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銀の術師と星巡儀(アストロラーベ)  作者: さまよえるペンギン
魔法屋、はじめました。
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49/57

宇宙、売ります?

「この宇宙を売ってくれないか?」

彼は、入ってくるなりそう言った。

店内には、およそこの世の珍奇なものが、ぽつりぽつりと並べられていて、そのガラス瓶に入った小さな宇宙は、陳列棚代わりの樫の木


のテーブルの端、店の入り口に入ってすぐのところに、無造作に置かれてあった。

カイゼル髭の紳士は、シルクハットに黒い背広。手にはよく使いこまれたステッキを持っていて、それとは逆の、鹿の革の手袋をした指


でそれを指さしたのだった。


「それは売り物じゃないんです」

店番をしていた金の髪の少年が、少しばかり申し訳なさそうに微笑んで答えた。

「売り物じゃないんなら、どうして並べておくんだね。不可解だ」

紳士は憤慨して、鼻息荒く問い詰めた。


「そこにあるからです」

困ったように、少年は応じる。

「ここにあれば、売り物だろう?」

「その場所がちょうどいいから置いてあるだけなんですよ。宇宙には値段は付けられません」

やわらかく微笑む少年を前に、紳士は自分の自慢の髭をなでつけた。

「ふむ。値段が付けられない」


「ええ。ゼロにもなるし、無限にもなる。だから、値段がつけられません」

「ほう…そうかね」


なるほどなるほど、と紳士は感慨深げに何度も頷いて、そして店を後にした。


ふう、と少年は小さく息を吐く。正直、生きた心地がしなかった。

ここが一番日当たりがいいから、なんていう理由で宇宙を店先に置いておくなんて、店主は気まぐれが過ぎる。

飾りオーナメント・グラスみたいな不愛想な銀髪の青年を思い浮かべて、少年は嘆息した。


***


「しはくー、盗まれちゃいましたよ」

翌朝。

店内に入ると、入り口の右、陳列棚代わりの樫のテーブルの端が、少し寂しくなっていた。

作業場で彫金していた青年は、少年の隣から店内をのぞき込むと、つまらなさそうに「へぇ」とだけもらした。

「なんで盗まれたと決めつける?」

「え? だって、置いておいたはずなのに、今日はもう無いから」

青年はぼそりと応じる。

「昨日まであったものが今日は無くなる。珍しいことじゃない」

そう言って、くるりと踵を返す。フードの端に縫い付けられた小さな真鍮の鈴たちが、しゃらりと鳴る。


「えー?! しはく! だってドロボウですよ?!」

少年は慌てて追いかけるが、振り向いてくれないのは判っていた。


***


すっかり枯れ落ちた「宇宙アストロリウム」を前に、紳士は困惑していた。


そんな彼に、少しばかりお歳を召したレディが、羽扇で頬を隠して、蔑みの視線。

「わたくしに見せたいものって、これですの?」


「あ、いやっ、ちがうんだ! こんなはずでは…!」

貴婦人の若草色のサテンのドレスの裾がひらりと舞った。

「面白いものを見せて下さると手紙をいただいたから、楽しみにしてきましたのに」


「あ、ああ、その、そうだ! 料理! 君のために特別な食材を手に入れたんだ! 今、用意させるよ!」

婦人は少し機嫌を直して、蔦模様の繊細に刺繍された椅子に収まった。

「そういうことでしたのね。では、待たせていただきますわ」


紳士は内心で冷や汗を拭きながら、いまいましげに心の中で毒づいた。


***



「しはく?」

きょとん、と金の髪の少年はまたたく。

師がかざすタマゴ形の硝子の中には、先日見たのと寸分変わらない星の海がくるくると渦を巻いている。--まるで生き物のように。


「置くべき場所がある。それの望まない場所に置いても、枯れるだけだ」


「作り直したんですか?」

「いや、拾ってきた。捨てられていたからな」


「直せるものなんですか、それ?」

少年が目を丸くして問うのに、師は少しだけ可笑しそうに答えた。

「程度による」


>>>

Thanks for Reading !^^

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音声化シリーズ。
知り合い様に企画していただいたものだったり、自分で企画したものだったり。
よろしかったら、音声にて、ひととき、浮き世を忘れてみて下さいませ♪

◆銀の術師と機械の小鳥(音声)◆
◆どうしたら、君の心が手に入る?◆
↑こちらは、作っていただきました!((o(^∇^)o))
ありがとうございます!!

◆魔法の街と枯れる花(音声)◆
↑ある機械少女の悩み

◆ドラゴンと、絵と(音声)◆
↑本編の2と3の間辺り。番外編的な。

◆【英語】君は美味しいフィッシュ・スープ◆
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