02 吹雪の夜にcrying
オチなどない…!
まず あたしが覚えているのは、息を吸う度に肺を刺す、空気の猛烈な冷たさだった。頬に、まぶたに雪片が突き刺さるかのように当たっては、あたしの体温で溶けてゆく。
ーー冷たい。
世界は、冷たい。それがあたしの、最初の記憶。
猛烈な吹雪の中、生まれて数時間の赤子に、何かできただろうか。
あたしは泣いた。
泣いて、泣いて、泣いた。
だって、それができる唯一のことだったから。I did my best effort.それは泣くことだった。
「……うるさいな」
通りかかったのは、寡黙な魔法使いーーと、その弟子。
あたしは泣いた。泣きまくってやった。さあ、あたしを助けなさいッ! 助けるがいいわ! 否、助けさせてあげるだけなんだから、カンチガイしないでよねっ!! 助けてほしかったわけじゃ、ないんだからッ
……しかし無情にもその魔法使い、あたしを通り過ぎたのだ。スルーだ。生まれて初めてみた、完全無欠の無視。先生、通りががった何の縁もない他人が、あたしのこと見捨てたんです。
しかし、ーーああ。あたしの祈りは、天に届いた。連れの弟子が、その人を呼び止めたのだ。呼び止めて、くれたのだ。
「ちょっとありえないですよね〜。聖夜の聖なる夜、泣いている赤ん坊を見捨てて立ち去るなんて」
袖ぎゅ。振り返る魔法使い。
『ーーフン。赤ん坊。運が無かったな。これが、世界だ。人と人とは、縁などなく、ただ寄り集まる物体にすぎない。感情も良心もあてにはできず、無償の善行など、望むべくもない。』
ーー何をいうのか、このおっさん。いや、声は中性的で、顔も、かぶったフードに隠されていて、たぶん整った顔立ちであること以外、確認のしようもなかったが。
『泣いたくらいで、人のぬくもりとミルクが、手に入るとでも思っているのか? ーー若いな』
ええ、生まれたてですから。まだ、24時間も経ってないと思いますよ?
『だが、悟れ。ミルクなど、所詮は形而下(=物質的)のまやかしにすぎない』
びゅおぉおおおおお。風が哭く。雪の精霊たちが、美しくも残酷なダンスを舞い続ける。
『他人に何を期待するというのだ? お前の親たちはただ、気持ちよいことを気持ちよいだけ愉しみ、ただお前を”排出”したにすぎない』
弟子が、呆れた顔で彼を見ている。いつものことなのだろう。なんとなく、そう思った。
『親に愛情を期待したのが、貴様の敗因だ……!!』
厳しすぎるだろ、人生。あたしは、泣いた。
◆こそっと人物紹介◆
【銀の術師】S・シルフィド
…年齢性別、種族不詳。
気まぐれに地上に奇跡を与えるがゆえ、銀の聖者などというこっぱずかしい名前で呼ばれていたりもする。
「常識で考える」というときの常識をもたず、自らの価値観によってのみ動く。
自意識が薄く、自我も薄く、わりと何にも無関心。ただ、自分があまり願いを抱かないせいなのかどうか、他人の「願い」にはよく、興味を示す。
【弟子】ローマン・(ホスフェイト)
…女の子が大好きなのだが、たいていは『あなた、好い人ね!』と言われて終わる。本人に自覚はないものの、相当のお人好し。
【きんきらきんの派手男】エドウィン・マクラウド
…最高導師、とよく呼ばれている。自分の好奇心の赴くままに様々な試みを試す、はた迷惑なヒト。そこに、倫理観は無い。ただ、恋人には、尻に敷かれている様子。
アリサ
…エドウィンに追っかけられている、地球に住まう女子高生。ごく普通の人間である。
【銅の機巧師】ミアキス・オルヴィエート
…ゴスロリを身にまとう、ボクっ娘獣人。(ただし、全身が白いモフモフ)
ニボシとコカ・コーラを、三度の猫飯より愛している。卑金属を貴金属に換える能力こそ ないものの、要素を組合せて機能させることにかけては、天才的。アンティキテラも量子コンピュータも、彼女にとっては友達のようなもの。
【依頼人】トリスティーナ
…『時の果ての街』、あるいは永遠の都に住まう佳人。奇妙なもの、面白いものが好き。
【造られしモノ】シャロン
ある術師に生み出された『バケモノ』。ただし、外見や境遇はさておき、心根は優しい女の子。ーー最近の悩みは、巷で流行のお洒落が、自分にはちっとも似合わないこと。
【街】…時の果ての街、永遠の都。
真理を探求する術師たちが住まう、幻の街。ただ、居住するだけならば、資格は金で買える。住人は老いず、病まず、永遠の刻を生きるのだと云う。