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銀の術師と星巡儀(アストロラーベ)  作者: さまよえるペンギン
魔法屋、はじめました。
32/57

冬は好きか?

「しーはーくー」

冬である。街路はしんと静まり返り、人ひとけがない。

落ち葉すらも片づけられ、水晶の街路には、何もない。

誰の趣味なのだろう、雪だけが、こんもりと積もっている。


「どこ行くんですか。しーはーくー」

無垢な雪の上に、自分の足跡だけが、ついてゆく。吐く息は白く空に立ち上る。

飽和水蒸気圧。高温の分子のほうが運動量が大きいがゆえに、大気中に保持できる水分子が多い。

体内と外気の気温差により、見えなかったはずの水分子が、結露して白い息となる。

空は白く、どんよりと。太陽などどこにもない。

冬は、--。


好きか嫌いか、と考えようとして、そんなことに何の意味もないのだと、自分をいさめる。

宇宙の片隅のちっぽけな思考する有機体が何を、その「臓器」で演算しようと、地軸の傾きはそのままだろうし、惑星は恒星の周りを回っているだろうし、そして恒星は、その寿命を終えるまで燃え続けるだろう。

だから意味のないことだ。冬を好きでも、嫌いでも。

寒いのも、暖かいのも。

全てが意味のないこと。


しんしんと冷える中、足跡だけがただ、増えてゆく。


「師伯?」

「冬は好きか?」

尋ねれば、一瞬だけ、不思議そうな顔をしてから、飴色の髪の少年はくすくすと笑う。

「なんて答えてほしいんです?」

そんなこと訊くなんて珍しいですね、と付け加えて、少年は雪の上を駆ける。

「当ててみて下さいよ」

「……」

考える。


マッチ売りの少女は冬に死んだ。

雪女に好かれた男も冬に死んだ。

雪男を一目見たいと願うミステリー・ハンターなら、厳寒のヒマラヤにでも、嬉々として挑むかもしれない。

冬は色彩が薄い。

道行く人の衣服も、黒であったり、茶であったり。華やかな色彩を失う。

多くの花は枯れ、元気に咲くのは、ジャパニーズ・カメリアの白か濃い紅の花くらいだろう。

冬は死の季節だ。

死であり、夜であり、眠りであり、墓場だ。

動物たちは眠りにつき、広葉樹も葉をおとし眠っている。


物語と神話の季節。


「嫌いだ」

どうしようもなく、冬が嫌いだ。

「寒いし」


少年はくすりと笑う。

「じゃあ、僕は好きにならなきゃいけませんね」

「は? --なんで」


「師伯がそれ以上、冬を嫌いにならないように」

「お前がどう思うかなんて関係ない。オレは冬が嫌いだ」


    ***


かつて、氷の巨人は魔法使いに尋ねた。--春の女神に一目会いたい。

魔法使いは答えた。


「それは無理だな」

「頼むっす! 春の女神とか、ちょーマブいらしいじゃないっすか! 死んでもいいから、一目!!」

「意味わかんねぇよ。一目見て死んでどーすんだよ」

「アンタには、おいらのこの燃え滾るハートが理解できないんすー!!」

「理解したくねぇ」


氷の巨人は、友人たちが止めるのも聞かずに春の国に足を踏み入れ、おおきな湖となったとのことである。

その湖では今、恋人たちが舟遊びをしたり、老人と孫が釣りに興じたり、ほとりで若者たちが花を摘んだりしていると云う。


    ***


その湖も、冬になればまた、凍る。

「わぁ…!」

分厚い氷の上、たくさんの人々がスケートに興じていた。

「スケートで遊びに来たんですね、師伯!」

「遊ぶかよ。オレがいくつだと思ってんだお前」

「え。…さぁ」


「僕、滑ってきますね! 師伯も遊びましょうよ!」

「遊ばねぇ、つってんだろ」


雪すら舞う、厳寒の湖。

その上からは、明るい笑い声が幾重にも響いてくる。


「やれやれ。--逞しいね、人間てのは」

魔法使いは小さく、小さく呟いた。

冬企画【冬は好きですか?】ですー。


■「登場人物の誰かが、冬を好き・もしくは嫌いであること」■


もっと縛りをつけるなら、

①「冬は好き(嫌い)ですか?」

②「だから、冬が好き(嫌い)」

③「冬でなければならなかった」

のどれかを台詞、もしくは地の文に入れる。


Thanks for Reading !(*^^*)

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音声化シリーズ。
知り合い様に企画していただいたものだったり、自分で企画したものだったり。
よろしかったら、音声にて、ひととき、浮き世を忘れてみて下さいませ♪

◆銀の術師と機械の小鳥(音声)◆
◆どうしたら、君の心が手に入る?◆
↑こちらは、作っていただきました!((o(^∇^)o))
ありがとうございます!!

◆魔法の街と枯れる花(音声)◆
↑ある機械少女の悩み

◆ドラゴンと、絵と(音声)◆
↑本編の2と3の間辺り。番外編的な。

◆【英語】君は美味しいフィッシュ・スープ◆
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