Macines-- Side C 【セティ】
咲くものは、曼珠沙華。それともあるいは、ただの血か。
跳ねた首。落ちた首。
虚ろな瞳は、もう感情を映さない。
彼女はそれを満足げに眺めーー微笑む。
これは、『良い事』。
だから、もっとやらなくては。
だってーー
「たくさん壊したら、あのひとが褒めてくれる」
壊れた人間。壊れた人形。
降るものは血と、そして雨。
だって、あの人が褒めてくれるから。だから、もっと。もっとーー
***
機械は人間を傷つけないか?
答えはNo.
切断機械は人間の腕をもぐし、
戦闘機械は人間を撃つ。
走行機械は人間をはねるーーこともある。
「いらっしゃいませ」
彼女は花のように微笑む。『セティ』と呼ばれている機械人形である。
製作者はミアキス・オルヴィエート。機巧師ロザミオの後継とも謳われる。
彼女の見かけは、ほとんど人間と変わらない。仕草も、声も自然だ。
ゼンマイで動いているということ、そしてものを食べないという点くらいだろうか、彼女が機械であると思い出させる要素は。
報酬回路というのは、人間にも、ある。
何かをすると、何かの報酬がーーそれはモノとは限らないーー生じる。そういうことを記憶する仕組みである。
彼女にも、それは組み込まれている。
彼女は自らを俯瞰し、自らに問うことができる。
良心を。
ロボットというものを、機械というものを、何のために生み出すのか、ということは、依頼者や製作者、それぞれだろう。
取り換えの利く部品。その事実は彼らを傷つけはしない。
ただ、仕えるだけだ。
動くだけだ。
ーーヒトのために。
***
咲くものは曼珠沙華。あるいは、ただの血。
「マスター」
ある日、機械人形は問う。
「答えて下さい。わたしの記憶にあるノイズーー、コレは、何ですか。何の意味が、あるのですか?」
二足歩行する猫の姿の『マスター』は、悲しげに微笑む。
「もうひとつのキミだよ」
「もうひとつの…?」
「ボクの下らない感傷だ。だけどーー消したくはないんだ。忘れちゃいけないからーー」
「マスター。論理的に話していただかなければ、わたしには分かりません」
「それでいいんだよ、セティ。キミは優しい人形だ。誰も傷つけたりしない」
「? 可能性の話でしょうか? それに関しては、不明確なのでお答えできません」
くく…、っと、喉の奥、獣人は悲しげにわらう。
「三原則は、ーーただの想像上のフィクションさ。ヒトがヒトを恐れるがゆえの、ね」
セティの翠のガラスの瞳は、主を不思議そうに見上げている。
***
ーー枯れない花に、価値は、あるのでしょうか?
機械の少女はたずねる。もう答えない主に問う。
「人間は言いますよね? 花は散るからこそ美しい。限りある時間を大切に生きる、その姿が美しい、って」
主は墓の下。いや、墓は空。死人に耳はない。それでも、彼女は問わずにはいられなかった。
「枯れない私に。散らない花に、価値はありますか? ーー意味は、ありますか? 私は。何のために生きて、何のために壊れるのでしょう?」
彼女の手には、白い花束。
枯れる花。死ぬ花。
なぜだろう、それがひどく、羨ましい。
彼女は壊れない。
彼女は散らない。
彼女は、涙を流す。そう、造られたから。
不可解なものに対しては涙が出る。悲しみにも、歓びにも。
Thanks for reading !




