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銀の術師と星巡儀(アストロラーベ)  作者: さまよえるペンギン
魔法屋、はじめました。
39/57

星、祀る夜に

***


オレに人のキモチは判らない。

だから、なぜ「人々」が高い空を見上げ、あの何万光年も離れた彼方の物理現象ーー絶え間なく核融合する超高温高密度の物体に祈りを捧げるのか、まるで見当がつかない。


とはいえ。

濃紺の「影」の中からだからこそ見える、無数のその物理現象は確かに美しいとも思うし、見るに値する、とも思う。

遙か遠くに輝くモノがあるのなら、この地上に、たったひとりだと思わずに済む。

そんな、安寧。


星祭りーー。

夏至(地軸ーー恒星に対する公転軌道に対する、自転軸ーーの傾きにより、半球が最も恒星に近くなり、日照時間が最大となる)の夜に行われる、とある惑星の片田舎の行事だ。


子供たちは白く、すその長い衣服をまとい、手に手に、一本の蝋燭を立てた燭台を持ち、一様に進む。

列の先にあるのは、いつの宗教とも知れない、同じく白い布で覆われた台。

そこには、たどり着いた子供たちが置いたロウソクが、いくつもいくつも、頼りなげに炎を揺らしていた。

吹けば消えそうに。


ーーあぁ、かつて、ヒトの寿命をロウソクに喩えたのは、いかにも巧い例えだと思う。

いつ消えるか分からない、無数の炎たち。


ゆらゆら、ゆらゆら。


夏至の夜は、異界との扉がつながり、異形の者たちが人間界に遊びにやってくるのだとも云う。

ーーまったく、人間というのは、変なことばかり想像するものらしい。


「今日は一緒ではないのかい?」

きんきらきん。ーー頭の上から爪先まで。

あろうことか、祭りの"妖精の王様"を演じる気であるらしい、この男は。


「さぁ? 何のことだか」

よく見れば、年若い人間の娘たちに囲まれている。

彼女らは恥ずかし気に顔を伏せる。知らず、笑みがもれた。


「ふっ」

ひとりが気を悪くしたようにこちらを睨む。

「ああ、失礼。ーー何でもない」

なおも怪訝そうにこちらを見ている。


夏至のとある物語で、異界の王は、人間の娘をさらって嫁にする。

しかし、百年もすると人間の娘は倒れて動かなくなってしまい、彼は途方に暮れた。

『ああ、機嫌を直してくれ、ジュリエッタ。本当は親や友人が恋しかったんだろう? 私には素直に何でも言ってくれていいんだ。ーーなあ、頼むから、ジュリエッタ。目を開けて、もう一度ーー』

私に笑いかけてくれ。


王は、娘のなきがらに懇願する。幾日も、何年も。

王の嘆きは雨となり、人間の世界を覆う。


人間たちは相談し、ジュリエッタにそっくりな娘を王に差し出す。

そして説明する。

『王よ。人は、死ねばまた生まれます。ーー幾度も。

あなたの愛したジュリエッタは(そら)に帰りましたが、これからはあなたにはこのジュリエッタがいます』


***


何度も何度も生まれてきては、同じように悩んで、恋をして、それで。

それは星の寿命からすればほんの一瞬のこと。

けど、人はその瞬間をまるで宇宙の全てのように感じる。


祭りのクライマックス、王は人間たちにこう返す。

『私の愛した彼女は、この星になってしまったのだな。ならば私は、これからは星を愛そう』


(ーー愛、ね)

心底くだらない言葉だと、思う。


***


「しるふぃど?」

舌足らずな言い方に振り返る。

ふわふわの白い毛皮。整った顔立ちの小柄な『美猫』がそこにいた。

隣には、彼女の作った機械人形(オートマタ)


相も変わらずどちらも美しく、それなのに地上にいるべき存在感がまるでない。

「こんばんは」

機械人形ーーセティという名のそれは、誰にでもそうするように、小さく微笑んで会釈する。


「ーーふん。"異界からの客人"が、ゲストに紛れ込んでいるってわけか」

「まぁ、そういうことニャ」


くつくつと獣人の機巧師は笑い、劇の行われている舞台を見やる。

妖精の王が、娘を抱きしめるところだった。

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音声化シリーズ。
知り合い様に企画していただいたものだったり、自分で企画したものだったり。
よろしかったら、音声にて、ひととき、浮き世を忘れてみて下さいませ♪

◆銀の術師と機械の小鳥(音声)◆
◆どうしたら、君の心が手に入る?◆
↑こちらは、作っていただきました!((o(^∇^)o))
ありがとうございます!!

◆魔法の街と枯れる花(音声)◆
↑ある機械少女の悩み

◆ドラゴンと、絵と(音声)◆
↑本編の2と3の間辺り。番外編的な。

◆【英語】君は美味しいフィッシュ・スープ◆
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