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1-9:大人買いはいけません

キュアリーは、その獣人達を避けて先へ進もうとした。しかし、男たちはまだ息が整わないながらもその進路を妨害するように立ち塞がる。


「あの、まだ何か御用ですか?」


少し苛ついた声でキュアリーは男たちを見た。先ほど、声を掛けてきた獣人はようやく息が整い、なんとか威厳を取り繕いながらも前に出る。


「さっき換金屋へ持ち込んだ金貨、まだ持ってるだろうな」


探るような視線をキュアリーとチハルへと向け、しきりにチハルの持つぬいぐるみを気にしている。


「え?さっきの金貨ですか?売っちゃいましたけど」


「なっ!」


キュアリーの言葉に、獣人達に動揺が走った。


「な、どこの換金屋で売ったんだ!」


その慌てようを見ながらも、キュアリーは何か問題があったんだろうかといった表情で答えた。


「換金屋では売ってないですよ?さっき金貨を持って歩いてたら声を掛けられて。それでその人が持ってた金貨1枚を大銀貨3枚で買ってくれるっていうので換金屋さんより倍近い価格だからそのまま売っちゃいました」


そのキュアリーの言葉に獣人達は絶望した表情を浮かべた。そして、男はそれでも諦めきれないのか購入した人物の詳細な情報を教えてほしいと尋ねてきた。


「えっと、白いローブに金糸の縁取りのある服を着たエルフの男性でした。胸元に金の大きなメダルをぶら下げてたかな?あ、あと金髪で、青い瞳の中々ハンサムさんでしたよ?ただ、体型は真ん丸でした」


キュアリーの説明を聞くうちに男の顔色は段々と悪くなっていった。そして、最後の体型の説明を聞いた時には絶望し両手を地面に着き崩れた。


「な、なんでアルト様がそんなタイミングで買うんだよ・・・」

「アルト様がそんな取引を、俺たちとかわんねぇじゃねぇか」

「これは無理だ、しかし大銀貨3枚だとは、アルト様も油断がならんという事か」

「俺たちが走り回ってした根回しの意味は・・・」


男達からそんな声が漏れ聞こえてくる。


「換金屋さんより高く買ってもらえたのでこのぬいぐるみを買っちゃいました」


「やっぱりか、やっぱり金貨売ったあとの買いもんか」


視線をぬいぐるみに向けながら、男は先ほどの予感が当たっていた事に絶望した。


「あの、行ってもいいですか?」


「ああ、行っていい、大金もってるんだ気を付けていけよ」


そう言うと力なく苦笑を浮かべた。そして、他の者達もぞろぞろと最初の換金屋の方へと戻り始める。キュアリーはその様子を意外そうに眺めた。


「ちょっと吃驚ですね、売ったお金を巻き上げたりしないんですか?」


その言葉に、今まさに帰ろうとしていた男は振り向いて答えた。


「そんな馬鹿な事はせんよ、取引であれば合法だ、お互い納得したかは別としてな、だが強盗は犯罪さ、俺たちは別に犯罪組織ではない。犯罪みたいに利に合わん事をする商人は3流だよ」


キュアリーへとそう告げると獣人の男達はそのまま帰って行った。

キュアリーの後ろで恐る恐る様子を窺っていたチハルは、獣人達が立ち去った為ようやく安堵の息を吐いた。


「キュアリーさんすごいです、あんなにスラスラと嘘が出てくるなんて!わたし吃驚しました」


興奮した様子で話すチハルに笑いかけたキュアリーは、そのまま歩き始めた。そして、先程の男達の言葉の意味を考えていた。

そして、簡単にいうと騙される方が悪いっという結論が見えてくる。それでいて自分はグレーゾーンに存在する為捕まることは無い。安全な場所で弱者だけが食い物にされる。確かに知識の無い者が悪いのかもしれない。それでも、その考え方自体に嫌悪感を感じた。


「キュアリーさん顔が怖いです」


チハルがキュアリーを見て怯えを感じている。いつの間にかキュアリーは周りに殺気に近い不快感を発生させていたようだった。


「あ、ごめんね、ついさっきの人達の事考えてて」


「あ、そうですよね、もし気が付かなかったら大損してましたよね」


キュアリーの言葉にチハルも不快感を感じたようだった。そんな二人が香辛料屋へと戻ってくると、先ほどの女主人が変わらずに接客をしていた。


「あら、お帰りなさい、結構時間がかかったね」


女主人は2人を笑顔で出迎えてくれた。そして、そんな女主人にチハルが先ほどの出来事を事細かに説明していた。


「あらまあ、あそこの換金屋も質が悪くなったのね、昔は気前のいい親父さんがやってたんだけどね。信用を失っちゃいけないのはうち等も、あそこも変わらないだろうにね」


そう言い顔を顰める。


「まあそんな辛気臭い話は置いといて、欲しいのは塩だったね?」


「あ、はい、お塩をお願いします」


キュアリーは財布を取り出し、カウンターの上に金貨を1枚置いた。


「ふぇ?キュアリーさん小銭は本当になかったんですね」


またもやチハルが変な声を出す。頷くキュアリーに女主人は呆れたような顔をした。


「はいはい、塩一壷だね?銀貨5枚だよ。他はいらないのかい、胡椒なんかも入荷しているよ?」


「えっと、他はとりあえずいいです。本当はお塩をもっと買いたかったんですけど」


キュアリーはちょっと笑いながら言う。

その言葉に女主人は少し思案をした後、奥から大き目の壷を持ってきた。


「まぁ特別に売ってあげれるのはこれくらいだねぇ」


ウインクしながら差し出された壷を見て、キュアリーは驚いた顔をする。

このくらいの塩の量だと恐らく1年くらいで無くなるかな?そんな事を考えながらキュアリーは尋ねる。


「あの、いいんですか?」


女主人は面白そうな顔をして尋ね返した。


「まあ特別だよ。最近は塩も中々入荷し辛くなってきててね。品切れにならないように注意して売ってるんだよ。お嬢ちゃんがそんなに大量の塩をどうしたいのかは知らないけどね、わたしもこの街の者を苦しませてまで売りたいとは思わないからね。塩が不足すれば誰もが困る、ましてや塩のせいで物価が上がったりしたらわたしだって困るからね。ただ、これくらいの量ならそんなに問題にはならないよ」


女主人はそう言って笑った。

その言葉にキュアリーは自分の行動がいかに短慮だったか思い当たった。もし当初考えていた量を一気に買い漁れば大変な事になっただろう。そして、元々塩が産出しないこの森では安易に塩を大量に売ることは無いのだろうと思い当たった。キュアリーは無くなればまた買いにくればいい、誰かを困らせるような事は望んでいないしと納得して出された塩を感謝して購入した。


「はいよ、持ち易い様に縄を架けたげるから待ってな」


女主人はそう言うと棚から出した紐で器用に壷を縛り持ち易い様にしてくれた。


「それじゃぁ大銀貨1枚、確かに貰ったよ、お釣は大銀貨9枚だね。あとこれは好奇心だから言いたくなければ言わなくてもいいんだけど、なんでそんなに大量に塩が欲しかったんだい?」


その言葉にキュアリーが素直に自分の住処に引き篭もるためと答えた。

最初はまたも冗談だと思って笑っていた女主人だったが、最後には本気だと気がつき何やら愛好会だの交流会だのを紹介しようとしはじめた為キュアリーは慌てて店を飛び出した。

そして、遠くでなにやら一人は良くないなどと叫ぶ女主人と、その横で大きく手を振るチハルに小さく会釈をして早々と宿へと向かい始めた。

途中でやっぱり塩以外にも何か香辛料を見て見れば良かったかな?と思ったキュアリーだが、今はとてもあの店に戻る気力はなくなっていた。


「お塩目当てだったとしてももう少し余裕をもって行動しないとだよね」


そんな事を思いながらキュアリーは途中いくつかの店で果実で作られた飲み物とクッキーのようなお菓子を買い、そろそろ宿が見えるかなと思った時またもや前方に人だかりが見えた。


「あちゃ、また何か騒動でもあったかな?それともさっきの騒動がまだ固唾いていない?」


そんな事を思いながら前方の人の壁を器用に潜り込んで前方へと出る。すると、そこにはアルトをはじめ先ほどの元老院のメンバーと、それを護衛する兵士達、そして宿の前にはその侵入を阻むルルがいた。


お塩を大量に個人が買うなんて普通ありえないですよね。

大量に必要とする理由、貿易、買占め、あとなんだろうって考えて美容法しか思いつかなかったです。

キュアリーは普通に引き篭もりしたいだけですけどw


ちなみに、世話を焼いてくれるおばさんってありがたいんですけどね、うん、感謝はしないとなんですけどね・・・

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