破壊の意味
破壊をどう定義づけすべきだろう。
命が壊れることと、物体が壊れることの区別は、彼女につくのだろうか。
ーーでは。イノチとは何だろう?
ずず……っ。
タイタニアの脚が後ろに滑る。"生身"であるセティの腕力に圧されているのだ。
「…ちぇ。敵わないね」
彼女はニヤリと笑い、機体が、まるでヒトそのものの動きで飛びすさる。
鋼鉄でできたはずの機体が、あろうことか、空中でバク転を決めーーその勢いのまま、手にした振動剣を突き出してくる。
「ーーッ!!?」
セティのカワセミ色の髪が、ひらりと飛んだ。
「ーー破壊、します」
"彼女"は、全てを絶つ剣。
怒りも、憎しみも。哀しみも、怨嗟も。
ーー全てを。
「はぁぁあああッ!!」
(データ処理が追いつかな……ッ)
セティの体が宙に舞う。エドウィンは、もちろん心配しなかった。だって彼女は機械だから。いくらでも換えは利くし、直せば済むことだ。だから、心配しなかった。
「ーー邪魔するの?」
空色の瞳の"騎士"が、愉しげな声音で言う。
だって、機械の前には白い人影が、彼女をかばうみたいにしていたから。
「あいにくボクは、優しくないよ?」
巨大な剣を、タイタニアが振り上げる。
「セティ」
銀の声が呼ぶ。
彼女が額に付けた兵器が起動する。反物質砲。
彼女はーー。
放たれた反物質が、タイタニアの装甲を消滅させ、操者に届く直前。
シルフィドが干渉するより一瞬だけ早く。
破裂音。
「はじ…、かれた?」
エドウィンが驚愕に目を見開く。珍しくシルフィドが声を荒げた。
「ーーちっ。誰だ!?」
夕日色の髪と、澄んだーーどこまでも澄み切ったスカイブルーの瞳。
こんな巨大な機体を動かしていたとは思えない少女が、白い光に守られてそこにいた。
「森国パーセル。女王パンドラを守護するは騎士。ーーアルカネット」
彼女は名乗りーーどこかへ向けて手を挙げた。
「……あ~、うん。そー。負けたよ~。賭けはカシウスの勝ち……」
怒鳴られたのだろう。騎士は首をすくめ、小さく舌を出した。そして、エドウィンとセティ。シルフィドに手を振る。
「今日のところは退くよ。ーーけど」
強気に微笑むのは、何故だろう。
「負けないから」
そして、正体不明の干渉源ーー錬金術師たちとは異なる体系の何者かの"術"が空間をゆがめ、夕日色の髪の騎士を回収していった。




