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銀の術師と星巡儀(アストロラーベ)  作者: さまよえるペンギン
魔法屋、はじめました。
26/57

人妻って

「師伯。人妻っていいですよね!」

満面の笑顔である。訳が分からない。

「意味が分からん。人妻の何がいいんだ」

「えー、だって見て下さいよコレー」

その目すら向けていないのに、いかがわしい本が突然に発火した。ーー酸化反応。

「熱ッ!? 熱いです熱いです!!」

「…。なら、離せよ」

呆れた根性である。


   ***


「…アラ。この間、落ちていた本はそういうわけだったのね」

てっきり、性愛に目覚めたと思っていたのに、とミズ・トリスティーナ。

ややつり目の美人だが、感情表現の豊かなほうでもないので、その意図は、やや読みづらい。

錬金術師ーー師伯ことシルフィドは息を吐く。

「からかうのはやめて下さい。ーーあまり公にすることでもありませんが、僕は『人間』じゃない」

試験管の中の液体の色味を、光に透かして見つつ、さらりとそんなことを言う。

ミズ・トリスはさらりと笑った。

「そうね。きっとそういうことを言いたいお年頃なのね。わかるわ」

微妙に、憐憫の眼差し。目尻をレースのハンカチで押さえたのは、何故だろう?

(わかられても…)


試験管の中身は、ちょうど中性。淡い淡いブルー。

OH-(水酸化物イオン)とH+(水素イオン)はバランスが取れている。


「…。まあ、どっちでもいいんですがね」

興味ないし。

最後の仕上げ、別の瓶の銀色の液体をスポイトで取り、ぽとりと落とす。

すると試験管の中身は、鮮やかな虹色に変わった。

中身はーー

手近にあった余りの空瓶に

それを詰めつつ、シルフィドは問う。

「何に使うんです? こんな品」

ふふふ、とトリスティーナは意味ありげに笑む。ーー口元を翠の扇で隠して。


彼女は淡い金の、まっすぐな髪。淡い淡い、ブルーの瞳。まるで人形のよう。

ーーもっとも、彼女は錬金術の街のーー永遠の都の住人だ。本当に人形でもおかしくはない。


いつもの依頼人ーートリスティーナが帰り、ドアの向こうに姿を消すと、入れ替わりに台所のほうから、足音。

シルフィドは半分だけ振り向いた。

「そんなに苦手なのか。」

「苦手です。あの人、性格キッツイじゃないですかー」

「そうかね?」

首をひねるシルフィド。

「で?」

笑顔である。

「人妻の何がそんなにいいのか説明してみせろよ?」

(そんなに好奇心満々に尋ねられたら、僕はどうすればーー)

弟子、ことローマンの背筋を冷や汗が流れ下った。

Thanks for reading !


そういうおとしごろなんですよ、見逃してあげてェ!!( ; ゜Д゜)

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音声化シリーズ。
知り合い様に企画していただいたものだったり、自分で企画したものだったり。
よろしかったら、音声にて、ひととき、浮き世を忘れてみて下さいませ♪

◆銀の術師と機械の小鳥(音声)◆
◆どうしたら、君の心が手に入る?◆
↑こちらは、作っていただきました!((o(^∇^)o))
ありがとうございます!!

◆魔法の街と枯れる花(音声)◆
↑ある機械少女の悩み

◆ドラゴンと、絵と(音声)◆
↑本編の2と3の間辺り。番外編的な。

◆【英語】君は美味しいフィッシュ・スープ◆
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