願い事はありますか…?
我らが小さなお姫様が、台風みたいに飛び込んできた。
「ねーっ! みてみて、しるふぃど! りあねー、きょうまほうつかいなの!」
街の祭り事なのだろう。
円錐形の、黒い、つば広の帽子と、小さなホウキ。ワンピースにあしらわれたオレンジ色の星は、光を返してきらきらと光る。
ーー正直、眩しい。シルフィドは目を細める。
「へぇ」
「ねっ、トモダチのお願い、みんな叶えてあげたんだよ! しるふぃどの願い事、なーに?」
「……え」
考えてもみなかった、という顔で、本物の魔法使いは口ごもった。
だが。
ーーまぁ、かつてほどもうコドモでもないので。
「……そうだな。クッキーが食いたいな」
テキトーな願いをでっち上げてみた。
魔法使いのリアちゃんは、得意満面、そこのテーブルの上にあったクッキーに手を伸ばす。
小さな片手で鷲掴み、である。
「はいっ! しるふぃどさん、どうぞ!」
「……ああ、ありがとうございます」
両手を皿にして受け取りーー原子変換。クッキーの大半の組成であるデンプン(C6-H10-O5)をそのまま、水分子とセルロース、蛋白質に組み換える。陽子数はそのままーー。
「わぁ!」
リアが目を輝かせる。
「おはなっ!」
大輪の薔薇は、淡い橙色。
と、そのとき。
「ケーキ、焼けましたよ~」
「わぁいっ!!」
ぽい。
可哀想に薔薇は哀れ、床に落ちた。
やれやれ、とシルフィドはそれを拾い上げる。
お姫様は、ケーキを口いっぱいに頬張って、ご満悦である。
「師伯。さっきから、しりとりですか、それ」
薔薇→ランプ→プードル→ルビー →麦酒→
「うん」
暇らしい。
魔法そのものの要領で、もふもふのプードル犬が、硬質な貴石に変じ、そしてグラスにすら入っていない、発泡する黄金の液体に変化した。
ふと思い付いて、錬金術師は尋ねる。
「ーーなぁ。お前の願い事って、何?」
「ーーえっ」
考えてもみなかった、という顔で、ローマンは考え込む。
「……そ、そりゃ、世界中の美女に囲まれてあんなことやこんなことをしたいっていうか……」
「叶えてやろうか?」
「……えっ。し、師伯……。」
目が真剣である。
「……あ、あの」
「うん」
「そのぉ」
「世界中の美女に囲まれてみたいんだろ?」
「い、いいえ、その…」
「?」
「……なんにもいらない、です」
「……?」
不可解だ、という顔をする錬金術師に、何と説明したらよいものか。
「い、嫌なことも、ないですし。毎日楽しいですし……。その、だから願い事なんて」
そして、付け加える。
「むしろおれが、師伯の願い事を叶えてあげますから!」
「りあもー、りあもかなえるー」
横から、小さな魔法使いが手を挙げた。
「……はは。そうだな、それじゃ」
まぁ、テキトーな願いを口にしてみよう。
「いいよ、世界平和とかで」
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