第8話 暴走モンスター、そしてまた偶然
土曜日の朝。
ユウは布団の中で丸くなっていた。
「……今日は休み……今日は安全……今日は平和……」
そう呟きながら布団にしがみついていたが、
スマホが震えた。
ミナからのメッセージだった。
『ユウくん、今日の臨時任務、一緒に行こうね!』
ユウは布団の中で絶叫した。
「なんでぇぇぇぇぇぇ!! 休みじゃないのぉぉぉ!!」
臨時任務の集合場所は、街外れの公園だった。
普段は子どもたちが遊ぶ場所だが、今日は立ち入り禁止のテープが張られている。
ミナが駆け寄ってきた。
「ユウくん、おはよう!」
「おはよう……じゃないよ……なんで休みに任務……?」
「ゲートが不安定なんだって。危険度は低いらしいよ」
「俺にとっては全部高いよ……」
ミナは笑った。
「大丈夫。私が守るから」
「……ミナがいなかったら俺、外出できないよ……」
「うん」
即答だった。
「そこは否定してよ!!」
そこへ、教官の神崎がやってきた。
「よし、全員揃ったな。今回の任務は“ゲートの安定化”だ。
ただし、暴走モンスターが出る可能性がある。気をつけろ」
ユウは震えた。
「暴走って……なに……?」
「普段よりちょっと元気なだけだ」
「ちょっと元気なだけで人死ぬよね!?」
神崎は無視した。
「天野は白石と組め。絶対に前に出るな」
「言われなくても出ません……」
公園の中央には、青白い光を放つゲートが揺れていた。
その周囲には、古い遊具が散乱している。
ユウはゲートを見て、ため息をついた。
「……なんか、いつもより光ってない……?」
ミナが首をかしげる。
「うん、ちょっと不安定だね。早く安定化させよう」
神崎が装置を取り出す。
「この“旧式の安定化装置”を使う。天野、ボタンを押せ」
「なんで俺!? なんで毎回俺が押すの!? 押すだけで死ぬ可能性あるよね!?」
「ない」
「即答……」
ユウは震える手で装置に近づいた。
装置は古く、ところどころ錆びている。
表面には、丸いような、丸くないような、よく分からない模様が刻まれていた。
ユウは気づかない。
ミナも気づかない。
神崎も気づかない。
ただの古い装置だ。
「……押すよ……?」
「うん、押して」
ユウは目を閉じて、そっとボタンを押した。
ピッ。
装置が低い音を立てて起動し、ゲートの光が安定した。
「……あれ? 普通にできた?」
「うん、できたよ。ユウくん、すごい!」
「いや、ボタン押しただけだよ……?」
ミナは嬉しそうに笑った。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
地面が揺れ、ゲートが突然膨れ上がった。
「な、なに!? 安定したんじゃないの!?」
神崎が叫ぶ。
「暴走反応だ! 全員下がれ!!」
ゲートから飛び出してきたのは、
巨大な狼型モンスター《バーサークウルフ》だった。
「ギャアアアアアアアアアア!!」
ユウは絶叫した。
「無理無理無理無理!! 絶対無理!!」
バーサークウルフがユウに向かって突進してくる。
ミナが叫ぶ。
「ユウくん、逃げて!!」
「逃げてるよ!! ずっと逃げてるよ!!」
ユウは全力で走り出した。
公園の遊具の間を縫うように逃げる。
バーサークウルフが追いかける。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
ユウは滑り台の階段につまずき、盛大に転んだ。
その瞬間だった。
ガコンッ!!
転んだ拍子に、滑り台の下にあった“古い鉄板”が外れた。
鉄板は空中を回転しながら飛び、
バーサークウルフの足元に突き刺さった。
「ギャッ!?」
バーサークウルフはバランスを崩し、
そのまま滑り台の下に頭を突っ込んで動かなくなった。
静寂。
ミナが呆然と呟いた。
「……ユウくん……すごい……」
「違う!! 俺じゃない!! 転んだだけ!!」
神崎が近づき、倒れたバーサークウルフを見下ろした。
「……天野。お前、何をした?」
「何もしてないよ!! 転んだだけ!!」
神崎は鉄板を拾い上げた。
「……この鉄板、古いな。公園の設備か?」
ただの独り言だった。
誰も気にしない。
ユウは泣きそうになりながら叫んだ。
「俺、なんで生きてるのぉぉぉ!!」
ミナは優しく微笑んだ。
「ユウくんが……頑張って逃げたからだよ」
「逃げただけだよ!!」
「うん。でも、それでいいんだよ」
ユウは顔を覆った。
「……俺、もう帰りたい……」
ミナはそっとユウの背中を撫でた。
「帰ろう。今日はもう十分頑張ったよ」




