017 実録! 恐怖体験……??【夏】
むかしむかし、あるところに、周囲のものを黄金に変える子供がおりました。
母親は真っ先に黄金になってしまいました。ーーが。それを見た父親が嘆き悲しみながら眠りに就くと、翌朝にはいつもの妻が戻っていました。代わりに黄金は、なくなっていました。
お前より黄金のほうが良かったと夫は不用意につぶやき、夫婦は掴み合いの喧嘩になりました。
見かねた近所の人がミルクを上げると、器の中の液体は、黄金に変わってしまいました。
そのひとは、赤ん坊をさらって逃げました。
ーーが、黄金に変わってしまって逃げられなくなり、結局赤ん坊は、両親のところに戻りました。
近所のその人は、翌朝になるとやっぱりいつものその人に戻っていましたが、お前より黄金のほうが良かったと周りに言われて、とてもがっかりしました。
赤ん坊は、気まぐれにものを黄金に換えます。
オムツも、産着も、匙も、みな、黄金になってしまいました。
ーーなぜって、そうすると母親が嬉しい顔をするのを、その子は知っていたからです。
母親は奇跡の子を産んだと有頂天になりました。
黄金は、みんなお金に換えて、床下に大事にしまいました。
家はどんどん豪華になりました。
だけどぱったり、ある日、赤ん坊は黄金を造るのをやめてしまいました。
母親は、子供を殴りました。
「なんで作らないの! あんたの作る黄金がなければ、あたしたち生活できないのよ!?」
子供は首をかしげました。
そしてにっこり、わらいました。
母親はついカッとなって、赤ん坊の首を絞めました。
赤ん坊はその瞬間まで、ただその黒い瞳で、おかあさんのことを、じっと、じっと見ていました。
「おしまい。」
ホワイトボードの筆談で語り終えた銀の髪の錬金術師は、にこりともせず、席に戻りました。
場は、しんと静まり返り、時折、ごほんと咳をする音や、パイプ椅子をずらす音が、やけに大きく聞こえました。
「あ、あの。質問いいですか?」
「どうぞ」
司会の質問に、銀髪で白いローブの人物は頷きました。
「恐怖体験を語る場なんですけど…」
「恐怖体験だよ?」
「…あ、そ、そうですか。ありがとうございました」
場は再び静まり返り、次のゲストが語り始めるまで、何とも言えない微妙な空気が、辺りを支配していたのでした。
夏のキーワードしりーず。「恐怖体験」