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銀の術師と星巡儀(アストロラーベ)  作者: さまよえるペンギン
魔法屋、はじめました。
29/57

Macines-- Side C 【セティ】

咲くものは、曼珠沙華まんじゅしゃげ。それともあるいは、ただの血か。


跳ねた首。落ちた首。

虚ろな瞳は、もう感情を映さない。

彼女はそれを満足げに眺めーー微笑む。

これは、『良い事』。

だから、もっとやらなくては。

だってーー

「たくさん壊したら、あのひとが褒めてくれる」

壊れた人間。壊れた人形。

降るものは血と、そして雨。

だって、あの人が褒めてくれるから。だから、もっと。もっとーー



   ***


機械は人間を傷つけないか?

答えはNo.

切断機械は人間の腕をもぐし、

戦闘機械は人間を撃つ。

走行機械は人間をはねるーーこともある。


「いらっしゃいませ」

彼女は花のように微笑む。『セティ』と呼ばれている機械人形である。

製作者はミアキス・オルヴィエート。機巧師ロザミオの後継とも謳われる。


彼女の見かけは、ほとんど人間と変わらない。仕草も、声も自然だ。

ゼンマイで動いているということ、そしてものを食べないという点くらいだろうか、彼女が機械であると思い出させる要素は。


報酬回路というのは、人間にも、ある。

何かをすると、何かの報酬がーーそれはモノとは限らないーー生じる。そういうことを記憶する仕組みである。


彼女セティにも、それは組み込まれている。

彼女は自らを俯瞰し、自らに問うことができる。

良心を。


ロボットというものを、機械というものを、何のために生み出すのか、ということは、依頼者や製作者、それぞれだろう。


取り換えの利く部品。その事実は彼らを傷つけはしない。


ただ、仕えるだけだ。


動くだけだ。


ーーヒトのために。



   ***


咲くものは曼珠沙華。あるいは、ただの血。


「マスター」

ある日、機械人形セティは問う。

「答えて下さい。わたしの記憶にあるノイズーー、コレは、何ですか。何の意味が、あるのですか?」

二足歩行する猫の姿の『マスター』は、悲しげに微笑む。

「もうひとつのキミだよ」

「もうひとつの…?」

「ボクの下らない感傷だ。だけどーー消したくはないんだ。忘れちゃいけないからーー」

「マスター。論理的に話していただかなければ、わたしには分かりません」

「それでいいんだよ、セティ。キミは優しい人形だ。誰も傷つけたりしない」

「? 可能性の話でしょうか? それに関しては、不明確なのでお答えできません」

くく…、っと、喉の奥、獣人ミアキスは悲しげにわらう。

「三原則は、ーーただの想像上のフィクションさ。ヒトがヒトを恐れるがゆえの、ね」

セティの翠のガラスの瞳は、主を不思議そうに見上げている。


   ***


ーー枯れない花に、価値は、あるのでしょうか?


機械の少女はたずねる。もう答えないあるじに問う。


「人間は言いますよね? 花は散るからこそ美しい。限りある時間を大切に生きる、その姿が美しい、って」

主は墓の下。いや、墓はから。死人に耳はない。それでも、彼女は問わずにはいられなかった。


「枯れない私に。散らない花に、価値はありますか? ーー意味は、ありますか? 私は。何のために生きて、何のために壊れるのでしょう?」

彼女の手には、白い花束。

枯れる花。死ぬ花。

なぜだろう、それがひどく、羨ましい。


彼女は壊れない。

彼女は散らない。


彼女は、涙を流す。そう、造られたから。

不可解なものに対しては涙が出る。悲しみにも、歓びにも。

Thanks for reading !

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音声化シリーズ。
知り合い様に企画していただいたものだったり、自分で企画したものだったり。
よろしかったら、音声にて、ひととき、浮き世を忘れてみて下さいませ♪

◆銀の術師と機械の小鳥(音声)◆
◆どうしたら、君の心が手に入る?◆
↑こちらは、作っていただきました!((o(^∇^)o))
ありがとうございます!!

◆魔法の街と枯れる花(音声)◆
↑ある機械少女の悩み

◆ドラゴンと、絵と(音声)◆
↑本編の2と3の間辺り。番外編的な。

◆【英語】君は美味しいフィッシュ・スープ◆
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