老眼鏡
時が経つにつれて少しずつぼやけていった、手元の大切な文字たち。
かけ直した眼鏡のレンズ越しに、かつての鮮明な世界とささやかな親密さが戻ってきます。
遠くをかすませる代わりに、目の前の「いま」を優しく愛でるための小さな詩です。
レンズの向こうで、世界が急に親しげに寄り添ってくる。
昨日までぼやけていた文庫本の活字が、
エッジを立てて、私を呼び戻す。
「ここにいたよ」と、小さな「あ」や「い」が微笑む。
手元を照らす透明なガラスは、
時が奪っていった輪郭を、そっと手渡してくれる道具。
引き伸ばされた距離を縮める、小さな架け橋。
けれど、ふと目を上げれば、
部屋の隅の影も、窓の外の街灯も、
やわらかな霧のなかに溶けていく。
近くを愛おしむために、遠くを少し諦める。
その割り切りが、なんだか心地いい。
小さなピントの輪のなかで、
今日も私は、世界を愛で直している。
手元を彩るこの小さな道具は、老いという変化をあたたかく包み込んでくれる相棒だ。
お気に入りのフレームを選ぶ時間は、自分らしさを探す新しい旅のよう。かつては遠くの景色ばかりを追いかけていたけれど、今は手元に広がる小さな小宇宙をじっくりと慈しむ豊かな時間がある。視界のぼやけを受け入れ、かけ替えたレンズの向こう側で、私はこれからも愛おしい日常の一コマ一コマを大切に紡いでいきたい。
視力が落ちて手元の文字が霞むようになったとき、最初は少しだけ寂しさを感じました。けれど、お気に入りのメガネを選び、レンズ越しにふたたび立ち現れた美しい文字たちと再会した瞬間、これは単なる「衰え」ではなく「身近な世界を愛で直すための新しい視点」なのだと気づかされました。
遠くの景色を少しだけ霞ませて、いま目の前にある小さな幸せにピントを合わせる。この詩が、同じように変化を受け入れながら日々を愛おしむどなたかの心に、やわらかな光として届くことを願っています




