第9話 研究者、そしてまた面倒なことに巻き込まれる
バーサークウルフ事件の翌日。
ユウは保健室のベッドで天井を見つめていた。
「……俺、なんで毎日こうなるんだろ……」
怪我はしていない。
ただ、精神が限界だった。
ミナが椅子に座り、心配そうに覗き込む。
「ユウくん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……昨日、巨大な狼に追われたんだよ……?」
「でも、生きてるよ?」
「それが一番不思議なんだよ!!」
ミナはくすっと笑った。
「ユウくんは、そういうところがすごいんだよ」
「褒められてる気がしない……」
そんな会話をしていると、保健室の扉が開いた。
白衣を着た男が入ってくる。
眼鏡をかけ、書類の束を抱え、無表情。
「失礼。天野ユウくんはどこかな?」
ユウはビクッとした。
「え、俺!? なんで!? 俺、何も悪いことしてないよ!?」
男は淡々と名乗った。
「私は九条カナメ。スキル研究部の主任だ」
ミナが小声で呟く。
「……この人、ちょっと変わってるよ」
「変わってるってなに!? 怖いんだけど!!」
九条はユウのベッドの横に立ち、じっと見つめた。
「君、最近……妙に生存率が高いね」
「生存率って言わないでよ!!」
「初級モンスターに襲われても、中級モンスターに追われても、なぜか生き残る。
これは非常に興味深い」
「興味深くないよ!! 俺は平和に生きたいだけだよ!!」
九条は書類をめくりながら続ける。
「昨日のバーサークウルフ事件。
君が転んだ拍子に、古い鉄板が外れてモンスターの足に刺さったそうだね」
「そうだよ!! 俺は転んだだけだよ!!」
「……ふむ」
九条は鉄板の写真を取り出した。
錆びていて、ところどころ欠けている。
ただの公園の部品にしか見えない。
だが、九条は写真をじっと見つめた。
「……この材質、どこかで見たような……」
ミナが首をかしげる。
「ただの鉄板じゃないんですか?」
「いや、そうだろう。気のせいだ」
九条は写真をしまった。
それ以上深掘りしない。
ユウは胸を撫で下ろした。
「……よかった……」
だが九条はユウの顔を覗き込む。
「天野くん。君のスキル《ラッキーショット》について、少し調べたい」
「やだ!!」
即答だった。
「なぜだ?」
「絶対ろくなことにならないから!!」
ミナが間に入る。
「九条さん、ユウくんは……その……研究とか苦手で……」
「苦手とかじゃなくて怖いんだよ!!」
九条は淡々と続ける。
「安心したまえ。痛いことはしない」
「痛くないならいいかも……」
「精神的な負荷はあるかもしれないが」
「やっぱりやだぁぁぁぁ!!」
ミナがユウの手を握る。
「ユウくん、無理しなくていいよ」
九条はため息をついた。
「……仕方ない。今日は帰るとしよう」
そう言って保健室を出ていく。
だが扉の前で一度だけ立ち止まり、呟いた。
「……あの鉄板、どこで見たのだったか……」
ユウは聞こえなかった。
ミナも気づかなかった。
ただの独り言。
ただの研究者の癖。
ただの気のせい。
それ以上でも、それ以下でもない。
九条が去った後、ユウはベッドに倒れ込んだ。
「……俺、絶対また巻き込まれるよね……」
ミナは優しく微笑んだ。
「大丈夫だよユウくん。私が守るから」
「ミナがいなかったら俺、学校来れないよ……」
「うん」
即答だった。
「そこは否定してよ!!」




