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1-14:精霊花

「どうしましょうか?ここはエルフの森でもないですし、衛兵なんていませんよね?」


アリアにそう問いかけながらキュアリーは天幕の中で花を見て回る。赤、黄色、ピンクとまだ大きな蕾のまま開花する寸前の花を一つずつ見て回り、どの花もまだ開花には数日掛かる事を確認していった。

そんな中、アリアはこの花が何の花なのか首を傾げている、それでもキュアリーの問いかけに反応し頭を上げた。


「あ、そうですね、先程の者達もどうすればいいのか、それとこの花って何の花なんですか?私は見たことがないんですが」


アリアの言葉にキュアリーは意外そうな顔を浮かべた。


「エルフなのにこの花を知らないの?ちょっと吃驚かも」


「え?あの、別に花が嫌いだという訳ではなくてですね、その、花の名前を覚える事をしたことが無いといいますか、その」


アリアはキュアリーの言葉に何か必死に弁解を始めた。アリアが何やら自分と花における相互関係だとか、訳のわからない話に入りだした頃、ようやくキュアリーが花の名前を告げた。


「精霊花だよ、この花から精霊が生まれるの。土属性の精霊、しかもその中のごく一部の種類だけだけどね。この蕾が開くとその中から精霊が生まれるの」


アリアはその言葉に驚きの表情を浮かべた。そして、改めて自分の周りを見回した。


「この花全部から精霊が生まれるんですか?」


「うん、でもよくこれだけの精霊花を集めたね。この花は森の中でも結構奥の方でしか生えてないのに。でもこの花どうしようか、このまま置いておいて枯れたらそれこそ大変だし、困ったね」


「こ、この花が全部精霊に・・・」


キュアリーが片手を頬に充てて思案する傍ら、アリアは呆然とした表情で花を見詰める。そして、その一瞬後には慌てたように天幕の外へと飛び出していった。


「サラサ!コラル!」


外で男達を馬車から持って来た縄で縛りつけていたサラサ達は、アリアの慌てた様子の呼び声に何か重大事が発生した事を感じ急いでアリアの元へと駆けつける。


「アリア様、どうなさいましたか?」


「サラサは至急精霊にお願いしてアルト様にこの場所に兵士を送ってもらえる様依頼してください。コラルは捕えた者達を絶対に逃がさないように!」


「「は!」」


アリアの指示に敬礼をし、サラサとコラルは天幕を飛び出していく。アリアも天幕から出る、そして馬車の中から不安そうにしているセリーヌ達を見て状況を説明する為に馬車へと向かった。


「精霊花ですか?私ははじめて聞くのですが、もしかしてその花で精霊を呼ぶことが可能なのでしょうか?」


アリアから簡単な状況説明を聞いたセリーヌは期待に目を輝かせた。もし今の話が本当であったならその精霊花で村に精霊を連れて行くことが可能かもしれないのだ。


「さあ、私もそこまでは、残念な事に精霊花という存在を私もしらなかったもので、とりあえず今はアルト様及び正規兵を待って男達の引き渡しと精霊花の取り扱いを決めないと身動きが出来ない状況になっています」


「あの、キュアリー様はにお尋ねしても構いませんでしょうか?」


セリーヌの問いかけに詳しい知識を持たないアリアは、セリーヌを連れて天幕へと移動した。又、その際ミドリに指示をして天幕横に馬車を移動させた。


「あの、キュアリー様、今よろしいでしょうか?」


アリアが天幕の中を覗き込むと、キュアリーが天幕中央の結界石にハンマーを振り下ろすところだった。


ガシャーン!


派手な音と共に結界石が粉々に砕ける。そして、今までこの天幕には近寄ってこなかった精霊達が一斉に天幕内へと駆けこんでくる。そして、精霊達は精霊花を見つけると嬉しそうに蕾の前を飛び回った。

キュアリーは額の汗を拭うような動作をして、その後精霊達の様子を目を細めて眺める。そんなのんびりムードのキュアリーに反して、アリアとセリーヌはキュアリーの突飛な行動に唖然とした表情で固まっていた。


「ヴォン!」


セリーヌはルルの声で我に返りこれが精霊花かと花々を見ながらキュアリーへと先ほどの疑問を尋ねた。


「う~ん、厳密には間違いではないかな?精霊花で生まれた精霊は基本的にはその生まれた場所に留まるからその場所は元気になる」


「本当ですか!」


喜びの声を上げるセリーヌだったが、キュアリーの次の説明に声を失った。


「うん、ただしそれはその土地が精霊が住む事に適している場合にはって条件が付くけどね。逆に、もしその土地が精霊が住む事の出来ない場所だったら良くて精霊は消滅します。最悪は狂う。その土地はまず間違いなく呪われるかな?」


セリーヌと共にキュアリーの説明を聞いていたアリアも同様に言葉を失った。そして、黙り込む二人を見ながら今度は逆にキュアリーが質問をした。


「アリアさん、ここにエルフの兵士が駆けつけてくるのにどれくらい時間がかかりそう?」


「え?あの、恐らくですがあと2から3時間くらいかかると思いますが」


「ふむふむ、そうすると今いるメンバーで何とかしないと駄目だね」


「は?なんとかって何が」


アリアが何かを言いかけた途中で外から争う音が聞こえた。そして、その音は明らかに剣戟の音だった。


「何が起きてるんですか!」


「外でなにが!」


セリーヌが慌てて剣を引き抜き外へと飛び出していく。その後を追うようにしてアリアとキュアリーも外へと出ると目の前ではコラル達が複数の男達と剣を交えていた。

男達は天幕から出てきたセリーヌやアリアに気が付くと、次々剣を引き抜いて攻撃を仕掛けてきた。


「こいつら何人いるんだ!」


コラルの声が響く中、馬車の方でも戦闘の音が聞こえてくる。その為、必死にセリーヌが馬車の方へと向かおうとするが進路に男達が立ちふさがって進むことが出来ない。


「く、呪文が・・・」


アリアは必死に手に持った杖で相手の攻撃を裁きながらも精霊魔法を唱えようとするが、相手の攻撃によって呪文を中断され一向に唱えることが出来ない。

この場を取り囲んでくる男達は次第に数を増やし、今見えているだけでも20人近い、しかも更に人数を増やす可能性だってあった。


「キュ、キュアリー様!」


思わずアリアがそう叫び後ろを見ると、先ほど一緒に出てきたはずのキュアリーの姿はそこには無かった。


「え!きゃぁ!」


思いも掛けない事に動揺が走ったアリアは、次の攻撃を受け流せず態勢を崩し倒れ込んだ。

アリアと戦っていた男は、その隙を逃さず剣を上段から振り下ろそうとする。周りで戦っているコラルもサラサも自分の戦いで精一杯の為アリアの状況には気が付かない。咄嗟に地面を転がり剣の攻撃を避けようとしたアリアであったが、アリアが転がろうとした方向へと修正し攻撃を加えた。


駄目だ!避けきれない!


アリアが目を瞑り衝撃に備えて身を固く縮こまらせたが、一秒、二秒と時間が経過してもいっこうに攻撃が加えられることが無い。その為、アリアは目を開けて前を見る。すると、真っ先に飛び込んできたのは白銀に輝く毛皮だった。


「あ、綺麗」


思わずそう呟いたアリアがその毛皮を辿って視線を上げていくと、そこにはルルを二回りは大きくしたような巨大なルーンウルフが立ちふさがっていた。思わずポカ~ンっと口を開けて見上げるアリアを余所に、広場では更に数頭の大きなルーンウルフが男達を蹴散らしている。


「よかった、アリアさん無事だったのね。天幕の裏からも男達が来てたからそっちを蹴散らすのにちょっと時間が掛かっちゃった」


アリアは後ろから聞こえたキュアリーの声にようやく正気に戻った。


「あ、あの、このルーンウルフはキュアリー様の?」


「あ、えっとルルのお父さん。一応この近辺のルーンウルフのリーダーだよ。ずっとルルとあたしを警護しててくれたの」


「はあ」


キュアリーは気の抜けた返事をするアリアをそのままに今や瓦礫が散乱する空き地へと姿を変え始めた広場へと足を進めた。


「圧倒的じゃないか!我が軍は!」


広場で男達を蹴散らすルーンウルフを見ながらキュアリーがそう言うと、いつの間にか横に来ていたサラサが頷き返す。


「ですね、すごいです。ルーンウルフがこんなに強いなんて」


同意するサラサを見てキュアリーはちょっと寂しそうな表情をした。


「あの、どうかされました?」


「なんでもないよ、ただ突っ込み役がいない侘しさを痛感してただけ」


そう言いながら苦笑を浮かべるキュアリーをサラサは不思議そうに眺めるが、キュアリーはそれ以上何も語る事はなく馬車の方へと移動を始めた。

そうこうしている内に、広場ではほぼすべての襲撃者達が倒れ伏し呻き声を上げている。ルーンウルフ達はきちんと敵とそうでない者達を見分けていた為、テントや天幕などの被害を除けば無関係な者達には人的被害は出ていない。


「キュアリー様ありがとうございます!」


セリーヌも小さな傷はあるが、途中からルーンウルフが加勢した事で無事に子供達を守り通すことが出来た。


「ところでこの連中はなんで襲撃してきたの?それも真昼間から」


キュアリーが疑問を口にするが誰も答えれる者はいない、誰もがその疑問を感じていたのだから。


「この転がってる連中から聞き出してみましょう。ただ、問題はこんなに大勢をどうやって見張るかです。このままでは危険です」


「当面は広場の中央に一塊にしときましょうか、でルーンウルフ達に見張ってて貰えばそうそう悪さも出来ないだろうし」


「ヴォン!」


ルルが同意するのに合わせて他のルーンウルフも一斉に集まって来た。


「まずは持ち物検査だね、厄介な物を持ってると危ないから慎重にやろう」


「了解しました」


キュアリーの言葉にアリアが同意し指示を出す。その後キュアリーとアリアはコラル達に残りの事をまかせ天幕の中へと戻った。

その際に広場を見ると、ルルパパが広場の中央にどっかりと腰を下ろしてるのが見えた。

天幕に入ると、アリアがさっそく精霊花を指さして尋ねた。


「ところでキュアリー様、この精霊花はどういった物なのでしょうか?今回の襲撃はこの花絡みでないと説明がつきませんよね?」


「たぶんそうだろうね、ただこの花にそんなに価値があるかな?さっきも言ったけど根本が間違いなんだよね。精霊花はその花が育つ環境がないと災いにしかならないのに」


「もしかしてその呪いをこちらに向けさせて森を破壊しようとしてるんでは?」


「え?それは無理!だってここは精霊で溢れてるから」


「はぁそういう物なんですか?ほら、病気が広まるようにどば~~とか」


「うん、それも無理かな?もし変異した精霊が現れたとしてもあっという間に浄化されて治っちゃうかな?」


「それでは、無理ですね」


「うん、無理だね」


2人で頷きながらもアリアはふとその事を知ってる者がキュアリー意外にいるのか疑問に思った。なにせ精霊と親しいエルフである自分ですらしらなかったのだ。


「あの、ところで今の事って知っててあたりまえですか?」


「・・・・・・さあ?」


少し考え込んだ後キュアリーが答える。そして、なんとなく精霊花を見詰めた。


「異常な精霊ってどうやって生まれるんですか?」


「生もうって思ったことないから知らないかな?」


「これ、どこか異常ですか?」


「う~ん、わかんない、どうなの?」


キュアリーが空中に漂っている精霊に尋ねる。しかし、精霊達はキュアリーの真似をして首を傾げて見せる者、ふわふわ踊りながら飛ぶ者はいても回答をくれる者はいない。


「駄目かな、生まれてみるまでは解んないかも」


「はぁ」


生まれるまでに約二日という判断をキュアリーはしている。長い二日間になりそうだった。

常識は非常識、でも常識って時代や文化で違いますしね。

しかし、精霊さんは自由です。自我も無い事はないのですが希薄ではあります。


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