそうね」


「クゥオン!」


キュアリーの言葉にルルも返事をする。ルルは、さっきから結界に対し爪を立てるが一向にダメージを与えた様子は無い。


「大きな魔法で一気に壊すは無理みたいだね。ふむふむ、ちょっと試してみますか」


キュアリーはレイピアを取り出し、その先端を結界へと突き立てる。するとその先端は一瞬引っかかりを感じた後すぐに大きく跳ね返された。


「さすがに突き刺さりませんね」


そう呟くと次にピッケルのようなものを取り出して徐に振りかぶり結界へと叩きつける。しかし、先程と同様に一瞬突き立つような感覚はあるのだがすぐに大きく跳ね返された。


「う~ん、固いっていう感じではないか、そうすると」


今度はカンナのようなというかカンナそのものを取り出し、結界を削り始める。結界が削れる物なのかという疑問が湧くが、上から下へとカンナを動かす度にカンナの上から白い薄い削りかすがフワフワと周りに漂い始めた。


「うん、削れてはいるようね、ただ、他からすぐに補充されてるような?」


キュアリーはしばらくカンナ作業を行った後、結界の状況を見るが、特に大きく結界が弱まった様子は無い。ただ、若干ではあるが結界の厚みが全体的に薄くなったような気はした。


キュアリーのそんな作業をチラッと見た後、黒装束は淡々と精霊花を収納する作業をしていた。そして最後の精霊花を袋の中へと収納した。


「そんじゃぁそこで大人しくしてな、半日もあればその結界も解ける。まぁ聞こえないだろうがな。それじゃぁ・・・なに!」


収納した袋の口を丁寧に閉じながらそんな事を告げキュアリーのいる結界へと視線を向ける。するとそこには結界はあった。しかし先ほどまで何やら色々と結界を破る為に作業していたキュアリーとルルの姿は無くなっていた。


「馬鹿な!結界はまだ」


そう叫び慌てた様子で黒装束は結界へと近づき手を触れる。すると、そこには確かな手ごたえを感じる事が出来た。


「ありえん!」


「え、そう?別に結界の術式を理解していれば何とでもなるから、ましてや中から発生している結界なんだから中から弄れるのはあたりまえでしょ?」


黒装束は背後から突然聞こえた声に慌てて振り返ろうとしたがその瞬間手に持っていた袋が引っ手繰られた。


「わざわざ袋にしまってもらってありがとうね、手間が省けたわ」


手に入れた袋を高々と差し上げ、キュアリーは視線を黒装束へ向けた。


「貴様!」


黒装束は咄嗟に袋を取り返そうと手を伸ばすが、その瞬間足元からルルが腕に噛みつこうとして飛び上がった。その為慌てて伸ばした腕を引っ込めざるえなかった。


「駄目ですよ?これを貴方達に渡してしまえば生まれる精霊達を殺してしまう確率は大きいですから。だからこれはわたしが預かります」


「こっちもはいそうですかっと渡す訳にはいかない。大人しく返せ、さもなければ・・・殺す!」


「あなたにそれができる?」


黒装束から放たれる濃厚な殺気を平然と受け流しキュアリーは手にメイスを呼び出し構えた。

そして、一瞬の溜めの後黒装束がキュアリーへとナイフを投げつけた。キュアリーがそのナイフを軽く体を傾け交わした瞬間、ナイフを投げた瞬間に自身も地を這うような低さで駆け抜けてきた黒装束がキュアリーへと飛びかかろうとした。しかし、キュアリーへあと少しで届くかという距離でルルによる迎撃に会う。


「チチチチ」


不思議な声を響かせながら黒装束は飛び掛かるルルに対して腕を伸ばした。掌をルルへと叩きつけようとした時、黒装束は体を投げ出すようにして地面へと倒れ込む。そして、先程まで頭のあった位置を横殴りに振るわれたキュアリーのメイスが通り過ぎていく。

再度キュアリーから距離を取る黒装束を見てキュアリーは意外そうな声を出した。


「あら?エルフ・・・ではないわね、ハーフかしら?」


キュアリーの視線は、いつの間にかメイスによって引きちぎられ顕わになった黒装束の表情へと視線を向けている。


「くぅ、チチチチチ」


又もや不思議な息使いを行い高速でキュアリーへと飛び掛かる。しかし、またもやルルとキュアリーのコンビネーションによってあっさりと迎撃された。


「不思議な格闘術?ね。身体強化魔法でもなく純粋な体術のみ、それでいてそこまで高速で動けるなんて凄いわ」


「エルフになど褒められても嬉しくなどない!」


「キャン!」


そう叫ぶとハーフエルフの男は腰の部分から何かを取り出しルルへ向けて投げつけた。それをルルは軽やかに飛び下がって避けるが、投げつけられた包みが地面で弾けた瞬間ルルの悲鳴が聞こえた。


「古典的ね、胡椒と唐辛子~~?」


鼻を押さえるように蹲るルルの前へとキュアリーは進み出る。しかし、そのキュアリーの動きに合わせて男は後ろへと後退した。


「あら?この袋はいいのかしら?それほど開花までに余裕はないわよ?」


先程までとは一変してキュアリーの言葉にも一切の表情を殺し、また声を上げる事無く天幕の後ろへとジリジリと後退していく。キュアリーも、攻撃の為なのか、それとも撤退する為なのかの判断が付かなかった。


「とりあえずキュア!」


キュアリーは今も鼻を押さえてキュンキュン泣いているルルに対し、状態異常回復の魔法を唱えた。


「ギャゥ、グルルル」


突然の回復に一瞬キョトンとしたルルであったが、すぐに自分を苦しめた元凶である男へと唸り声を上げ始めた。そして、今にも飛び掛かろうと姿勢を低くした時、またもや男が今度は自分の目の前に何かを叩きつけた。その動作に、咄嗟にルルは鼻を押さえるが、今度は辺り一面に強烈な光が溢れた。


「キャン!」


ドゴッ!ドサッ!「ゴフッ」


予想外の攻撃に、またもやルルは悲鳴を上げた。そして、その強烈な光の中で身近で鈍い音が響くと共にルルの目の前で呻き声が聞こえた。


「うん、セオリーすぎる、そんなんじゃ奇襲にならない、要修行だね!」


光が収まり目の前が見えるようになると、キュアリーの足元では男が九の字になって倒れ込んでいた。

完全に気を失ってしまっているのか、ピクリとも動かない男に対し、ルルは怒りを込めて前足を打ち下ろそうとするが、流石にそれはキュアリーが止めた。


「グルルル」


「不服なのは解るけどごめんね、でも、ルルも要修行だね、胡椒とか初めてだっていうのは解るけど戦闘放棄して蹲ってたら死んじゃうよ?どうやって修行しましょうか?」


「キュゥン」


キュアリーの問いかけに対し、今までコルトの森でキュアリーとルンによって行われた修行を思い出しルルは耳をペタンと伏せて泣き声を漏らしたのだった。


ルルは踏んだり蹴ったりですね。

ただ、今まで森の中で箱入り(森入り?)に育てられて来たので単純な力勝負の戦闘しか経験したことがないのです。

人はいろいろな策を使ってきますから、要修行ですよね!

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