表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の術師と星巡儀(アストロラーベ)  作者: さまよえるペンギン
魔法屋、はじめました。
31/57

理由がいるなら

「しはくー」

危険な爆薬が、調合されている脇で。

「どうやったら魔法使いになれますかねー?」

弟子が尋ねるのだった。


来ていたーーというより、入り浸っている依頼人、淡い金髪と、キツネみたいな印象の美女が、ローズヒップのハーブ・ティーを傾けつつ、つまらなさそうに、一言。

「女性経験のないまま三十年以上生きると、魔法使いになれるのよね、シルフィド?」


「……トリス。僕を何だと思ってます?」

むやみやたらと丁寧な口調で問うのは、白衣の錬金術師。試験管の中には、危険な液体火薬。


「人嫌いの偏屈」

指差すトリスティーナ。

「せっかく作ってもゴハン食べてくれない人」

恨めしそうに見つめる弟子。

美人のトリスティーナの貴族的な発音と、平凡顔のローマンの庶民的な発音が重奏した。


「……」

「しはくー? しはく?」

弟子は顔をのぞき込んでみる。

師は、顔をそのまま片腕で隠して、ドアの向こうに消えてしまった。

パタン。そんな軽い音と共に木製のドアは閉じ。

ーーそのまま、3ヶ月くらい出てこなかったーーとも云う。


「師伯ーっ! 僕が悪かったですってば!」

「うっせえ。お前らになんか二度と関わらねぇ」

ドアの向こうから、声だけが返ってくる。


「ゴハン食べて下さいね~、ココに置いておきますから…」

コトリ。そんな軽い音と共に、盆が置かれる。上に乗ったリゾットは、無惨に冷めてゆく。


「ローマン、あなたね、それやめてあげなさいよ。まるでシルフィドが、いい歳して引きこもってる駄目な子供みたいじゃないの」

「えっ? でも、せっかく美味しくできたのに……」

予想だにしなかった、という顔で少年。


「というか、ね」

トリスティーナは改めてローマンをまじまじと見る。

「アナタ、何なの?」

「はっ? なに、って……」


「私、シルフィドが人間嫌いなのをよく知ってるわ。錬金術で作ったあの子だって、人間の街に住んでるわよね?」

「……。そうですね」

少し考えて、ローマンは頷いた。


「なんで、アナタはシルフィドの周りについて回ってるわけ?」

「……え? あ。僕……は」

間。


「ちょっとちょっとちょっと!? なんでそこで赤くなるのよ!?」

「赤くなってないですよ!?」


「と、っ、トリスこそ! 錬金術師はいくらでもいるのに、師伯のとこにわざわざ来るじゃないですかぁっ!? 僕がソウドを追いかけて何が悪いんですかっ!」

「べ、別に悪いなんて言ってないじゃない。ただ、純粋に気になったから……」


「ううう……」

「だからまた。何で赤くなるのよ」


「僕は…、その。師伯は恩人なんです。だから…」

「恩人?」

駄目だ。いつもは上品なトリスティーナが、今日は、単なる噂好きのオバサンにしか見えない。


「師伯ーっ! トリスティーナが怖いです! たすけてー!」

助けは来なかった。


   ***


だるい。身体がどうしようもなく、重い。

原因は判らないが、そんな日がある。

錬金術師は、とりあえずドアから出てみた。

「…はぁ」


ため息。めんどくさい。呼吸するのもめんどくさい。

生きているのは、面倒くさい。


「…う」

何か柔らかいものを踏んづけた。

まぁ、そこにモノがあるのは判ってはいるのだが。

術師としての知覚と、実際の身体の感覚がうまくつながっていない。


「…あ、師伯」

踏んづけたのは、床で寝ていた弟子だったようだ。なぜこんなところに。

「おはよう」

とりあえず挨拶してみる。


真夜中ーー夜明け前である。

「もう出てきてくれなかったらどうしようかと」

「ばぁか」

頭を撫でた。


「師伯。あの…」

言いづらそうに、ローマンは言葉を続ける。

「トリスティーナが妙な勘違いを……」


「勘違い?」

錬金術師は、首をひねる。

「ひ、否定しましょうよ、そこは…」

「……ああ。」

考えるのが面倒くさい。



「……理由が、要るのかな……」

「…師伯」

「オレは、ただ」


「ただ?」


「……!」

そこまで口にして、ようやく気づいたらしい。自分の発言の危うさに。


「ただ、その」

「はい」


もう、こいつがこの宇宙からいなくなるまで引きこもろう。そう決心して、シルフィドは再びドアの向こうに消えるのだった。


「師伯ーっ!? 引きこもらないで!?」

叫び声が、背後から聞こえた。

Thanks for Reading !

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音声化シリーズ。
知り合い様に企画していただいたものだったり、自分で企画したものだったり。
よろしかったら、音声にて、ひととき、浮き世を忘れてみて下さいませ♪

◆銀の術師と機械の小鳥(音声)◆
◆どうしたら、君の心が手に入る?◆
↑こちらは、作っていただきました!((o(^∇^)o))
ありがとうございます!!

◆魔法の街と枯れる花(音声)◆
↑ある機械少女の悩み

◆ドラゴンと、絵と(音声)◆
↑本編の2と3の間辺り。番外編的な。

◆【英語】君は美味しいフィッシュ・スープ◆
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ